生体試料中ダイオキシンの酵素イムノアッセイ法の開発研究

文献情報

文献番号
200000722A
報告書区分
総括
研究課題名
生体試料中ダイオキシンの酵素イムノアッセイ法の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松木 容彦((財)食品薬品安全センター・秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 中澤裕之(星薬科大学)
  • 安生孝子((財)食品薬品安全センター・秦野研究所)
  • 前田昌子(昭和大学・薬)
  • 後藤順一(東北大学・薬)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンのによるヒトでの汚染実態の解析や曝露推移状況の把握は行政上、急務とされ、安価でかつ迅速なダイオキシンの新規抗体を得これらを用いてヒトやの生体試料(母乳、血液、脂肪、胎児等)中のダイオキシンの簡便でかつ高感度な酵素免疫測定法(ELISA)を確立し、ダイオキシンのヒトでの経日的あるいは経年的体内曝露推移のモニタリングに資することを目的としている。
研究方法
1.国外入手抗体を用いた母乳中ダイオキシンのELISA法の構築とクリーンアップ:1)ドライプレートを作製し、定期的にその性質を確認した。ついで17種のダイオキシンと3種のCo-PCBsとの交差反応性を調べた。 2)生体試料からの簡易脂質抽出法:試料(コーン油、ラード、バター)を無水硫酸ナトリウムで脱水後、エーテル/石油エーテル(1:1)で溶出し、ついで抽出した脂質をプレパックタイプ多層シリカゲルカートリッジに負荷し、ヘキサンで溶出後、GC/MSにより測定した。 3)Co-PCBを対象とするELISAと Total TEQとの関係: GC/MS測定結果をもとに、Co-PCBの測定値を含めて Total-TEQとの関係について調査し、測定対象について考察した。
2.モノクローナル抗体を用いるELISAの確立と母乳試料のクリーンアップの検討:1)抗体産生ハイブリドーマの中から単一クローンのハイブリドーマを得、ついで、アイソタイピングを行った。 2)測定感度とトリトン添加量との関係について検討を行い、至適ELISA法を確立した。3)牛乳またはバターからのヘキサン抽出物について市販の数種の固相カラムの組み合わせによる簡易精製法について検討した。 4)昨年度合成したダイオキシン-1-プロペオニックNHSエステル(I-5-NHS)と牛γ-グロブリン(BGG)、卵白アルブミンおよびゼラチンとを結合させ、得られた各ハプテン蛋白結合物をNuncのプレートに加え、常法処理して抗原固相プレートを作製し、ELISA法をの感度について調べた。5) (1)既知の方法を駆使し、クロロニトロベンゼン体と 3,4,5,6-テトラクロロカテコール体から新しい数種の多塩素置換ダイオキシンハプテンを合成し、それらにスペーサーの導入を図った。(2)数工程を経て、目的の新規ダイオキシンハプテンとしてフェノキサジンのハプテンを合成した。 6)(1) 2.5)で得られた1-アミノ-3,6,7,8,9-ペンタクロロジベンゾダイオキシンのサクシミド、グルタミドおよびアジパミド体から新しいタイプのハプテンおよびそのタンパク結合物を調製した。 (2) 3,7-ジクロロ-8-R-ジベンゾダイオキシン-1-プロペオニック-NHS (R:Cl, CH3, C(CH3)3)から3種のビチオン誘導体を合成した(3.で利用)
3.イムノアッセイの検出系高感度化の検討:ヤギ抗家兔 IgG抗体固相化プレートにビチオン標識化ダイオキシン(2. 6)②より)と昨年度得た家兔抗ダイオキシン抗血清を加え、免疫反応を行い、これにストレプトアビジン-西洋わさびペルオキシダーゼ複合体を加え、放置後、さらに基質であるテトラメチルベンジンを加え、酵素反応を行い、450 nmの吸光度を測定した。酵素反応を終えたプレートにストレプトアビジン-ピルベートフォスフェートジオキナーゼ複合体と生物発光試薬を加え、発光を測定した
4.イムノアフィニティー抽出法の検討:1)3種のハイブリドーマ株、#2-37、#9-36および#35-42の各々をハイブリドーマ培地中で大量培養し、その細胞浮遊液の 1 mLをマウス腹腔内に投与し、得られた腹水からIgG画分を得た。 2)IgG画分を CNBr-活性化Sepharase 4FFに結合させ、ディスポーザブルカラムに充填しアフィニティーカラムを作製した。
結果と考察
