神経変性疾患に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000626A
報告書区分
総括
研究課題名
神経変性疾患に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田代 邦雄(北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻神経病態学講座神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 水野 美邦(順天堂大学医学部脳神経科教授)
  • 中村 重信(広島大学医学部第三内科教授)
  • 葛原 茂樹(三重大学医学部神経内科教授)
  • 中野 今治(自治医科大学医学部神経内科教授)
  • 祖父江 元(名古屋大学大学院医学研究科神経内科学教授)
  • 川井  充(国立精神・神経センター武蔵病院第2病棟部部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
44,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A. 研究目的
本研究班は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、脊髄空洞症、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、線条体黒質変性症、ペルオキシソーム病、ライソゾーム病の10疾患を対象疾患とし、それらの基礎的ならびに臨床的研究を発展させ、これら難病の治療法の開発も視野に入れた調査研究を行うことを目的としている。
研究方法
B. 研究方法
平成12年度は、主任研究者1名、分担研究者6名に、研究協力者は新たに1名を追加した23名、計30名の研究体制で研究を行った。
ALS、PDおよびそれらの関連疾患に重点をおき、プロジェクト研究、各個研究を分子遺伝学、神経病理、神経薬理、神経化学、神経生理、神経疫学、神経治療などの多方面から展開した。平成11年度はプロジェクトリーダーを決め、研究体制の構築と研究の着手に重点を置いたが、平成12年度は研究の継続と充実を図り、研究成果の普及に努めた。
C. 研究成果
平成13年1月12日~13日に平成12年度研究班のワークショップ・班会議・研究報告会を全共連ビルで開催した。
ワークショップは「大脳皮質基底核変性症をめぐって」のテーマで、「欧米およびわが国におけるこれまでの経過」、「Corticobasal degenrationの病理診断基準剖検例ならびに剖検例からみた臨床」、「大脳基底核変性症(CBD)における失行 ― その特徴と診断上の重要性」、「画像診断 MRI、PET所見からみた診断基準」、「生化学的診断マーカー」についての発表があり、本症には典型的な臨床症候、経過を呈する症例群のほか、非典型な症候、経過を呈する症例群の存在が明らかにされた。今後、班構成員共同での実態調査を行い、診断基
準の確定、さらには特定疾患申請への提言を進めていくことにした。研究報告会では55題の各個研究が発表された。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の基礎研究として、多発地ALSにおける環境要因の検討として低CaMg食投与マウスの皮膚病変の検討、ALS脊髄におけるグルタミン酸受容体サブユニットの分子変化の単一運動ニューロンを用いた解析、フリーラジカルによるラット腰髄培養神経細胞死、ALSにおけるmacrophage migration inhibitory factorの解析がなされた。遺伝子関連では変異SOD1トランスジェニックマウスにおける運動ニューロン死、Cu/Zn SOD
活性中心に遺伝子変異を導入したトランスジェニックマウスの作製、家族性ALS 26家系のCu/Zn SOD遺伝子解析と臨床および病理学的特徴の検討、Cu/Zn SOD遺伝子にホモ接合性変異を認めた家族性ALSが発表され、家族性ALSにおける変異SOD1遺伝子異状と臨床経過、予後との関連を明らかにした。また、沖縄県にみられる近位筋優位の筋萎縮を呈する遺伝性神経原性筋萎縮症の遺伝子座が数個のBAC領域まで絞り込み、類似の家系が滋賀県にも存在していることを明らかにした。その他、ALS遺伝子関連で正常およびALS剖検脊髄における受容体型チロシンキナーゼEphA4の発現、家族性ALS培養神経細胞モデルにおけるシャペロンによる変異SOD-1凝集体形成抑制効果の検討、運動ニューロンの発現遺伝子プロファイルの検討やヒト脊髄よりクローニングした新規遺伝子Dorfinの機能解析がなされた。また、孤発性および家族性ALSにおけるCAG/CTG expansionの検討、ALSの前角細胞におけるカテプシン群の発現解析、導入遺伝子コピー数の異なるGly93Alaトランスジェニックマウスの免疫組織学的検討、球脊髄性筋萎縮症の脊髄前角細胞におけるGolgi装置の免疫組織学的検討が分子生物学的、免疫組織学的、神経病理学的手法を用いて検討された。ALSに対する治療法の開発に関連して、ALSの治療効果をみる評価法としての運動単位推定数の変化、培養脊髄腹側神経細胞に対するT-588のtrophic効果、神経栄養因子組換えアデノウイルス・ベクターおよびリボザイムを用いた遺伝子治療の開発、超大量メチルコバラミン治療の長期経過で、超大量メチルコバラミン治療の追跡調査で治療群の予後が良好であることが明らかにされた。
