花粉症に対する各種治療法に関する科学的根拠を踏まえた評価研究

文献情報

文献番号
200000603A
報告書区分
総括
研究課題名
花粉症に対する各種治療法に関する科学的根拠を踏まえた評価研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
今野 昭義(千葉大学医学部耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
  • 島 正之(千葉大学医学部公衆衛生学)
  • 寺田修久(千葉大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 大久保公裕(日本医科大学耳鼻咽喉科)
  • 仲野公一(千葉大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 石井豊太(国立相模原病院耳鼻咽喉科)
  • 花澤豊行(千葉大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 沼田 勉(千葉大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 久保伸夫(関西医科大学耳鼻咽喉科)
  • 八尾和雄(北里大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 岡本美孝(山梨医科大学耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
花粉症における自然寛解の頻度、花粉飛散期における医師側から見た、また患者側から見た花粉症症例の対応の実態と問題点を明らかにすると同時に、既存の各種治療法をエビデンスに基づいて評価を行い、さらにエビデンスの不十分なものについては本研究においてその意義を確認することにある。
研究方法
花粉症に対する既存の各種治療法を客観的に評価するために以下の研究を行った。
① スギ花粉症の自然史、特に自然寛解、中高年齢発症、重複感作の実態とその背景因子の解明
② 疫学調査による患者側から見た花粉症治療に対する満足度、QOLの実態と問題点の分析
③ 各種環境下における浮遊および鼻腔内吸入スギ花粉数の動態と花粉防御製品の客観的評価
④ 花粉症の長期寛解または根治を期待できる唯一の治療法としての減感作療法の客観的評価と奏功機序の解明
⑤ メタアナリシスによる抗アレルギー薬の効果の評価
⑥ 医師側から見た受診後の患者の動態と各種薬物療法の有効性、コンプライアンス、副作用と患者のQOLの評価
⑦ 理学的療法(温熱療法)の客観的評価とその奏功機序の解明
⑧ 手術療法(レーザー手術およびChemosurgery)の客観的評価と奏功機序
⑨ 民間療法の実態とその評価
結果と考察
1)スギ花粉症の自然史: ①1995年から2000年まで千葉県安房郡丸山町住民を対象とした縦断的研究においても横断的調査と同じように、41歳以上の加齢により血清スギIgE値の低下を認めた。しかし、花粉飛散期における発症率には明らかな低下を認めなかった。1995年以降の5年間で成人有症者の約20.3%でスギ花粉症状消失がみられた。自然緩解を左右する因子は発症年齢であり、30歳未満発症者における自然緩解は1名(発症54年後)で認められたにすぎない。また41歳以上の中高年者においても自然緩解者とほぼ同じ数の新規発症者がみられた。自然緩解者においては全例で血清スギIgE抗体値の低下が見られたのに対して、新規発症者においては1/2においてのみスギIgE値の上昇が見られた。②全年齢を等してスギとダニ、カモガヤ、ヨモギとの重複感作率は小児、成人それぞれダニ76.3%、36.8%、カモガヤ59.3%、54.7%、ヨモギ16.9%、23.6%でみられ、スギを含めて3種の抗原、または4種の抗原の重複感作はそれぞれ3種40.7%、25.7%、4種13.6%、10.4%でみられた。特に小児においては単独感作率はスギ、ダニ、カモガヤ、ヨモギそれぞれ2.1%、8.3%、0.7%、0%にすぎず、ほとんどはスギを主とする他の抗原との重複感作である。③千葉県君津市の山間部にあるA小学校および東京湾岸の臨海工業地帯に隣接したB、C小学校の6-12歳の全学童1265名を対象としてアンケート調査、血清スギIgE抗体測定を行い、居住環境の違いがスギ花粉症の感作と発症に与える影響を検討した。スギ感作率はスギ花粉飛散量の最も多い山間部にあるA校で最も高く、C校で最も低く、感作に最も強く関与する因子は花粉暴露量(抗原量)であることを示唆した。3校平均のIgE抗体陽性率は27.5%であり、季節性鼻・結膜症状の有症率は3校平均で10.4%であった。
