特定保健用食品素材の安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
200000705A
報告書区分
総括
研究課題名
特定保健用食品素材の安全性確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
中村 治雄(三越厚生事業団)
研究分担者(所属機関)
  • 池田義雄(タニタ体重科学研究所)
  • 猿田享男(慶應義塾大学医学部内科)
  • 奥 恒行(長崎県立シーボルト大学)
  • 斉藤衛郎(国立健康・栄養研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生活習慣病の管理が注目されている反面、コレステロール値、血圧、血糖、肥満の増加、便秘などが全般に増えつつある現状である。特に血清コレステロール濃度は、ここ10年に10-15 mg/dl程度上昇しており、年に約1mg/dlの増加が確認されている。これらの点を考えると、食事、運動などの一般的生活習慣の注意が、その対策として重要である。
現在、特定保健用食品として汎用されている素材として、それぞれ境界域コレステロール値に対して大豆蛋白が、血圧の軽度上昇に対してはアミールS、杜仲葉エキスなどが、血糖の上昇および便通異常に対して難消化吸収性糖アルコールがある。さらに肥満対策の一環として各種のものがあげられているが、その1つに大豆蛋白の応用がある。
動脈硬化の進展を阻止する意味で、各種の脂肪酸が応用されているが、なかでもEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸が注目されているが、その適正な摂取量はなお不明である。
これらの食品素材は、その性質上長期にわたって摂取される可能性をもっており、その意味では有効性の他に、安全性も確認され、必要があれば対策もとられなければならない。
今回、大豆蛋白、アミールS、杜仲葉エキス、難消化性デキストリンおよび糖アルコールについて、それぞれ同意を得られたヒト症例について、有効性の確認と共に、安全性を中心に検討し、問題点については是正策を構ずることを目的とした。これらの食品素材が安全に摂取できれば、生活習慣病の是正に大きく貢献するものと考えられる。また、肥満減量の一手段として大豆蛋白の応用、DHAの適正摂取量などはラットを用いて検討し、ヒトへの外挿の手段としている。
研究方法
大豆蛋白:血清コレステロール値が170~230 mg/dl の正常または境界領域の男性(25-40才)医療関係者27例に大豆蛋白(予め実験に適切であると検討してきた20g/日)を3週間摂取し、非摂取3週間と、ビタミンE併用摂取3週間を置く交叉試験を実施した。この間1週毎に早朝空腹時に採血し、総コレステロール、LDL-コレステロール、トリグリセライド、HDL-コレステロール、ビタミンE、Fe、テストステロン、エストロゲン、フィブリノーゲン、PAI-Iを測定すると共に自覚症状をチェックした。(中村)
さらに内臓肥満型ラット(OLETF) 4 週令に対して、固型飼料を通常の60%減の状況で飼育した。
3群に別け対照(n=5)、カゼイン45%(n=12)、大豆蛋白45%(n=12)とし、3週間観察した。体脂肪分布、レプチン、総コレステロールを測定した。(池田)
アミールS、杜仲葉エキスなど: 21-68才の軽症本態性高血圧例56例を対象とし、そのうち35例にアミールS (150ml)を6ヶ月、44-81才の同様な高血圧7例に杜仲葉エキスを6ヶ月、ペプチドスープも14例に飲用させ、肝機能、電解質、脂質、クレアチニンを測定した。また、平均血清クレアチニン2.5mg/dlの患者5例に対しても杜仲葉エキスを飲用させた。(猿田)
難消化性糖アルコール:18-27才の男女17名に対して、エリスリト-ル、キシリトール、ソルビト-ル、マルチトール、ラクチトール各10gを摂取させ、その後呼気ガスコレクションバッグにより500~750ml採取し、呼気ガスの分析を行った。(奥)
n-3脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸 (DHA) を0~8.7%にわたって若令ラット (n=6) 、成熟ラット (n=7) に摂取(30日間)させ血清中のビタミンE、過酸化脂質を測定した。(斉藤)
なお、これらの対象(ヒト)全例に実験計画、副作用などを説明し、理解と同意を得ている。また動物を用いた実験についても慎重に取り扱った。
結果と考察
