内分泌かく乱物質のヒトへの影響評価を指向した試験系の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000741A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質のヒトへの影響評価を指向した試験系の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 佐藤薫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は内分泌かく乱物質のヒトへの影響評価を指向した試験系の開発を目的とする。3年計画の2年度にあたる本年度では、昨年度開発および基礎検討を行なった系を用いて、エスロトゲン様化学物質のこれらの系に対する作用を調べることを主な目的とした。脳高次機能維持標本を用いた悪影響評価に関するの研究では、培養海馬スライス標本におけるエストロゲン様化学物質のグルタミン酸毒性に対する影響を検討することを目的とした。分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では、アフリカツメガエル卵母細胞におけるヒト型核内エストロゲン受容体発現およびその活性化の定量法、およびヒト型アセチルコリン受容体に対するエストロゲン様物質の影響を検討することを目的とした。
研究方法
脳高次機能維持標本を用いた悪影響評価の研究では、海馬スライスをインターフェイス法により培養した。ラットより脳を摘出し、厚さ200μmの海馬スライスを作製した。海馬スライスを膜上に置き、培養液中、37℃にて10日間培養した。神経細胞障害の光学的測定では、培養した海馬スライスを染色し、共焦点顕微鏡を用いた観察により細胞の障害性を検討した。生細胞はflurecein diacetate、死細胞はpropidium iodideにより染色し、両者の結果を比較して障害性を決定した。分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では、ヒト型受容体cDNAを哺乳動物発現型プラスミドに組み込み、大腸菌を用いて増幅させた。これを鋳型としてRNAをin vitro転写により合成した。核内エストロゲン受容体の発現を確認するためのレポーターとしては、細胞外ATPのイオン・チャネル形成型受容体であるP2X2受容体を用いた。ヒト型膜受容体としては代表的な神経伝達物質であるアセチルコリンのニコチン様受容体のcDNAを用い、上記と同様な方法によりRNA合成を行なった。アフリカツメガエルより卵母細胞を摘出し、コラゲナーゼ処理によりろ胞細胞を除去した。第IV、V期の卵母細胞を実体顕微鏡下で選別し、これにプラスミドあるいは転写したRNAを注入した。18℃で2 - 5日間の培養後、電気生理学的手法により受容体の発現の有無を確認した。
結果と考察
脳高次機能維持標本を用いた悪影響評価の研究では、培養海馬スライスを用いた初年度の検討において、神経細胞死を誘発することが知られている内因性活性物質グルタミン酸により生細胞の減少、死細胞の増加が観察されている。このグルタミン酸曝露24時間前に17β-エストラジオール(1 nM)を処置すると、誘発される神経細胞障害は増悪された。この増悪作用は類縁物質である17α-エチニルエストラジオール、ビスフェノールA、p-ノニルフェノール等(1 nM)でも観察された。この増悪作用は核内エストロゲン受容体遮断薬であるtamoxifenあるいはICI 182,780により阻害されなかった。培養海馬スライスで観察されるグルタミン酸による神経細胞障害はCA1領域に選択的であり、生体内での虚血に伴う部位選択的障害と同様の傾向を示すことが知られている。この神経細胞障害が低濃度の17β-エストラジオールおよび類縁物質で増悪されたことから、これらの化合物が生体内で同様の増悪作用を誘発する可能性が示唆された。また、この作用は核内エストロゲン受容体を介するものではないことが示された。分子生物学的手法によるヒト型受容体異種細胞発現系に関する研究では、核内エストロゲン結合部位をP2X2受容体のcDNAの上流に組み込んだプラスミドを作製した。このプラスミドとヒト型核内エストロゲン受容体のcRNAを卵母細胞に注入し、17β-エストラジ
オール存在下で培養した場合、細胞外ATPの適用により内向き電流が惹起された。ヒト型アセチルコリン受容体を発現させた場合、この受容体を介するイオン電流は17β-エストラジオール、ジエチルスチルベストロール、ビスフェノールA等により抑制された。受容体のサブユニット構成を替えた場合、17α-エチニルエストラジオールおよびp-ノニルフェノールの抑制作用に著明な変化が認められた。以上の結果のうち、17β-エストラジオール処置によりATP誘発電流が観察されたことは、アフリカツメガエル卵母細胞発現系がヒト型核内エストロゲン受容体を介する作用を評価する系として使用可能であることを示している。ヒト型アセチルコリン受容体については、この受容体に対してエストロゲン様物質の影響を受けたことから、このアセチルコリン受容体が近年注目されている細胞膜エストロゲン受容体の一種であることが示唆された。
結論
本年度の研究により、本年度の研究により脳の生理的な高次機能を保持した系である培養海馬スライス標本において17β-エストラジオールおよび類縁物質が低濃度でグルタミン酸誘発神経細胞障害を増悪させること、およびアフリカツメガエル卵母細胞がヒト型核内エストロゲン受容体を介する作用を評価する系として利用可能であることが示された。また、ヒト型アセチルコリン受容体が細胞膜エストロゲン受容体の一種であることが示唆された。

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