自己免疫疾患の病因・病態解析と新たな治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000616A
報告書区分
総括
研究課題名
自己免疫疾患の病因・病態解析と新たな治療法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小池 隆夫(北海道大学大学院医学研究科分子病態制御学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 宮坂 信之(東京医科歯科大学内科学第一講座)
  • 竹内 勤(埼玉医科大学総合医療センター)
  • 鍔田 武史(東京医科歯科大学難治疾患研究所ウィルス・免疫疾患研究部門)
  • 吉崎 和幸(大阪大学健康体育部健康医学第一部門)
  • 広瀬 幸子(順天堂大学医学部病理学第二講座)
  • 松下 祥(熊本大学大学院医学研究科脳免疫統合科学系・免疫識別学講座)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 特定疾患対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は各々の自己免疫疾患における免疫系の異常の特徴を明らかにし、疾患特異的治療戦略を構築し、患者のQOLの向上を計り、さらには病気の治癒を目指す事である。
研究方法
・全身性エリテマトーデス(SLE)および抗リン脂質抗体症候群(APS)の病因、病態および治療に関して以下の検討を行った。・HTLV-I遺伝子導入ラットに認められる臓器特異的自己免疫疾患の発症機序に関する検討。・自己免疫疾患発症におけるPD-1の役割の検討。・NKT細胞リガンドα-GalCerによる自己反応性CD4+T細胞の活性化機構の検討。・SLET細胞のraft画分シグナル伝達分子の発現と機能に関する検討。・コンビナトリアルケミストリーを用いたT細胞エピトープの解析。・全身性自己免疫疾患発症におけるCD40リガンド過剰発現の役割の検討。・ホスファチジルセリン依存性モノクローナル抗プロトロンビン抗体を用いたループスアンチコアグラントの半定療法の検討。・抗β2GPI抗体、抗lamininn-1抗体および抗sulfatide抗体に関する検討。・ステロイド長期連用SLE患者リンパ球における多剤抵抗性遺伝子産物の発現機構に関する検討。・抗DNA抗体V遺伝子に対する化学修飾リポザイムによる実験的ループス腎炎の阻止に関する検討。・SLE感受性を規定するFcgr2b遺伝子プロモーター領域多型の機能解析。・候補遺伝子アプローチによるSLE感受性遺伝子の検討。・SLEにおける病像・病態の規定因子に関する研究。・ループス腎炎における尿中wt1mRNA検出の意義に関する検討。・SLE患者血清中に見い出されたRNAヘリケースAを認識する新たな自己抗体の臨床的意義とその対応抗原エピトープに関する研究。・抗Killer Immunoglobulin-Like Receptor(KIR)自己抗体の検出と臨床的意義に関する検討。・SLEにおけるin vivoでのアポトーシス指向性リンパ球の増加とその臨床的意義に関する検討。・多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)およびシェーグレン症候群(SS)の病因、病態および治療に関して以下の検討を行った。・多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)合併した間質性肺炎に対するシクロスポリン療法に関する全国調査。・PM/DMにおける罹患筋組織浸潤T 細胞クローンの樹立。・抗IL-6R抗体による間質性肺炎の治療法の開発。・唾液腺培養上皮細胞を用いたシェーグレン症候群(SS)におけるサイトカイン、ケモカイン、アポトーシス関連分子に関する検討。・シェーグレン症候群(SS)唾液腺障害アポトーシスの制御機序の検討。
結果と考察
