文献情報
文献番号
200000622A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性高脂血症に関する調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 斉藤康(千葉大学医学部)
- 松澤佑次(大阪大学医学部)
- 馬渕宏(金沢大学医学部)
- 山田信博(筑波大学医学部)
- 及川真一(日本医科大学)
- 佐々木淳(福岡大学医学部)
- 太田孝男(琉球大学医学部)
- 岡田知雄(日本大学医学部)
- 江見充(日本医科大学老人研)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高脂血症は、動脈硬化、腎症、膵炎などの発症と深く関わりがあり、その病態解明は治療法の開発につながるため、臨床的に極めて重要である。今回私どもの班においては原発性高脂血症の実態調査と病態解析をさらに進め、特に家族性複合型高脂血症の基礎的、および臨床的病態解析を行う。遺伝因子と環境因子の相互作用の検討においては、高脂血症と合併症との関連、および合併症を増悪させる要因を解析することにより合併症である虚血性心疾患を初めとする動脈硬化性疾患の発生を低下させることを目的とする。また、小児期に発現する遺伝性素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。さらには平成12年(西暦2000年)は、10年ごとに行っている日本人の血清脂質調査の年にあたっており、この調査も併せて行う。
研究方法
(1)当研究班で解析を開始した家族性複合型高脂血症に注目し、これまで進められてきた家系調査の解析を進めたい。具体的には、対象(高脂血症者と正脂血症者)の年齢及び性別分布の影響、年齢及び性別分布の偏り、二次性高脂血症者やFCHL以外の原発性高脂血症の除外を徹底させる。(2)小児でのIIb型高脂血症とFCHLの関係を明確にし、成人の解析をあわせて動脈硬化性疾患との関連を考慮した新たな臨床指標の確立をめざす。小児期から成人期への経過観察を行うことにより高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく。(3)原発性高脂血症による合併症の基礎的、および臨床的解析については、これまでの調査研究で原発性高脂血症の臨床症状との関連がかなり明確になってきた。これまでの研究は高脂血症の発症要因に偏っており、今後は合併症の防止を中心としたものになっていくべきではないかと考えられる。特に、遺伝因子と環境因子の相互作用の検討等は、今後積極的に調査されるべきであろう。この研究の延長として、これらの解析を進めていきたい。具体的には小児高脂血症患児の解析を通して環境要因の関与について調査する。(4)1960年から10年おきに調査されている日本人の血清脂質に関する調査を行う。この調査においては全国約45施設においてあらゆる年代にわたって血清脂質のみならず、血糖、ヘモグロビンA1c、アポEフェノタイプ、ホモシステインを20000例を目標に測定する。さらに京都大学医の倫理委員会で承認されたインフォームドコンセントに基づき、リポ蛋白リパーゼ、CETP、アポC3の遺伝子調査も併せて行う。
結果と考察
(1) まず、本年度におけるもっとも大きな成果は家族性複合型高脂血症(FCHL)の新しい診断基準を班員の協力の元作成したことであろう。以下にその概念及び診断基準を示す。今後はこの診断基準を元にFCHLに関する解析をすすめる。
家族性複合型高脂血症(FCHL)の概念、診断基準 家族性複合型高脂血症(FCHL)は患者をlongitudinalに観察すると、Ⅱa、Ⅱb、あるいはⅣ型の表現型を呈し、一方では第一度近親者にⅡa、Ⅱb、あるいはⅣ型の表現型の高脂血症患者が存在する遺伝性高脂血症として定義されたものである。FCHLは同一個人でも家族でもⅡbを中心とする種々の表現型があり、しかも食事療法への反応性が良好であることが特徴と言える。当初はGoldstein & Brownらによってmonogenicな遺伝疾患と考えられていたが、その後種々の遺伝子異常や内臓脂肪蓄積などによって、門脈への遊離脂肪酸流入亢進を介して超低比重リポ蛋白(VLDL)合成・分泌の過剰状態が引き起こされ、FCHLの概念に極めて類似した病態となることが明らかになってきた。このような病態に特徴的な点は、VLDL合成・分泌の過剰によって、LDLのコレステロール値に比べてアポBが過剰になっていること(hyperapoB)、あるいは通常のLDLよりも小さくトリグリセリドに富み、酸化を受けやすいLDL、即ちsmall dense LDLの存在である。また、このような病態の発症には過栄養などの後天的要因に対して、高脂血症が誘発されやすい何らかのpolygenicな遺伝的基盤が存在するものと考えられる。 