アトピー原因遺伝子の同定とその機能解析に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000606A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー原因遺伝子の同定とその機能解析に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
柳原 行義(国立相模原病院臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤直実(岐阜大学医学部小児科)
  • 出原賢治(佐賀医科大学医学部生化学)
  • 田中敏郎(大阪大学医学部分子病態内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー性疾患は環境的要因と遺伝的要因の相互作用により発症する複雑な疾患であり、またこの遺伝的要因はアトピー素因と呼ばれている。本疾患の発症には家族集積性が認められること、また本疾患は多様な病態像を示すことから、アトピー素因には多くの遺伝子の多型や異常が関与していると考えられている。アトピー原因遺伝子としては、アレルギーの発症や病態形成に関わるIgE、IgE受容体、サイトカイン、サイトカイン受容体、シグナル伝達分子および転写調節因子などの多くの遺伝子がその候補に挙げられている。しかし、これらの候補遺伝子の機能解析が必ずしも十分でないために、機能的にも重要なアトピー原因遺伝子については不明な点が多いのが現状である。本研究班においては、アトピーの原因となり得る主要な候補遺伝子群について、分子遺伝学的、遺伝子工学的および生化学的な手法を用いて多角的な解析を進めている。また、遺伝学的および機能的な両面で重要なアトピー原因遺伝子群の簡便な遺伝子診断法を確立することによって、アトピーの予知やアレルギーの発症予防に応用する。
研究方法
インフォームドコンセントが得られた健常者とアトピー患者の末梢血単核細胞からDNAを抽出し、SSCP法、RFLP法あるいはdirect sequence法によりアトピー原因候補遺伝子群の塩基配列を解析した。また、サイトカインや免疫グロブリンはELISAあるいはRIAにより、各種遺伝子の発現はRT-PCR法により、それぞれ測定した。
結果と考察
・成熟B細胞上のタイプIあるいはタイプII IL-4RとCD40が活性化されると、抗原レセプターの可変部配列を変えることなく、IgMからIgEへのクラススイッチが誘導される。抗体遺伝子の抗原特異性はB細胞の初期の分化段階で発現されるRAGによるV(D)J組換えを介して獲得されている。しかし、成熟B細胞をIL-4と抗CD40抗体で刺激すると、IgEクラススイッチングの前にRAGが発現されると共に、一部の膜型IgE陽性B細胞にはVJ組換えが誘導されることが明らかとなった。このようなRAG発現はIL-13と抗CD40抗体の刺激では誘導されないので、RAGによるVJ組換えにはタイプI IL-4RとCD40の活性化が重要な役割を果たしている。これらのレセプター分子のうち、IL-4Rαのみにアミノ酸置換を生じる遺伝的多型が存在し、また成熟B細胞におけるRAG発現はIL-4Rαの50Ile-Val多型によって調節を受けることも判明した。実際、50Val型では50Ile型に比べて、RAG発現のみならず、VJ組換えも強く誘導された。一方、IgEクラススイッチの誘導能は50Ile型の方が50Val型よりも高かった。さらに、50Ile-Val多型とアトピーとの関連を調べたところ、アトピー性皮膚炎では、アトピー性喘息では50Ile型の頻度が高いのに対して、50Val型の頻度が高かった。これらの結果から、多くのアレルゲンに感作されているアトピー性皮膚炎患者で頻度が高い50Val型は、成熟B細胞でのRAG発現による抗原レセプターのエディテングを介してIgE抗体の多様性の獲得に関与していると考えられた。