研究結果ならびに考察=1.国外入手抗体を用いた母乳中ダイオキシンのELISA法の構築とクリーンアップ:1)プレパックELISA法について検討した結果、ウェットプレートと同様の標準検量線が得られ、検出感度は19.8 pg/well (IC50) であった。 2)胎脂中ダイオキシンの測定を想定して、従来の液-液抽出法に代わる簡便法として固相担体としての無水硫酸ナトリウムに一旦、脂肪を分散させ、有機溶媒抽出することにより効率良く、脂肪抽出が可能となった。 3)脂肪をアルカリ分解処理せず、直接カートリッジタイプの多層シリカゲルに通導、活性炭処理後GC/MS法で測定することにより通常と同様のダイオキシンの回収率が得られた。また、本クリーンアツプ法をELISA法に適用したところ、測定結果はGC/MSの値に比し低く、脂肪分の溶出が従来より若干多いため偽陰性結果を与えるものと考えられたが、トリトン量を増やすことにより測定可能であった。 4)ノンオルト Co-PCBsの 3,3',4,4',5- PeCBと 3,3',4,4',5,5'-HxCBが Total TEQと相関があることが明かとした。これらの PCBsは、2,3,7,8位に塩素がある17種の PCDD/Fsと3種とのノンオルト Co-PCBの約40%を占め、少量の母乳あるいは母乳よりもより微量の試料中ダイオキシンのTEQの測定が可能と考られた。 
2.モノクローナルELISA法の確立と母乳試料のクリーンアップの検討:1)ハイブリドーマ3種の細胞が産生するモノクローナル抗体について特性を調べた結果、#9-36が良好な結果を与え2,3,7,8-TCDD、 1,2,3,7,8-PeCDDおよび 2,3,4,7,8-PeCDFと親和性が高く、感度も1~1000 pg/wellであり、最もELISAへの利用性が高かった。 2)TMDDを標準物質として用い、トリトン X-100の添加量を変化させ(0~0.05%)、ELISA標準曲線を得た結果、0.01~0.02%で最良の感度が得られた。 3)検討した種々の分離担体の中でアルミナカラムがモノクローナル抗体に対する妨害物の除去効果が最も良好であった。4)モノクローナル抗体(#9-36)を用いて抗原固相法ELISAについて検討した結果、第2抗体固相法(平成11年度報告)に比し、特に優れた結果は得られなかった。 5)モノクローナル抗体(#9-36)が有機溶媒への安定性が若干低いことから、新しく多塩素置換(5塩化)ダイオキシンハプテンおよびダイオキシン環に窒素基を導入したフェノキサジン骨格を有する新しいハプテンを合成した。 6)5)で得られた3種の5塩化ハプテンから常法に従い、ハプテンBSA結合物を得た、これらを用いて新しい抗体を作製し、ELISAやアフィニティーカラムへの利用性について検討している。
3.イムノアッセイの検出系高感度化の検討:家兔ポリクローナル抗体と 2.6)で得た標識抗原のビオチン標識ダイオキシンとストレプト-アビジン-西洋わさびペルオキシダーゼあるいはストレプトアビジン-ピルベートフォスフェートジキナーゼとの組み合わせにより、比色あるいは生物発光分析を行った結果、後者の検出法では 1~3125 pg/assayの範囲で良好な検量線が得られた。
4.イムノアフィニティー抽出法の検討:1)腹水(7 mL)をプロテインGカラムにより精製し、IgG画分として#2-37から 13.1 mg、#9-36から 11.6 mg、#35-42から12.5 mgであった。 2)#2-37と#9-36についてアフィニティーカラムを作製し、その有用性について検討している。
結論
1.昨年度、国外から入手したポリクローナル抗体を用いたELISA法を確立し、母乳試料中ダイオキシンTEQの評価が可能であることを示した。本年度はさらにドライタイプのELISAプレートを作製し、実試料測定への利用性が高いことを、また、従来市販されているELISAキットは実用に適さないことを確認した。生体試料からの簡易な脂肪抽出法としてディスポーザブルタイプのカートリッジが有効であり、さらにプレパックタイプ多層シリカゲルカートリッジを用いることにより、簡便なダイオキシンのクリーンアップに成功した。一方、試料からの入手が困難なあるいは入手量が制限されるような生体試料中のダイオキシン類の曝露を評価する上で、PCBsの中の 3,3',4,4',5-PeCBと 3,3',4,4',5,5'-HxCBの両化合物が適していることを示した。
2.3種の新規モノクローナル抗体は交差性の結果から、TEQとの相関性が高く、ELISAでは感度の点で良好な結果が得られ、特許申請を行い、さらにキット化を試みている。また、実試料からの脂質残渣を極力除去するためにクリーンアップの検討を行っている。
3.イムノアッセイ系の高感度化を図る一つの方策として、生物発光検出を用いるELISA法を確立した。現段階では比色法によるELISA系と同等以上の感度が得られているが、今後、モノクローナル抗体を用いさらに高感度化の検討を行う予定である。
4.有機溶媒処理に対して耐容性があり、TEFの大きく、かつ生体試料中の含有量の多いTCDD、PeCDD/Fs、HxCDD/Fs等との交差性のある新しい抗体を得るために、多塩素化ダイオキシンやダイオキシン環に窒素を導入した新しいタイプのハプテンならびにハプテン-BSA結合物を合成し、抗体入手の準備をすすめている。

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