HTLV-I LTR-env-pX遺伝子導入ラット(LTR-env-pXラット)は,関節炎,血管炎,心筋炎,筋炎,皮膚炎など様々な膠原病を発症する。これら疾患の発症機序を明らかにするために,LTR-env-pXラットと正常同系ラットとの間で脾細胞,骨髄細胞および胸腺の置換実験を行った。
その結果,LTR-env-pXラットに認められる疾患は標的となる臓器によって異なる機序により発症すると考えられた。LTR-env-pXラットの病態を明らかにすることは,ヒト膠原病の病因解明につながると考えられる。また,本ラットを治療実験に用いることにより,自己免疫疾患の新しい治療法の開発が容易になると期待される。
PD-1遺伝子は免疫グロブリンファミリーに属する膜蛋白質をコードし、その細胞質領域に免疫反応を負に制御するITIM motifを持つ。以前、C57BL/6の遺伝的背景においてその欠損マウスの作成、解析を行い、PD-1が自己免疫病発症の制御に関与することを証明し、特にPD-1が末梢における自己免疫寛容の制御を行っていることを示した。今回は、さらにBALB/Cの遺伝的背景においてPD-1の欠損マウスは拡張型心筋症の症状を呈することを見いだし、その発症には自己抗体が深く関わると結果を得るに至った。拡張型心筋症は現段階では極めて治療の困難な疾患であるが、この結果は、PD-1分子による免疫反応の抑制性シグナルがこの病態の成立に関わりうることを示し、これまで心臓移植しか治療法がなかったこの難治性疾患にも新たな治療法の確立への発展性を示唆した。
自己免疫病の原因究明において、自己反応性CD4+T細胞のトリガリング機構、 さらにはT細胞により認識される自己抗原の同定は不可欠である。我々はNKT 細胞のリガンドであるα-GalCerにより活性化された抗原提示細胞が自己反応性CD4 +T細胞の活性化を誘起することを明らかにした。
C57BL/6、BALB/cマウスの胸腺および脾臓よりNK1.1-CD4+細胞を単離し、α-GalCerと同系マウス脾細胞、またはα-GalCerを投与した同系マウス脾細胞を共培養することにより自己反応性CD4+T細胞を誘導した。これら自己反応性Th細胞は同系の脾細胞、DC、B細胞などで刺激することにより強いサイトカイン産生を認めた。このサイトカイン産生はクラスII欠損マウス脾細胞に よる刺激では認められず、本系で誘導された自己反応性Th細胞はNKT細胞以外のクラスII拘束性CD4+Thによるものと考えられる。これらのTh細胞は生体内移入によっても自己反応性を示した。以上の結果は感染による自己免疫病憎悪機構の解明に有用な知見と考えられる。
TCRζ鎖発現低下によって惹起される上流シグナル伝達の異常を、T細胞膜に存在してシグナル伝達に中心的役割を果たしているraft/GEMに着目して解析した。TCR鎖は、細胞質、T細胞膜同様、raft/GEM画分にも全く検出されなかった。一方、そのなかで分子足場形成に必須のLATは、正常T細胞と異なり、SLET細胞では、無刺激の状態ですでにraft/GEM画分にチロシンリン酸化を受けた状態で存在しており、同時に複数のアダプター蛋白が会合していた。TCRζ鎖がraft/GEM画分に存在しない事によって、負の制御の標的がなく、持続的な活性化が引き起こされている可能性が示唆された。
これによって、インターフェロン-γや、BAFF/zTNF4/BlyS/TALL-1などのサイトカイン産生が亢進し、自己免疫現象を誘導したものと考えられた。
抗リン脂質抗体症候群(APS)の責任自己抗原_2-glycoprotein Iを認識するT細胞の特徴を解析し、交差反応性が成立する抗原を効率よく同定する方法を開発した。また、特異性未知の一個のT細胞を出発材料として、その細胞が認識するペプチドリガンドを効率良く同定する方法を確立した。
SLE患者やSLEモデルマウスBXSBではCD40Lの過剰およびB細胞での異所性の発現が示されている。CD40LをB細胞で異所性発現するCD40LトランスジェニックマウスではSLE様の自己免疫疾患を発症するので、CD40Lの過剰または異所性発現はSLE発症に関与すると考えられる。CD40Lは、骨髄内でのB細胞自己トレランスには影響を与えないが、末梢B細胞の自己トレランスの破綻を誘導する。したがって、末梢B細胞トレランス異常は、SLEのより根本的な治療法の標的となり、さらに、我々のマウス系が末梢トレランス制御によるSLE治療法の開発の良い評価系となることが強く示唆された。
