病者用食品開発及び有用性評価に関する基礎的調査研究

文献情報

文献番号
200000710A
報告書区分
総括
研究課題名
病者用食品開発及び有用性評価に関する基礎的調査研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
上野川 修一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河野陽一(千葉大学医学部)
  • 石川博通(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病者用食品は、厚生省によって許可された特定の疾患を持つ人を治療するためにデザインされた食品群である。本研究は病者用食品について、これまで許可され実際に使用されているもの、さらに将来の開発を急がれているものについて調査・考察するとともに、特に現在その開発が最も期待される病者用食品については、実際にその評価法、開発に関する研究を実行することを目的とした。本年度においては(1)循環器、糖尿病関連病者用食品の現状、それを用いた食事療法、また開発・評価法について、国内外の文献等から調査研究を行った。(2)アレルギー疾患用食品、免疫向上食品の開発および評価法開発のための基礎研究として、経口摂取したヌクレオチドの免疫系への影響を検討した。(3)腸管特有の免疫応答に重要な役割を示すと思われるパイエル板樹状細胞についてその抗原提示能、サイトカイン産生能について検討した。(4)マウス腸管免疫組織独特の発生器官クリプトパッチ (CP)におけるリンパ球発達分化機構について前年度に引き続き検討した。(5)食物アレルギーの治療法として、T細胞エピトープによる減感作療法について検討した。
研究方法
1. 循環器、糖尿病関連病者用食品の評価法についての調査研究 MEDLINE等を用いて文献検索を行った。2. アレルギー疾患用食品、免疫向上食品の開発および評価法開発のための基礎研究 オバルブミン(OVA)特異的T細胞レセプター(TCR)トランスジェニック(Tg)マウスにOVA水溶液とヌクレオチド添加食もしくは無添加食を自由摂取させた。血清中のOVA特異的抗体、脾臓細胞、腹腔マクロファージ、腸管上皮細胞によるサイトカイン産生、糞便中のOVA特異的なIgA抗体をELISAを用いて測定した。また、小腸から腸管上皮内リンパ球(IEL)を調製し、IELサブセットの割合の変化について検討した。3.パイエル板樹状細胞により誘導される腸管免疫応答の解析 BALB/cマウスのパイエル板および脾臓を摘出し、コラゲナーゼを用い細胞を調製、密度勾配遠心法により樹状細胞を濃縮した。そして、セルソーターを用いてCD11c+ / B220- のポピュレーションとして樹状細胞を精製した。これらパイエル板樹状細胞および脾臓樹状細胞を用い、(1)細胞表面分子の発現 (2) 樹状細胞を抗原提示細胞とした場合のCD4+T 細胞に対する増殖誘導,サイトカイン分泌誘導 (4)刺激後のIL-6産生量について比較した。4.腸管免疫細胞を利用した免疫関連病者用食品の評価法の開発のための基礎研究 TCRや各種サイトカイン遺伝子を破壊したミュータントマウスの腸管リンパ組織(主としてCPやIEL)の発達分化等を追究した。5.アレルゲンペプチドによる食物アレルギーの治療に関する基礎的研究 BALB/cマウスに主要なT細胞エピトープに相当する合成ペプチドを経鼻投与したのちに、OVAの免疫を行い、血清中のOVA特異的IgE抗体を測定した。また、脾臓細胞のOVAに対する増殖反応を検討した。
結果と考察
1. 循環器、糖尿病関連病者用食品の評価法についての調査研究 糖尿病をはじめとした循環器系疾患の治療戦略としては、食事療法・運動療法・薬物療法を組み合わせる方法が一般的であるが、中でも食事療法はその根幹をなすものであり糖尿病には低カロリー食品・糖尿病食調製用組合せ食品が特別用途食品として許可されている。国外においては「病者用食品」と定義づけれらた食品は存在しないものの、糖尿病の食事療法も変化をみせつつあり、総エネルギーを抑制しつつも糖質・タンパク質・脂質の三大栄養素のバランスのとれた食事に加え、ビタミン・ミネラル・食物繊維の補給というのが基本となっている。また近年では抗酸化剤の補給が糖
