文献情報
文献番号
200000723A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の健康影響に関する総合的評価研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 隆一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 江馬眞(国立医薬品食品衛生研究所)
- 大野泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
- 金子豊蔵(国立医薬品食品衛生研究所)
- 黒川雄二(国立医薬品食品衛生研究所)
- 手島玲子(国立医薬品食品衛生研究所)
- 渋谷淳(国立医薬品食品衛生研究所)
- 林真(国立医薬品食品衛生研究所)
- 広瀬明彦(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ダイオキシン類は、各種有機化学物質の生産工程や廃棄物の処理過程等で生成する非意図的な化学物質で、動物を用いた試験で強い毒性を有することが明らかにされている。また、コプラナーPCBもダイオキシン類と同様の毒性を示すことが知られており、平成9年のWHO欧州事務局におけるダイオキシン類の毒性評価に用いられる毒性等価係数(TEF)の見直しでは、12種の物質についてTEFが設定された。国際的評価では、最も毒性が強い2,3,7,8-TCDDに関して、平成9年2月に、国際がん研究機関(IARC)において、グループ1(人に発がん性あり)と判断され、平成10年には、WHO欧州事務局においてダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)が再評価された。我が国においても、平成11年に本研究の研究結果を基に、TDIの再設定が行われたところであるが、厚生科学研究としては、ダイオキシン類及びコプラナーPCBに関する総合的な毒性調査は、平成9年の厚生科学研究「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究」の後は行われていない。そこで、本年度は、平成9年以降のダイオキシン類及びコプラナーPCBに関する最新情報を収集、調査最し、ヒトへの健康影響を評価する上での材料とすることを目的とした。
研究方法
ダイオキシン類およびコプラナーPCBに関する毒性情報を体内動態及び代謝、一般毒性、発がん性、免疫毒性、生殖発生毒性、生化学的影響、疫学および国際的な評価に関する情報に分類し、各種文献情報から最新の毒性学的知見を、収集・整理した。特に、本年度は、平成9年度の厚生科学研究報告書以降の情報に焦点を絞ったものとした。
結果と考察
本年度は、平成9年以降のダイオキシン類及びコプラナーPCBに関する最新の毒性情報を文献などから収集、調査た。体内動態に関しては、体内負荷量が血中濃度を測定することにより推定できることの妥当性や、非吸収性の脂肪や緑色野菜なども摂取はTCDDのラットにおける消化管吸収を抑制し、その糞中排泄を数倍増加させることが明らかにされた。一般毒性に関しては、TCDDやPCBについて反応酸素種の組織濃度と産生時間との相互作用が亜慢性暴露で調べられ、酸化ストレスが肝臓、脾臓、肺と腎臓で特徴づけられ、酸化ストレス誘導因子としてTCDDが最も強いことが示された。雌のSDラットにPCB混合物とTCDDを種々の組み合わせで28日間の強制経口投与した結果、甲状腺への影響はTCDDとPCBで共同効果はなかったが、胸腺に対しては共同効果が示された。また、TCDDのhematologicalな共同効果は、低用量PCBによって増強されるが、高用量のPCBによって部分的に拮抗的であるなど、PCBとTCDDの共同効果は、非常に複雑であることが示された。発がん性に関しては、PCB類の肝発がん性に関する一連の研究により、1)この発がん作用はプロモーション作用によるものであり、PCB類は明らかなイニシエーション作用を示さない。2)このプロモーション活性はビフェニル基の塩素化の程度に依存して強く現れる。3)作用機序の異なるPCB化合物間で、プロモーション活性に相乗作用の存在することが明らかにされた。変異原性に関しては、ダイオキシン類の遺伝毒性に関しては平成9年度以降ダイオキシン類の遺伝毒性に関する報告は殆どなされていないのが現状であるが,酸化的ストレスを高めDNA単鎖切断の誘発,および薬物代謝酵素の誘導によりDNA付加体の生成を修飾するなど,一部二次的な作用を
