ごみ焼却施設周辺におけるダイオキシン汚染に起因する周産期の健康影響に関する疫学研究

文献情報

文献番号
200000724A
報告書区分
総括
研究課題名
ごみ焼却施設周辺におけるダイオキシン汚染に起因する周産期の健康影響に関する疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
上畑 鉄之丞(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 丹後俊郎(国立公衆衛生院)
  • 簑輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 内山巌雄(国立公衆衛生院)
  • 田中 勝(国立公衆衛生院)
  • 国包章一(国立公衆衛生院)
  • 藤田利治(国立公衆衛生院)
  • 加藤則子(国立公衆衛生院)
  • 土井由利子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今日焼却施設から排出されるダイオキシン類の及ぼす健康影響について国民の関心が高まりその的確な対策が急がれている。しかし,マスコミ等で様々な暴露状況,健康影響に関する報道が繰り返されているがダイオキシン類の測定の困難性から測定法上問題の多いデータが一人歩きして,見かけの影響,誤った解釈が国民を混乱に陥らせている可能性もある。さらに,これらの情報は精度高い疫学調査によるものではないため全国にある焼却施設周辺の実態が不明である点が混乱に拍車をかけている。本研究は、国民の間のいたずらな混乱・不安を解消するとともに、有効な施策のための的確な情報を提供するため、全国の中規模以上の焼却施設周辺における住民への健康影響、特に胎児期,新生児期などいわゆる妊娠及び周産期に発現する健康障害のリスクを疫学研究により解明することを目的とする。
研究方法
本年度は前年度に計画した調査の開始年度であり、以下の四つの分担研究を行った。(1) 「ごみ焼却施設周辺住民の人口動態調査票の収集と住所情報の地理的解析に関する研究(分担者 丹後俊郎、藤田利治、上畑鉄之丞)」。本調査の主要目的は調査対象となる母親の住所、ごみ焼却施設の地理的位置をxy平面座標にプロットし、住所とごみ焼却施設との位置関係,距離を計算することである。そのために,前年度に決定された全国の73施設を調査対象施設とし,そこから半径10kmの園内に、または、その境界に位置する総計488の市区町村を調査対象地域として,平成8年から平成10年までに当該市区町村に出生届・死産届・死亡届けを提出した女性(母親)の子の出生票・死産票・死亡票の人口動態テープ(市区町村まで)を目的外申請により入手する。次にそのテープ情報を基準にしてより細かい住所情報をそれぞれの個票にあたって閲覧・転記する。データの電子化・解析に当たっては,最近進歩が著しい GIS(Geographical Information System)を利用して住所地のデータベース化を行い、調査対象となる母親の住所、ごみ焼却施設の地理的位置をxy平面座標にプロットするとともに、住所とごみ焼却施設との距離を計算する。(2)「ごみ焼却施設周辺のダイオキシン汚染の健康影響評価の統計的方法論に関する研究(分担者 丹後俊郎)」。本研究で使用する統計手法の検討であり,固定発生源の周辺における健康影響(疾病集積性)を評価する既存の統計技法との比較研究を行うとともに,新しく検出力の高い方法の開発をめざす。(3)「ごみ焼却施設由来のダイオキシン類測定調査に関する研究(分担者 内山巌雄、田中勝、国包章一)」。ダイオキシン類の発生源であるごみ焼却施設由来によるダイオキシン類の汚染を周辺土壌への堆積実態として把握するための調査であり,次の2点を主に考慮して検討する。(a)実測調査場所の選定にあたっては,対象とする発生源以外の影響を大きく受けていないと考えられる地域,比較的発生源濃度の高い施設,近傍に気象の年間データが得られるような施設などを基準に検討する。(b)試料採取地点の選定方法については,ごみ焼却施設を中心に3―7km程度までの範囲で採取地点を20―30程度選定する。(4)「保健所をベースにしたケースコントロール調査の方法に関する研究(分担研究者 簑輪眞澄、加藤則子、土井由利子、上畑鉄之丞)」人口動態統計では得られない自然流産,先天異常を中心とした妊娠および周産期に発現する健康障害の補助情報を獲得するためのアンケート
