文献情報
文献番号
200000598A
報告書区分
総括
研究課題名
食物アレルギーの実態及び誘発物質の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
海老澤 元宏(国立相模原病院薬物・食物アレルギー研究室)
研究分担者(所属機関)
- 近藤直実(岐阜大学医学部小児科)
- 池澤善郎(横浜市立大学医学部皮膚科)
- 飯倉洋治(昭和大学医学部小児科)
- 小倉英郎(国立療養所東高知病院)
- 柴田瑠美子(国立療養所南福岡病院)
- 赤澤晃(国立小児病院アレルギー科)
- 橋本勉(和歌山県立医科大学公衆衛生学)
- 豊田正武(国立医薬品食品衛生研究所食品生化学)
- 眞弓光文(福井医科大学小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
食物アレルギーは「免疫学的な機序を介して生体にとって不利益となる症状を引き起こす現象」と定義されIgE抗体を介する即時型とそれ以外の機序を介する非即時型に分類される。食物抗原特異的IgE陽性を直ちに食物アレルギーとは言えず、IgEを介さない非即時型の場合や乳児早期には食物抗原特異的IgE抗体が陰性でも食物アレルギーが認められる。乳幼児では月単位で食物アレルギーが出現したり軽快したりする。このことが食物アレルギーの診断を困難にし医療の現場が混乱している要因である。また食物摂取後に出現した症状を食物アレルギーとする患者の判断が医師による判断と異なることがある。厚生省食物アレルギー検討対策委員会(委員長:飯倉洋治)での検討は、誰が見ても食物アレルギーとするのに異論がないように治療を要した重篤な即時型の食物アレルギーに限定して全国調査を行った。そのデータをもとにアレルギー物質を含む食品の表示を義務づける報告を食品衛生調査会表示特別部会が提言した。アレルギー物質を含む食品に関する表示の適正化を重要な課題の一つとして、今年度から食物アレルギーに関する研究班が発足し、研究の目的は以下の通りである。
1)我が国の食物アレルギーの実態の継続的な把握。2)アレルギー物質を含む食品に関する表示のあり方の検討。3)食物アレルギーの発症機序の解明(小児即時型・小児非即時型・成人型に分類した病型分類上の観点から、抗原学的見地観点から、免疫学的観点から)。4)食物アレルギーの診断方法の確立。5)我が国に独特な食物抗原の解析。6)食物アレルギーの診断・治療ガイドラインの作成。
1)我が国の食物アレルギーの実態の継続的な把握。2)アレルギー物質を含む食品に関する表示のあり方の検討。3)食物アレルギーの発症機序の解明(小児即時型・小児非即時型・成人型に分類した病型分類上の観点から、抗原学的見地観点から、免疫学的観点から)。4)食物アレルギーの診断方法の確立。5)我が国に独特な食物抗原の解析。6)食物アレルギーの診断・治療ガイドラインの作成。
研究方法
1)我が国の食物アレルギーの実態の継続的な把握
飯倉らは昨年までの食物アレルギー対策検討委員会の調査に継続して食物アレルギーのモニタリング調査を立ち上げるべく日本アレルギー学会認定医・専門医および日本小児アレルギー学会会員を対象としてモニタリングの協力を要請した。橋本らは我が国における食物アレルギーの実態を過去20年間の文献から調査した。中村らは疫学的見地から食物アレルギーの疫学調査のあり方を検討した。
2)アレルギー物質を含む食品に関する表示のあり方の検討
臨床系研究者8名がアレルギー物質を含む食品に関する表示のあり方に関し情報交換や検討会を開催し食品衛生調査会表示特別部会への答申をまとめた。
3)食物アレルギーの発症機序の解明
柴田は小児期に即時型食物アレルギーを呈した200例の発症時の臨床背景・アレルゲン食品・重症食物アレルギーの予後を検討した。小倉は小児341例を対象に708回の経口誘発試験を行い覆面型アレルギーの機序に関して検討した。池澤は成人期の食物アレルギーの発症機序に対する検討として成人アトピー性皮膚炎患者に対する抗真菌剤の投与が食物IgERASTに与える影響と口腔内アレルギー症候群(OAS:oral allergy syndrome)の実態調査を行った。近藤は牛乳アレルギー患者20例において抗原特異的T細胞クローンを樹立しHLADNA typingを行いoverlapping peptidesを作成し抗原提示機構の解析を行った。豊田らは各種食品(食肉・小麦・果実・穀類など)のIgE抗体によって認識されるエピトープの解析を各種食品から蛋白を抽出し患者血清を用いてウエスンブロッティング/ELISA inhibitionさらにアミノ酸配列の決定を分子生物学的解析により行った。眞弓は生体内レドックス制御蛋白であるチオレドキシン処理を卵の主要抗原であるオボムコイド・オボアルブミンに対して行い電気泳動・IgERAST inhibition法により検討した。