示す報告がなされている.しかし,現状においても当時の結論である「ダイオキシン類には直接的な遺伝子傷害性はないものと考えられる」を覆すような情報は得られていない。免疫毒性に関しては、TCDD類の免疫毒性には,Ah受容体非介在性のものもあり,Ah受容体ノックアウトマウス等を用いた研究からより高用量で起きる傾向が示されている。マウスでは,抗体産生(抗SRBC)の抑制が最も再現性が高い.また,B6C3F1マウスへの10 ng/kg/dayの経口投与により血清補体価の減少が示されている.B6C3F1マウスにおけるウイルス感染に対する抵抗性の低下が,10 ng/kg単回経口投与で認められ,最も感度の高い指標である.また、胎生期/新生仔期暴露によりもたらされるダイオキシン類の免疫毒性に関しては、妊娠14日のF344ラットへ投与により、雄の0.1、雌の0.3μg/kgで、生後14週でのBSAに対する遅延型過敏症反応の低下が報告されている。生殖発生毒性に関しては、雌ラットにTCDDを交配前、交配中、妊娠中及び授乳中暴露により、TCDD投与群の雄児で精巣上体精子数、1日精子産制数及び精子通過率の低下、異常精子頻度上昇、異常性行動が観察された。最小毒性量は0.8 μg/kg/dayであった。妊娠ラットへの単回強制経口投与実験では、0.25 μg/kgで精巣上体精子数低下及び前立腺重量低下などがみられた。妊娠Syrianハムスターへの2.0 μg/kg TCDD強制経口投与により、F1の体重増加抑制、膣開口遅延、膣性周期の変化、妊娠率低下、母体死亡増加、F2分娩生存児数減少、離乳率低下が観察された。妊娠ラットへの3,4,5,3',4',5'-HCB単回強制経口投与により母体体重増加抑制、同腹児数減、低児体重、児死亡率上昇、雌雄の児の交配率及び妊娠率の低下などがみられた。妊娠ラットへのPCB-126やPCB-77の投与実験では、児の胸腺重量低下及び肝重量増加や生殖器官の発達異常などの知見以外に、視覚弁別学習の低下及び活動量増加、放射型迷路でのエラー数低下、受動回避学習行動の傷害などの学習異常も観察された。生化学的影響に関しては、:ダイオキシン類による毒性のほとんどは、Ahレセプター(AhR)を介した遺伝子発現調節機構を開始点とした様々な生化学的なカスケード反応の結果引き起こされるものと考えられている。最近では、AhRとHsp90の両方に結合する新しいタンパクとしてAIP(XAP2またはAra9とも呼ばれる)が見つかってきており、AIP-AhR-Hsp90コンプレックスを安定化する作用のあることが明らかにされた。また、致死毒性に対して耐性なラットの系統(H/W)は、肝発がん性やTDIの設定の根拠となった胎児・新生児期暴露における精巣毒性に対しても著しく耐性である。一方、妊娠15日のLong Evansラットにダイオキシン類混合物を経口投与しところ、TCDD単独で出た毒性が再現され、低用量域での発生毒性もまたAhレセプター依存性であることが示唆された。疫学に関しては、近年、事故や職業曝露といったような高濃度汚染による健康被害から、一般環境レベルにおける健康被害の影響の有無、さらには影響の程度や量-反応関係を調べる研究が増えてきているが、従来の研究と比較すると、全般的には量的な曝露評価に関しては、精度や正確さの面で未だに多くの課題が残されていると言える。最近では、これらに加えて糖尿病をはじめ生殖影響や次世代影響という観点から、女性や小児を対象とした検討も増えてきており、PCDD/Fに関しては小児のアトピー性皮膚炎、甲状腺ホルモンなどについて、PCBに関しては乳ガンや子宮内膜症などをエンドポイントとする研究が増えている。一部の研究を除き、サンプルサイズが比較的小さいことも特徴の一つとして挙げられ、PCDD/FやPCBの健康影響に関しては、特に一般環境レベルの研究で健康影響は認められてず、また、影響が認められている研究結果であっても、必ずしも信頼できる結果とはなっていないと考えられる。一般環境レベルでのダイオキシンの影響は、後向き研究が比較的多いこともあり潜在的交絡要因と考える変数の入手が困難となっていると思われ、研究結果の解釈や研究の比較をする際には注意が必要であろう。国内外のダイオキシン規制状況に関して
は、平成9年以降、ダイオキシンの健康影響評価に関する再評価が国内外で活発化しており、1998年には、WHOでダイオキシン類の再評価が行われ、TDIが1~4pg/kg/dayと設定された。これを受ける形で、我が国もTDIを1996年の中間報告でのTDIを見直し、1999年にTDIを4pg/kg/dayとしたところである。また、2000年には米国EPAが「ダイオキシン類に関する再評価ドラフト」を提示するという状況になっている。
