動物性加工食品等の高度衛生管理に関する研究

文献情報

文献番号
200000706A
報告書区分
総括
研究課題名
動物性加工食品等の高度衛生管理に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
熊谷 進(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小沼博隆(国立医薬食品研)
  • 山崎省二(国立公衆衛生院)
  • 難波 江(全国牛乳協会)
  • 大島泰克(東北大学)
  • 池 康嘉(群大)
  • 山本茂貴(国立感染研)
  • 島田俊雄(国立感染研)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
27,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
動物性食品の安全性確保に資するために必要で、かつこれら食品の特に病原微生物の汚染による危害を防止するに緊急に必要な知見を得ることが本研究の目的である。
研究方法
(1) O3:K6株を含む腸炎ビブリオの、塩酸、クエン酸、酢酸、米酢、ワインビネガーにおける死滅を、寒天平板法で測定することにより時間との関係で調べた。(2)TDH産生腸炎ビブリオO3:K6の生息が確認されている海域由来のアサリについて、同菌汚染実態を、増菌培養法、PCR法、我妻培地、ラテックス凝集反応等を組み合わせて調べた。(3)病原性エルシニア・エンテロコレチカの耐熱性を、7℃?37℃で培養した4種類の血清型の菌を用い、水槽内加熱実験によって検討した。(4)前年度までに収集した乳・乳製品ににおける病原微生物の汚染実態と挙動、影響因子と制御方法についての文献から、予測モデル構築に有用なデータを抜き出し整理した。(5)O3:K6株を含む腸炎ビブリオの10?20℃における増殖をpHとの関連で、菌数を寒天平板法で測定することによって調べた。(6)から付き卵中に存在した場合のサルモネラの増殖と室温下での保管条件との関係について、から付き卵中の卵黄膜付近に直接菌を接種し保管した後の菌数を測定することにより検討した。(7)HACCPによる衛生管理の評価に用いる清浄度検査法としての微生物の迅速検査法について、開発状況をメーカー等の情報を収集することによって調査した。(8)麻痺性貝毒の生物試験法について精度管理に必要な標準品であるdeSTXとホタテ貝抽出物貝毒を調整し、精度管理の方法検討に備えた。シガトキシン類毒素の液クロ/質量分析法による検出方法を検討した。また食中毒原因調査として、ホシゴマシズについて脂質の解析を、アオブダイによる食中毒について疫学調査を行った。(9)国産豚肉49検体、同鶏肉101検体、輸入豚肉86検体、同鶏肉185検体について、腸球菌を分離し、それらのバンコマイシン耐性をサザンブロット法とPCR法により調べた。(10)Q熱病原体を水槽内で加熱してから、その生残をマウス投与法、PCR法等を用いて調べた。(11)市場で使用している海水と処理水(合計272検体)を全国の主要市場から採取し、それら水中のTDH産生腸炎ビブリオ汚染の実態を、贈菌培養法、寒天平板による分離、PCR法、ラテックス凝集反応等を用い調べた。
結果と考察
(1)O3:K6株を含む腸炎ビブリオの、pH4.5-5.6の塩酸、クエン酸、酢酸、米酢、ワインビネガー中における消長を測定した結果、各酸の死滅効果はpH4.5では酢酸が最大で、pH5.6ではクエン酸が最大であった。PHによって酸の相対的効果が異なることは、食品の製造と加工における腸炎ビブリオの酸による制御において重要な知見と考えられる。得られた死滅直線は予測モデル構築のための基礎データとして有用であると考えられる。(2)TDH産生腸炎ビブリオO3:K6の生息が確認されている海域由来のアサリについて、同菌汚染実態を調べた結果、72ロット中2ロットからTDH産生腸炎ビブリオO3:K6が分離された。国内の魚介類から病原性腸炎ビブリオが分離されることは極めて希有であることから、汚染海域由来の二枚貝の汚染頻度推定に用い得る貴重なデータといえる。(3)病原性エルシニア・エンテロコレチカの耐熱性を、培養温度との関連で実験的に調べた、60℃でのD値を明らかにした。37℃培養温度によってD値が増大する株が存在することが判明し、この菌種においてストレスによる耐性獲得が生起することが示された。(4)前年度までに収集した乳・乳製品ににおける病原微生物の汚染実態と挙動、影響因子と制御方