LAは抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断に必要な検査であるが、その検出法は多様で施設間差が大きい。LAの責任抗体のひとつにホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)がある。今回マウスモノクローナルaPS/PTである231Dを用いた半定量的LA検出法を開発し、客観的なLAの評価を目的とした。163人の自己免疫疾患患者を対象とした。231Dを標準血漿50-3.1_g/mlで段階希釈しスタンダードとした。サンプル:標準血漿を1:4でmixして凝固時間(希釈aPTT、KCT、dRVVT)を測定し、231D 1.0 _g/mlに相当する抗凝固活性を1.0 ACUとして半定量化した。47人にAPSの臨床症状を認め、ACUが基準値を超えたものはそのうち22人で、非APS 116人中31人にくらべて有意に多かった(オッズ比2.41 [1.19-4.88])。ワーファリン使用患者でLA陰性者6人のACUは全員感度以下であった。231DはLAの半定量化に有用であり、これを使用してLAの標準化が可能である。
抗_2-グリコプロテインI抗体(抗_2-GPI抗体)に特異的な酸化LDL由来のリガンド(oxLig-1)は、7-ketocholesteryl-9-carboxynonanoateであった。抗リン脂質抗体症候群(APS)患者血清中で検出される抗_2-GPI抗体は、_2-GPI・oxLig-1複合体に対する自己抗体であり、それらの出現と動脈血栓症の既往との間に強い関連が認められた。また、酸化LDLは外因性の酸化ストレスの結果現れるもので、APS以外にも、種々の慢性疾患、すなわち、SLE、糖尿病、慢性腎炎、および慢性腎不全など、の血中に出現する。特に、APSにおいては抗_2-GPI・酸化LDL(oxLig-1)複合体抗体と酸化LDLの両者の出現が重篤な動脈血栓症を引き起こす原因となっていることが明らかになった。今年度の本研究事業で、抗laminin-1自己抗体および抗sulfatide自己抗体に関する解析を新たに開始した。抗laminin-1自己抗体の出現は、不妊症および初期の流産に深く関与していることが示された。抗sulfatide自己抗体に関しては、APSおよびSLEで陽性例が確認されたが現在のところ、臨床的意義については明らかにされていない。また、抗カルジオリピン(aCL)抗体、すなわち、抗_2-GPI抗体、と同様に、抗sulfatide抗体の中には、sulfatide結合蛋白質を認識する抗体が存在することが明らかになり、その蛋白質の同定を現在行っている。
SLEにおいては、ステロイド薬や免疫抑制薬などの薬物長期連用を内科的治療法の主体とするが、多剤耐性の獲得のために治療に難渋する症例を少なからず経験する。ステロイド薬長期連用SLE患者の末梢血リンパ球では、多剤耐性遺伝子MDR-1の転写因子YB-1とその細胞膜上の産物で薬剤細胞外能動輸送機能を有するP-糖蛋白質の発現が増強した結果、薬物の細胞外排出が促進しステロイド薬などに対する抵抗性獲得の原因となり得る。さらに、シクロスポリンは、P-糖蛋白質と拮抗的に結合してステロイド薬の細胞外排出を抑制する。以上、長期治療によりステロイドを含む多剤抵抗性SLE症例では、多剤抵抗性改善を目的としたシクロスポリン等のP-糖蛋白質拮抗薬の治療的使用を考慮する価値があると思われる。
自己免疫疾患の病態形成で主要な役割を占める臓器障害性自己抗体の産生を特異的に制御する治療法として自己抗体VH遺伝子に対するリボザイム療法の基礎的検討を行った。V3-7VH遺伝子mRNAを特異的切断しうる化学修飾リボザイムはin vitroでの抗DNA産生クロンによる、及びSCIDマウスに投入したSLEリンパ球による抗DNA抗体の産生を抑制し、後者では免疫複合体腎炎の形成も阻止し、その有用性が認められた。
