微量栄養素(ビタミン、ミネラル)の安全性評価研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000714A
報告書区分
総括
研究課題名
微量栄養素(ビタミン、ミネラル)の安全性評価研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 脩(茨城キリスト教大学)
研究分担者(所属機関)
  • 糸川嘉則(福井県立大学)
  • 湯川 進(和歌山県立医科大学)
  • 岡野登志夫(神戸薬科大学)
  • 藤原葉子(お茶の水女子大学)
  • 玉井 浩(大阪医科大学)
  • 鈴木和春(東京農業大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国民の健康や栄養への関心が高まる中で、サプリメントやビタミン剤などへの需要は極めて高いものがある。微量栄養素であるビタミンやミネラルの摂取不足は欠乏症を招くが、近年の新しい研究はそれらに疾病の1次予防やリスクリダクションの効果があることを示しており、時として多量の摂取が効果があるという研究結果も多数発表されている。そのため、第6次改定の日本人の栄養所要量では、一部のビタミンとミネラルに許容上限摂取量が設定され、これらの値を含めて食事摂取基準と呼ばれるようになった。このことは、ビタミンにしろ、ミネラルにしろ、その種類によっては過剰に摂取すれば、健康に危害をもたらす危険性があることを明示したものといえよう。我々は、この栄養所要量の発表以前より、本研究でビタミン、ミネラルの過剰摂取の害を避けるために、ビタミン、ミネラルの安全な摂取範囲を決める研究に取りかかっていたが、この場合、文献調査だけでなく、日本人に投与し、そのデータに基づいて安全範囲を設定しようとした。勿論、過剰の害が殆ど知られていないビタミンは研究対象からはずした。その他、ビタミンE同族体の代謝や腎疾患でのビタミン欠乏の可能性なども探り、ミネラルについても安全性を探るための測定法の開発に努めた。
研究方法
安全性範囲の設定に関しては、ビタミンE、D、Cについては昨年度の研究でかなり明らかにされているので、そのフォローアップに重点をおいて研究を進めた。即ち、ビタミンD多量投与の際の骨代謝マーカーのより詳細な検討、ビタミンE投与の際のDNAの酸化ストレスで生じる8-ヒドロキシーグアノシンの尿中排泄、腎不全患者のビタミンCやEの充足度などを調べた。また、ビタミンE同族体(γ-トコフェロールとγートコトリエノール)の代謝産物の同定とナトリウム排泄への効果、ヒトにおけるセレン、モリブデンの動態と他の栄養素との関係、サプリメントにおける適正処方量の範囲の決定などを行った。
結果と考察
ビタミンE(d-α-トコフェロール)を800mg/日成人男性に投与しても生化学的なマーカーには影響しないことが昨年度の研究で明らかにされているので、今年度はこのような投与が酸化的なストレスに影響するかどうかについて検討を加えた。測定は尿中への8-ヒドロキシーグアノシン排泄で検討したが、その濃度は対照群に比べても全く差が認められなかった。このことは、このような大量のビタミンE投与でも酸化的なストレスは遺伝子レベルで起きていないことを示すものであった。ビタミンDについては、昨年度1日200μgの投与で、血中25-ヒドロキシーD3の上昇が普通観察される安全範囲の最大値付近まで上昇したので、それ以外多数の骨代謝マーカーの変動について検討を加えた。しかし、骨吸収、化骨に関係するマーカーは正常範囲内にあり、上昇したのはDの非活性型と考えられる24,25-ジヒドロキシーD3のみであり、このような多量のビタミンD投与に対してヒトは正常な状態の骨代謝を維持しており、安全性の範囲にあると判断した。ビタミンE同族体であるγ-トコフェロールとγートコトリエノールを投与し、その代謝産物を調べた結果、いずれもγーCEHC(昨年度の研究報告に構造式あり)であることが分かった。この代謝は同時にαートコフェロールを投与することで促進され、γ-トコフェロールとγートコトリエノールを比較すると、後者の方がより多くの代謝産物を産出し、その排泄経路は胆汁よりは尿であることが確かめられた。更に、ラットに食塩を付加投与した時のナ
トリウムの排泄を有意に高く行うことも確認された。また、血液透析を受けている腎不全患者では、ビタミンEよりはビタミンC欠乏状態にあることやヒトの血液中のセレンとモリブデン濃度に関連する栄養素などについても検討し、セレンと亜鉛濃度が相関することなどが認められた。次いで、13種のビタミンについてそのLOAEL,NOAEL,ULなどを文献的に調べ、これまでのビタミンD、ビタミンE、Cについての本研究の結果をあわせ、それらの安全摂取範囲の設定を行うと共に、そのデータに基づいて、サプリメントとしての1日最大処方量を提案した。この数値には、そのビタミンが食品にどのように使われているかについても考慮したものである。その値はレチノール1,500μg、βーカロチン10mg、ビタミンD25μg、ビタミンE(d-α-トコフェロールとして)300mg、ビタミンK30mg、ビタミンB1 100mg、B2 60mg、B6 30mg、B12 1.5mg、葉酸 1mg、ビオチン500μg、パントテン酸 1g、ナイアシン(ニコチン酸 30mg、ニコチンアミド60mg)、ビタミンC1gとした。 
結論
本研究も3年目を迎え、全てのビタミンについて、ほぼ許容上限摂取量を策定することができ、一部のミネラルにも安全摂取範囲の設定ができたものと思われる。この際のビタミンの摂取は医薬品と異なり、数十年といった長期間での安全性を考えたものである。このような許容上限摂取量を考え、個々の製品の上限値を設定出来たので、この成果を広く行政、商品開発の場で利用していただきたいと考えている。

公開日・更新日

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