脊柱靭帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000645A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
原田 征行(弘前大学医学部整形外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学)
  • 今給黎篤弘(東京医科大学)
  • 河合伸也(山口大学)
  • 中村耕三(東京大学)
  • 馬場久敏(福井医科大学)
  • 松永俊二(鹿児島大学)
  • 宮園浩平(東京大学)
  • 守屋秀繁(千葉大学)
  • 米延策雄(大阪大学)
  • 井ノ上逸朗(東京大学)
  • 鐙 邦芳(北海道大学)
  • 岩田 久(名古屋大学)
  • 植山和正(弘前大学)
  • 遠藤正彦(弘前大学)
  • 岡島行一(東邦大学)
  • 木村友厚(富山医科薬科大学)
  • 四宮謙一(東京医科歯科大学)
  • 神宮司誠也(九州大学)
  • 高垣裕子(神奈川歯科大学)
  • 滝川正春(岡山大学)
  • 玉置哲也(和歌山県立医科大学)
  • 土田成紀(弘前大学)
  • 中原進之介(国立岡山病院)
  • 中村孝志(京都大学)
  • 永田見生(久留米大学)
  • 飛騨一利(北海道大学)
  • 藤井克之(東京慈恵会医科大学)
  • 藤村祥一(慶應義塾大学)
  • 藤原奈佳子(名古屋市立大学)
  • 星野雄一(自治医科大学)
  • 元村 成(弘前大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊柱靱帯骨化症の発症原因は不明である。原因追求のため遺伝子解析を行い、多因子遺伝形式であることが推測され、原因遺伝子の同定を行っている。骨形成の機序について、全身的要因、局所的要因についても明らかにしようとした。動物実験、靱帯細胞培養等の手法を用い、細胞生物学的、分子細胞学的に各種の骨形成因子及びサイトカインの発現、蛋白軟骨基質の分析、細胞とメカニカルストレスに関する骨形成と各遺伝子発現を検討した。臨床的研究では、患者へのアンケート調査を行い、ADL、QOLを含めた患者のアメニティの調査から、社会資源の活用を図ることを目的とした。
研究方法
班員を、遺伝子解析、骨形成因子、軟骨基質、細胞とメカニカルストレス、脊髄の可塑性およびQOLならびにADL調査のグループに大きく分け、班員同士での資料・情報の提供等により共同研究を行ってきた。また各班員が班員以外との研究者とも情報交換を行い、サンプル等の融通によりそれぞれの研究を進めた。研究グループ以外で、個々の研究も行っており、その成果を研究班会議において発表した。
原因遺伝子解析は、井ノ上を中心に、これまで行ってきた手法を元に行ってきた。第6染色体上のコラーゲンA2と、その近傍のRetinoinn X Rceptor β(RXR-β)を同定し、これを原因遺伝子の1つとしたが、さらに21q21.3領域にBMP4、TGFb3、IGF1、PTHR1、OPN(オステオポンチン)、PRG1(プロテオグリカン)、αB-Crystallinなどに強い連鎖を認め、更に詳細な分析を進めた。
骨形成因子については、全身的因子、局所的因子について、動物実験ないし靱帯細胞培養の手法を用いて、各種サイトカインの添加、あるいは遺伝子発現について検討した。全身的要因としては、インスリンの作用について検討し、レプチン、BMPファミリーについても検討を行った。これまで骨吸収因子については余り研究されていなかったが、蛋白質分解系による骨吸収調節のメカニズムについても検討した。
軟骨基質の研究については、プロテオグリカンの詳細な分析を続け、骨化過程において3つのデコリンを同定し、分子構造を分析した。
培養されたヒト靱帯骨化細胞は、メカニカルストレスに対して変質し、対象に皮枝骨形成に関わるサイトカインが出現することを明らかにした。
脊髄の可塑性については、慢性圧迫された脊髄の変形と脊髄機能について、動物実験免疫組織化学的検討を行った。