従来、FCHLの診断には、我が国では厚生省原発性高脂血症研究班の診断基準注が用いられてきたが、その診断には家系の詳細な調査が必須であった。しかし、家系調査は極めて煩雑であることから、上記の概念の変遷を念頭に置いた上で、より簡便な診断基準を確立することが急務であった。そこで、FCHLの病態に共通するリポ蛋白像、即ち、hyperapoBあるいはsmall dense LDL等の特徴的なリポ蛋白像を基本にした診断基準案を今回提唱する。家族性複合型高脂血症(FCHL)診断基準<項目>1)Ⅱb型を基準とするが、Ⅱa、Ⅳ型の表現型もとり得る。2)アポ蛋白B/LDL-コレステロール > 1.0またはSmall dense LDL(LDL粒子径<25.5nm)の存在を証明する。3)家族性高コレステロール血症や糖尿病など二次性高脂血症を除く。4)第一度近親者にⅡb、Ⅱa、Ⅳ型のいずれかの表現型の高脂血症が存在し、本人を含め少なくとも1名にⅡb型またはⅡa型が存在する。1)~4)のすべてを満たせば確診とするが、1)~3)のみでも日常診療における簡易診断基準として差し支えない。FCHLの解析からアポB/LDLコレステロールの比が1以上の症例が44%認められ、small dense LDLを認めた症例が全症例の73%に及んだ。北陸地方におけるFCHLの調査においても、40家系の調査が行われた。その家系における調査により、脂肪酸代謝に重要な役割を演じていると考えられているPPARα遺伝子の変異を見いだし、この変異保因者において総コレステロール、中性脂肪値いずれも高値をとる傾向が認められた。この結果より、PPARα変異体がFCHL患者の血清脂質値に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、日本人ではないが、ユタ州におけるFCHL家系における調査においてはLDL受容体の変異による病態の修飾が示唆され、また、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)遺伝子多型のリポ蛋白値多様性への関与も示唆された。今後は新しい診断基準を用いてFCHLの病因解明をさらにすすめる。また、小児における高脂血症を調査した結果、小児おいてⅡb型高脂血症を呈する場合はFCHLである可能性が高く、小児のⅡb型高脂血症はFHと同様に注意深い観察が必要と考えられた。また、今回の解析ではCETP欠損症例の解析が行われ、小児においてはCETP欠損へテロ接合体において高HDL血症を呈しにくく、ホモ接合体においては高HDL血症を呈することが明らかになった。また、小児FCHL症例においても成人と同様にアポBが高値でLDLの粒子径が小さい傾向(small dense LDL)にあった。このように小児期に発現する遺伝性素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。また、学童期までにFCHLが疑われる症例においては家族歴を詳細に検討するとともに、今後適切に管理していくための方法を考慮する必要性が感じられた。
本年度、家族性複合型高脂血症の病態解析をすすめるとともに診断基準を改訂した。この診断基準の作成により、FCHLを内臓肥満、シンドロームXのようなマルチプルリスクファクター症候群としての認識をさらに深め、この基準を元に病態に関与する因子の解析を進める予定である。また、小児における高脂血症を調査した結果、小児と成人では同じ遺伝的背景があってもその表現型には大きな違いが認められ、何らかの環境因子が遺伝因子に加わることで成人の表現型が完成される可能性が強いことが明らかになった。今後は小児期に発症する遺伝素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。また、学童期までにFCHLが疑われる症例においては家族歴を詳細に検討するとともに、今後適切に管理していくための指針を考慮する必要性が感じられた。
家族性複合型高脂血症(FCHL)の概念、診断基準 家族性複合型高脂血症(FCHL)は患者をlongitudinalに観察すると、Ⅱa、Ⅱb、あるいはⅣ型の表現型を呈し、一方では第一度近親者にⅡa、Ⅱb、あるいはⅣ型の表現型の高脂血症患者が存在する遺伝性高脂血症として定義されたものである。FCHLは同一個人でも家族でもⅡbを中心とする種々の表現型があり、しかも食事療法への反応性が良好であることが特徴と言える。当初はGoldstein & Brownらによってmonogenicな遺伝疾患と考えられていたが、その後種々の遺伝子異常や内臓脂肪蓄積などによって、門脈への遊離脂肪酸流入亢進を介して超低比重リポ蛋白(VLDL)合成・分泌の過剰状態が引き起こされ、FCHLの概念に極めて類似した病態となることが明らかになってきた。