法についての文献から、予測モデル構築に有用なデータを抜き出し整理した。(5)O3:K6株を含む腸炎ビブリオの10?20℃における増殖をpHとの関連で調べた結果、中性pH下では10℃で4日間増殖が見られないこと、20℃ではpH5.2以下で増殖が実質上起こらないなどが明らかにされた。これら知見は直ちに食中毒防止に向けた対策に活用できるものと考えられる。(6)から付き卵中に存在した場合のサルモネラの増殖と室温下での保管条件との関係について、から付き卵へ接種されたサルモネラの増殖を指標として検討したところ、産卵季節にかかわらず産卵後2日目に接種した場合に増殖することが認められ、低温流通の重要性が考えられた。(7)HACCPによる衛生管理の評価に用いる清浄度検査法としての微生物の迅速検査法について、特に簡易、迅速、自働化に着目し、開発状況を調査した。(8)麻痺性貝毒の生物試験法について精度管理に必要な標準品であるdeSTXとホタテ貝抽出物貝毒を調整した。貝毒等の魚介毒に関し、シガトキシン類毒素の液クロ/質量分析法による検出方法を検討したが、前処理法のさらなる改善が必要であることが判った。また、ホシゴマシズ筋肉に含まれるジアシルグリセリルエーテルの分子種組成を明らかにし、それらが急性毒性を示すことがマウスを用いた投与実験で判明した。ブダイによる食中毒原因について疫学調査等を行い、三重県で発生した中毒がパリトキシンまたはその類縁体によるものと推察した。(9)国産および輸入鶏肉について、バンコマイシン耐性腸球菌汚染の実態調査を行った結果、タイ国産鶏肉検体のうち3.1%から高度バンコマイシン耐性腸球菌が分離され、その他検体からは豚肉も含め分離されなかった。欧州産の豚肉についてはさらに検体数を多くして調査する必要があるものと考えられた。(10)Q熱病原体の加熱致死条件を実験的に検討した結果、63℃20分間以上の時間をかけて63℃加熱してから30分間保持することによって完全に死滅させ得ることが判った。(11)市場で使用している海水と処理水の合計272検体についてTDH産生腸炎ビブリオ汚染を調査した結果、6検体から同菌が分離された。
以上により、交付申請時の目的以上の成果が得られ、動物性加工食品の衛生確保に必要な最新の知見を得ることができた。予測モデルの基礎データとしての上記(1)(3)(4)(5)については、専門誌や書籍を通じて公表することによって実際の微生物制御に役立つ情報を提供することになる。腸炎ビブリオの実態に関する研究(1)(2)(5)(11)により得られたデータは、国内における行政指導およびコーデックスにおけるリスクアセスメント作業に活用する。(6)は、サルモネラ食中毒対策としての鶏卵の衛生確保に、(7)はHACCPによる衛生管理に対する行政指導に、(8)は食中毒対策にそれぞれ活用できるものと考えられる。(9)(10)は、食品の規格基準の見直しの必要性を検討するための知見として活用できるであろう。
結論
O3:K6株を含む腸炎ビブリオの挙動と汚染実態、病原性エルシニア・エンテロコレチカの挙動、乳・乳製品ににおける病原微生物の汚染実態と挙動、から付き卵中のサルモネラの挙動、HACCPによる衛生管理の評価に用いる清浄度検査法、魚介毒の分析法と食中毒原因、国産および輸入鶏肉のバンコマイシン耐性腸球菌汚染実態、Q熱病原体の加熱致死条件など、動物性加工食品の衛生確保に必要な最新の知見を得ることができた。

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