SLEの特徴的病態である高IgG血症の感受性遺伝子として、B細胞の活性化を抑制するFc_RIIB1分子をコードするFc_RIIB遺伝子の制御領域多型が関与していることが、遺伝的解析から推定された。
今回、Fc_RIIB遺伝子プロモーター領域の転写制御部位を含む一部欠損を伴う遺伝子多型が、IgG抗体応答能を亢進させる機構を、keyhole lipmet hemocyanin (KLH)を免疫したマウス系を用いて解析した。その結果、この多型をもつマウス系では、免疫後に形成されるリンパ濾胞胚中心の活性化B細胞におけるFc_RIIB1の発現抑制と、この現象に相関したIgG抗KLH抗体価の上昇をきたすことが明らかとなった。また、ルシフェラーゼレポーター法での解析で、実際に多型を示すプロモーター領域が転写制御に関わっていることが示された。本研究によって、Fc_RIIB遺伝子プロモーター領域多型は免疫制御遺伝子としての役割を担っており、感染防御の面から有益な形質として保持された多型である一方で、SLE感受性遺伝子の一つとして機能していることが示唆された。
近年のゲノム医学の進展を背景に、SLEの病因・病態をより明らかなものとし、診断や治療のターゲットの設定に向けての応用を目的として、SLEの疾患感受性遺伝子の検出を試みている。本年度は、CD19, FCGR2B, BCMA, NKG2Aの解析を行い、多数の新たな多型部位を見出すとともに、CD19の3'非翻訳領域の反復配列多型、FCGR2B翻訳領域の非同義置換とSLEとの新たな関連を検出した。急性期SLE患者CD4陽性T細胞Th1/Th2をIL-13を用いた細胞内染色で検討した。その結果、IL-4を用いた時と同様、Th1優位であった。この比率は症例によりばらつきはあったが、病気が軽快した状態でもTh1優位を示した。また、IL-12とともにTh1誘導因子であるIL-18を急性期SLE患者で測定すると、有意に高値を示し、Th1・Th2両方のサイトカインに関連していた。一方、局所におけるサイトカインの病態との関与を検討するために、CNSループスの髄液中のIFNαとモノアミンとの関連を検討した。その結果、脳器質症候群を呈する症例でIFNαとモノアミンの変動を認め、両者の病態への関与が示唆された。
SLEにおける腎障害(ループス腎炎)の発症機序の解明と糸球体障害の程度および予後の推測のため、患者尿沈渣から得られたRNAからRT-PCR法を用いて、進行性腎障害との関連の可能性があるwt1遺伝子の解析を行った。その結果、尿中にwt1を検出と尿蛋白の程度に関連が認められることが示された。
膠原病患者血清中に140kDa蛋白を認識する新たな自己抗体を見出し,その対応抗原が細胞内高分子蛋白であるRNAヘリケースA(RHA)であることを明らかとした。RHAはFasを介したアポトーシスの際に130kDaと120kDa蛋白に限定分解され,患者血清中の抗RHA抗体は限定分解産物と反応したが,一部の血清では限定分解産物を認識しなかった。RHAをコードするcDNAを利用して,抗RHA抗体の対応抗原エピトープを分析したところ,RHA上には少なくとも3カ所のエピトープの存在が確認された。これらエピトープと自己抗体の反応様式は多様であり,nativeな抗原が生体内で呈示されantigen drivenにより自己抗体産生が惹起される可能性が示唆された。抗RHA抗体は,10例の全身性エリテマトーデス患者血清中に特異的に見出され,他の膠原病や健常人ではみられなかった。同抗体陽性例は腎症を特徴とし,ループス腎炎患者の特異自己抗体となる可能性が考えられた。
