ダイオキシン類による健康影響の機構に関する研究

文献情報

文献番号
200000690A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類による健康影響の機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小栗 一太(九州大学大学院薬学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 内海英雄(九州大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、環境中に広く分布した生物蓄積性の環境汚染物質の一つであり、近年では、内分泌撹乱物質として、生体に与える影響が危惧されている。しかし、作用のメカニズムについては、その細胞内レセプターとして知られているAh-レセプターが転写制御因子であることから、遺伝子の発現制御を介してさまざまな作用が惹起されるものと推定されている。ダイオキシン類毒性に特徴的な遅発性の極整髪現のメカニズムについてはほとんど理解されていない。本年度は、ダイオキシン類によって特徴的に誘導合成されるセレン結合性タンパク質の性状について明らかにすることを目的にした。
研究方法
ラットを用いて、ダイオキシン類投与によって特徴的に増加してくる肝臓の細胞質中のタンパク質を精製して、分子量54 kDa であり、その内部アミノ酸配列を解析することによって、このタンパク質がマウスやヒトにおいて存在が知られていたセレン結合性タンパク質である可能性の高いことを明らかにしてた。名称の由来であるセレンの結合量も測定してマウスのタンパク質と同様に、結合はあるが、かなり少ないことを確認している。
つ ぎに、種々の化学物質に対する応答性について検討した結果、ダイオキシン類によって転写制御される一連の異物代謝酵素と同様の応答性を示すことから、Ah-レセプター (Arylhydrocarbon receptor)を介する制御機構があることを示した。また、Butylated hydroxytoluene (BHT)にも応答性がみられたことから、ARE (Antioxidant responsive element)を介する制御もうけることを示した。これらの化学物質に対する応答性は、キノンの酸化還元に関わるNAD(P)H:quinone oxidoreductase の応答性によく似ていることから、未だに機能が解明されていないセレン結合性タンパク質が酸化還元反応に関わる可能性を示されたものと考えた。
さ らに、本研究では、誘導性のセレン結合性タンパク質のcDNA クローニングを行って全長の塩基配列を決定した。その配列から、ラットのタンパク質が、マウスやヒトのセレン結合性タンパク質と進化的に相同性のあるタンパク質であることを確認した。そのアミノ酸配列には、ある種の酸化還元酵素に保存されてるbis(cysteinyl)sequence motif が存在することから、先の誘導性とともに、このタンパク質の機能の1つに酸化還元反応があるものと推定された。また、ダ イオキシン類によって、細胞内の主要なタンパク質の1 つにまで増加する発現の調節については、そのmRNA が顕著に増加することから、転写レベルにおいて行われていることを確認している。Ah‐ receptor を介してXRE (xenobiotic responsive element )や ARE での調節を受ける可能性とも符合している。
さらに、ダイオキシン類類縁化合物である塩化フェノール類による生体酸化ストレス惹起性および肝障害性について検討した。初めに、塩化フェノール(4-chlorophenol, 2,4-dichlorophenol, 2,5-Dichlorophenol, 2,4,5-trichlorophenol, 2,4,6-trichlorophenol および pentachlorophenol)をマウスに経口投与し、in vivo ESR を用いてスピンプローブのスペクトルを計測し、減衰速度を計測した。
結果と考察
以上のように、ラットにダイオキシン類を投与することによって、肝臓の細胞質中のセレン結合性タンパク質が誘導合成されて、主要なタンパク質の1つにまで増加することが明らかになった。その機能として酸化還元反応に関わっている可能性があるものと考えられた。このタンパク質は既知であるがダイオキシン類によって顕著に誘導合成されることを見出したのははじめてであった。またその機能についても未知であるが、セレン結合性タンパク質が、XRE や ARE などの転写調節を介してタンパク質の発現を制御する化学物質に応答性のタンパク質であることを明らかにした。このタンパク質については、最近ゴルジ複合体における層板間のベシクル移行に関わる複合体の因子の1 つであることなど機能が徐々に明らかにされつつあることから、ダイオキシン類などの化学物質による生体影響を分子レベルで解明する契機の1 つが提供されたものと評価している。
また、ダイオキシン類類縁化合物である塩化フェノール類による生体酸化ストレス惹起性および肝障害性について検討した結果、4-chlorophenol 以外の塩化フェノール投与により、減衰速度の亢進が見られた。また、これら試験物質が肝部位でヒドロキシラジカルを活性種とする酸化ストレスを惹起し、肝障害を形成することも示唆された。次に、活性酸素種の生成源を明らかにするため、cytochrome P450 阻害剤である SKF-525A を前処理した。その結果、シグナル減衰の亢進の抑制、血清 GOT 量の増加抑制が認められた。以上の結果は、塩化フェノール類の酸化的肝障害性に、cytochrome P450 による代謝活性化の関与を示唆するものであると思われる。
結論
ダイオキシン類の1つであるPCB126は、セレン結合性タンパク質を正に転写制御していることをはじめて明らかにした。これまでダイオキシン類によって一部の薬物代謝酵素を正に制御することは知られていたが、このタンパク質の発現の制御に関わることが明らかになった。また、塩化フェノール類は肝部位でヒドロキシラジカルを活性種とする酸化ストレスを惹起し、肝障害を形成することも示唆された。

公開日・更新日

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