化学物質の活性酸素毒性の定量的評価手法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000749A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の活性酸素毒性の定量的評価手法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 直樹(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 長野哲雄(東京大学大学院薬学系研究科)
  • 阿部芳廣(共立薬科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質がどのような条件でどのような活性酸素種をどれだけ発生するかを、最新の分析手法を用いて定量的に評価し毒性評価のための科学的指標を得ることを目的とする。活性酸素種の健康影響は、発ガン、老化、アレルギー、痴呆など多方面で問題となっている。また、近年新たな活性酸素種として、一酸化窒素やナイトリックパーオキシドなど含窒素活性酸素種の生体作用も明らかになってきた。このような状況下、生活環境中に存在する化学物質の健康影響を活性酸素毒性の観点から解析する研究はすでに多くなされている。しかし、従来の研究で欠落しているのは活性酸素毒性の定量的評価であり、この原因の一つは活性酸素発生量の正確な測定が困難であることに起因している。たとえば、最も活性の高い活性酸素種の一つであるヒドロキシルラジカルについて、化学物質からどれだけの量のヒドロキシルラジカルが発生するかについてデータが不十分であり、健康影響を正確に評価することが難しい。生活環境中に存在する化学物質について、活性酸素の生成を定量的に評価する手法を確立することは、化学物質の健康影響を科学的根拠に基づいて評価するために、厚生科学研究分野で現在最も必要とされている研究課題である。本研究を遂行することにより、生活環境中に存在する化学物質の健康影響を活性酸素毒性の観点から評価するための科学的指標が得られる。
研究方法
化学物質から発生する活性酸素種を定量的に評価することを目的として、活性酸素種の新しい定量分析法の確立、化学物質から発生する活性酸素種の解析と定量に関する研究を行った。1)化学物質から発生する活性酸素種の解析に関しては、ニトロアレーンの毒性発現に活性酸素が関与していることを実証するために、1-ニトロピレンの不安定中間体である1-ニトロソピレンを合成し、その活性酸素毒性をDNA損傷を指標にして調べた。また、活性種を明らかにするために種々の消去剤を用いてDNA切断実験を行った。さらに、DNA損傷の核酸塩基選択性も調べた。また、昨年度から行っている電子欠損型の光増感化合物C60フラーレンから発生する活性酸素種の解析研究では、昨年度DEPMPOをスピン補足剤として用いるEPR検出法で検出したスーパーオキシドを低温EPR測定により直接検出する事を試みた。2)活性酸素種の新しい検出方法の開発に関しては、細胞内で生成するヒドロキシルラジカルを特異的に検出することができれば活性酸素種の生細胞内での分布や量を明らかにすることが可能になると考え、ヒドロキシルラジカル特異的蛍光プローブの設計を行った。ヒドロキシルラジカルと特異的に反応し蛍光のOFF/ONを制御する反応として、アリルオキシフェノール類のipso置換反応を利用することを考え、7-ヒドロキシクマリンの7-位の水酸基、フルオレセインの6'-位の水酸基に種々の置換基を有するフェニル基を導入した化合物群を合成しその蛍光特性を調べた。その結果を踏まえて、新規ヒドロキシルラジカル特異的蛍光プローブHPC、APC、HPF、APFを合成し化合物の蛍光性を検討し、HPF、APFについて良好な結果を得た。次に、ヒドロキシルラジカル生成系としてFenton反応を用いて、HPF、APFとヒドロキシルラジカルとの反応性を検討した。さらに、現在汎用されている活性酸素種検出蛍光プローブDCFH(2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセイン)と反応性を比較した。3)活性酸素種の新しい定量法の開発に関しては、HPLC法によりヒドロキシルラジカルを簡便に定量することを目的として、テレフタル酸(TA)を利用してHPLCによりヒドロキシルラジカルを分離定量する方法の
条件検討を行った。また、電気化学測定法を活性酸素種スーパーオキシドの定量に利用する目的で、活性酸素種生成の重要なステップである酸素の一電子還元によるスーパーオキシドの生成反応に注目し、キノンおよびニトロアレーン類によるスーパーオキシドの発生を、サイクリックボルタメトリー(CV)法、ディファレンシャルパルスボルタメトリー(DPV)法、ポテンシャルステップクロノクーロメトリー(PSCC)法などの電気化学的方法で解析することを試みた。
