内分泌攪乱物質の免疫機能に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
200000700A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌攪乱物質の免疫機能に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 聖美(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 久松由東(国立公衆衛生院)
  • 香山不二雄(自治医科大学)
  • 岡田由美子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、内分泌攪乱物質として疑われている物質は、我々が日常生活で使用しているものにも多く含まれ、70種にのぼる。これらの物質は、野生生物に影響を及ぼすのみならず、人においても生殖器ガンや精子数の減少につながることが指摘されている。しかし、内分泌攪乱物質の人の健康に対する影響についてはまだ研究が進んでおらず、早急にこの問題に対処する必要がある。内分泌系は免疫系と密接に関係しており、内分泌攪乱物質は免疫機能を低下させていると考えられ、特に、最近増加したアレルギーや化学物質過敏症との関連も危惧されている。そこで、内分泌攪乱物質が免疫機能を低下させるか、アレルギー発症に関わっているか調べ、内分泌攪乱物質が免疫機能に及ぼす影響に関してそのメカニズムを解明することを本研究の目的とする。
研究方法
1.ddYマウスに対する内分泌攪乱物質投与実験
ddYオスマウス(8週齢)とddYメスマウス(8週齢)を一晩同じケージに入れて交配させ、翌朝別々にし、妊娠0 . 5日とした。妊娠3 . 5日目よりフタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチルを25 mg / kg / dayになるように、また、ノニルフェノールは2 . 5 mg / kg / dayになるように強制経口投与を行った。コントロールマウスにはコーンオイルを強制経口投与した。また、フタル酸ジシクロヘキシル、オクチルフェノールは、粉末飼料中に0 . 5, 0 . 05, 0 . 005%になるように、ビスフェノールAは、粉末飼料中に0 . 05, 0 . 005%になるように混ぜて与えた。この際のコントロールマウスは粉末飼料のみを与えた。各群ともに、仔マウスを出産後、離乳にあたる20 . 5日目まで親マウスに内分泌攪乱物質の投与を続け、その後は飼料のみを与えた。出生後、4週目、8週目、12週目にコントロール群、各投与群からマウスを選び、オス・メスともに体重を測定し、脾臓、胸腺、肝臓の重量を測定し、さらに、オスについては精巣重量を、メスについては子宮重量を測定した。さらに、脾臓と胸腺を取り出し、メッシュして、脾臓細胞については溶血後、FITC標識抗マウスCD3抗体、PE標識抗マウスCD19抗体、FITC標識抗マウスCD4抗体、PE標識抗マウスCD8抗体で染色、胸腺細胞についてはFITC標識抗マウスCD4抗体、PE標識抗マウスCD8抗体で染色し、PBSにて洗浄後、FACSにて解析した。また、メッシュした胸腺細胞を、1×107個/mlに調製し、ConAを5μg/mlになるように添加し、2日間、37度、5%二酸化炭素中で培養し、トリチウム標識チミジンを加えてさらに一晩培養し、ハーベストし、細胞核内とりこまれたトリチウム標識チミジンを液体シンチレーションカウンターを用いて測定し、細胞内におけるDNA合成能を比較した。
2.Jurkat細胞内カルシウムイオン濃度変化の測定
Jurkat細胞を1×107個/mlに調製し、Fura-2 AM(1μM)と30分間インキュベーションして細胞内に取り込ませ、PBSで洗浄後、ビスフェノールA、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチルヘキシル、ノニルフェノール、エストラジオールを投与して、細胞内カルシウムイオン濃度の変化を、蛍光光度計(日本分光)を用いて測定を行い2波長測定ソフトを用いて解析を行った。
結果と考察