SLE をはじめとする全身性自己免疫疾患で検出される抗リンパ球抗体は、抗核抗体と異なり直接リンパ球と結合することから、リンパ球機能、ひいては病態を修飾する可能性がある。しかし、これまでその対応抗原を含め、その解明は進んでいない。今回、NKレセプターに属し、NK細胞及びT細胞に発現して抑制性シグナルを伝達するKIR2DL1 (p58.1)及びKIR2DL3 (p58.2)に対する自己抗体の検索を行った。その結果、検討した慢性関節リウマチ(RA)、SLE、ベーチェット病(BD)では、20~30%に抗体陽性者を認め、抗体陽性者は陰性者に比較し、有意に血清IgG高値(RA,SLE,BD)、血沈高値(RA,SLE)、白血球低値(RA)であった。以上より、自己免疫疾患において、KIR分子が免疫応答の一つの標的となっており、KIR分子からのシグナルの修飾が、自己免疫疾患の病態に関与している可能性があると考えられた。
SLE活動期のin vivoでのリンパ球アポトーシス亢進の有無を、DiOC6(3)を用いたミトコンドリア膜電位を測定することで解析した。SLE患者ではT、B、NK細胞のすべてのリンパ球でのアポトーシス亢進が観察され、疾患活動性と正の相関をまた血清C1q値との間に負の相関関係が認められた。さらに治療後にその異常が是正された。増加したアポトーシス細胞が自己抗原の供給原となり、自己免疫応答成立に繋がると推察された。
難治性とされる多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)に合併した間質性肺炎(IP)に対するシクロスポリン(CyA)療法について多施設共同によるretrospective studyを行った。その結果、DMに合併した急性型IPに対しては、初期治療としてCyAとステロイド剤とを併用することでステロイド単独で治療開始するよりも救命率を向上させることが初めて明らかとなった。CyA療法の治療1ヶ月における総合評価は転帰と相関しており、治療効果をみる目安となりうることが判明したが、治療前におけるCyA療法の効果予測は不可能であった。また治療中に感染症を併発し死亡した症例もみられ、感染症合併には留意する必要があると考えられた。
PM/DM患者筋組織に浸潤するT細胞レパートワーを解析するために、DM患者1例の筋組織からT細胞クローンを樹立した。これらのクローンは限られたT cell receptor (TCR) Vβ鎖を使用しており、更にJβ鎖の使用にも強い偏りがみられた。complementary determining region 3 (CDR3)領域には保存されたアミノ酸モチーフが存在していた。過去の報告とあわせてもこのような偏ったJβ鎖の使用はPM/DMに特徴的である。
間質性肺炎は膠原病患者の予後を左右する重要な合併症の一つであるが、その発症機序は明らかではない。現在ステロイド剤や免疫抑制剤が治療に用いられているが、抵抗性を示す例も多く、新しい治療法の開発が望まれている。In vitroでIL-6とTGF-_の相互作用を検討した結果、IL-6はTGF-_による線維化に対し全く影響を与えないか、あるとしてもごくわずかな抑制作用であることが明らかとなった。続いて全身性の高IL-6血症に伴う間質性肺炎の動物モデルとしてIL-6トランスジェニックマウスを用い、抗IL-6R抗体による治療実験を行なった。コントロール群では動静脈周囲や気管支周囲へのリンパ球の浸潤による炎症がみられたが、線維化は認められなかった。一方、抗IL-6R抗体投与群では炎症性細胞の浸潤が顕著に抑えられていたことから、IL-6阻害によって線維化に至っていない肺組織の炎症を抑制できることが明らかとなった。炎症の早期にヒト型化抗IL-6R抗体治療を行なうことにより、炎症性細胞浸潤の阻害およびTGF-_の産生抑制を介し不可逆的な肺線維症の発症を予防する可能性が示唆された。
シェーグレン症候群(以下SS)唾液腺組織障害における唾液腺上皮細胞の役割を解明するため、ヒト唾液腺上皮細胞の特異的培養法を確立し、得られた細胞の遺伝子発現を解析し、正常唾液腺上皮細胞と比較検討した。培養細胞はEGFレセプター陽性、_-amylase 1陰性の導管上皮細胞であった。この細胞をIFN_の存在および非存在下で培養し、RT-PCR法により唾液腺組織障害関連分子(サイトカイン、ケモカイン、アポトーシス関連分子)の発現を解析したところ、SS唾液腺上皮細胞は、1)IFN_刺激によりIL-6発現が増大し、またTNF__を発現している例を認めた、2)IFN_非存在下においてT細胞ケモカインであるIP-10およびMigの発現を認める例があり、IFN_刺激にてそれらの発現が増大した、3)Bcl-2は予想されるバンドより約50bp短いPCR産物を生じた、など正常唾液腺上皮細胞と異なる点を認めた。