慢性関節リウマチの早期治療指針の確立に関する研究

文献情報

文献番号
200000609A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチの早期治療指針の確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
市川 陽一(聖マリアンナ医科大学・内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田昌之(福島県立医大第二内科)
  • 吉田勝美(聖マリアンナ医大予防医学)
  • 赤星 透(北里大学内科)
  • 西本憲弘(大阪大学健康体育部)
  • 三森経世(京都大学臨床免疫学)
  • 山田秀裕(聖マリアンナ医大内科)
  • 山中 寿(東京女子医大膠原病リウマチ痛風センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、我が国に約70万人のRA患者が存在し、全身関節の疼痛、変形のために苦しみ、また、多くの治療費を要している。早期治療方針が確立されれば、これらの治療費が減少するのみならず、患者のQOLを改善し、社会での活動が可能となる。しかし、抗リウマチ薬は時に重篤な副作用を伴うため、関節破壊の速やかな症例を特定して、より強力な治療を行う必要がある。また、現在用い得る抗リウマチ薬では関節破壊を完全に防止することは出来ないので、併用療法に関する基礎的検討、およびRAの病態に基づいた新薬につながる研究を行う必要がある。そこで、1)早期治療を必要とする症例を選択する、2)関節破壊を防ぐ早期治療法を明らかにする、3)将来的により強力に関節破壊を防ぐ新薬、併用療法を見出すことを研究目的とした。今回は、多施設協同二重盲検比較試験によって信頼性の高い成績を得ることを目的とした。
研究方法
早期治療法の確立のための臨床試験としては、発症2年以内の早期RA患者を対象とし、MTX単独、BUC単独、あるいはこれら2者の併用の効果、副作用を、二重盲検比較対照試験で検討している。分担研究者と研究協力者の計 26名が施設責任者となって、各施設3名までの臨床研究分担医師の協力を得て臨床試験を行ている。副作用防止のため、何れの薬剤も漸増し、ブシラミンは2ヶ月以降200mg/日、メトトレキサートは4ヶ月以降8mg/週とした。調査項目としては患者の関節痛評価、患者による全般評価、身体機能評価(mHAQ)、握力、疼痛関節数、腫脹関節数、医師の全般評価、赤沈値、CRP、RF、HLA-DRB1、両手、両足正面のX線写真、末梢血、肝機能、クレアチニン、尿所見などである。HLA-DRB1は試験開始時、X線写真は1年間隔、他は1ないし3ヶ月毎に評価する。観察期間は2年間とした。本試験が無作為割付による比較試験であることから、各参加施設の倫理委員会あるいはIRBでの許可を得てから行い、患者のプライバシーには十分な注意を払うこととした。次世代の早期治療薬開発のための研究では、ヒト型化抗IL-6レセプター(IL-6R)抗体は患者を対象にオープン試験を行い、臨床効果および副作用を検討する。動物実験、in vitroの研究では、滑膜細胞培養系のin vitro RAモデル、マウスおよびラット2型コラーゲン誘導関節炎、RA滑膜細胞移入SCIDマウスなどを用いた。遺伝子治療の研究にはIL-10産生プラスミド、TSP-1発現プラスミドを用いた。また、破骨細胞の骨吸収活性を指標とした。培養細胞上清中あるいは血清中のサイトカインなどの活性物質の測定は主としてELISAによって行った。一方、倫理面への配慮としては実験動物に与える苦痛は出来るだけ少なくし、また、RA滑膜組織を用いる場合は各施設の倫理委員会と患者の許可を得て行った。
結果と考察
RA早期治療指針確立のために必要なものとして、1)早期治療を必要とする症例を選択する、2)関節破壊を防ぐ早期治療法を明らかにする、3)長期間にわたり、副作用なく疾患活動性を抑制する早期治療法を見いだす、4)将来的により強力に関節破壊を防ぐ新薬、併用療法を見出す、をあげることが出来る。これらの問題を解明するため、臨床研究と次世代の早期治療薬の開発のための基礎的研究に分けて研究を進めることとした。臨床的研究に関しては、当然のことながらevidence based medicine (EBM)が重視されなくてはならない。しかし、EB
