文献情報
文献番号
200000693A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の人の健康への影響のメカニズム等に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 垣塚彰(大阪バイオサイエンス研究所)
- 菅野純(国立医薬品食品衛生研究所)
- 広川勝いく(東京医科歯科大学医学部)
- 井口泰泉(岡崎国立共同研究機構)
- 鈴木勝士(日本獣医畜産大学)
- 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所・分子生物部門)
- 藤本成明(広島大学原爆放射能医学研究所)
- 笹野公伸(東北大学大学院・医学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌かく乱化学物質における、それらの作用の可能性の問題として指摘されてきた種々の事象の内、その主な問題点の中で解明の困難が集中しているいわゆる“高次生命系"での挙動に焦点をあてる。すなわち・内分泌系・・免疫系・・神経系などの高次生命系ネットワークの個々に対する影響について、存り得る作用機転の可能性を検討することによって問題の本質を明らかにする。その際、高次系における特徴として知られるところの、発生・生殖面をはじめとした時間軸やメモリー機構などへの影響の可能性についても考慮を払って検討を行う。以上によって近い将来のリスク評価にかかわる知的基盤を整備する。
研究方法
内分泌かく乱化学物質の問題を包括的に時間軸を含めて把握するために、本研究は、高次生命系としての神経・内分泌・免疫ネットワークに対する影響を解析する立場から、1)神経、2)免疫、および3)発生・生殖について検討した。また、そのネットワークのシグナル伝達系に対する影響を解析する立場から、4)核内レセプターとその共役転写因子およびエストロジェン受容体とセカンドメッセンジャーとの相互作用、5)ステロイド代謝活性機構を検討した。また、これらの研究過程で集積される科学情報および研究結果の統合(データベース化)と出版を行う。7) 内分泌かく乱研究整備では、cDNAマイクロアレイを用いて、胎生期暴露サンプルの胎児全脳での発現遺伝子の変動の解析を行った。
結果と考察
1)神経系では、垣塚班員は、植物等に含まれる内分泌様物質に神経変性を促進する可能性があり、これらのものと構造的に類似する合成内分泌かく乱化学物質にも同様な増悪作用がある可能性を示した。また、エストロジェンレセプター(ER)とPPARγ間で、共通するリガンドが存在し、PPARγのコファクターとして同定されたPGC-1、PGC-2は、単にPPARγの活性を修飾するのではなく、それぞれが脂肪細胞の分化に特異的な作用をもち、褐色脂肪細胞、白色脂肪細胞の表現型の決定に重要な機能をもつことを明らかにした。菅野班員は、マウスエストロジェンレセプター(mER)のスプライシングバリアント検出のための様々なPCR法を検討し、mER _ エクソン5のmERβdel5を半定量する方法を確立した。この方法を用いて、胎児期低用量DES暴露の雄胎児全脳ではmERβdelβの発現が変化することを示唆する結果を得た。2)免疫系では、広川班員は、免疫系の各種の細胞に ERαが発現していることを示した。また、ジエチルスチルベストロール(DES)を大量投与した急性実験、および長期間の微量投与のマウスいずれにおいても胸腺を中心とした免疫系への影響が認められ、その影響はDESの用量、マウスの性と月齢により異なることを明らかにした。3)発生・生殖系では、井口班員は、ビスフェノールA(BPA)の胎盤透過性について検討し、マウスでは投与30分、ニホンザルでは投与1時間で、胎仔の組織からBPAが検出され、マウスの胎仔期のDES 0.02, 0.2, 2 μg/kgとBPA. 20 μg/kgの投与で膣開口が有意に早まることを明らかにした。また、胎仔マウスのミュラー管では部域特異的にHoxa9, 10, 11, 13が発現するが、DES投与により発現が変化することを明らかにした。鈴木班員は、エストロン処理(E1)により初期鶏胚に発生攪乱について、異常は4タイプに分類され、(1) 胚盤葉下層の脱落と
チューブ様構造の形成、(2) 体軸の分裂ないし重複奇形、(3) 神経管閉鎖不全および屈曲など、および(4) 体節形成遅延であることを明らかにした。(2)~(4)には用量相関が認められた。他の系で同様にERを活性化するBPAについて2.5、5、および10μg/5μl/embryoをE1に準じて投与したところ、用量相関的に神経管尾部を主体としたE1の(3)に類似する異常が認められた。4)核内レセプターでは、加藤班員は、ショウジョウバエにヒトARを組織特異的にリポーター遺伝子としてGFPを発現する系の構築に成功した。また、160KDaの核内レセプター転写共役因子(SRC-1/TIF2/AIB1)群のC末端に位置する転写促進活性化領域(AD2)に相互作用する因子をMCF7細胞cDNAライブラリーから検索し、p68と極めて相同性の高いRNAヘリケースp72を単離した。このp72は、ERαのAF-1に結合し、p68を介してSRC-1/TIF-2のAD2に結合し、エストロジェン依存的にERα、TIF2と核内に共存することを示した。また、p68/p72は、エストロジェン結合ERα、TIF2ととも共沈、RNA転写共役因子SRAと直接結合すること、SRAとp68/p72は協調的にERαの転写促進能を増強することを見出した。