野菜などの農水産物からの汚染微生物などの検出方法に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000708A
報告書区分
総括
研究課題名
野菜などの農水産物からの汚染微生物などの検出方法に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
  • 島田俊雄(国立感染症研究所)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近、野菜、果実、カキ等の農水産物の微生物あるいは農薬汚染等に起因する食中毒の発生が増加し、社会的に問題になってきている。細菌ではサルモネラ,腸管出血性大腸菌等,原虫関連ではクリプトスポリジウム,サイクロスポラ等,ウイルスではノーウォーク様ウイルス等および輸入小麦中における残留農薬による汚染がその対象となっている。当該食中毒の予防への対策および発生時における的確なる対処を行う為には,これらの農水産物の汚染状況を把握することが必要であるが,現在のところそれらの食材から正確に該当する微生物及び農薬を検出する方法論が確立されていない。本研究を行うことにより,野菜や果実等からの病原体の標準的な検出方法を確立するとともに,必要な対策を検討するための基礎資料を作成する。
研究方法
1。細菌の検出:野菜,果実等の検体をストマッカーやミキサー処理をした場合,pHの酸性化や,乳化された検体成分中の抗菌作用物質の存在等のため,細菌の検出率の低下が考えられる。又,自然界には損傷菌として存在している可能性もあり,より検出率の低下が予想される。これらを解決するため,検体の処理の仕方,検体の前培養に用いる培地の種類等の基礎的検討を行い最適条件の確立を目指す。又,菌の存在をスクリーニングする方法として、免疫磁器ビーズ法を用いての菌の濃縮法、PCR等の分子遺伝学的技術の検討を行う。
2。原虫の検出:食材から原虫のオーシスト等を分離・濃縮する方法として,高速連続ローター遠心機による濃縮,及び比重差を利用しての浮遊分離や磁気ビーズの利用法の検討を続け、検出感度の向上を図る。その結果を用いてマニュアルの作成を行う。
3。冬期に多いウィルス性胃腸炎の大部分がノーウォーク様ウイルスによるものであるが,ウィルスを増殖させるための適当な細胞培養系がない。そのため原因食品を特定するのが困難な場合が多い。食品から病因ウィルスを迅速かつ感度よく検出する新しい方法を確立する必要性が高い。又,患者便材料から増幅されるノーウォーク様ウイルスには多数の血清学的に異なる株が存在することがわかってきている。我が国の感染源の多くはカキであるので,カキからノーウォーク様ウイルスの遺伝子を効率よく増幅するPCRおよびウイルス抗原を検出するELISAを確立する。
4.輸入農産物に含有している農薬の検出法について再検討を加え、その検出を妨げている諸要因について明らかにし、検出感度を上げる。
結果と考察
成果・考察
1。野菜等の農水産物からの汚染細菌を効率よく検出する方法の検討;
生野菜や果物に汚染した腸管出血性大腸菌O157が分離されにくい原因として、オキシダーゼ陽性のPseudomonas属およびEnterobacter属等の細菌が混入しているため、腸管出血性大腸菌O157より優勢に増殖してしまったり、抗O157抗体免疫磁器ビーズに非特異的に結合してしまうことが明らかとなった。増菌培養時に、還元剤(チオグリコール酸ナトリウム)を添加した培地(BPW;バファードペプトン水)を用いて嫌気培養することにより、あるいはgallic acid含有SDS寒天培地にて培養させることによりPseudomonas属の細菌の増殖を抑制し、腸管出血性大腸菌O157を効率よく増殖させることができることが判明した。さらに、分離培地として、一般的に用いられているCT-SMACよりも、改良した CT-SSMAC(1%サリシン及び0.01%4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド加CT-SMAC)を用いることで、O157の分離率を飛躍的に高めることが出来た。そこに、PCR法や磁気ビーズ法を併用すれば、材料中に10個以下の菌しかいなくても検出可能であった。有機堆肥製造工程10日目の検体中には種々の病原性大腸菌が検出されるので、菌を殺すには十分な発酵熱が必要とされることがわかった。また各種有機肥料からvanA型のVREが検出された
2。ヒトカリシウィルスの解析;
ノーオーク様ウィルス (Norwork-like virus,NLVs)のRNAポリメーラーゼの塩基配列の多様性を利用し、流行株の系統解析を行った。その結果、我が国でこれまで解析されたNLVsには、 Genogroup I(GI)が13種類, Genogroup II(GII)が19種類あることが分かった。多量な検体を一度に解析しやすくするため、各genogroupに属する構造蛋白質をGI は5種類、 GIIは7種類、計12種類を用いて、抗体検出および抗原検出のためのELISA系を確立した。このELISA系で陽性を示すためには、10の6乗のウイルス粒子を必要とする。RT-PCRに比べ感度が低い点が問題であり、今後、さらに感度を上げるためにimmuno-PCRを検討している。RT-PCRを用いての調査では30~35%のカキがNLVsの汚染をうけていることが明らかになった。また、健康人の糞便からもNLVsが検出されることからも、カキ以外の食品および食品を介さないウイルス伝播がある可能性が指摘された。
3。クリプトスポリジウムやサイクロスポラの検出;
近年、クリプトスポリジウムやサイクロスポラなどといった腸管寄生性原虫類に起因する疾病への対応に迫られている。野菜、特に生食に供される葉菜類表面の汚染、あるいはイチゴ類などのようにそのまま食される果実類である。したがって、これらの食材からの原虫検査は洗浄方法と洗浄液からの(オー)シスト回収からなり、多量の試料(洗浄液)を迅速かつ効率的に濃縮する新たな技術開発が検出率向上の鍵となる。また、調理者が感染していたためにその料理を介した感染例が報告されている。本研究ではこれらの原虫類の中でもっとも小さなクリプトスポリジウムオーシストを例に、葉菜、イチゴ、および調理品としてポテトサラダからの検出方法を検討し、その成果を検査法マニュアルとしてまとめた。将来的には形態学的な検出法とは別に個々の原虫種においてin situ hybridization、DNA finger-printingなどの分子レベルでの同定技術の開発が重要で、集団発生時の疫学的解析の手法が必須と考えている。
4。輸入農作物の試験方法
マラチオン分解物の同定の検討を行った。検討方法として、「①ラベル化マラチオンによる分解物の分画 GRと[14C]マラチオンの反応液を経時的に取り、HPLCを用いて2条件で分取し、各画分の放射能を測定した。 ②非ラベル化マラチオンによる分解物の同定と経時変化 GRとマラチオンの反応液を経時的に取り、LC/MSで分解物の同定と経時変化を測定した。」の2つのステップで調査を行った。RI実験で放射能の増加した画分は主に2つであった。そのひとつは、LC/MSの結果からβ位のカルボキシエチルエステルが加水分解したマラチオンβーモノカルボン酸とマラチオンのメトキシル基のメチル基が外れたデスメチルマラチオンであることが判明した。
結論
野菜,果物等を汚染している微生物あるいは農薬の迅速なる検出法の開発,改良等の検討を行った。いくつかの効率よい方法の開発を手がけてきて新しい知見が得られた。

公開日・更新日

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