タバコ煙及び加熱食品中のダイオキシン類の定量及びその評価

文献情報

文献番号
200000725A
報告書区分
総括
研究課題名
タバコ煙及び加熱食品中のダイオキシン類の定量及びその評価
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
若林 敬二(国立がんセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 川森俊人(国立がんセンター研究所)
  • 多田敦子(国立がんセンター研究所)
  • 遠藤治(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳がん、精巣がん等の発生に環境中の内分泌撹乱物質が関与していることが示唆されている。更に、内分泌撹乱作用を示すダイオキシン等の化合物は生物濃縮が起こりやすく、大きな社会問題になっている。
ダイオキシン類は食物、大気、水及び土壌中より検出されており、そのヒト曝露量は大都市地域で 0.52-3.53 pgTEQ/kg/day と報告されている。ダイオキシン類の大きな発生原因の一つとして、ゴミの焼却炉における加熱反応が関与していることが指摘されている。
一方、我々のより身近な生活環境で、加熱反応が係っているものとしては、喫煙や加熱調理食品が挙げられる。タバコの煙は喫煙者に直接摂取される主流煙と空気中に拡散する副流煙があり、両者の煙ともニトロソアミン類、多環性芳香族炭化水素化合物等の発がん物質が含まれている。又、焼肉、焼魚等に代表される加熱調理食品にもヘテロサイクリックアミン(HCAs)等の発がん物質が存在していることが報告されている。しかしながら、タバコの煙及び加熱食品中のダイオキシン類の広範な分析研究は未だ行われておらず、正確な定量値の報告はほとんどない。
本研究においては、日常生活に密着した加熱食品中のダイオキシン類の定量を行い、生活環境中に存在しているダイオキシン類の由来を正確に把握し、それらのヒト健康に及ぼす影響を評価することを目的とする。また環境中にはダイオキシンやPCB類と同様な毒性を有する未知化合物が多く存在しているものと推定される。そこで、ダイオキシンと同様にヒトアリルハイドロカーボンレセプター(AhR)を介した系での内分泌撹乱作用を示す新規物質の同定についても本研究で検討する。以上の研究から得られる成果は、公衆衛生学的見地より重要な基礎的研究資料となるばかりでなく、ダイオキシン類等の内分泌撹乱物質のヒト曝露量のバックグラウンドを知る上で貴重なデータになるものと思われる。
研究方法
研究は以下の4つに分けて行った。すなわち1)加熱食品中のダイオキシン類の定量法の開発。2)加熱調理前および加熱調理後の食品中のダイオキシン類の定量。3)環境中の新たな内分泌撹乱作用物質の検索。4)内分泌撹乱作用物質のin vivo毒性評価系の検討。
具体的には
1)については、特に従来の方法で加熱食品を前処理する際、PCB及び他の夾雑物により、測定したいダイオキシン類(特にPCDD、PCDF及びコプラナーPCBのモノオルト体)の検出が妨害される。又、コプラナーPCBのモノオルト体とノンオルト体の含有量を比較すると、食品ではモノオルト体がノンオルト体より過剰に存在するため、モノオルト体がノンオルト体の検出を妨害してしまう問題点がある。これらの2点を改良し、感度よくダイオキシン類を測定できる前処理法を検討した。
2)については国産の牛肉100 gを生肉のまま、あるいはフライパンを用いて強火で加熱し、加熱肉と加熱時流出油に分けてそれら画分に含まれるダイオキシン類の定量を行った。
3)については報告例の少ない河川水に注目し、新たな内分泌撹乱作用物質の検索を行った。
4)では、加熱食品中ならびに、生体内で生成すると推定される発がん性ヘテロサイクリックアミンの子宮重量変化に及ぼす影響について検討した。
結果と考察
上記研究方法により以下の成果を得た。
1)加熱食品中のダイオキシン類の定量法の開発。
加熱食品中のダイオキシン類の定量のため、より効率よく捕集・精製を行える前処理法を開発した。従来法と大きく異なるところは、アルカリ分解時間の延長、硝酸銀シリカゲルのシリカゲルへの重層、さらには塩基性アルミナカラムを用いた一般PCBの除去操作を加えること、コプラナーPCBのモノオルト体とノンオルト体を塩基性アルミナカラムと活性炭シリカゲルカラムの段階で分画することである。
前処理法は以下の通りである。牛肉100 gを焼き網を用いて強火で10分加熱調理し、内部標準(13C同位体:PCDD及びPCDFの4?7塩素化物は1 ng、8塩素化物は2 ng、コプラナーPCBは1 ng)を添加した。この後、2M KOH水溶液中で撹拌しつつ一晩のアルカリ分解を行った。次にEtOHを添加して振盪した後、2% NaCl水溶液を用いて液-液分配でヘキサン抽出を行った。得られた濃縮物の硫酸処理を行い、次いでシリカゲルの上に1gの硝酸銀シリカゲルを重層したカラムで処理した。n-ヘキサンによる溶出で一般PCBの除去を行った後、2種類の分画方法を用いてコプラナーPCBのモノオルト体とノンオルト体を分離した。分画方法1では塩基性アルミナカラムの段階で、分画方法2ではその次の活性炭シリカゲルカラムの段階でモノオルト体とノンオルト体を分画した。
2) 加熱調理前および加熱調理後の食品中のダイオキシン類の定量
国産の牛肉100 gを生肉のまま、あるいはフライパンを用いて強火で加熱し、加熱肉と加熱時流出油に分けて、分析対象試料とした。フライパンは、テフロン加工のものをメタノールで洗浄、乾燥した後使用した。得られた試料は先の、改良法により前処理を行い、GC/SIMSにより定量を行った。