藤本班員は、ヒトERを介したAP-1応答において、ERαとβは拮抗的に働くこと、ラットERを介したエストロジェン依存性AP-1応答系において、ラットERβではヒトERβと異なりエストロジェンによる転写活性化がみられること、この系で検討した内分泌かく乱物質は全て単純な弱いエストロジェン様物質として作用するものであったことを明らかにした。5)ステロイド代謝では、笹野班員は、ヒト消化管では小腸を中心とする吸収上皮などの各組織で、エストラジオールをエストロンに転換する17β- HSDの発現があることを明らかにした。また、17β-HSD2をtransfectionさせた培養細胞ならびにこれらの酵素が存在している胎児の胎盤、小腸、肝臓組織を用いて17β-HSD2に対する阻害実験を行ったところ、DES, genisteinに阻害作用が認められることを見いだした。6) 文献収集評価については、モノグラフの出版の準備を進めている。7) 内分泌かく乱研究整備では、近年、進歩の著しいcDNAマイクロアレイ技術の内分泌かく乱研究への導入と運用のため予備的な検討を行い、DES胎内暴露の胎児全脳において、1.5倍以上発現が変動した遺伝子として、α-globin, β-globinを始め、globin様の未知遺伝子を含め多数のglobin類遺伝子が認められることと見いだした。また、ハンチントン病の原因遺伝子であるHuntingtin Disease遺伝子産物にユビキチンを結合し、分解を促進する酵素であるHIP2 (Huntingtin Interacting Protein 2) の発現も上昇することを示唆する結果も得た。
チューブ様構造の形成、(2) 体軸の分裂ないし重複奇形、(3) 神経管閉鎖不全および屈曲など、および(4) 体節形成遅延であることを明らかにした。(2)~(4)には用量相関が認められた。他の系で同様にERを活性化するBPAについて2.5、5、および10μg/5μl/embryoをE1に準じて投与したところ、用量相関的に神経管尾部を主体としたE1の(3)に類似する異常が認められた。4)核内レセプターでは、加藤班員は、ショウジョウバエにヒトARを組織特異的にリポーター遺伝子としてGFPを発現する系の構築に成功した。また、160KDaの核内レセプター転写共役因子(SRC-1/TIF2/AIB1)群のC末端に位置する転写促進活性化領域(AD2)に相互作用する因子をMCF7細胞cDNAライブラリーから検索し、p68と極めて相同性の高いRNAヘリケースp72を単離した。このp72は、ERαのAF-1に結合し、p68を介してSRC-1/TIF-2のAD2に結合し、エストロジェン依存的にERα、TIF2と核内に共存することを示した。また、p68/p72は、エストロジェン結合ERα、TIF2ととも共沈、RNA転写共役因子SRAと直接結合すること、SRAとp68/p72は協調的にERαの転写促進能を増強することを見出した。藤本班員は、ヒトERを介したAP-1応答において、ERαとβは拮抗的に働くこと、ラットERを介したエストロジェン依存性AP-1応答系において、ラットERβではヒトERβと異なりエストロジェンによる転写活性化がみられること、この系で検討した内分泌かく乱物質は全て単純な弱いエストロジェン様物質として作用するものであったことを明らかにした。5)ステロイド代謝では、笹野班員は、ヒト消化管では小腸を中心とする吸収上皮などの各組織で、エストラジオールをエストロンに転換する17β- HSDの発現があることを明らかにした。また、17β-HSD2をtransfectionさせた培養細胞ならびにこれらの酵素が存在している胎児の胎盤、小腸、肝臓組織を用いて17β-HSD2に対する阻害実験を行ったところ、DES, genisteinに阻害作用が認められることを見いだした。6) 文献収集評価については、モノグラフの出版の準備を進めている。7) 内分泌かく乱研究整備では、近年、進歩の著しいcDNAマイクロアレイ技術の内分泌かく乱研究への導入と運用のため予備的な検討を行い、DES胎内暴露の胎児全脳において、1.5倍以上発現が変動した遺伝子として、α-globin, β-globinを始め、globin様の未知遺伝子を含め多数のglobin類遺伝子が認められることと見いだした。また、ハンチントン病の原因遺伝子であるHuntingtin Disease遺伝子産物にユビキチンを結合し、分解を促進する酵素であるHIP2 (Huntingtin Interacting Protein 2) の発現も上昇することを示唆する結果も得た。
結論
本研究では、内分泌かく乱化学物質における影響メカニズムの可能性として指摘されている諸点のうち解明の困難が集中している、いわゆる“高次生命系"の挙動に焦点をあて、・内分泌系・・免疫系・・神経系などの高次生命系ネットワーク個々に対する影響について、発生・生殖面をはじめとした時間軸やメモリー機構などを考慮しつつ、それらの作用機転の可能性について明らかにすべく研究を行った。また、cDNAマイクロアレイ技術の内分泌かく乱化学物質研究への導入および本技術を用いたDES胎生期暴露サンプルの胎児全脳での発現遺伝子変動の解析を行った。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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