・IL-13遺伝子には、110番目のアミノ酸がArgからGlnに置換される遺伝的多型 (R110Q) が存在すること、アトピー型と非アトピー型の両喘息患者においてはGln型の頻度が高いことおよびR110Qと連鎖不均衡している多型が複数存在することを明らかにした。また、血中IL-13値もGln型ではArg型に比べて高いことを示すと共に、コンピューターモデリングではArg型とGln型ではIL-13Rとの結合に差がある可能性も示唆した。IL-13のR110Qの機能的影響を解析する目的で、Arg型とGln型の各リコンビナント蛋白質を大腸菌に発現させることを試み、その発現と精製に成功した。精製したIL-13は、自然型IL-13と同様、分子内ジスルフィド結合のみを作っていることを確認した。さらに、IL-13の結合やシグナルを解析するために、IL-13Rα1とIL-13Rα2の強制発現B細胞株も作製した。強制発現したIL-13Rα1はIL-4Rαとヘテロダイマーを形成することにより機能的なIL-13レセプターを構成し、STAT6やSTAT3の活性化などのIL-13シグナルを伝達することを明らかにした。一方、IL-13Rα2はIL-13のシグナルを抑制するので、デコイ (おとり)レセプターとして機能していると考えられた。このような強制発現細胞株を用いることによって、IL-13のR110Qの機能的解析が可能になった。
・IL-18はIL-12共存下ではTh1細胞への分化を促進し、またIgE産生細胞への分化を抑制する。一方、IL-18は単独ではTh2細胞への分化や好塩基球からのTh2タイプサイトカイン産生を誘導するので、まず即時型アレルギーの発症におけるIL-18の機能について検討した。ヒト活性化好酸球はIL-18レセプターを発現しており、IL-18刺激によりIL-8の産生が増強された。また、NC/Ngaマウスでは皮膚炎発症前より血清IL-18レベルが上昇しており、発症後においてもその上昇は持続していた。同様に、アトピー性皮膚炎患者の血清IL-18レベルも対照と比較して増加していた。NC/Ngaマウスに発症前から抗IL-18中和抗体を投与したところ、抗体投与により皮膚炎の増悪が認められた。この結果は、IL-18が皮膚炎の病態形成において2面性の作用を有することを示している。次に、IL-18とその活性型変換酵素であるcaspase-1の各構造遺伝子の多型の有無を解析した結果、ヒトにおいてはIL-18遺伝子の105A/Cの多型性が認められることが明らかになった。アトピー患者におけるこの多型の頻度と意義については、現在解析を進めている。
・IFN-γの産生不全を示すアトピー患者におけるIgE過剰産生の原因となる遺伝子を同定するために、昨年度はIL-12シグナリングの異常としてIL-12Rβ2の遺伝子変異を明らかにしたので、今年度はIL-18シグナリングを媒介するIL-18Rαを取り上げた。血中IgEが高値を示すアトピー患者の末梢血単核細胞をIL-12やIL-18で刺激すると、IFN-γの産生量は正相関を示した。しかし、IL-12刺激ではIFN-γは十分産生されるものの、IL-18刺激ではその産生が極めて低下しているような解離を示す症例がみられた。このようなIFN-γ産生の不全症例では、IL-18シグナリングに異常が存在すると考えられたので、IL-18Rαの遺伝子変異について検索した結果、del CAGの異常が同定できた。また、del CAGをもつ症例では、もたない症例に比べて、IL-18によるIFN-γ産生は有意に低下していることが明らかになった。このdel CAGはゲノムDNAを用いた解析では検出されないことから、alternative splicingに起因する異常と考えられた。
・ダニアレルゲン感受性のアトピー型喘息においては、Ach PC20が20,000 γ以下の群ではアレルゲン応答性のIL-5産生は亢進していたが、20,000 γ以上の群では有意なIL-5産生を認めなかった。気道過敏性の成立には、先天性、後天性の諸因子が指摘されているが、アレルゲン応答性T細胞の産生するIL-5が気道過敏性の要因である可能性が示唆される。また、この知見はIL-5産生に関わる遺伝子の多型解析が重要であることを支持している。
結論
今年度の研究成果から、アトピー性疾患の発症や病態形成には、昨年度同定した遺伝子に加えて、さらに複数の遺伝子が関与していることが明らかになった。現在、本研究班が独自に同定したアトピー原因遺伝子群の多型や変異を組み合わせた簡便な遺伝子診断法の系を確立するために、各研究分担者および研究協力者がお互い近密なネットワークを組みながら、条件設定を行っている。

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