SSにおいては浸潤リンパ球のみならず唾液腺上皮細胞も積極的に局所の免疫反応に関与しており、病態形成に寄与していることが示唆された。シェーグレン症候群(SS)唾液腺細胞のアポトーシスによる細胞死は、SSの唾液腺機能障害を引き起こす重要な機序である。今回、SS唾液腺細胞のアポトーシスを制御する液性および細胞性の因子を検討した。免疫組織および培養唾液腺細胞株を用いた検討により、SS唾液腺細胞のアポトーシスを誘導する重要な因子としてFasおよびTNF-_やIFN-_などサイトカインの関与が考えられた。TNF-_やIFN-_は抗アポトーシス蛋白発現を抑制し唾液腺細胞のアポトーシスを誘導するとともに、これら細胞のFas依存性アポトーシスへの感受性を増大させることが明らかとなった。唾液腺細胞のFas依存性アポトーシスは唾液腺浸潤T細胞(CD4+T細胞)のFas ligand(FasL)に加え、腺房細胞由来の可溶性FasL(sFasL)により惹起される可能性も示唆された。
HTLV-I感染はSS発症のリスクファクターであるが、今回の研究によりこの発症機序にもHTLV-I感染T細胞(CD4+T細胞)の機能的FasL発現増強およびアポトーシス抵抗性の獲得によることが考えられた。
結論
本研究班の当該年度の研究から以下の結論が得られた。
SLEおよびAPS
・HTLV-1遺伝子導入ラットを用いた臓器特異的自己免疫疾患の発症機序を検討した結果LTR-env-pXラットに認める自己免疫疾患は,標的となる臓器により発症機序が異なる事、正常ラット脾細胞中には,自己免疫反応抑制作用をもつ細胞が存在する事、LTR-env- pXラットのCD4CD25陽性細胞は,免疫反応抑制機能に障害がある事などからLTR-env-pXラットはヒト自己免疫疾患のプロトタイプ・モデルと考えられるた。LTR- env-pXラットの病態を明らかにすることは,ヒト膠原病の病因解明につながると考えられる。また,本ラットを治療実験に用いることにより,自己免疫疾患の新しい治療法の開発が容易になると期待される。
・BALB/Cの遺伝的背景においてPD-1の欠損マウスは拡張型心筋症の症状を呈することを見いだした。拡張型心筋症は現段階では心臓移植しか治療法のない難治性疾患であるが、今回の結果はマウスにおいては少なくとも自己免疫性の拡張型心筋症が存在することを初めて報告するものであり、PD-1分子による免疫反応の抑制性シグナルがこの病態の成立に関わりうることを示した。このマウスモデルにおける結果はヒトにおいても同様のメカニズムによる心筋症の存在を強く示唆するものであり、また新たな治療法の確立への発展性を示したものである。
・NKTリガンドα-GalCerによりin vitroあるいはin vivoにおいて活性化された抗原提示細胞により、マウス胸腺および脾細胞における自己反応性CD4+T細胞を効率的に誘導することが可能であった。α-GalCerによってNKT依存的に活性化されたB細胞では、高いCD69抗原の発現および補助刺激分子の発現増強が見られ、自己反応性CD4+T細胞を誘導した。 上記の方法で誘導された自己反応性CD4+T細胞はTh2に偏向する傾向を認めた。以上の結果は、感染による自己免疫病の増悪機構解明において有用な知見と考えられた。
・TCRζ鎖発現低下によって、raft/GEMを中心とするシグナル伝達の負の制御に失調を来たし、その持続的な活性化から、下流のインターフェロン-γや、BAFF/zTNF4/BlyS/TALL-1などのサイトカイン産生が亢進し、自己免疫現象の誘導につながったと考えられた。今後、この異常経路を是正するモノクロナール抗体やレセプターアンタゴニストの開発が進めば、より病態に則した、しかも副作用の少ない新規薬剤が生み出される可能性があり、さらなる検討が期待される。
・_2-GPI上のT細胞エピトープを明らかにし、交叉反応するペプチドを同定する方法を開発した。
