文献情報
文献番号
200000602A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎の病因・病態の解明及び新治療の開発に関する総合研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西岡 清(東京医科歯科大学医歯学総合研究科環境皮膚免疫学)
研究分担者(所属機関)
- 玉置邦彦(東京大学医学系研究科皮膚科学)
- 烏山 一(東京医科歯科大学医歯学総合研究科感染分子制御学)
- 真弓光文(福井医科大学皮膚科学)
- 瀧川雅浩(浜松医科大学皮膚科学)
- 片山一朗(長崎大学医学部皮膚科学)
- 相馬良直(聖マリアンナ医科大学皮膚科学)
- 古賀哲也(九州大学医学部皮膚科学)
- 塩原哲夫(杏林大学医学部皮膚科学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
90,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アトピー性皮膚炎の病態として・IgE抗体過剰産生によるアレルギー炎症と、・皮膚バリア機能異常による皮膚易刺激性が挙げられ、後者についてはすでに研究が進行し、スキンケアを中心とする治療法が行われている。しかし、本症の難治例が蓄積されており、患者の生活の質を大きく障害している。本症の難治化において、アレルギー炎症が重要な役割を果していることが考えられていることから、アトピー性皮膚炎における免疫学的異常の実態を解明する目的で、アトピー性皮膚炎の動物モデルの開発とその解析、アレルギー炎症におけるリンパ球のTh1/Th2シフト機構の解明、ストレス、酸化ストレスのアレルギー炎症への影響について検討し、その成果に基づくアトピー性皮膚炎の新治療法を開発する。
研究方法
研究方法と結果=烏山班員は、化学物質、ダニ抗原に特異的に反応するIgE抗体の遺伝子を導入したマウスならびにヒトIgE受容体α鎖遺伝子を導入したマウスを作成し、アトピー性皮膚炎のIgE抗体を中心とした免疫学的背景について検討した。IgE抗体遺伝子を導入したマウスでは、抗原投与による2相性の炎症反応につづいて、3相目の炎症反応が惹起されることを発見した。また、高IgE血症を示すアレルゲン特異的IgEトランスジェニックマウスの骨髄由来肥満細胞は、μm-/-マウスの肥満細胞に比して20-30倍のIgE高親和性受容体(FcεRI)の発現増強を示し、FcεRIの発現はIgEの受容体結合によって促進され、IgEと結合した受容体は自然崩壊に対して抵抗性を示した。さらに、ヒトα鎖遺伝子を導入したマウス肥満細胞は、ヒトIgEとの結合によってヒトα鎖を持つFcεRIが高発現させ、FcεRIの高発現に受容体α鎖の発現が重要な関わりを持っていたことから、α鎖の膜貫通部分の安定性を操作してIgEとの結合を阻害すること、また、α鎖の発現を操作することにより、アレルギー反応を抑制できる可能性を示した。
西岡は、IgE抗体受動転嫁により起こる即時型反応と遅発型反応が、アトピー性皮膚炎の炎症反応に重要な役割を果すことから、この反応を阻害できる薬物を探索することによってアトピー性皮膚炎の新しい治療薬開発の可能性を考えた。特に、遅発型反応の発現には、IL-4の作用が関与している可能性があることから、IL-4の細胞内シグナル伝達を担うSTAT-6を欠損したマウスを用いて遅発型反応の発現を検討した。STAT-6KOマウスでは、正常マウスに比して、IgE抗体受動転嫁による即時型反応と遅発型反応の有意な減弱が見られ、IgE抗体を介する皮膚反応の発現にIL-4が関与していることが明らかとなったことから、STAT-6分子の作用を阻害する薬物を検討する方向性を示した。
塩原班員は、化学物質アレルゲンの繰り返し塗布によって、Th1型反応からTh2型反応に移行するモデルを開発し、繰り返し塗布後の皮膚反応がアトピー性皮膚炎のモデルとなることを明かにしている。このTh1からTh2へのシフト機構を、リンパ節細胞のサイトカインの発現で調べると、塗布後期では、IL-4を産生するCD4+T細胞が3倍程度に増加したが、IFNγを産生するCD8+T細胞の減少は見られなかった。さらに、樹状細胞について検討し、塗布後期でIL-12を産生する樹状細胞が減少していることを見いだした。以上のことから、塗布後期のTh2型反応へのシフトは、IL-4産生CD4+T細胞の3倍程度の増加とIL-12産生樹状細胞の減少によると考えられた。
