内分泌かく乱化学物質の人の生殖機能等への影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000740A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の人の生殖機能等への影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
津金 昌一郎(国立がんセンター研究所支所)
研究分担者(所属機関)
  • 兜真徳(国立環境研究所)
  • 山本正治(新潟大学医学部)
  • 佐々木寛(東京慈恵会医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日常の生活環境における内分泌かく乱化学物質(EDC)への暴露が、人の健康影響と関連するか否かを疫学的に検討することを目的とする。平成12年度は、疫学研究を実施するための基礎的情報を得るために、人へのEDC暴露と、暴露に寄与する生活習慣について検討するとともに、横断面研究によってEDC暴露の健康影響およびその指標について検討を行う。さらに人の健康影響に関するエビデンスについて文献的検討を行う。また、EDCによる健康影響を明らかにするための疫学研究として、昨年度にプロトコールを作成した子宮内膜症の症例対照研究で症例収集を行い、さらにEDCによる健康影響のひとつであることが疑われている乳癌発症へのEDC暴露のリスクを明かにするために症例対照研究を開始する。
研究方法
人へのEDC暴露とその要因(暴露源)に関する基礎検討として、地域住民で胃がん又は大腸がんの手術を行った者37名について、手術の際に摘出した臓器の非がん部(大網)を採取した。その脂肪組織中のPCB、DDT、β-HCH及びクロルデンの残留量の測定をを開始した。また、一般地域住民41名について、血清中の有機塩素系農薬(β-HCH、Hexachlorobenzene、DDD、DDE及びDDT)測定を行い、同時に詳細な自記式食事歴質問票を使用して食品摂取量について調査し、それらの関連を検討した。さらに、魚の摂取量が多いと考えられる地域の妊婦46名について食物摂取頻度調査を行い、魚・肉・牛乳類の摂取量を推定した後、7名から母乳と尿を採取し、母乳中ダイオキシン類および尿中フタル酸エステル、ビスフェノールA及びエストロジェン代謝物(2-OH-estrone, 16α-OH-estrone)を測定した。魚の摂取量が多いと考えられる別の集団から約40名の母乳提供者を選出し、残留性農薬類の測定を加えた同様な調査を開始した。人でのEDC暴露の影響およびその指標に関する基礎検討として職業的にビスフェノールAジグリシジルエーテルに暴露されている男性42名と同工場内の暴露されていない年令、喫煙をマッチさせた男性50名について、スポット尿中のビスフェノールA(BPA)濃度の測定を高速液体クロマトグラフで行った。同時に血漿中の卵胞刺激ホルモン、黄体刺激ホルモン、テストステロンの測定を行い、それらの関連を検討した。ダイオキシンや有機塩素系化合物などのEDCと、子宮体がんおよび子宮内膜症に関する疫学研究の現状を把握する目的で文献レビューを行い、これまでの研究結果を整理した。一方、EDCの健康影響を検証するための疫学研究として、昨年度に作成した子宮内膜症の症例対照研究のプロトコールにしたがって子宮内膜症及び対照例の症例収集を開始した。また、乳癌とEDCとの関連を解明するために多施設症例対照研究を計画し、研究参加者の人権擁護やインフォームドコンセントの取得方法を明記した研究プロトコールを作成した。
結果と考察
一般地域住民における血清中の有機塩素系農薬の中央値(範囲)は、β-HCH:0.50(0.05-1.50)、HCB:0.20(0.02-0.70)、DDE+DDT:5.0(0.9-31.0)ng/mLPであり、詳細な食事調査で把握した特定食品群の摂取量との関連が示唆された。魚の摂取量が多いと考えられる地域の妊婦の母乳中ダイオキシン濃度の平均値(範囲)は、15.3(4.8-25)及び17.4(5.6-28)pg/g-fat(それぞれInternational-TEF及びWHO(1998)-TEFを用いた場合)であり、魚摂取量が多いほど高くなる傾向が示された。また、手術の際に採取した地域住民の脂肪組織中の有機塩素系化合物残留量の調査を開始した。ビスフェノールAジグリシジルエーテルの職業暴露者と対照者の尿中BPA濃度を高速液体クロマトグラフ-電気
化学検出器により検討したところ、暴露者が高い値を示し、血漿中の卵胞刺激ホルモンが暴露群で有意に低かった。文献によるエビデンスの検討では、子宮体がんについてはEDCとの関連を示す研究はなく、子宮内膜症についてはEDCとの関連について一致した結果は得られていなかった。EDCと子宮内膜症の関連を検証するための症例対照研究では症例収集が進み、すでに子宮内膜症35例、対照例49例を収集した。また、乳癌とEDCとの関連を検証するための症例対照研究のプロトコールを作成し、倫理審査委員会での承認を受け、症例収集の準備を完了した。
結論
昨年度に引き続き、内分泌かく乱作用が疑われている化学物質が、食品や一般環境中に存在し、人が暴露していることが示されたことから、子宮内膜症と乳癌の疫学研究を開始した。

公開日・更新日

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