脊柱靭帯骨化症の治療方法ないし治療経過について、患者1420名に対してアンケート調査を行い、1200名余から回答を得た。この結果をもとに、患者のQOL、ADLを分析し、患者、家族に還元することにより、適切な治療法、アメニティについての分析を行っている。更に患者・家族の会を通じてアンケート調査の範囲を広げ、社会資源の活用状況を検討してきた。研究成果を患者・家族に還元し、協力を得ることを目的とした。
結果と考察
1.遺伝子解析
責任遺伝子同定に向けて検索中であるが、既にGenome Wide Screeningにより21番染色体に強い連鎖反応を認めており、21q21.3の領域を中心に解析を進めている。その検索中に、BMP4、TGFb3、IGF1、PTHR1、OPN(オステオポンチン)、PRG1(プロテオグリカン)、αB-Crystallinなどの遺伝子にp-value<0.05の有意差を認めた。(東大井ノ上、弘前大古島、、鹿児島大下小野田、他)
また、Nucleotide pyrophosphatase(NPPS)geneの遺伝子多型のうちでイントロン15に見いだした多型、IVS15-14T->CとOPLLの発症およびその重症度については、OPLL症例ではコントロールに比べてminor alleleであるC alleleを持つものが有意に多く、C  alleleを持つOPLL症例群は、持たない症例群に比べて、骨化椎体数が有意に多い。(東大川口)
ヒト間葉系幹細胞は、骨髄間質に含まれる多分化能を持つ細胞で、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などに分化する性質を持つ。ヒト骨髄液から分離した細胞から、細胞分化に伴うhMSCの変化を検討した。OPLLにおける骨化形態としての内軟骨性骨化と、膜性骨化の混在が考えられ、骨化発症メカニズムを検討した。(鹿児島大下小野田、東大井ノ上、他)
OPLL患者由来の靱帯細胞培養から、CTGF/Hcs24 により発現調節される遺伝子の解析を行い、乳癌細胞と一致する細胞を同定することができた(弘前大赤石)。
2.骨形成因子について
骨形成因子として認められている各種サイトカインについての研究を進めている。その中で、インスリン受容体基質(IRS)を介するシグナルの骨代謝調節機構については、IRS-2ノックアウトマウスを用い、in vitroでの解析で骨芽細胞の増殖・分化能は低下していたが、破骨細胞形成指示能は亢進しており、IRS-2を介するシグナルは骨代謝基調節機構に及ぼす役割にはIRS-1と異なる作用があることが明らかとなった。(東大阿久根)
骨形成因子(BMP)は20種類以上のファミリー蛋白からなり、いくつかのグループに分けられる。V2C12細胞の骨芽細胞様分化誘導において、異なったグループに属するBMP-4とBMP-6のシグナル経路を解析し、ALK-2とALK-3は少なくとも部分的に異なったシグナル経路を介してC2C12の骨芽細胞様分化を誘導し、両者の活性化によってより強力な作用が得られることが示された。(東大大学院宮園)
これまで骨吸収についての研究は少なかったが、細胞内蛋白質分解系によって骨吸収調節のメカニズムについて、c-Cblが蛋白分解系を介し新しいメカニズムでSrcを調節していることを明らかにした。(鹿児島大横内)
3.軟骨基質について
プロテオグリカンの一連の研究から、黄色靱帯において分析した3つのプロテオグリカンを分離し、その中でデコリン-2は主にデルマタン硫酸鎖で構成されており、抑制的な作用が示唆された。Zn2+存在下で、エラスチンとプロテオグリカンの親和性が上昇したことから、組織構築についてZn2+が密接に関連していることが示唆された。(弘前大板橋、高垣)
黄色靱帯骨化組織からIndian hedgehog(Ihh),Parathyroid hormone-related peptide(PTHrP)の存在が免疫組織化学的に確認された。靱帯骨化においても、内軟骨性骨形成と同様にIhh,PTHrPによる細胞分化制御機構の存在が示唆された。(大阪大有賀、他)
4.細胞とメカニカルストレス
ストレスを与えるとコントロールに比べOPLL細胞ではALP,osteopontin,BMP-2とその受容体のmRNA発現量だけでなく、ALP活性およびBMP2/4分泌のいずれも伸展刺激により増大する傾向にあった。細胞内へのCa2+の流入がそのシグナリングに重要であると示唆された。(弘前大丹野、古川)