クリプティックなエピトープが抗原提示される特殊な環境やメカニズムを解明することを含めたこれら一連の研究は、抗_2-GPI抗体の産生およびAPS発症の病因を理解し、さらには治療に応用するために重要なヒントを提供するものと期待される。
・SLE患者ではCD40Lの過剰発現や異所性発現を認めるが、CD40Lが末梢Bリンパ球の自己トレランスの破綻を誘導することが明らかとなった。末梢B細胞トレランスの破綻により、自己抗体の産生や自己免疫疾患の発症がおこることが強く示唆された。したがって、末梢B細胞トレランスの異常の修復によりSLEのより根本的な治療法の開発が可能となることが明らかとなった。
・ホスファチジルセリン依然性モノクローナル抗プロトロンビン抗体である 231D を使用して、半定量的 ループスアンチコアグラント(LA) が可能となった。231D を使用する本法を用いれば、長年の課題であった LA 標準化に極めて有用な手段であると考えられる。
・数多くの臓器非特異的な自己抗体の存在が知られているが、今年度の研究で示ししたように、抗_2-GPI抗体および抗laminin-1抗体は明らかに病因となりうる自己抗体である。それらの関与する発症の機序解明には、今後様々な検証が必要であるが、本研究班において多施設共同研究として、臨床意義を確認したい。この種の自己抗体の測定法の確立および標準化は特定疾患のみならず少子化の問題を抱える我が国の厚生行政上重要な問題である。
・長期ステロイド薬投与を受けているSLE患者リンパ球では、転写因子YB-1を介してP-糖蛋白質の発現が増強し、細胞内ステロイドの細胞外排出亢進による細胞内ステロイド濃度の低下をもたらすこと、シクロスポリンのようなP-糖蛋白質拮抗薬がステロイド薬抵抗性を改善しうる可能性が示唆された。以上、疾患活動性が極めて高く、ステロイド薬単独では疾患制御が困難で、生命臓器を傷害するSLE症例では、シクロスポリンによるNF-AT阻害を介するIL-2/IL-4産生抑制機構を念頭に、また、ステロイド薬の長期連用によりステロイド薬抵抗性を獲得し、且つ副作用が危惧されるSLE症例では、P-糖蛋白質を介するステロイド薬抵抗性の改善を目的として、シクロスポリンの使用を考慮する価値があると思われる。
・リボザイム療法は認むべき副作用はほとんどないとされている。in vivoでの作用を持続するために種々のデリバリー法が検討されているが、今回提示した化学修飾リボザイムは、RNase抵抗性でありin vivoでも有効と考えられた。DNAエンザイムはリボザイムに比して細胞内取り込みが更にその有用性を増すことが期待しうる。本療法は、自己抗体が病態形成に主要な役割を担う自己免疫疾患においてより望ましい治療法として期待しうる。
・Fc_RIIB遺伝子プロモーター領域多型の解析から、13塩基および3塩基の欠損を伴うNZB型のFc_RIIB遺伝子プロモーター領域多型が実際に転写制御に関わっており、この多型によりリンパ濾胞胚中心の活性化B細胞でのFc_RIIB1分子の発現抑制、B細胞の異常活性化、ならびにIgG免疫応答の亢進がもたらされるものと考えられた。Fc_RIIB遺伝子プロモーター領域多型は一種の免疫制御遺伝子として機能しており、B細胞の異常活性化を病因とするSLEの感受性遺伝子の一つとして機能すると考えられる。
・SLEの疾患感受性候補遺伝子として、今年度はFCGR2B, CD19, BCMA, NKG2Aの解析を行い、FCGR2B, CD19に新たなSLEとの関連を見出した。
・急性期SLE患者のCD4陽性細胞はTh1優位で、回復期も変動はあるが同様の結果で収束していた。急性期SLE患者ではIL-18が高値でTh1/Th2両方に関与していた。OBSでは髄液中のIFNαの増加とともに、モノアミンの変動が病態に関与している可能性が示唆された。
・SLE患者尿中wt1の検出は、重症LNに認められた。isoformの解析に関しては、例数が少なく十分な臨床意義の検討は出来なかった。LNにおいても、尿中wt1の解析が腎臓の状態を把握する上で安全でかつ有効な検査法となり、経時的・即時的に腎に関する状態や進行性腎機能低下の危険が高いかどうかの予後判定を行うことが可能となり、進行性腎障害の危険性の高いものに対しては積極的な治療を行うなど、より病態に即した治療戦略が可能となり得る。