Mに最も有用とされる多施設協同二重盲検比較試験は、新薬承認のための製薬会社が主体となって行う研究を別にすれば、わが国にはほとんどない。今回、我が国で開発された比較的強力な抗リウマチ薬であるBUCおよびこれからのRA治療の中心となるMTXを取り上げ、2者併用の継続性、関節炎に対する有効性、関節破壊の抑制効果および副作用を多施設協同二重盲検比較試験によって各単剤と比較した。平成10年6月に第1回班会議で臨床試験計画の検討を開始して以来、製薬会社からの実薬およびプラセボの供給、各施設倫理委員会の手続き、コントローラーによる薬剤割付け、医師賠償責任保険の手続きを終了し、平成11年2月より臨床試験を開始した。さらに10月には6国立病院および1私立病院から研究協力者が新たに参加し、平成12年3月末までに76例のエントリーを終了し、現在、2年間の観察を行いつつある。平成13年2月現在で、治療効果がなくACR 20%改善に到達しないためキーオープンした症例は10例であったが、4例はBUC単独、6例はMTX単独で、併用例は1例もなかった。また、副作用でキーオープンした2例もBUC単独群であった。この結果は、併用例の有効性が単独より高く、かつ重篤な副作用のないことを示唆している。今後、さらに1年間の観察とその後のデータ解析から、RA早期治療指針を確立する予定である。ヒト型化抗IL-6レセプター(IL-6R)抗体によるRA治療では、ACR20%改善が6週目で60%、24週目で80%、ACR50%は各々13%と40%であった。さらに、無効例も使用量を増量することで改善基準を満たした。抗IL-6R抗体の作用機序の1つとしてMMPの産生抑制作用を明らかにした。昨年度は、RAに対するアルプロスタジル(Lipo-PGE1)とペントキシフィリン (PDE阻害薬) 併用療法の有用性を前向き臨床試験により示した。今回、RA患者滑膜細胞に発現するPGE受容体サブタイプとPDEアイソタイプをRT-PCRにより分析したところ、PGE受容体はEP4、PDE活性ではPDE4が重要であり、PDE4特異的阻害薬とEP4アゴニストの併用が新しいRAの治療戦略として期待された。Th1タイプのアレルギーであるRAに対し、IL-10産生プラスミド(p-IL-10)を移入したところ、タイプIIコラーゲン関節炎が抑制された。しかし、p-IL-10の用量を増加させると炎症が逆に増強し、これがプラスミドDNAに含まれるCpG motifのによることが判明した。今後、炎症惹起作用の無い、またはそれを抑制するようなsequenceを有するプラスミドの開発が必要であり、実際の臨床応用の際の課題であると考えられた。主要な血管新生抑制因子であるTSP-1発現プラスミドによる実験的関節炎に対する効果を検討した。II型コラーゲン関節炎マウスに対し、TSP-1発現プラスミドの予防的並びに治療的投与を行い、有用性を示唆するデーターが得られ、血管新生抑制が、特に早期のRAにおける新たな治療戦略となり得ると考えられた。RA滑膜組織をSCIDマウスに移植したモデルを用いることにより、IL-8がRAにおける好中球浸潤に関与する主要な因子であることが判明し、抗IL-8抗体の投与により好中球浸潤が抑制された。また、RA滑膜ではMIP-3α発現も亢進し、CCR6陽性の未熟樹状細胞やメモリーT細胞の浸潤に関与している可能性が推測された。IL-8およびMIP-3αの特異的制御法の開発とその治療への応用が将来の課題であると考えられた。昨年度までにカルパイン阻害物質であるカルペプチンがラットII型コラーゲン誘発関節炎を抑制することを見出した。したがって、カルパインの破骨細胞に対する影響を検討したところ、ウサギ破骨細胞の骨吸収活性は抗カルパスタチン抗体添加で上昇し,カルパスタチン活性ペプチド添加で減少した。カルパインは破骨細胞の活性化によりRAの関節破壊機序に関与し、その阻害物質が関節破壊を抑制しうる可能性が示唆された。日本におけるRA患者は約70万人と言われ、男女比約1:5で女性に多い。Cochrane libraryでは、RA治療に関するmeta-analysisが11件、少量ステロイド治療に関しては2つのmeta-analysisがあった。抗リウマチ薬による治療の9件があった。このようなRA治療に関するevidenceを集め、治療法確立に役立てたい。
結論

性関節リウマチ早期治療指針確立のための臨床研究として、メトトレキサート単独、ブシラミン単独、両者併用の3群間の二重盲検比較試験は、現在エントリーを終わり、2年間の観察を行っている。キーオープン例の分析は併用療法の有効性を示唆した。次世代の早期治療薬開発についても、ヒト型化抗IL-6R抗体の著明な臨床的効果が示され、また、臨床的有効性が報告されたPGE療法も、関与するPGE受容体サブタイプ、PDEアイソザイムが明らかにされた。一方、IL-10及びTSP-1産生プラスミドによる遺伝子治療が開発されつつある。IL-8およびMIP-3αの特異的制御は抗リウマチ作用につながることが期待される。さらに、カルパイン阻害物質による関節炎抑制とともに骨吸収抑制が示され、将来の治療法として注目された。

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