に基づく調査デザインの検討を行う。前年度でも調査のデザインの困難性を議論したところであるが,今年度もそのデザインについて検討する。
結果と考察
(1)「ごみ焼却施設周辺住民の人口動態調査票の収集と住所情報の地理的解析に関する研究(分担者 丹後俊郎、藤田利治、上畑鉄之丞)」。人口動態統計調査票に関する研究では、全国の73ヶ所のごみ焼却施設周辺住民の人口動態調査出生票、死産票、死亡票を申請により取得し(調査票の保存期間を考慮して平成8―10年の3ヶ年)、全体で約60万件の転記作業を開始したが、国におけるこれらの調査票の保管状況が予想以上に良くないので作業時間、費用とも大幅に予想を越えており、現時点で約半分25万件の転記作業とその電子化を終了した。調査対象者の住所,ゴミ焼却施設の地理的位置(緯度・経度)情報を収集して2次元平面上にプロットできるGIS(Geographical Information System)のソフトの一つをインストールし、平成9年度の住所情報の地理的解析をおこなった。これらの中間結果は日本疫学会で発表した。(2)「ごみ焼却施設周辺のダイオキシン汚染の健康影響評価の統計的方法論に関する研究(分担者 丹後俊郎)」。Stoneの方法に代表される従来の健康影響を検出する統計的方法ではごみ焼却施設直近が最もリスクが高く施設からの距離に反比例してリスクが減衰する仮定を置いていた。しかし、現実には施設から2-3km程度が最も汚染状況が悪いというデータもあり、この仮定は必ずしも現実に対応していない。本研究では、様々な距離に依存したリスク関数を導入することによりこの問題に適応的に対応できる方法を導出し、さらにいくつかのこれまでの問題点を克服した新しい検出力の高い方法論を開発した。その結果は国際著名学術雑誌 Statistics in Medicneに投稿中である。(3)「ごみ焼却施設由来のダイオキシン類測定調査に関する研究(分担者 内山巌雄、田中勝、国包章一)」。施設周辺地域のダイオキシン類の曝露評価については、ゴミ焼却施設の煙突から排出される粉塵による「過去から現在まで」の曝露状況を評価するため、十数施設を対象候補施設として選定し、それぞれの施設周辺のダイオキシン類排出状況、排出負荷量、地形、土地利用状況、気象観測所からの距離などを調査した。その中から曝露状況を評価する上で適切な数施設を選んで周辺土壌の汚染状況を調査する予定であったが、予算の制約により今年度は1施設に絞り、その周辺20数箇所を選択し土壌サンプルを採取した。測定・分析には時間がかかるため周辺土壌のダイオキシン類濃度は来年度前半に判明する予定である。(4)「保健所をベースにしたケースコントロール調査の方法に関する研究(分担研究者 簑輪眞澄、加藤則子、土井由利子、上畑鉄之丞)」。人口動態統計では得られない補助情報(計画調査項目:自然流産,先天異常など)を得ることを目的として計画した「当該施設を管轄する保健所に協力を依頼して調査対象住民への面接アンケート調査」は、「ケース」を特定することが困難であること、問題の性格から協力がなかなか得られないこと、実施したとしても小規模の調査となり本来の目的が達成できないこと、個人情報保護基本法などの法制化の動きなどからその実施は極めて困難と判断し本研究では断念した。
結論
保健所をベースにしたケースコントロール調査は断念したが,人口動態統計調査票に関する研究では、閲覧・転記作業の困難性に直面したものの,平成9年度のデータの収集・住所情報の解析は終了しており,平成13年度の前半には平成10年度のデータの転記作業を終了する予定である。年度後半には、調査結果の総合的な統計解析を行い健康影響を評価する予定であり,そのためのデータベース・解析ソフトの整備が現在すすめられている。順調にすすめば,焼却施設周辺における住民の周産期への健康影響(特に胎児期、新生児期に発現する健康影響のリスク)が焼却施設から排出されるダイオキシン類との関連で現在までにどの程度であるのかを世界で初めて解明することができる。

公開日・更新日

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