結果と考察
本研究では、化学物質から発生する活性酸素種を定量的に評価することを目的として、活性酸素種の新しい定量分析法の確立、化学物質から発生する活性酸素種の解析と定量、さらに、活性酸素毒性の定量的評価のための研究を行った。その結果、1)化学物質から発生する活性酸素種の解析に関しては、環境発ガン物質であるニトロアレーン類の活性酸素毒性に関する研究で、1-ニトロピレンの還元代謝物である1-ニトロソピレンを用いた実験により、銅イオン存在下ヒドロキシルラジカルが関与するDNA損傷が起きることを実証した。この結果は、ニトロアレーン類の遺伝毒性に活性酸素が実際に関与していることを示唆する。また、昨年度からひき続いて行っているC60フラーレンの光毒性に関与する活性種の解析研究では、光照射下C60フラーレンがスーパーオキシドを発生することを低温EPRにて直接証明することに成功した。2)活性酸素種の新しい検出方法の開発に関しては、代表的な活性酸素種であるヒドロキシルラジカルをバイオイメージングとして捉える生細胞蛍光プローブの開発を行い、HPFおよびAPFの開発に成功した。これらのプローブの開発に際しては、合理的な分子設計を行うべく分子軌道計算に基づき蛍光の発光原理を精査し、その結果photoinduced electron transfer (PET)機構に基づく発光原理を明らかにした。この原理は、他の活性種の検出にも応用可能と考える。3)活性酸素種の新しい定量法の開発に関しては、ヒドロキシルラジカルのHPLC-蛍光検出法による新しい定量法を確立することを目的として研究を行い、テレフタル酸がヒドロキシルラジカルと反応すると蛍光性を有する2-ヒドロキシ体を与えることに着目し、この反応を利用してヒドロキシルラジカルのHPLCによる定量法を検討した。ヒドロキシル体の蛍光特性、HPLC分離条件、水酸化反応における水酸ラジカルとの反応の選択性、反応のpH依存性、などについて精査し、テレフタル酸の水酸化反応がヒドロキシルラジカルのHPLC-蛍光検出に有効であることを見い出した。現在、定量性など、分析条件を検討中である。また、電気化学測定法を活性酸素種の定量に利用する目的で実験を行い、CV法、DPV法、PSCC法などを用いることにより、キノン類、ニトロアレーン類のスーパーオキシド発生能を定量的に評価し比較できることを明らかにした。
結論
1)化学物質から発生する活性酸素種の解析に関しては、環境発ガン化学物質であるニトロアレーンが銅イオン存在下ヒドロキシルラジカルを発生すること,C60フラーレンは生理的条件下光照射によりスーパーオキシドを発生することを明らかにした.2)活性酸素種の新しい検出方法の開発に関しては、生きた細胞の中のヒドロキシルラジカルを選択的に検出し定量する蛍光プローブの開発に成功した.3)活性酸素種の新しい定量法の開発に関しては、テレフタル酸とヒドロキシルラジカルとの反応を利用したHPLC-蛍光定量分析法を開発中である.また,電気化学測定法(PSCC法)を用いることにより,化学物質のスーパーオキシド発生能を定量的に評価し比較する方法を確立し,種々のキノンやニトロアレーンの活性酸素発生能を評価した。これらの知見は、化学物質の活性酸素発生能(どのような条件で、どのような活性酸素種を、どれだけ発生するか)を研究するための一般的方法論を提示するものであり、広く環境中の化学物質の活性酸素毒性の評価に活用できる。現在継続中の研究として、1)化学物質からの活性酸素種NOの発生、2)1-ニトロソピレンの場合に観察されたような活性酸素毒性における金属イオンの関与、3)化学物質の存在環境(溶媒の極性やプ
ロトン和)が活性酸素発生に及ぼす影響、がある。これらの研究についても着実に成果をあげており、最終年度にまとめて報告する。本プロジェクトでは、生活環境中に存在する化学物質の健康影響を活性酸素毒性の観点から評価するための新しい方法論の開発を目指して研究を展開している。研究初年度および二年度には、科学的指標を得るための新しい手法の開発ならびに、化学物質からの発生する活性酸素種の解析を行い、期待通りの成果を得たと考える。最終年度も、引き続き定量的解析を目的とした方法論の確立を主眼として研究を展開したい。本研究の成果は、将来的に広範に応用することが可能であり、定量的な毒性評価に基づいた健康影響評価は、国民の健康維持に貢献すると期待できる。

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