アミロイドーシスモデル動物における発症機序の解明に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000666A
報告書区分
総括
研究課題名
アミロイドーシスモデル動物における発症機序の解明に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
石原 得博(山口大学医学部病理学第一講座)
研究分担者(所属機関)
  • 東海林幹夫(群馬大学医学部神経内科学)
  • 前田秀一郎(山梨医科大学第一生化学)
  • 樋口京一(信州大学医学部加齢適応研究センター脈管病態分野)
  • 河野道生(山口大学医学部寄生体学)
  • 横田忠明(社会保険小倉記念病院病理部)
  • 高橋睦夫(山口大学附属病院病理部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アミロイドーシスは、種々の異なる前駆蛋白がアミロイド線維となって沈着し、それぞれ異なる臨床症状を呈する各アミロイドーシス病型からなる疾患群である。いずれのアミロイドも生化学的には_構造に富んだ線維状蛋白からなり、その発症機構については、いくつかの共通因子があることなどが知られているが、その疾患の希少性とまた研究のための動物モデルの不十分さの為に、まだその病態の詳細は不明であり、治療法もない状態である。アミロイドーシスには、骨髄腫や慢性関節リウマチなどの疾患や長期透析に続発して起こるものも多く、原疾患以上に患者の予後を左右する場合が多く、発症機構の解明および治療法の開発は重要である。近年、プリオン病でアミロイド線維核が感染源となりアミロイドーシスを引き起こすという感染発症機構が示され、マウス老化アミロイドーシスモデルでは、実験的にアミロイド線維核の経口感染の可能性が示された。このような異常蛋白の線維形成による発症機構の解明は、アミロイドーシスだけに限らず、異常蛋白構造の形成と伝播という問題として、今後の医学的重要課題となると思われる。実験動物モデルを使ったアミロイド線維核に依存したアミロイド発症機構の解明を目的とするが、これは、多様な前駆蛋白からなるアミロイドーシス発症病理においての重要な位置を占めると思われる。特に、アミロイド線維核の伝播に関する研究は、家族性アミロイドポリニューロパチー患者肝臓のドミノ肝移植の可否にも関係し、その重要性は高い。また、各種アミロイドの共通の構成成分としての、アミロイドの共存物質の存在が示されており、さらに、アミロイドーシス病型や種を超えたアミロイドーシス発症促進効果については、Amyloid Emhancing Factor (AEF)としてこれまでも示されてきた。これらアミロイド線維核による発症機構、各種アミロイドに共通の構成成分やAEFに関する研究を各アミロイド病型について平行して行い、それらの結果を解析することによってアミロイドーシス共通の発症機序の解明ができると考えられる。これらの研究にはモデル動物が不可欠であるが、各アミロイド病型の内、AA, ATTR, A_, AapoAIIアミロイドーシスについては動物疾患モデルがある。しかし、いわゆる原発性アミロイドーシスを含んだALアミロイドーシスには動物モデルがなく、これらの開発が急がれる。
研究方法
平成11年度において、アミロイドーシスは異種アミロイド蛋白、異動物種間においてもその伝播の可能性が示され、共通メカニズムとしての仮説である『核形成(nucleation)反応の後に、その核が鋳型となってアミロイド線維伸長(extension)反応が急速に推し進められる』の重要性がより明らかとなったので、今年度以降は、その発症機構の解明と、引き続き動物モデルが確立されていない病型のモデル動物作製を行う。各アミロイドーシス病型ごとに分担して研究を進め、各モデル動物の組み合わせとデーターの照会を行い、治療法についてもモデル動物において試みる。マウス老化アミロイドーシスでは、apoA-II蛋白質がアミロイド線維(AapoAII)となるが、C型apoA-II (Apoa2c)を持つマウスでアミロイドーシスが重篤化するので、このマウスを用いて、マウスだけでなく種々のアミロイド線維を投与し、アミロイド線維構造伝播の機構解明と予防法の開発を目指す。また、アミロイドーシスの発症
