特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000650A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患対策のための免疫学的手法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 西村泰治(熊本大学大学院)
  • 東みゆき(東京医科歯科大学大学院)
  • 高昌星(信州大学)
  • 上阪等(東京医科歯科大学大学院)
  • 齋藤隆(千葉大学大学院)
  • 佐伯行彦(大阪大学)
  • 住田孝之(筑波大学)
  • 中尾眞二(金沢大学)
  • 山村隆(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は「免疫疾患の病因となる特異抗原を検索する新たな技術、さらにその特異抗原に対する免疫応答を検出、解析し、制御する基盤技術を開発、推進する。」ということである。免疫学的な手法の確立を目標としており、これには多くのステップが必要であることから、当該年として特に明確な達成目標を班員に示してはいない。すなわち、種々の免疫が関与する難病において1)抗原特異的免疫応答が存在するのか?2)その標的抗原がなんであるか?3)抗原特異的免疫応答が病態形成に関わっているか?4)その免疫応答を特異的に制御することは可能か?などを明らかとしていくことが、目標となっている。具体的には、MHC分子に提示される病因ペプチド分子の同定、病態形成性T細胞とその抗原レセプターの解析、第二シグナルなどを介した抗原特異的免疫応答制御に関する研究について、着実な成果を得ることを目標としている。
研究方法
研究方法・結果=1.病態形成性T細胞の研究とT細胞レセプターを用いた免疫制御:上阪班員は、独自に開発したPCR-ELISA法を用いて、多発性筋炎患者で末梢CD8陽性T細胞の多くのクローン性の増殖を認め、その一部が筋組織に検出されたことを報告した。佐伯班員はT細胞が認識する抗原を同定するシステムを開発するステップとして、抗原提示細胞側で、実際に抗原提示をしてT細胞からCD40 分子を介してシグナルが入ったものだけを検出する系を確立した。NF-κBのresponse elementとGFPを組み合わせたもので、今までにない新しいシステムを提供できる可能性がある。山本班員はT細胞レセプターの2つの鎖遺伝子導入による機能再構築の成功と、機能遺伝子導入による免疫抑制、実際の関節炎の抑制を示した。新しい抗原特異的免疫制御法の確立に向けて、実際にそれぞれの技術的可能性を明確に示した点で大きな進歩と言える。2.病態形成に関する研究:山村班員のNK細胞の機能的偏りの研究で、多発性硬化症において、寛解期にはIL-5の産生増加が認められ、いわゆるNK2になり、増悪期にはこれらが減少することを示した。これは全く新しい発見で、今後の臨床応用が期待される。東班員は免疫寛容誘導にかかわる可能性のあるPD-1とそのリガンドのB7-H1についての詳細な研究を行った。斉藤班員は既に馬杉腎炎やBxWF1マウスで証明しているFc受容体の重要性を確認するため、別の自己免疫疾患自然発症モデルであるlprマウスにFcR欠損を導入したところ、通常同様な病理変化を示す腎炎であるが、lprマウスの場合腎炎やその他の病態に変化がなく、FcR依存性と非依存性の違いがあることを示した。中尾班員は再生不良性貧血における造血幹細胞障害性T細胞の役割を検討した。ほとんどの患者の末梢血顆粒球でGPI膜蛋白の欠損している顆粒球の増加が見られ、細胞障害性T細胞がGPIアンカー膜蛋白を必要としているデータがあることから、総合して細胞障害性T細胞の造血幹細胞への攻撃が重要である可能性を示した。高班員はタイラー脳脊髄炎ウイルスによるマウス免疫性脱髄疾患における性ホルモンの役割を検討し、テストステロンが発症に抑制的であること、その機序としてサイトカイン産生抑制が推測されることを示した。3.MHC分子に提示される病因ペプチドの同定に関しては、今年度は大きな進展が見られなかった。昨年度、西村班員の作成したCLIP置換型ライブラリーを用いた成果が期待されたが、方法論が完全には詰まっていないと思われ、西村班員、
またこれを供与された中尾班員とも、本年度は最終的な結果まで到達できなかった。ただし、西村班員の原田病における新しい自己抗原の発見は、方法的には新規ではないものの、一つの成果と言える。住田班員はリコンビナント蛋白や合成アミノ酸を用いて、自己反応性T細胞の認識エピトープを検出するシステムを構築しつつある。
結果と考察
考察・1.本年度は十分な結果が出なかったが、西村班員の作成した病因ペプチド探索のためのCLIP置換型ライブラリーを用いて、複数の抗原が決定出来ると期待される。住田班員、佐伯班員の独自の抗原エピトープの同定システムの確立も期待される。2.上阪班員の病態形成性T細胞の研究もその進展が望まれる。中尾班員、高班員らの病態の解析も重要である。3.山本班員の新しい抗原特異的免疫制御法が実際に動くことを示せることが期待される。すなわち、病変局所に集積しているT細胞クローンの情報を検索し、その中で重要と思われるクローンのT細胞レセプター遺伝子を一つの細胞から取り出し、ベクターに組み込んで自己のリンパ球に遺伝子導入することで機能再構築し、さらに望ましい機能遺伝子も導入することで、抗原特異的免疫制御を行えることを実際の疾患モデルで示すことが期待される。4.山村班員のNK細胞、東班員の副刺激分子を用いた免疫制御法の確立も期待される。
結論

公開日・更新日

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