2)患者側からみた花粉症治療に対する満足度とQOLの実態:健康雑誌と医院の診療窓口においたアンケート用紙に患者が自由に答える形式のアンケート調査を行い、花粉症患者の満足度と不満の原因を調査した。医療機関で治療を行った患者で満足の返答を得たのは23.7%だけであり、73.3%は不満足、2.5%は無回答であった。その原因は第一に効果が不十分、第二に副作用、第三に通院の煩わしさであった。日本におけるアレルギー性鼻炎に対する薬物療法の治験は通年性症例を対象として行われており、花粉大量飛散期に一般的に見られる重症、最重症症例に対しては、症状に応じて奏功機序の異なる複数の薬剤の組み合わせによる治療など、治療法の改善が必要と考えられた。QOL調査では一般的に用いられているSF-36を用いたQOL評価は、急性炎症性疾患に類似する花粉症の苦しみを適切に評価できず、花粉症独自のQOL評価法の開発が必要であることが示された。
3)花粉防御製品の客観的評価:マスク装着によって鼻粘膜上に沈着する花粉数をどこまで抑制し、沈着花粉数は空中飛散花粉数にどのような影響を受けるのかを明らかにする目的で、被験者二人をpairにして、クロスオーバー法を用いて一人はマスク装着あり、一人はなしとして花粉飛散期に屋外を並んで行動させた。マスク装着により鼻粘膜上沈着花粉数は有意に抑制されるが、その程度は気象条件に左右され、個人差も大きいことを明らかにした。
4) 減感作療法の客観的評価:治療後5年以上経過した花粉症症例にアンケート調査を行い、減感作療法の長期予後に関する検討を行った。花粉高飛散年である平成12年5月のアンケート調査で、2年以上の減感作療法施行群80例と、その他の治療群58例の2群で改善以上の改善率は減感作療法群で72.5%、その他の治療群で58.6%であり、有意差(p<0.05) をもって減感作療法群で高い改善率が認められた。スギ花粉症に対する特異的減感作療法の効果は、治療を終了した後5年以上経過しても持続し、その他の治療群と比較してその効果は有意に高いことが示された。また1997年11月から1999年6月間での1年6ヶ月間に減感作療法を実施したスギ花粉症10症例ついてSymptom-medication score (SMS)を用いて臨床症状の変化を追うと、1998年2.24、1999年1.74、2000年1.93であり、減感作療法の効果は治療を終了した翌年のスギ花粉高飛散時にも持続していた。スギ特異的IgE抗体は減感作療法開始前と比較して、スギ花粉飛散前には有意に低いレベルに維持されていた(p=0.04)。スギ特異的IgG4は減感作療法により1998年と1999年には有意に増加したが、その傾向は2000年にも持続していた。末梢血単核球のスギ抗原刺激時におけるIL-4産生量は、1998年の飛散前と2000年の飛散前を比較すると有意に減少していた(p=0.01)が、2000年の花粉飛散前後を比較すると花粉暴露後に有意な増加を示した (p=0.01)。IL-5産生量は、減感作療法により1999年飛散前には1997年の治療開始前と比較して有意に低下していたが、2000年にもその傾向は持続し、花粉飛散前後では統計学的に有意な変化は認められなかった。特異的減感作療法により修飾されたアレルゲン刺激に対するT細胞応答は、治療を終了した1年後のスギ花粉高飛散年においても持続していることが示された。
5)医師側からみた花粉症治療の評価:平成12年度に治療を行った花粉症症例190例を対象としてアンケート調査を行い、薬物療法の有用性、治療に対する満足度、薬剤のコンプライアンスについて評価した。50%は平成12年度の治療に満足しており、減感作療法群89名の50%は服薬なしでコントロールでき、55%が治療に満足していた。59症例に季節前治療の意義について説明したが、実際に治療を受けたのは37症例であった。平成12年は平成5年に次ぐスギ花粉大量飛散年であったが、特に減感作療法群の治療成績が優れていることを明らかにした。
6)抗アレルギー薬の通年性アレルギー性鼻炎に対する臨床効果の客観的評価:第一世代H1拮抗薬、初期第二世代H1拮抗薬、後期第二世代H1拮抗薬、脂質メデイエーター拮抗薬をMantel-Haenszel法を用いてメタアナリシスを行った。第一世代H1拮抗薬を対照薬とした初期第二世代H1拮抗薬の比較では臨床効果、副作用に両群間に有意差なく、初期第二世代H1拮抗薬を対照薬とした後期第二世代H1拮抗薬の比較では臨床効果に差はないが、副作用は後者で有意に減少していた。脂質メデイエーター拮抗薬と後期第二世代H1拮抗薬との比較では鼻閉、鼻汁、最終全般改善度については前者が有意にすぐれ、くしゃみ、副作用頻度では、両群間で有意差を認めなかった。
