特定疾患に関する評価研究班

文献情報

文献番号
200000659A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する評価研究班
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
清野 裕(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 三木知博(東亜大学)
  • 長谷川敏彦(国立医療・病院管理研究所)
  • 高野謙二(自治医科大学)
  • 関野宏明(聖マリアンナ医科大学)
  • 永渕裕子(聖マリアンナ医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
35,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患研究は原因解明はもとより治療に直結する成果が期待されることが多く、研究計画段階で疾患の成因のみならず、患者の予後、治療方法の開発までも含む治療に対する科学的評価、患者およびその家族の経済的、精神的負担の改善、特定疾患の医療に係わる直接費用(医療費・医療関連費)、間接費用(労働損失など)などの医療経済に対する貢献などを評価して、今後の研究に反映していく必要がある。この過程を効率よく行うために、評価指標の研究をより改善したものにしなければならない。特定疾患研究の評価は成因、治療方法の確立を含めた科学的評価に重点を置くことは当然であるが、診療現場におけるQOLの改善など医療福祉的効果の評価、医療経済に関する評価、さらには医療政策にも反映できるような提言を行う作業も必要である。また、医療サイドだけでなく患者および患者家族による評価も大切である。これまでの特定疾患に対する科学的評価をさらに充実するだけでなく、患者サイド、医療福祉、医療経済、医療政策面からの評価を行い、その実態や、特定疾患に関する研究への反映法、問題点の解決法を探り、その成果を実際に個々の特定疾患研究班に還元していくことを目的に評価研究を行う。さらに、再生医学の分野を将来は特定疾患にも拡大するべく、特定疾患における再生医学の基礎的検討を行い、科学的および倫理的な面からの研究の方向性、評価法を確立する。
研究方法
1)評価票の解析 平成12年度に実際に評価小委員により作成された評価票の回収を行い、評価の集計作業を行うとともに、評価の実態について解析を行った。2)ベイズ理論と経済学的な方法論による理論的考察3)インタビュー等、各研究者の調査分析4)難病概念の歴史的分析等、文献やデータに基づく歴史的解析5)アンケート調査6)エレクトロポレーション法による膵ラ氏島の再生7)胚性幹細胞からの神経幹細胞および造血幹細胞の誘導および移植実験
結果と考察
我が国の「厚生科学の研究に係わる評価の実施方法に関する指針」に沿った研究評価システムは欧米諸国のシステムと大きな差異はなく、この研究評価システムを実施することにより研究が一層推進するものと考える。しかし、さらに特定疾患研究に対する科学的評価を中心としたよりよい評価法の確立のために、現在行われている評価の実態の把握を行った。 実際には各研究班の班会議に当研究班の班員が出席し、評価小委員の声を聞き、また各研究班の評価を実際に行うことで評価方法の分析を行った。その結果、これまでの評価方法に対する意見としては 書面審査の評価票の項目が不備であること、評価票の項目に対する主任研究者のコメントが不十分で、評価が十分出来ない、班会議に出席しても、研究計画書に示された全ての内容の発表があるわけではなく、研究成果が正確に評価できない、当該研究班の目標がどの程度まで達成できたのかが不明である、他班との連携については、どのような形で実施されているのか、班会議における発表だけでは殆ど判らない、等の問題点を指摘した。これを解決するために、「特定疾患対策研究事業に対する評価票に関する資料」の作成を厚生省に提案し、今年度採用された。、各研究班の主任研究者が当該研究班のアピールすべき成果を記載した「特定疾患対策研究事業に対する評価票に関する資料」と班会議出席で得られた成果報告、来年度の研究計画書を参考資料として、評価小委員がより適正に評価をできるようになった。今後はこの「資料」作成により評価の問題が改善されたかを検証する。また評価小委員が作成した評価票の
