新開発食品等の安全性の確保に関する研究

文献情報

文献番号
200000715A
報告書区分
総括
研究課題名
新開発食品等の安全性の確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
池上 幸江(大妻女子大学)
研究分担者(所属機関)
  • 池上幸江(大妻女子大学)
  • 山田和彦(国立健康・栄養研究所)
  • 西宗高弘(武蔵が丘短期大学)
  • 中村優美子(国立医薬品・食品衛生研究所)
  • 志村二三夫(十文字短期大学)
  • 篠塚和正(武庫川女子大学)
  • 扇間昌規(武庫川女子大学)
  • 徳井教孝(産業医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病の広がりや高齢者の増加は国民の間に健康への関心を高めている。とくに日常的な食生活改善の重要性が指摘されたり、様々な健康情報が交錯する中で、国民の間には健康に何らかの利点を持つ食品に対する関心が高まっている。諸外国を含めて、食品等に含まれる成分の機能性に関する研究も活発になっており、こうした研究成果も新規の食品開発を促進している。他方、食品産業技術の向上により、これまでとは異なる食経験のない食品素材の開発も活発である。これらの食品や食品素材はともすればその有用性が強調されて、安全性のチェックが十分でない場合もある。本研究では、健康食品や新しい食品素材等の安全性確保を目的として、様々な角度から検討を進めることとした。
研究方法
本研究では、8つのテーマに従ってこうした新開発食品による安全上の問題について検討した。研究は、実態調査、実験的検討、および文献的調査から構成した。実態調査では、様々な広告媒体における効能、効果標榜の実態について検討した。
これまでの研究調査の結果から、現在問題とすべき新開発食品がほぼ明らかになったので、こうした食品や成分について、安全性について個々に文献的な調査を踏まえて、実験的手法による研究を進めた。今年度も引き続き、低カロリー食品素材の消化管への影響を検討した。他方薬効的な効果を期待させる成分として、9種について実験動物による検討を行った。ブドウ種子ポリフェノールでは、その抗酸化作用、脂質代謝やミネラルの吸収性に関して、セイヨウオトギリソウとカヴァでは中枢神経系に対する作用を中心に、イチョウ葉エキスなどについては循環器系に対する作用を中心に検討した。
他方、文献的な調査では、近年米国で問題とされているトランス脂肪酸の安全性と保健機能食品の素材として広く利用される食物繊維については過剰摂取に伴う消化器症状に関する文献調査を行った。
結果と考察
本研究では、次の8つのテーマに沿って研究を行い、以下のような成果が得られた。
1.健康食品等の販売実態に関する研究:いわゆる健康食品等では、効能、効果に関する広告実態を各種宣伝媒体について調査したところ、とくに新聞折り込み広告や健康食品に関する単行本に問題のあることが明らかになった。また、食品の種類では、医薬品的な効果を期待させるものでの効能、効果の広告に問題が見られた。
2.低カロリー食品素材の消化管に及ぼす影響:低カロリー糖質素材のオリゴ糖、糖アルコール、単糖類については安全性に関する報告はほとんどないことが明らかとなった。糖類の内、タガトース、ツラノース、ロイクロースについては、小腸の消化酵素活性への影響について実験的な検討を行った。 その結果、スクロースやイソマルトースの消化に影響することが分かった。
3.低カロリー食品素材の長期摂取における安全性の評価に関する研究:難消化性たんぱく質の機能性が注目されているので、その一種であるセリシンを取り上げてラットを用いて安全性を検討した。その結果、食欲増進に伴う体重増加の促進がみられ、安全性は比較的高いものの、血清脂質や消化管への効果はほとんどなく機能性については疑問があった。
4.ブドウ種子ポリフェノールの抗酸化能、ミネラル含量及び脂質代謝に及ぼす影響:ブドウ種子ポリフェノールの安全性について、ラットを用いて検討した。その結果、血清脂質に対して高い抗酸化作用がみられ、血清トリグリセリドの低下効果があった。 しかし、多量投与では体重増加の抑制や肝臓のカルシウムや亜鉛の貯蔵量の低下が見られた。
5.中枢神経機能を指向する新開発食品等の安全性に関する研究:最近、セイヨウオトギリソウが医薬品の代謝に影響することが示唆されている。そこで、セイヨウオトギリソウによるチトクローム Pー450の誘導分子種について同定した。また、新たな成分として鎮静作用が期待させるカヴァをとりあげた。この成分はヒトでの被害報告もあり、実験動物でも誘発性のカタレプシーの阻害が観察され、今後詳細な検討が必要であることが分かった。
6.循環器系をターゲットとした新開発食品等の安全性に関する研究:これまでイチョウ葉エキスについて循環器系に対する影響を観察してきたが、今年度はイチョウ葉エキスの長期投与の影響をとくにチトクローム Pー450の誘導について検討し、分子種の同定を行った。イチョウ葉エキスでは、ある種の薬物の効果を弱める可能性がある。その他の健康食品などの素材5種の安全性についても検討したが、茶カテキン類や大豆イソフラボン類では胸部大動脈に対して弛緩作用が観察された。
7.各種新開発食品等の安全性に関する文献的調査:今年度は最近米国でその安全性が問題となっているトランス脂肪酸について検討した。文献からみるトランス脂肪酸の生体影響は多様で広く脂質代謝への影響とこれによる心疾患へのリスク、糖代謝、母乳成分、免疫機能、薬物代謝酵素などへの影響が報告されている。今後わが国でも脂肪含有食品のトランス酸脂肪の安全性について何らかの対応がもとめられるかもしれない。
8.食物繊維の過剰摂取による安全性に関する検討:食物繊維は特定保健用食品や栄養補助食品などの素材として広く利用されているが、過剰摂取ではとくに消化器症状に問題のあることが指摘されていた。本テーマでは、今後の栄養機能食品の表示問題への対応として、過剰摂取での消化器症状について文献調査を行った。代表的な5種の食物繊維を取り上げての調査結果では、とくに鼓腸や腹部膨満などの症状が投与初期にみられ、その後は軽減または消失する。投与量との関係は必ずしも明確ではなく、症状出現には個人差が大きい。今後過剰摂取の影響については、とくに消化器症状を中心として詳細な検討が必要である。
結論
近年の生活習慣病の広がりや、高齢社会への急速な移行は、国民の間に健康への関心を高めている。健康上の利点を標榜する食品への関心はとくに高く、様々な商品が販売されている。現在厚生労働省ではこうした食品については、新たな表示制度ー保健機能食品ーの整備によって対応することとした。本研究の成果は、表示を考える場合の有効な資料となる。今年度は市販食品の効能、効果の広告実態について調査し、消費者に過大な期待を抱かせる方法を明らかにした。低カロリー食品素材は近年急激に増えているが、その安全性に関する研究は充分でないことを明らかにした。また、実験的な方法では、一部の素材について安全性の詳細な検討が必要であることを示した。他方、薬効を期待させるような食品成分では、ブドウ種子ポリフェノール、セイヨウオトギリソウ、カヴァ、イチョウ葉エキス、茶カテキン類、大豆イソフラボン類等について文献調査とともに実験的な手法で検討した。とくにセイヨウオトギリソウやイチョウ葉エキスでは肝臓の薬物代謝酵素の誘導に伴って医薬品の効果に影響する可能性のあることを示した。またトランス脂肪酸の安全性と食物繊維の過剰摂取の影響についての文献調査から、今後のわが国でのトランス脂肪酸への対応や食物繊維の過剰摂取についての詳細な検討の必要性が明らかとなった。

公開日・更新日

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