このような病態に特徴的な点は、VLDL合成・分泌の過剰によって、LDLのコレステロール値に比べてアポBが過剰になっていること(hyperapoB)、あるいは通常のLDLよりも小さくトリグリセリドに富み、酸化を受けやすいLDL、即ちsmall dense LDLの存在である。また、このような病態の発症には過栄養などの後天的要因に対して、高脂血症が誘発されやすい何らかのpolygenicな遺伝的基盤が存在するものと考えられる。 従来、FCHLの診断には、我が国では厚生省原発性高脂血症研究班の診断基準注が用いられてきたが、その診断には家系の詳細な調査が必須であった。しかし、家系調査は極めて煩雑であることから、上記の概念の変遷を念頭に置いた上で、より簡便な診断基準を確立することが急務であった。そこで、FCHLの病態に共通するリポ蛋白像、即ち、hyperapoBあるいはsmall dense LDL等の特徴的なリポ蛋白像を基本にした診断基準案を今回提唱する。家族性複合型高脂血症(FCHL)診断基準<項目>1)Ⅱb型を基準とするが、Ⅱa、Ⅳ型の表現型もとり得る。2)アポ蛋白B/LDL-コレステロール > 1.0またはSmall dense LDL(LDL粒子径<25.5nm)の存在を証明する。3)家族性高コレステロール血症や糖尿病など二次性高脂血症を除く。4)第一度近親者にⅡb、Ⅱa、Ⅳ型のいずれかの表現型の高脂血症が存在し、本人を含め少なくとも1名にⅡb型またはⅡa型が存在する。1)~4)のすべてを満たせば確診とするが、1)~3)のみでも日常診療における簡易診断基準として差し支えない。FCHLの解析からアポB/LDLコレステロールの比が1以上の症例が44%認められ、small dense LDLを認めた症例が全症例の73%に及んだ。北陸地方におけるFCHLの調査においても、40家系の調査が行われた。その家系における調査により、脂肪酸代謝に重要な役割を演じていると考えられているPPARα遺伝子の変異を見いだし、この変異保因者において総コレステロール、中性脂肪値いずれも高値をとる傾向が認められた。この結果より、PPARα変異体がFCHL患者の血清脂質値に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、日本人ではないが、ユタ州におけるFCHL家系における調査においてはLDL受容体の変異による病態の修飾が示唆され、また、コレステロールエステル転送蛋白(CETP)遺伝子多型のリポ蛋白値多様性への関与も示唆された。今後は新しい診断基準を用いてFCHLの病因解明をさらにすすめる。また、小児における高脂血症を調査した結果、小児おいてⅡb型高脂血症を呈する場合はFCHLである可能性が高く、小児のⅡb型高脂血症はFHと同様に注意深い観察が必要と考えられた。また、今回の解析ではCETP欠損症例の解析が行われ、小児においてはCETP欠損へテロ接合体において高HDL血症を呈しにくく、ホモ接合体においては高HDL血症を呈することが明らかになった。また、小児FCHL症例においても成人と同様にアポBが高値でLDLの粒子径が小さい傾向(small dense LDL)にあった。このように小児期に発現する遺伝性素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。また、学童期までにFCHLが疑われる症例においては家族歴を詳細に検討するとともに、今後適切に管理していくための方法を考慮する必要性が感じられた。
本年度、家族性複合型高脂血症の病態解析をすすめるとともに診断基準を改訂した。この診断基準の作成により、FCHLを内臓肥満、シンドロームXのようなマルチプルリスクファクター症候群としての認識をさらに深め、この基準を元に病態に関与する因子の解析を進める予定である。また、小児における高脂血症を調査した結果、小児と成人では同じ遺伝的背景があってもその表現型には大きな違いが認められ、何らかの環境因子が遺伝因子に加わることで成人の表現型が完成される可能性が強いことが明らかになった。今後は小児期に発症する遺伝素因による脂質代謝異常症の、その後の環境因子による変化の推移を小児期から成人まで追跡調査し、遺伝素因と環境因子の相互作用を検討し、高脂血症と合併症との関連及び合併症を増悪させる要因を解析していく予定である。また、学童期までにFCHLが疑われる症例においては家族歴を詳細に検討するとともに、今後適切に管理していくための指針を考慮する必要性が感じられた。
結論
本年度の研究を通してFCHLの診断基準を新たに作成したが、今後はさらにその主要な合併症である虚血性心疾患との関連においてさらに検討が必要となろう。また、小児期における血清脂質のスクリーニングにより、高脂血症の早期発見とその家系調査によるFCHL、家族性高コレステロール血症の早期発見、早期治療により、血管合併症の発症を未然に防ぐことが可能になると思われる。
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