個体間でばらつきが大きかったが、内分泌攪乱物質投与マウスから生まれた仔マウスについては、オクチルフェノールとフタル酸ジシクロヘキシルの高用量投与群において、体重、脾臓、胸腺、肝臓重量が小さかった。しかし、その傾向も週齢が大きくなるにつれ見られなくなった。妊娠マウスへのフタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ビスフェノールA投与により、生まれた子供のうち、胸腺細胞のマイトージェンに対する反応性が低下した個体が現れた。また、投与量が減少すると反応性の低下する個体数が減少することが明らかになった。また、フタル酸ジエチルにはこの作用は見られなかった。内分泌攪乱物質投与により生まれた仔マウスの脾臓細胞のリンパ球サブセットを解析した結果、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、ノニルフェノールについてはCD3陽性細胞の割合が増加し、CD19陽性細胞の割合が減少する傾向があったが、ビスフェノールA、オクチルフェノールでは、CD3陽性細胞の割合が減少し、CD19陽性細胞の割合が増加した。この傾向は投与量の増加とともに現れた。また、フタル酸ジシクロヘキシル、オクチルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジエチル、ノニルフェノールでは、CD4陽性細胞の割合が減少した。さらに胸腺細胞について解析を行った結果、CD4シングルポジティブ細胞の割合が減少する傾向が認められた。
ビスフェノールA、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジシクロヘキシル、ノニルフェノール、エストラジオールは、Jurkat細胞内カルシウムイオン濃度を変化させたが、フタル酸ジエチルでは全く変化がみられなかった。
本研究においては、個体を免疫機能以外の側面からも内分泌攪乱物質を評価する目的でddYマウスを用いて検討を行った。まず、内分泌攪乱物質投与による胸腺の委縮を予想していたが、そのような傾向は見られなかった。本研究により用いた内分泌攪乱物質のうち、フタル酸ジエチル以外の物質が多少なりとも胸腺細胞の反応性の低下の傾向を示したこと、胸腺細胞に関してはCD4シングルポジティブ細胞が全体的に減少する傾向があったことから、これら化学物質がヒトへ影響を及ぼしている可能性があるものと思われる。本研究の結果、同じマウスから生まれた子供でも、個体によりばらつきが大きかったが、免疫機能の研究に適した他系統のマウスを用いることにより、よりばらつきの少ない結果が得られると思われる。しかし、ddYマウスへのある種の内分泌攪乱物質投与により生まれた子供のなかに、免疫機能の低下を示す個体が出現したという結果が得られたことから、次世代への影響という点も含め、さらなる詳細な検討が必要であると考える。
また、昨年度までの研究結果で、in vitroにおいてJurkat細胞の反応性を低下させたビスフェノールA、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジエチルヘキシル、ノニルフェノール、エストラジオールについては、これら化学物質の投与によりJurkat細胞内のカルシウムイオン濃度に変化が見られたのに対し、Jurkat細胞の反応性に影響を及ぼさなかったフタル酸ジエチルは、カルシウムイオン濃度を変化させなかったことから、Jurkat細胞の反応性の低下には細胞内カルシウムイオン濃度の変化が伴っているものと推測される。また、この細胞内カルシウムイオン濃度の変化がエストラジオールレセプターを介したものであるか否か等を含め、内分泌攪乱物質の免疫系に及ぼす影響についてメカニズムを含め、さらに詳細な研究が必要であると考える。
結論
内分泌攪乱物質が免疫機能を低下させるか否か調べる目的で、内分泌攪乱物質を妊娠マウスに投与し、生まれた仔マウスの体重、脾臓、胸腺等諸臓器の重量を測定した。また、胸腺細胞、脾臓細胞のリンパ球サブセットをFACSを用いて解析し、さらに、胸腺細胞のConAに対する反応性について調べた。その結果、個体間でばらつきがみられたものの、数種の内分泌攪乱物質が胸腺細胞の反応性を低下させる傾向があることがわかった。また、Tリンパ球細胞株であるJurkat細胞に内分泌攪乱物質を投与した時の細胞内カルシウムイオン濃度変化を測定した。その結果、ビスフェノールA、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジシクロヘキシル、ノニルフェノール、エストラジオールは、細胞内カルシウムイオン濃度を変化させたが、フタル酸ジエチルでは全く変化がないことが明らかになった。本研究により、ある種の内分泌攪乱物質が免疫機能に影響を及ぼすことが明らかになった。

公開日・更新日

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