尿病患者の症状改善に効果的であったことが示され、抗酸化剤の補給も食事療法の中に取り入れられることが予想される。糖尿病における実験動物モデルは多くのモデルが存在している。食物繊維、多価不飽和脂肪酸の食事中の増加が抗動脈硬化作用を示すことなどがこのような動物モデルから示唆されており、食事療法の開発・改善に有効であると考えられる。「病者用食品」を用いた食事療法は、その処方方法を守れば症状が改善されていくが、実際には患者の生活習慣に大きく依存してしまい、今後患者を取り巻く環境の整備も期待される。また、個別評価型品目の増加が望まれる。さらに近い将来ヒトゲノムプロジェクトの成果を受け、新しい評価系が構築されることが期待できる。2. アレルギー疾患用食品、免疫向上食品の開発および評価法開発のための基礎研究 OVA-TCR-TgマウスにOVAのみを摂取させた群に対し、ヌクレオチドを添加した食群において、脾臓細胞のOVA特異的なIFN-gamma産生が有意に高く、血中のOVA特異的IgEとIgG1抗体価が低下し、IgG2a抗体価が上昇する傾向が認められた。また、脾臓細胞と腹腔マクロファージのIL-12産生も有意に高くなった。アレルギーの発症原因の一つとして、Th1-Th2バランスの偏りが挙げられ、特にアレルギー患者では生体内でTh2優位になっていることが知られている。本研究でヌクレオチドの摂取によりIL-12産生の上昇を通して、Th1-Th2バランスがTh2からTh1優位になることが明らかになった。 一方で、ヌクレオチドを添加した群において、糞便中におけるOVA特異的なIgA産生が上昇し、その小腸上皮細胞のIL-7およびTGF-beta産生も有意に上昇した。また、ヌクレオチドの添加により、IELのサブセットはTCRgammadelta陽性の比率が有意に上昇した。経口摂取されたヌクレオチドは、腸管上皮細胞のIL-7の促進によりTCRgammadelta陽性のIELを増加させ、またTGF-betaの産生をも高めてIgA産生の促進を誘導することが示唆された。3.パイエル板樹状細胞により誘導される腸管免疫応答の解析 パイエル板樹状細胞は脾臓樹状細胞と比較して成熟しており、抗原提示能が強く、高いIL-6 産生能を有することが示された。 4.腸管免疫細胞を利用した免疫関連病者用食品の評価法の開発のための基礎研究 CPには胸腺に分布する最も未分化ではあるが、すでにT細胞への分化が決定づけられたリンパ球に一致するT前駆細胞が存在することや、これらのT前駆細胞から造血幹細胞由来のCD11c(樹状ストローマ細胞集積→同集積におけるSC由来c-kithigh T前駆細胞の発達分化(CPの形成)→CP周辺絨毛上皮層におけるc-kit-TCR-IELの出現→成熟alphabeta及びgammadelta IELと段階を踏みIELが発達分化することを明らかにした。CPはIELへと発達分化する未分化T前駆細胞が集積する新しいマウス腸管リンパ組織であることの確証が得られた。 5.T細胞エピトープに相当する合成ペプチドの経鼻投与により、IgE抗体は抑制されず、かえって増強された。この結果は、食物アレルゲンT細胞エピトープによる減感作においてはエピトープによってはかえってアレルギー反応を増強させてしまう可能性を示すと考えられる。
結論
1.「病者用食品」は、許可基準型の品目がそのほとんどを占めるが、個別評価型品目の増加が望まれる。国内における「病者用食品」を用いた食事療法は、患者の生活習慣に依存する部分が多く、患者を取り巻く環境の整備も期待される。また食事療法の研究開発として、糖尿病のモデル動物を利用した研究は有効であると考えられる。さらに近い将来ヒトゲノムプロジェクトの成果から評価系が構築されることが期待できる。2. 成長期におけるヌクレオチドの経口摂取が、Th1-Th2バランスをTh1優位にし、腸管におけるIgA産生を促進させることから、アレルギーの抑制に働く可能性が示唆された。本研究で用いた動物実験系が評価系として有用であることが示されたと同時に、アレルギー疾患者用食品としてヌクレオチドを添加した食品の開発が期待される。3.パイエル板樹状細胞の抗原提示能は脾臓樹状細胞と異なることが示され、パイエル板において抗原に対し樹状細胞がIL-6
を産生し、効率よくIgA産生を誘導する機構が備わっていることが示唆された。本研究の実験系により食品,食品成分の腸管免疫応答に対する影響を観察することが可能となり,免疫関連病者用食品の評価系の開発に有用と考えられる。4.新しく発見した腸管リンパ組織CPにおけるIEL発達分化機構について明らかにした。腸管免疫関連病者におけるCPやIELを解析し、その機能を研究することによって、これら疾患の病者用食品の開発とその評価法の確立につながることが期待される。5.食物アレルギーのT細胞エピトープによる減感作療法の開発においては、IgE抗体産生を抑制するT細胞エピトープの検索やその投与量、さらに投与経路などの詳細の解析が必要と思われる。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-