した母から産まれた子マウスに、の発症についても検討する。家族性アミロイドポリニューロパチーでは、若年発症、激症型のFAPの変異であるヒトttrPro55とヒトttrLys54遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの作製を行う。また、抽出ATTRアミロイドの投与による発症促進効果の有無について検討する。アルツハイマ一病では、アルツハイマー病のトランスジェニツクマウスモデルとTTR欠損マウスやSAP欠損マウスとを用いて、TTRやSAPがA(アミロイドの沈着、ひいては脳高次機能の障害にどう関与するかを個体レベルで明らかにする。また、A(の免疫療法の可能性をアルツハイマー病のトランスジェニツクマウスモデルにおいて検討する。ALアミロイドーシスモデル作製のために、ALアミロイドーシスを伴う多発性骨髄腫患者より骨髄腫細胞を採取し、これを株化した形質細胞をSCID-hIL6トランスジェニツクマウスに移植することにより、ALアミロイドーシスの動物実験モデルの作製を試みる。AAアミロイドーシスでは、IL-6 knockout miceにAAアミロイド発症刺激を行い、アミロイド発症の有無を検討する。
結果と考察
1. R1.P1-Apoa2cのAApoAII沈着において、マウスC型AApoAIIはじめ種々の異種アミロイド線維によるアミロイド沈着の誘導が認められた。この結果から、共通したアミロイド線維構造がAApoAII線維形成に影響を与える構造伝播の可能性が示された。2. ヒト・カルシトニンでの免疫で、ヒト・カルシトニン由来のアミロイド線維のAEF活性の抑制に効果があった。1N水酸化ナトリウム処理ではF-AEF活性は完全に失活した。アミロイド線維の煮沸では効果がないが、線維の焼灼にはF-AEF活性の抑制効果があった。トリプシンおよびプロテアーゼK処理はF-AEF活性には影響しなかった。3. ヒトA(アミロイド注入実験ではアミロイド沈着促進傾向がみられたことから、ADの素因のあるものに、もし、構造変異したA(が投与された時には逆に脳アミロイド形成を促進する可能性が考えられた。今後の詳細な基礎的検討が必要である。4. IL-6 knockout miceではAAアミロイドーシス発症は認められなかった。5. IgA-_のM蛋白を安定に産生するヒト骨髄腫細胞株MSG-Y01はIgAを安定に産生しており、アミロイドーシス誘導に適していると考えられる。6. AAアミロイド線維では、中心部分にHSPGが存在し、その外側にAA、さらにその外側にSAPが結合していると考えられる。7. 内在性のTTRにMet30変異をもつマウスでは、アミロイドが沈着しにくいと考えられる。8. A(過剰産生が不溶性A(の蓄積を起こし、アミロイド沈着を引き起こす。A(が可溶性分画から不溶性分画に移行する時期の変化がアミロイド沈着に重要であり、DIG(Triton-X不溶性膜分画)がA(の凝集沈着が始まる部位である。A(アミロイドーシスは引き続く病理変化と学習記憶障害を引き起こす。9. tauR406W miceはタウの蓄積を引き起こし、神経細胞死と学習障害を引き起こす。10. APPsw X Presenilin-1 L286V double transgenic miceでは脳アミロイド沈着促進がみられ、治療薬開発に有用なモデル動物である。11. A(42による免疫療法は明らかに脳アミロイド沈着を阻止する。経過中に多数の死亡例がみられたこと、効果が生き残ったマウスの約4割にしかみられなかったことから、今後、投与方法の改善や副作用の詳細な解明が必要であると思われた。
結論
老化促進マウスや、マウスAAアミロイドーシスでのアミロイドーシスの伝播、さらに、異種アミロイド蛋白や異動物種によるアミロイドの伝播の可能性も示された。A(アミロイドの伝播についても、記憶学習障害を認めるトランスジェニックマウス(APPSw)を用いて、脳へのA(アミロイドの投与で発症促進効果があることを示した。また、アルツハイマー病に関連して免疫療法の基礎データーを示した。SAP欠損マウス、FAPモデルマウス、アルツハイマー病モデルマウスの交配によるアミロイド沈着の変化について検討している。AAアミロイド線維の超微構造では線維の中心にHSPGがその外にAA、そして最外層にSAPがあることが示された。ALアミロイドーシスモデル動物については、ヒト形質細胞腫から分泌型のmyeloma cell
培養株をSCID-hIL6 Tg miceで増殖させ、ALアミロイドーシスモデルの作製を行っている。

公開日・更新日

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