玉置班員は、アトピー性皮膚炎患者末梢血のCD4+CD45RO+T細胞のCXCR3とCCR4のケモカイン受容体発現を検討し、Th2細胞のマーカーとされるCCR4+T細胞の増加が見られ、アトピー性皮膚炎の重症度と平行することを明らかにした。また、マウス皮膚から高純度で分離したランゲルハンス細胞を、抗CD40とIFNγ存在下で培養するとIL-12産生がおこる。このIL-12産生は、GM-CSFによって濃度依存的に抑制 され、TGF-βによって産生が増強した。この知見は、ランゲルハンス細胞機能を調節することによって、アトピー性皮膚炎でのTh2型反応を制御することができる可能性を示すものである。
相馬班員は、アトピー性皮膚炎患者末梢血のダニ抗原 刺激を行い、末梢血T細胞にオリゴクローナルのT細胞受容体の発現を観察し、同一患者の病変部皮膚に、同じT細胞受容体をもつオリゴクローナルなT細胞の浸潤が起こっていることを見いだした。
滝川班員は、アトピー性皮膚炎炎症部位に浸潤するTh2細胞の浸潤動態を制御するため、血管内皮細胞に発現するE-セレクチンなどの接着分子の発現を制御できる多糖体を検索したが、今年度は、効果的な多糖体は見いだせなかった。さらに、アトピー性皮膚炎患者の精神活動性を客観的に評価するために、STAI(State-Trail Anger Expression Scale)を用いて調査し、本症患者はSTAI値が高く、不安状態にあることを見いだし、本症でのストレス対策の重要性を示した。
片山班員は、アトピー性皮膚炎病態の修飾においてストレスの役割が大きいことから、ストレスによって生じる神経ペプチドのアトピー性皮膚炎における役割を検討した。ヒト角化細胞は、サブスタンスP(SP)の刺激によってSPを産生するようになり、皮膚の炎症反応を増幅する可能性を示し、SP、ヒスタミンの存在下でIL-4によって誘導される線維芽細胞からのエオタキシン産生が亢進し、炎症細胞の局所への浸潤を増強させ、炎症反応を増悪させることを明らかにした。神経ペプチドの作用を調整する薬物の開発の必要性を示すものである。
真弓班員は、アトピー性皮膚炎の遷延化と重症化における酸化ストレス亢進による活性酸素/活性窒素の役割を検討した。比較的症状が安定している小児アトピー性皮膚炎患者の尿中8(OH)dG(酸化ストレスの指標)、NOx-(NO産生の指標)、セレン(セレン備蓄の指標)を測定し、8(OH)dGはアトピー性皮膚炎群で増加していたが、NOx- は健康者に高く、セレンは両群で差は見られなかった。NOx-の低下は慢性ストレスによるNOドナーの低下、IL-4によるiNOS産生の低下などが考えられ、酸化ストレスによる症状の遷延化を抑制 する治療薬の検討の必要性を示した。
古賀班員は、抗酸化薬(CX-695S)が接触皮膚炎の惹起反応を抑制することから、表皮ランゲルハンス細胞への抗酸化薬の作用を検討した。CX-695Sは、ランゲルハンス細胞からのIL-1β産生をmRNAレベル、蛋白レベルの両方で抑制 することが明らかにし、抗酸化薬CX-695Sがアトピー性皮膚炎の治療薬となりうる可能性が示した。
西岡は、IgE抗体受動転嫁により起こる即時型反応と遅発型反応が、アトピー性皮膚炎の炎症反応に重要な役割を果すことから、この反応を阻害できる薬物を探索することによってアトピー性皮膚炎の新しい治療薬開発の可能性を考えた。特に、遅発型反応の発現には、IL-4の作用が関与している可能性があることから、IL-4の細胞内シグナル伝達を担うSTAT-6を欠損したマウスを用いて遅発型反応の発現を検討した。STAT-6KOマウスでは、正常マウスに比して、IgE抗体受動転嫁による即時型反応と遅発型反応の有意な減弱が見られ、IgE抗体を介する皮膚反応の発現にIL-4が関与していることが明らかとなったことから、STAT-6分子の作用を阻害する薬物を検討する方向性を示した。
塩原班員は、化学物質アレルゲンの繰り返し塗布によって、Th1型反応からTh2型反応に移行するモデルを開発し、繰り返し塗布後の皮膚反応がアトピー性皮膚炎のモデルとなることを明かにしている。このTh1からTh2へのシフト機構を、リンパ節細胞のサイトカインの発現で調べると、塗布後期では、IL-4を産生するCD4+T細胞が3倍程度に増加したが、IFNγを産生するCD8+T細胞の減少は見られなかった。さらに、樹状細胞について検討し、塗布後期でIL-12を産生する樹状細胞が減少していることを見いだした。以上のことから、塗布後期のTh2型反応へのシフトは、IL-4産生CD4+T細胞の3倍程度の増加とIL-12産生樹状細胞の減少によると考えられた。