・SLE患者血清中にRHAを認識する新たな自己抗体を見出し,陽性例ではループス腎炎を特徴とすることを明らかとした。RHA分子上に複数のエピトープが同定されたが,その抗RHA抗体との反応は多様であることが示された。かかる研究成果は,自己免疫疾患の病因・病態の解析や新たな治療法の開発に重要な知見をもたらすことが期待される。
・全身性自己免疫疾患患者において、抑制性KIRであるKIR2DL1及びKIR2DL3に対する自己抗体が存在することが示された。このことから、自己免疫疾患において、KIR分子が免疫応答の一つの標的となっており、KIR分子からのシグナルの修飾が、自己免疫疾患の病態に関与している可能性があると考えられた。この抗KIR自己抗体のNK細胞及びT細胞に及ぼす影響についてさらに研究を進めていくことにより、全身性自己免疫疾患の病因病態解明の一助になると考えられた。
・SLE活動期ではT細胞だけでなくB, NK細胞もアポトーシス亢進を示した。増加したアポトーシス細胞が免疫原となり、自己免疫応答を増強している可能性が推察された。
PM/DMおよびシェーグレン症候群
・PM/DM に合併した間質性肺炎(IP)にCyAとステロイド剤の併用療法は有効であり、DMの急性型IPでは初期治療としてのCyA療法は救命率を向上させることが明らかとなった。
・筋炎患者1例の筋組織からT細胞クローンを樹立した。これらのクローンは比較的限られたVβ鎖を使用しており、更にJβ鎖の使用頻度に強い偏りが見られた。過去の報告とあわせてもこのJβの偏りは筋炎に特徴的である可能性が示唆された。CDR3領域にはgermlineに由来する良く保存されたアミノ酸モチーフおよびgermlineに由来しない比較的保存されたモチーフが存在していた。一方、樹立されたクローンはin vivoでのレパートワーを反映していると考えられ、今後、このようなT細胞クローンをin vitroで機能解析をすることで、本疾患の抗原の同定、病態解明につながる可能性があると思われた。
・IL-6阻害による間質性肺炎の治療の可能性が示唆された。ヒト型化抗IL-6R抗体によるIL-6の阻害は間質性肺炎の初期病変である炎症性細胞の浸潤を阻害し、TGF-_の産生抑制を介し不可逆的な肺線維症の発症を予防する可能性が考えられた。したがって、炎症の早期にヒト型化抗IL-6R抗体治療を行なう必要があると考えられる。
・新たに確立した方法により得られたヒト唾液腺培養上皮細胞は導管細胞の特徴を有し、SS唾液腺病変の解析に非常に有用である。これによりSS唾液腺において上皮細胞がサイトカインやケモカイン、アポトーシス関連分子を発現していることが示され、浸潤細胞のみならず上皮細胞も唾液腺病変の進展に関わっていることが示唆された。またこれら分子の発現調節が正常唾液腺上皮細胞と異なっている可能性が示され、特にBcl-2は予想されるバンドより約50bp短いPCR産物をSS培養上皮細胞に特異的に認めた。
・SS唾液腺組織にはTNF-_やIFN-_などサイトカインの強い発現とともに活性化T細胞、特にCD4+T細胞の顕著な浸潤が認められる。今回の研究により、これら液性および細胞性因子はSS唾液腺細胞のアポトーシスによる細胞死誘導に深く関与し、SS唾液腺機能障害を惹起することが示唆された。 HTLV-Iも感染CD4+T細胞のアポトーシス抵抗性の獲得およびFas陽性唾液腺細胞へのFas依存性アポトーシス誘導機序などにより唾液腺機能障害、ひいてはSSを発症させるものと考えられる。今後はこの基礎的検討をもとに唾液腺細胞表面のレセプターレベル(サイトカインレセプターやFasなど)や細胞内のアポトーシス関連蛋白レベルでこれら細胞のアポトーシス感受性を調節し、SSの病態を制御しうる可能性が強く示唆される。

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