母乳中のダイオキシン類に関する研究

文献情報

文献番号
200000721A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳中のダイオキシン類に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 松浦信夫(北里大学)
  • 近藤直実(岐阜大学)
  • 森田昌俊(国立環境研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における母乳中のダイオキシン類の濃度およびダイオキシン類濃度と生活環境因子との関連を明らかにするとともに、母乳中のダイオキシン類が乳児におよぼす健康影響の評価を行うことを目的として研究を実施した。
研究方法
各地域の母乳中のダイオキシン類濃度を調査するため、岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県の6府県を対象に、初産婦の出産後30日の母乳を採取し、ダイオキシン類濃度の測定を行い地域差を検討した。また、同一地域での平成11年度の測定結果、および平成10年度の19府県21地域の初産婦の母乳中のPCDDs、PCDFs、Co-PCB濃度の測定結果と併せて定点的に経年的な変動につき検討を加えた。
さらに初産時に母乳中のダイオキシン類濃度を測定した母親のうち、第2子を出生した母親から第2子出産後の母乳の提供を受けダイオキシン類を測定した。
乳児への影響については、母乳中のダイオキシン類の測定を行った症例が1歳になった時点で、発育発達を測定すると共に、採血して甲状腺機能、免疫機能、アレルギ-反応などについて検査し、マススクリ-ニング検査時のTSH値に関しても、母乳中のダイオキシン類濃度との相関を検討した。
結果と考察
1)母乳中のダイオキシン類の濃度の測定:平成12年には岩手県、千葉県、新潟県、石川県、大阪府、島根県の6府県の97名の初産婦から産後30日目の母乳提供を受けダイオキシン類(PCDDs+PCDF+Co-PCB12種)の濃度測定を行った。これらの結果と平成10年度の19府県21地域からの415名、平成11年度の平成12年と同一の6府県の111名の母乳中濃度との比較を行った。平成10年度の測定値の平均は22.2pgTEQ/gFatであったが、平成11年に採取した6府県の母乳中のPCDs+PCDFsの平均値は15.2(12.5~16.5)pgTEQ/gFat、Co-PCB12種の平均値は8.8(7.5~10.2)pgTEQ/gFat、PCDDs+PCDFs+Co-PCBの平均値は24.0(22.6~24.9)pgTEQ/gFatであった。平成10年度の測定値のうち6府県のダイオキシン類濃度の平均値は24.5pgTEQ/gFatであった。上昇していたのは岩手県、新潟県、石川県の3県、低下していたのは千葉県、大阪府、島根県の3府県であり、平成10年度が高い値であった府県が低下していた。
平成12年度の測定値に関しては現在検討中であるが、前年度の値に比し上昇は認めていない。
2)第2子出産後の母乳中のダイオキシン類濃度の測定:平成9年度および10年度に第1子出産後の母乳中のダイオキシン類濃度の測定が出来た10名の第2子出産後の母乳のダイオキシン類濃度を検討したが、PCDD+PCDFs+Co-PCD3種は第1子が哺乳した母乳中の平均では19.1pgTEQ/gFatであったのに対し、第2子が哺乳する母乳中の濃度の平均値は13.0pgTEQ/gFatと低下しており、第1子の推定母乳哺乳量と第1子と第2子哺乳中の母乳のダイオキシン類の間には関連か認められた。
3)1歳時の健康影響調査:平成11年度には平成10年度に母乳中のダイオキシン類を測定した児412名のうち、1歳に達した時点で281名の乳児の診察と採血を行った。本年度は平成11年度に母乳中濃度を測定した例の乳児の1歳時採血を継続し母乳中からのダイオキシン類摂取の児への影響を検討している。現在までに得られている結果は次の通りである。
①身体発育、精神発達には母乳中のダイオキシン類濃度と有意な相関は認められなかった。
②1歳時の免疫機能、アレルギ-、甲状腺機能の検査結果は何れも正常範囲内であった。③CD3、CD4、CD16、血清免疫グロブリン等の免疫機能、アレルギ-および甲状腺機能とダイオキシン類の推計摂取量との間には有意な相関は認められなかった。
④平成10年度の検討ではCD8およびCD19において、人工栄養群と母乳群の間に弱いながら有意な差が認められたが、その後症例を増やしての検討では、何れも正常範囲内であり、両群に有意な差は認められず、免疫グロブリン等の1歳時の感染防御力への影響も認められなかった。
⑤出生直後のマススクリ-ニング検査時のTSH値と母乳中のダイオキシン類濃度との間には有意な相関は認められなかった。
以上の結果から、母乳中のダイオキシン類の地域別の濃度では、都府県による差が認められたが、人口密度が高い都会化した地域での濃度には各地で大きな差は認められず、またその濃度も低下傾向にあることが明らかになった。今後、母乳中の濃度に影響を与える因子を解明することにより、人体のダイオキシン汚染の原因が明らかになると共に、母乳中のダイオキシン類の濃度測定をわが国のダイオキシン対策の効果の指標として用いることの有用性が示唆された所見と考えられた。
乳児の推定ダイオキシン類摂取量と、1歳時の乳児の発育発達や免疫機能、甲状腺機能などとの関連に関しては、測定された値は全て正常範囲内であり、摂取ダイオキシン類と検査結果の間に明らかな相関はなく、乳児に影響を及ぼしていることを伺わせる所見は認めなかった。第1子と第2子の授乳時の母乳中のダイオキシン類濃度の比較では、授乳によりかなりの低下が認められているので、今後このような測定症例が増えれば、出産の間の母体でのダイオキシン類の代謝が明らかになり、日常のバックグランド程度の曝露による人体へのダイオキシン類蓄積量の推定が可能になると考えられた。さらに、乳児は母乳から耐容1日摂取量の20倍以上ものダイオキシン類を摂取するため、母乳哺育の安全性に懸念が持たれているが、ダイオキシン類摂取量が少ない第2子の所見を第1子と比較することにより、ダイオキシン類摂取量の乳児への影響がより明確になるものと期待された。
結論
各地域で採取した母乳中のダイオキシン類濃度は、府県により13.4 pgTEQ/gFatから29.5 pgTEQ/gFatとかなりの差異があることが明らかになった。しかし、同一地域での測定結果では、年度による漸減傾向が認められた。
母乳中のダイオキシン類は、当研究班の検討では新生児および1歳時の乳児の発育発達や甲状腺機能に影響を与えていなかった。また免疫機能やアレルギ-の発症に関しても明らかな影響を及ぼしているとは考えられなかった。

公開日・更新日

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