集計・解析を行い、総合評価で低い評価点数を付けているにもかかわらず、評価のコメントがなく、改善すべき問題点が明らかにされていないなどの問題点を指摘した。また一人の評価小委員が複数の研究班の評価に関わっており、すべての班会議への出席は負担が大きい。実際、昨年度特定疾患対策研究事業の個々の主任研究者の協力を得て、アンケート調査を行ったところ、評価小委員の班会議への出席率は70.5%であった。また、事前に評価小委員との日程調整を行うことなく、同一日時に異なる場所で関連した班会議が開催され、評価小委員が担当した複数の研究班の班会議に物理的に出席できない実態が明らかとなった。これは、評価小委員軽視と思われても仕方ない状況で、至急改善される必要があるとともに、評価小委員の明確な位置づけや権限の強化が望まれる。評価小委員による評価は、研究班に求められている成果が十分に得られているのか、また進むべき方向性を示唆するものとして利用されるべきである。そのためには評価に際して十分な資料が提供され、より客観的評価がなされねばならず、今後とも改善していく必要があると考える。
経済的評価については特定疾患対策研究事業の研究成果の経済的分析と評価の関連を解析した。研究結果の評価の尺度として、期待できる研究結果と実際のパフォーマンスの差を評価することにより、より有効な結果が期待され、さらには難病研究全体としての研究の活用という点で有効と考えられる。このほか研究者へのインタビュー等調査を行い、基礎研究班では、新たな方法論の発展と共に研究の可能性を模索し人材を獲得するのに比して、臨床の場合にはフィールドの材料と対象とする人材のリクルートが多いと考えられた。臨床の、特に治療法が成熟した班においては、標準化された治療法を開発することが研究の目的だと認識されており、この場合は投入資源に対し成果は確実性が高いと考えられ比較的大きな資源が投入されている。しかし、そのような班でも新しい方法論が開発されると、新たなブレークスルーを求めて一部の資源を割くという傾向が見られた。ハイリスク―ハイリターンとロウリスク―ロウリターンの組み合わせで、ゲーム理論の原理に沿った班運営が行われていることが判明した。さらに難病概念の変遷についての研究を行い、日本特有の難病の概念を明らかにすることが評価の枠組みの組立に有用と考えられた。
医療福祉的側面に関しては、患者サイドや行政・医療従事者など特定疾患に関わる各分野からの情報収集システムの開発の手始めとして、昨年度は難病の中でも筋萎縮性側索硬化症の患者とその家族にアンケートを実施し、患者への情報提供、精神的支援のための環境作りの重要性を指摘した。今年度は将来の医療従事者となる医学生や看護学生にアンケート調査を実施した。難病の病名告知の問題を解析し、単なる情報提供にとどまらない精神的援助の必要性と医学教育の問題点を指摘した。
再生医学の分野を将来は特定疾患にも拡大するべく、科学的および倫理的な面からの研究の方向性、評価法を確立することを目標に昨年度より基礎的検討を開始した。代謝・内分泌領域では糖尿病患者にとって極めて重要である膵ラ氏島β細胞の再生・増殖をテーマに検討を行った。膵ラ氏島細胞増殖因子であるHGF 遺伝子をコードする筋注発現系プラスミドの導入により、膵ラ氏島が増大し、β細胞数を増加・再生すること、TGF-βは、転写因子IPF1を介し、インスリン遺伝子発現を誘導することを見いだした。HGF・TGF-βにより膵β細胞を再生させることは、糖尿病治療において重要なアプローチとなることを明らかにした。脳・神経領域ではマウス胚性幹細胞からの神経幹細胞の誘導を試みた。マウス胚性幹細胞から神経幹細胞を選択的に分化誘導することに成功した。またラット神経幹細胞をラット脳皮質下に移植し、その生着を検討した。血液・免疫領域ではマウス胚性幹細胞からCD34陽性細胞の誘導に成功した。一部はCD45陽性の白血球抗原を有していた。これらの知見は、今後特定疾患に広く応用可能なものであり、当班でも独自の基礎研究を進めて個々の特定疾患研究班に提言していきたい。
結論
今年度より本研究班より提案した「特定疾患対策研究事業に対する評価票に関する資料」の作成が採用された。今年度は現行の評価法の問題点を指摘するとともに、評価小委員に評価票に関するアンケート調査を実施した。今後さらに解析をすすめ、適正な評価のための評価方法の確立を提言し、各研究班への評価結果の還元、評価結果の活用を行いたい。

公開日・更新日

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