玉置班員は、アトピー性皮膚炎患者末梢血のCD4+CD45RO+T細胞のCXCR3とCCR4のケモカイン受容体発現を検討し、Th2細胞のマーカーとされるCCR4+T細胞の増加が見られ、アトピー性皮膚炎の重症度と平行することを明らかにした。また、マウス皮膚から高純度で分離したランゲルハンス細胞を、抗CD40とIFNγ存在下で培養するとIL-12産生がおこる。このIL-12産生は、GM-CSFによって濃度依存的に抑制 され、TGF-βによって産生が増強した。この知見は、ランゲルハンス細胞機能を調節することによって、アトピー性皮膚炎でのTh2型反応を制御することができる可能性を示すものである。
相馬班員は、アトピー性皮膚炎患者末梢血のダニ抗原 刺激を行い、末梢血T細胞にオリゴクローナルのT細胞受容体の発現を観察し、同一患者の病変部皮膚に、同じT細胞受容体をもつオリゴクローナルなT細胞の浸潤が起こっていることを見いだした。
滝川班員は、アトピー性皮膚炎炎症部位に浸潤するTh2細胞の浸潤動態を制御するため、血管内皮細胞に発現するE-セレクチンなどの接着分子の発現を制御できる多糖体を検索したが、今年度は、効果的な多糖体は見いだせなかった。さらに、アトピー性皮膚炎患者の精神活動性を客観的に評価するために、STAI(State-Trail Anger Expression Scale)を用いて調査し、本症患者はSTAI値が高く、不安状態にあることを見いだし、本症でのストレス対策の重要性を示した。
片山班員は、アトピー性皮膚炎病態の修飾においてストレスの役割が大きいことから、ストレスによって生じる神経ペプチドのアトピー性皮膚炎における役割を検討した。ヒト角化細胞は、サブスタンスP(SP)の刺激によってSPを産生するようになり、皮膚の炎症反応を増幅する可能性を示し、SP、ヒスタミンの存在下でIL-4によって誘導される線維芽細胞からのエオタキシン産生が亢進し、炎症細胞の局所への浸潤を増強させ、炎症反応を増悪させることを明らかにした。神経ペプチドの作用を調整する薬物の開発の必要性を示すものである。
真弓班員は、アトピー性皮膚炎の遷延化と重症化における酸化ストレス亢進による活性酸素/活性窒素の役割を検討した。比較的症状が安定している小児アトピー性皮膚炎患者の尿中8(OH)dG(酸化ストレスの指標)、NOx-(NO産生の指標)、セレン(セレン備蓄の指標)を測定し、8(OH)dGはアトピー性皮膚炎群で増加していたが、NOx- は健康者に高く、セレンは両群で差は見られなかった。NOx-の低下は慢性ストレスによるNOドナーの低下、IL-4によるiNOS産生の低下などが考えられ、酸化ストレスによる症状の遷延化を抑制 する治療薬の検討の必要性を示した。
古賀班員は、抗酸化薬(CX-695S)が接触皮膚炎の惹起反応を抑制することから、表皮ランゲルハンス細胞への抗酸化薬の作用を検討した。CX-695Sは、ランゲルハンス細胞からのIL-1β産生をmRNAレベル、蛋白レベルの両方で抑制 することが明らかにし、抗酸化薬CX-695Sがアトピー性皮膚炎の治療薬となりうる可能性が示した。
結果と考察
結論
考察ならびに結論=平成12年度の研究において、アトピー性皮膚炎の病因・病態の解明に重要な多くの研究成果が得られ、いくつかの新しい治療薬開発の可能性が示唆された。モデルマウスを用いた研究から、高親和性IgE受容体α鎖の発現と膜安定性を操作する治療薬の開発、遅発型反応機序の解析結果から、IL-4シグナル伝達に必須のSTAT-6の作用を調節する治療薬の開発、アレルゲン繰り返し塗布モデルの炎症反応の解析結果とランゲルハンス細胞機能の解析結果から、樹状細胞機能を調節するサイトカイン、薬物の開発、接着分子発現を調節する薬物の開発、神経ペプチドの産生調節を行う薬物の開発、酸化ストレスを抑制する抗酸化薬の開発などのアトピー性皮膚炎治療の新戦略が得られた。中でも、抗酸化薬はすでに効果が予測できる段階となっており、今後の研究の進展が期待される。その他の治療戦略についても、アトピー性皮膚炎治療薬開発への礎を築くものであり、治療薬開発に向けての研究を続行する予定である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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