示す報告がなされている.しかし,現状においても当時の結論である「ダイオキシン類には直接的な遺伝子傷害性はないものと考えられる」を覆すような情報は得られていない。免疫毒性に関しては、TCDD類の免疫毒性には,Ah受容体非介在性のものもあり,Ah受容体ノックアウトマウス等を用いた研究からより高用量で起きる傾向が示されている。マウスでは,抗体産生(抗SRBC)の抑制が最も再現性が高い.また,B6C3F1マウスへの10 ng/kg/dayの経口投与により血清補体価の減少が示されている.B6C3F1マウスにおけるウイルス感染に対する抵抗性の低下が,10 ng/kg単回経口投与で認められ,最も感度の高い指標である.また、胎生期/新生仔期暴露によりもたらされるダイオキシン類の免疫毒性に関しては、妊娠14日のF344ラットへ投与により、雄の0.1、雌の0.3μg/kgで、生後14週でのBSAに対する遅延型過敏症反応の低下が報告されている。生殖発生毒性に関しては、雌ラットにTCDDを交配前、交配中、妊娠中及び授乳中暴露により、TCDD投与群の雄児で精巣上体精子数、1日精子産制数及び精子通過率の低下、異常精子頻度上昇、異常性行動が観察された。最小毒性量は0.8 μg/kg/dayであった。妊娠ラットへの単回強制経口投与実験では、0.25 μg/kgで精巣上体精子数低下及び前立腺重量低下などがみられた。妊娠Syrianハムスターへの2.0 μg/kg TCDD強制経口投与により、F1の体重増加抑制、膣開口遅延、膣性周期の変化、妊娠率低下、母体死亡増加、F2分娩生存児数減少、離乳率低下が観察された。妊娠ラットへの3,4,5,3',4',5'-HCB単回強制経口投与により母体体重増加抑制、同腹児数減、低児体重、児死亡率上昇、雌雄の児の交配率及び妊娠率の低下などがみられた。妊娠ラットへのPCB-126やPCB-77の投与実験では、児の胸腺重量低下及び肝重量増加や生殖器官の発達異常などの知見以外に、視覚弁別学習の低下及び活動量増加、放射型迷路でのエラー数低下、受動回避学習行動の傷害などの学習異常も観察された。生化学的影響に関しては、:ダイオキシン類による毒性のほとんどは、Ahレセプター(AhR)を介した遺伝子発現調節機構を開始点とした様々な生化学的なカスケード反応の結果引き起こされるものと考えられている。最近では、AhRとHsp90の両方に結合する新しいタンパクとしてAIP(XAP2またはAra9とも呼ばれる)が見つかってきており、AIP-AhR-Hsp90コンプレックスを安定化する作用のあることが明らかにされた。また、致死毒性に対して耐性なラットの系統(H/W)は、肝発がん性やTDIの設定の根拠となった胎児・新生児期暴露における精巣毒性に対しても著しく耐性である。一方、妊娠15日のLong Evansラットにダイオキシン類混合物を経口投与しところ、TCDD単独で出た毒性が再現され、低用量域での発生毒性もまたAhレセプター依存性であることが示唆された。疫学に関しては、近年、事故や職業曝露といったような高濃度汚染による健康被害から、一般環境レベルにおける健康被害の影響の有無、さらには影響の程度や量-反応関係を調べる研究が増えてきているが、従来の研究と比較すると、全般的には量的な曝露評価に関しては、精度や正確さの面で未だに多くの課題が残されていると言える。最近では、これらに加えて糖尿病をはじめ生殖影響や次世代影響という観点から、女性や小児を対象とした検討も増えてきており、PCDD/Fに関しては小児のアトピー性皮膚炎、甲状腺ホルモンなどについて、PCBに関しては乳ガンや子宮内膜症などをエンドポイントとする研究が増えている。一部の研究を除き、サンプルサイズが比較的小さいことも特徴の一つとして挙げられ、PCDD/FやPCBの健康影響に関しては、特に一般環境レベルの研究で健康影響は認められてず、また、影響が認められている研究結果であっても、必ずしも信頼できる結果とはなっていないと考えられる。一般環境レベルでのダイオキシンの影響は、後向き研究が比較的多いこともあり潜在的交絡要因と考える変数の入手が困難となっていると思われ、研究結果の解釈や研究の比較をする際には注意が必要であろう。国内外のダイオキシン規制状況に関して
は、平成9年以降、ダイオキシンの健康影響評価に関する再評価が国内外で活発化しており、1998年には、WHOでダイオキシン類の再評価が行われ、TDIが1~4pg/kg/dayと設定された。これを受ける形で、我が国もTDIを1996年の中間報告でのTDIを見直し、1999年にTDIを4pg/kg/dayとしたところである。また、2000年には米国EPAが「ダイオキシン類に関する再評価ドラフト」を提示するという状況になっている。
結論
これらの調査をもとに、平成11年の我が国におけるダイオキシンのTDI(4 pg/kg/day)が再設定されたところである。その後の平成12年の米国EPAがダイオキシン類の再評価ドラフトや、現在までの最新情報に関する追跡調査を加えた今回の研究結果は、特に、毒性発現のメカニズムに関する新知見がいくつか見られるものの、平成11年度のTDや、健康評価結果を修正する必要がある程の情報は得られていない。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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