結果=大豆蛋白摂取3週後で総コレステロールは4.4%、LDL-コレステロール3.8%、トリグリセライド18.3%、の減少を認め、HDL-コレステロールは殆ど変化しなかった。この際、特に臨床検査値に明らかな異常は認められなかった。しかし、テストステロン1%、ビタミンE8.3%の減少を認めた。エストロゲンとPAI-Iは14%上昇し、またビタミンE400mg/日併用によりテストステロン、ビタミンEの減少、エストロゲン、PAI-Iの上昇は是正された。(中村)
OLETFラット(2型糖尿病モデル)に摂取カロリーを60%に制限した上に、大豆蛋白を45%添加し、減量の効果を検討した。摂取2週以後で大豆蛋白質摂取群が対照のカゼイン群に比し有意に減量した。血中レプチン、コレステロールも有意に減少した。(池田)
アミールS、杜仲葉摂取6ヶ月後収縮期血圧6~9mmHg、拡張期血圧4~5mmHgの減少を認め心拍数、肝機能、電解質、クレアチニン、脂質には変化が認められなかった。ペプチドスープ症例の一部で、咳の発現を認め、中止後改善されている点から、アンジオテンシン変換酵素阻害によるものと推定され、今後より多くの症例で観察したい。クレアチニン2.5mg/dlの患者でアミールSを飲用させたが明らかな降圧効果を認めず腎機能の悪化もみられなかった。(猿田)
難消化性糖アルコールの吸収性と消化器症状との関連を、呼気水素ガス分析を行うことで検討した。
易吸収性のエリスリト-ル、キシリトールでは消化器症状はあまり認められなかったが、ソルビト-ル、マルチトール、ラクチトールなどで軟便がみられると共に呼気水素ガスの排出は少ないことが示された。 (奥)
脂肪酸のなかで動脈硬化を抑制するn-3系脂肪酸(DHA)を0~8.7%に摂取させ、過酸化脂質、ビタミンE濃度を指標として適正レベルを検討した。その結果、若令ラットで1%、成熟ラットで3%を上限とする摂取が過酸化脂質を増やさぬ点で適正ではないかと考えられた。(斉藤)
考察=前回から報告してきたごとく大豆蛋白摂取による効果は、トリグリセライドの減少と食後高脂血症の是正で、レムナントコレステロールの減少により明らかとなった。また、今回再確認されたが、トリグリセライドの減少と共に、LDL粒子の取り込み増加からみられ、LDL-コレステロールの減少がある。
安全性の評価として、ビタミンEの低下傾向、エストロゲン、PAI-Iの増加傾向、テストステロン減少傾向を認めており、今後の追跡が必要であると共に、ビタミンE、Feの補充の必要性なども配慮し、ビタミンE併用摂取も行った。その結果、ビタミンEの減少は抑制されると共に、エストロゲン、PAI-Iの増加、テストステロンの減少も改善され、ビタミンE摂取による副腎性腺細胞の受容体機能に影響を与えた可能性がある。
また、肥満減量時に大豆蛋白摂取を併用すると、その減量効果はより明かとなり、脂肪組織でのエネルギー消費を増す可能性も考えられた。
アミールS、杜仲葉エキス、ペプチドスープにおいて、特に電解質、クレアチニン値を変化させることなく、軽度に降圧を認めている。しかし、今回も1例において本食品素材のもつアンジオテンシン変換酵素阻害活性作用によると思われる咳嗽の出現をみている。今後症例をさらに増して、頻度、程度を確認する必要がある。しかし、咳嗽出現時には中止することで容易に防止できる。更に、腎機能悪化例において使用してもクレアチニンの増加を認めていない。
難消化性糖アルコールにより発生する下痢には、個人差があり、それも糖アルコールの種類にもよると思われる。つまり、易吸収性、醗酵性で異なり、呼気水素ガス分析で或程度予想可能である。
DHA摂取による安全性と、適正レベルの検討では、ビタミンE、過酸化脂質でみると、若年で1%、高令で3%を上限とすべきかと考えられた。
結論
現在特定保健用食品として認可されている食品素材として、コレステロール値低下に対する大豆蛋白、血圧低下に対するラクトトリペプチドなど、便秘に対する難消化性糖アルコールの効果と作用機序は確認されたが、一部の症例で安全性に軽度の危惧がもたれ、改善策も検討された。大豆蛋白摂取によるビタミンE、テストステロンの減少、エストロゲン、PAI-1の増加は、ビタミンE摂取併用で是正された。肥満減量時の大豆蛋白応用の有用性も示唆された。またペプチドスープなどによる咳嗽は中止するか、他に切り変えるかが望まれる。難消化性糖アルコールは便秘の改善に有用であるが、呼気水素ガス分析により予め下痢などへの発生が予測できる。n-3脂肪酸、特にDHAについては過酸化脂質の生成、ビタミンEの減少などからみると若令ラットで1%高令ラットで3%を上限とすべきであることが解り、今後ヒトへの外挿が注目される。

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