7)理学的療法の客観的評価:アレルギー性鼻炎に対して文献的に一般的な理学療法として現状において認められるのは加温、加湿空気吸入療法(スチーム療法)だけであるとして、中等症以上の通年性アレルギー性鼻炎8名を対象としたクロスオーバー法でスカイナースチーム(43℃、10分間、1日2回)を4週間行った期間と、行わない期間(4週間)における鼻過敏症状と鼻粘膜アレルギー反応の違いをアレルギー日記上の各症状スコア、抗原誘発後のくしゃみ回数、鼻腔容積変化(acoustic rhinometry 使用)、鼻洗浄液中のメデイエーター(トリプターゼ、ECP、アルブミン)量で比較、評価した。スチーム療法は、アレルギー日記上のくしゃみ、鼻汁、鼻閉スコアをいずれも有意に抑制した。また鼻腔通気度を有意に改善した。一方コントロールでは変化はみられなかった。またスチーム療法は抗原誘発後のくしゃみを有意に抑制し、鼻腔容積を有意に増加させた。コントロールでは有意な変化は認められなかった。鼻洗浄液中のメデイエーターについては現在測定中であるが、スチーム療法は鼻過敏症状と鼻粘膜におけるアレルギー反応を抑制することを示し、特に薬物療法を用い難い鼻アレルギー妊婦に有用な治療法であると考えられる。
8)レーザー手術の客観的評価とその奏功機序:スギ花粉症11例を対象として季節前炭酸ガスレーザー下甲介粘膜表層蒸散術を行い、季節前・季節中薬物療法群10例とSymptom-medication score (SMS)およびsymptom score(SS)を比較した。両群のSSは花粉飛散の全ての時期でほぼ同じであり、SMSは全ての時期でレーザー手術が優れていることを報告した。
9) chemosurgeryの客観的評価とその奏功機序:スギ花粉症90症例を対象として80w/v%トリクロール酢酸下甲介塗布療法 (TCA)を行い、TCA後鼻洗浄液中のヒスタミン、ECPおよび鼻粘膜抗原誘発反応は有意に抑制されることを明らかにし、TCAは鼻粘膜におけるアレルギー反応を抑制することを示した。
10)民間療法の実態と効果の評価:スギ花粉症患者1617名、山梨県一宮地区住民135名を対象として民間療法に関するアンケート調査を行ったが、25%が民間療法の経験ありと答え、その内容は各岐にわたった。また有効性に関して有効が無効を上回った治療法は漢方(50%)、鼻スチーム療法(46%)だけであった。また南瓜種、紅花粉末療法については通年性アレルギー性鼻炎34症例を対象としてinactive placeboを用いたopen studyを行い、その有効性を検討したが、有効率、鼻汁スメア、血清IgE値、鼻粘膜抗原誘発検査のいずれにおいても有効性は全く認められなかった。
結論
スギ花粉感作とスギ花粉症発症の低年齢化、若年発症者における自然緩解率の低さ、ダニおよびその他花粉抗原との重複感作率の増加が確認された。いずれも今後のスギ花粉症対策上、大きな問題となる。また感作と発症のずれの解明のためには自然緩解症例、感作陽性未発症症例の背景因子の検討が重要となる。アンケート調査よりみたスギ花粉症治療に対する患者の満足度は極めて低く、専門医が患者指導を含めて十分に治療した際の満足度とは大きく異なる。現在、多彩な薬物が開発、市販されているが、薬効、副作用の点でそれぞれに特徴がある。重症花粉症に対する単一薬剤による治療には大きな限界があり、複合療法をも含めて重症度に応じた治療法の選択が重要である。花粉防御製品の効果はモデル実験の成績とは異なり、気象条件、花粉飛散状況の影響を強く受けた。減感作療法の効果は治療終了6ヶ月後にも臨床効果および抗原刺激末梢血単核球のIL-5産生抑制効果ともに持続し、基本的治療手段としての本法の意義を確認できた。ただし2000年度は抗原刺激単核球のIL-4産生抑制効果は減少傾向を示した。今後は安全性の向上と同時に効果持続に関する検討が必要である。理学的療法としてはスチーム療法の効果を評価し、鼻過敏症状特に鼻粘膜腫脹に対する効果を確認できた。薬物を用い難い妊婦に対して第一選択として用いられる。レーザー手術、chemosurgeryともに局所ステロイド療法に匹敵する臨床効果を確認でき、後者では鼻粘膜におけるアレルギー反応の抑制が認められた。今後は効果の持続期間に関する検討が必要である。民間療法に関する調査では自己評価で有効率が無効率より高いものは漢方と鼻スチーム療法だけであった。また客観的評価で南瓜種、紅花粉末療法の効果は確認できなかった。代表的な民間療法の有効性について客観的評価を継続中である。

公開日・更新日

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