パーキンソン病(PD)の発症機序に関する研究では、放射光マイクロビームを用いたパーキンソン病中脳黒質内鉄分布と化学状態分析がなされた。パーキン蛋白関連では、ユビキチンリガーゼとしてのパーキン蛋白の細胞内局在の検討とyeast two hybrid systemを用いたパーキン蛋白の基質探索が行われ、パーキン蛋白の細胞内局在を明らかにし、パーキン蛋白の候補基質の一部を解明した。
培養ラット中脳ドパミン神経のMPP+ 誘発性アポトーシスにおけるGAPDHの核内蓄積、パーキンソン病患者における高ホモシステイン血症の臨床及び培養実験における検討がなされ、ニューロメラニン合成酵素チロシナーゼの機能異常によるドパミン神経障害、パーキンソン病治療薬セレギニン(L-デプレニール)が培養アストロサイトの神経栄養因子(NGF、BDNF、GDNF)産生を刺激するが明らかにした。PDの治療面では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによるMPTPパーキンソン病モデルサルの遺伝子治療を進めた。また、相模原地区における家族性パーキンソニズムの原因遺伝子の連鎖解析ではLod Scoreが3以上の染色体領域が3ヵ所に絞り込まれた。パーキンソン病における脳機能画像と臨床症候、パーキンソン病患者のWAIS-R言語IQと脳血流の相関、各種ストレスによる細胞死に対するイムノフィリンリガンドの保護効果とその生化学的基盤、パーキンソン病モデルラットの黒質神経細胞脱落に対するIGF-1の効果が検討された。パーキンソン病の実態調査は北海道の岩見沢市のみならず、鹿児島県、京都府で調査を開始した。
パーキンソン病関連疾患では、びまん性レビー小体病におけるα-synuclein/NACP陽性神経細胞内およびグリア細胞内封入体の広範な出現や3世代にわたり発症したびまん性レビー小体病家系の臨床及び病理学的検討がなされ、パーキンソン病における視床封入体の分布と脳高次機能障害が検討された。紀伊半島のALS/パーキンソン痴呆複合(PDC)は、三重県穂原地区での臨床、病理、タウ蛋白の生化学的分析が行われたが、同じ紀伊半島の和歌山県古座川地区でもALS/PDCの発症を認められ、ALS/PDCは紀伊半島全体としてもまだ消滅しているわけではないことが明かとなった。また、本研究班の対象疾患の筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病の臨床調査個人票の電子媒体化とこれらの臨床調査個人票の改訂を行った。当研究班の対象疾患10疾患の臨床研究のみならず、「難病の診断と治療指針」(六法出版社)の改訂、臨床調査個人票の改訂、難病情報センターの医学講座の改訂を行い、社会的ニードヘ対応した。
結果と考察
D. 結果と考察
本研究班の対象疾患は、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病などの10疾患であり、これらおよび関連疾患に重点をおいて、プロジェクト研究、各個研究を多方面から進め、家族性ALSにおける変異SOD-1遺伝子異常と臨床経過・予後との関連が解明され、ALSの病態解明への貢献、また、ALSに対する遺伝子治療を含めた治療法の開発が期待される。家族性パーキンソン病の発症機序に関する分子生物学的研究ではパーキン蛋白の細胞内局在が明らかにされ、パーキン蛋白の候補基質の一部が解明され、その病態解明が期待される。
パーキンソン病の疫学調査は、1978年、1979年の厚生省研究班の京都府、鹿児島県からの報告により、わが国では人口10万対50で、欧米に比し有病率が低いとされていた。近年、鳥取県、北海道での調査で人口10万対100と欧米と大きな差がないことが明らかになったが、先の京都府、鹿児島県での再調査が必要であり、それが開始された。また、パーキンソン病関連疾患である大脳皮質基底核変性症に関するワークショップを開催し、その臨床像、画像所見、生化学的所見を解析し、今後のプロジェクト研究の基盤が作られ、本邦での診断基準[臨床的基準及び病理学的に確定した症例の基準]の作成に貢献すると思われれる。当研究班の対象疾患10疾患の臨床研究のみならず、「難病の診断と治療指針」(六法出版社)の改訂、臨床調査個人票の改訂、難病情報センターの医学講座の改訂を行い、社会的ニードヘ対応した。
今後、ALS、PDの分子生物学的研究と、これらの疾患に対する遺伝子治療法の開発推進、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、線条体黒質変性症の診断基準の確定と公費負担特定疾患認定への提言のための臨床調査個人票の作成、日本特有の優性遺伝性筋萎縮症、常染色体劣性若年性パーキンソニズムおよび紀伊半島のALS/PDCの病態解明を目指し、最終年度までの3年間に研究の継続、充実、進展を図り、研究成果の普及に努める。
結論
E. 結論
筋萎縮性側索硬化症、脊髄性進行性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、脊髄空洞症、パーキンソン病、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、線条体黒質変性症、ペルオキシソーム病、ライソゾーム病の10疾患を対象疾患とした本研究班は、これらの疾患の基礎的ならびに臨床的研究を推進させ、治療法の開発も視野に入れた調査研究を行うことを目的としている。
主任研究者1名、分担研究者6名、研究協力者23名、計30名の研究体制で、プロジェクト研究、各個研究を進めた。

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