5.脊髄の可塑性と脊髄機能
脊髄に対する機械的ストレスと脊髄グリア細胞についての検討を行った。培養細胞で、機械的ストレスに対するアストロサイトが生存維持、機能修復に密接に関係していることが示唆された。(福井医大内田)
また、リポフェクチン法を用いた圧迫損傷脊髄対する神経栄養因子遺伝子導入、その脊髄内発現動態を免疫組織学的に検討した。その結果、導入された遺伝子はそのほとんどが反応性アストロサイトに貪食され、BDNF発現の増強効果に関与するものと考えられた。(福井医大内田、鹿児島大米)
6.QOLと機能評価
後縦靱帯骨化症患者1420名に対してアンケート調査を行い、1200余名の回答から、患者、家族へ還元することが可能と考えられた。(名市大藤原)頚椎OPLLと症状発現に関する外傷については、脊椎管狭窄の基盤があり、頚椎OPLLがある患者は、頚椎への軽微な外傷で重篤な脊髄損傷が発生することがあり、頚椎OPLLと診断されていながら、無症状な患者に対する日常生活での注意事項を検討した。しかしこれらを元にして予防的な手術的治療に対してはまだなお疑問が残ることが提示された。(北海道大小柳、鹿児島大松永)
前方侵襲による骨化浮上術の10年以上経過例については、満足できると報告された。(東京医歯大松岡)
7.研究動態
本研究班は、原因究明、疫学調査、遺伝子治療、骨形成因子の解析、関連する遺伝子の発現、軟骨基質、脊髄の可塑性と基礎的研究、細胞とメカニカルストレスについての研究はそれぞれ成果を上げていることは確実である。本研究班は、弘前市において行った第1回班会議においてシンポジウム7題、第2回班会議では24題の口演と26題の紙上発表が行われ、約100人の参加者のもとに行われた。複数の施設、基礎と臨床の合同での研究が行われたのが特徴であり、今後、これらの研究の大いな進展が期待される所である。
結論
研究グループの遺伝子解析については、多因子遺伝子を原因として発症するものと判明した。特に、21q21.3領域の中で、BMP4、TGFb3、IGF1、PTHR1、OPN、αB-Crystallinなどの遺伝子に強い連鎖反応を認めていることから、これらの遺伝子を更に検索し、検討を進めている。
全身的要因として古くから言われている、糖尿病患者にOPLL患者が多いことから、 全身的要因としてインスリン受容体、これまで判明している各種骨形成因子は局所的な骨形成に関わることが更に明らかになった。細胞基質の中で、プロテオグリカンの分析から、靱帯骨化とした基質の中で、3つのデコリンを分析した。
デコリン2は主にデルマタン硫酸鎖で構成されており、骨化に抑制的な作用があるものと示唆された。靱帯骨化については、内軟骨性骨化形態をとることが明らかとなった。
細胞へのメカニカルストレスにより、細胞は変質し、骨形成に関わる各種サイトカインが明らかに高値となることが判明した。脊髄機能回復機序と脊髄の可塑性については、分子生物学的、細胞生物学的研究が行われ、圧迫された脊髄グリア細胞は、アストロサイトが生存維持、機能回復に強く関連していることが判明した。疫学的検討は、全国1420名にアンケート調査をし、1200名余から回答を受け、QOL、ADLならびに社会資源について分析した。頚椎OPLL患者と症状発現については、脊椎管狭窄の基盤があれば、頚椎への軽微な外傷により重篤な脊髄損傷が発生することがあり得る。頚椎OPLLであると診断されながら、無症状の患者に対する手術的治療を行うことについては、未だなお疑問が残ることも提示された。骨化浮上術の10年以上経過例については、満足できる結果である。QOL研究については、昨年までの研究で、脊髄の機能評価を5つの段階に分類し、Evidence Based Medicineに基づいた社会資源の効果的な再利用を図ることが可能である。患者家族の会と公開講座を開催し、研究成果を伝えると共に、協力を求めることが本研究班の更なる発展を助長するものであると考えられた。研究班内でのグループ研究は、異なった施設の班員同士の共同研究や、班員以外の研究者との共同研究が進められていることが大きな特徴の一つである。

公開日・更新日

公開日
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