牛肉の生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.?540 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.?440 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:0.41?160 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ0.47 pg-TEQ/g、0.35 pg-TEQ/g、0.11 pg-TEQ/gと算出された。注目すべき点は、生肉中の毒性評価値は加熱燃焼することにより加熱された肉(本体)とその流出油に分配され、それらは、生肉の74%及び23%であった。
しかしながら、加熱によりO8CDFが減少する事が分かり、また2,3,7,8-T4CDF及びO8CDDは微量ではあるものの増加していたことから、加熱調理により生成する可能性が示唆された。
3)環境中の新規内分泌撹乱作用物質の検索
前回までの研究で、変異原活性の強いことが指摘されている和歌川の河川水中の変異原物質として4-amino-3,3'-dichloro-5,4'-dinitrobiphenylが同定された。また、同化合物はヒトアリルハイドロカーボンレセプター(AhR)を発現させた酵母を用いた系においてAhRと結合し、その活性は?-naphthoflavoneとほぼ同じであることがわかった。この化合物は親化合物である3,3'-dichlorobendizineから生成している可能性が高いため、構造が類似している他の3,3'-dichlorobendizine誘導体も河川水中に存在している可能性がある。そこで、3,3'-dichlorobendizineの構造類似体3,3'-dichloro-4,4'-dinitrobiphenyl 、4-amino-3,3'-dichloro-4'-nitrobiphenylの河川水中の濃度の定量を行った。その結果、前者は3640 ng/L、後者は2120 ng/Lの濃度で和歌川河川水中に存在していることが明らかとなった。両者はいずれもAhRに高い結合能を持っており、3,3'-dichlorobendizineから4-amino-3,3'-dichloro-5,4'-dinitrobiphenylへ生成する際の中間体であると考えられた。
4)内分泌撹乱作用物質のin vivo毒性評価系の検討
卵巣摘出したラットの子宮重量変化を指標とした試験系を用いて、17?-estradiol および新規ヘテロサイクリックアミン、アミノフェニルノルハルマン(APNH)の活性を調べた。???-estradiol(50 μg/kg)投与群では、子宮重量、子宮内膜及び上皮細胞の高さは、コントロール群に比し増加した。細胞増殖率も有意に増加していた。APNH(50 mg/kg)投与群では、APNHの全身に対する毒性のためか、体重増加抑制を認めた(P<0.001)。一方、子宮重量及びその体重に対する比率は有意に増加していた(P<0.05及びP<0.01)。しかし、組織学的には、子宮間質部及び上皮部の高さは、コントロールに比べて変化なく、もっとも鋭敏であるBrdUrd陽性細胞数でも、コントロールとほぼ同程度で非常に少なく、APNH投与により、子宮内での細胞増殖が亢進している様子は認めなかった。これらの結果より、APNHによる子宮重量増加は子宮そのものが大きくなった訳ではなく、子宮液の増加によると考えられた。
結論
1) 加熱食品中のダイオキシン類の適切な定量方法について、各種クロマトグラフィー、高分解能GC/MS、内部標準試料などを用いて検討した。その結果、試料中からダイオキシン類をヘキサン抽出した後、塩基性アルミナカラムで大量の一般PCBを除去する方法と活性炭シリカゲルカラムでコプラナーPCBのモノオルト体とノンオルト体を分離する方法とを組み合わせた処理を行うことにより、各ダイオキシン類を効率よく捕集、分画できることが明らかとなった。
2)牛肉の生肉、加熱肉と加熱時流出油中のPCDD及びPCDF(TEF値を有するもの)の含有量はそれぞれ、生肉:N.D.?540 pg(生肉100gあたり)、加熱肉: N.D.?440 pg(調理前の生肉100gあたり)及び加熱時流出油:0.41?160 pg (調理前の生肉100gあたり)であった。これらの総TEQ値はそれぞれ0.47 pg-TEQ/g、0.35 pg-TEQ/g、0.11 pg-TEQ/gと算出された。、生肉中の毒性評価値は加熱燃焼することにより加熱された肉(本体)とその流出油に分配され、それらは、生肉の74%及び23%であった。
3)和歌川河川水中の変異原物質、4-amino-3,3'-dichloro-5,4'-dinitrobiphenylの構造類似体3,3'-dichloro-4,4'-dinitrobiphenyl 、4-amino-3,3'-dichloro-4'-nitrobiphenylの河川水中の濃度の定量を行った結果、前者は3640 ng/L、後者は2120 ng/Lの濃度で和歌川河川水中に存在していることが明らかとなった。両者はいずれもAhRに高い結合能を持っており、さらに3,3'-dichlorobendizineから4-amino-3,3'-dichloro-5,4'-dinitrobiphenylへ生成する際の中間体であると考えられた。
5)卵巣摘出ラットを用いた実験系はin vivoエストロゲン作用物質の検出系として有用である。この系を用いて、新規ヘテロサイクリックアミンであるAPNHのエストロゲン様作用の有無を検討した。APNHは卵巣摘出ラットの体重増加を抑制し、子宮液増加による子宮重量の増加をきたした。しかし、BrdUrd陽性細胞を指標にした細胞増殖能に変化を及ぼさなかった。この結果からAPNHは、エストロゲン様作用を示さないと考えられた。

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