4)食物アレルギーの診断方法の確立
海老澤は二重盲検法が可能な乾燥食品粉末を用いた食物負荷試験の開発を行い、食物負荷試験による診断と既存のIgE抗体検出法の比較を行った。さらに食物アレルギーに対する食物負荷試験を全国各地で受けられるように各地域の施設に呼びかけ食物負荷試験ネットワークを構築した。
5)我が国に独特な食物抗原の解析
赤澤は魚卵アレルギーと鶏卵アレルギーの交叉反応とイモアレルギーに関してELISA法・inhibition immunoblotにより検討した。
(倫理面への配慮)
患者を対象とした研究においては文書あるいは口頭による同意を取得し、患者由来検体も患者の同意のもと研究に使用した。
飯倉らは昨年までの食物アレルギー対策検討委員会の調査に継続して食物アレルギーのモニタリング調査を立ち上げるべく日本アレルギー学会認定医・専門医および日本小児アレルギー学会会員を対象としてモニタリングの協力を要請した。橋本らは我が国における食物アレルギーの実態を過去20年間の文献から調査した。中村らは疫学的見地から食物アレルギーの疫学調査のあり方を検討した。
2)アレルギー物質を含む食品に関する表示のあり方の検討
臨床系研究者8名がアレルギー物質を含む食品に関する表示のあり方に関し情報交換や検討会を開催し食品衛生調査会表示特別部会への答申をまとめた。
3)食物アレルギーの発症機序の解明
柴田は小児期に即時型食物アレルギーを呈した200例の発症時の臨床背景・アレルゲン食品・重症食物アレルギーの予後を検討した。小倉は小児341例を対象に708回の経口誘発試験を行い覆面型アレルギーの機序に関して検討した。池澤は成人期の食物アレルギーの発症機序に対する検討として成人アトピー性皮膚炎患者に対する抗真菌剤の投与が食物IgERASTに与える影響と口腔内アレルギー症候群(OAS:oral allergy syndrome)の実態調査を行った。近藤は牛乳アレルギー患者20例において抗原特異的T細胞クローンを樹立しHLADNA typingを行いoverlapping peptidesを作成し抗原提示機構の解析を行った。豊田らは各種食品(食肉・小麦・果実・穀類など)のIgE抗体によって認識されるエピトープの解析を各種食品から蛋白を抽出し患者血清を用いてウエスンブロッティング/ELISA inhibitionさらにアミノ酸配列の決定を分子生物学的解析により行った。眞弓は生体内レドックス制御蛋白であるチオレドキシン処理を卵の主要抗原であるオボムコイド・オボアルブミンに対して行い電気泳動・IgERAST inhibition法により検討した。
4)食物アレルギーの診断方法の確立
海老澤は二重盲検法が可能な乾燥食品粉末を用いた食物負荷試験の開発を行い、食物負荷試験による診断と既存のIgE抗体検出法の比較を行った。さらに食物アレルギーに対する食物負荷試験を全国各地で受けられるように各地域の施設に呼びかけ食物負荷試験ネットワークを構築した。
5)我が国に独特な食物抗原の解析
赤澤は魚卵アレルギーと鶏卵アレルギーの交叉反応とイモアレルギーに関してELISA法・inhibition immunoblotにより検討した。
(倫理面への配慮)
患者を対象とした研究においては文書あるいは口頭による同意を取得し、患者由来検体も患者の同意のもと研究に使用した。
結果と考察
1)我が国の食物アレルギーの実態の継続的な把握。
飯倉は全国のアレルギーの認定専門医1779名日本小児アレルギー学会員2424名および代表的な医療施設2663施設を対象として重篤な食物アレルギーのモニタリングシステムの確立を行った。モニタリング調査協力者1121名の内訳は小児科医が73%、内科医18%、耳鼻科医5%、皮膚科医4%の構成であった。開業医が45%100床以上の勤務医が37%その他18%で昨年の調査に比べて最前線でのモニタリングが可能となった。また低年齢の食物アレルギー児の中には原因不明の肝機能障害例があることを報告した。橋本は邦文のアレルギー関係の学会誌および学会抄録より過去20年間の食物アレルギーに関する調査を行い重篤な症状が多く報告されていたエビ・イカ・小麦・キウイは特定原材料24品目に含まれていることを明らかに、この20年間の食物アレルギーの報告症例の30%を食物依存性運動誘発性アナフィラキシーが占めていることを明らかにした。中村は食物アレルギーの実態調査のための疫学調査が昨年度までの規模の調査でかつ食物アレルギーの場合に主に外来での治療となり入院病歴が残らない為レトロスペクティブな調査よりモニタリング調査が適当ではないかとの結論に至った。
2)アレルギー物質を含む食品に関する表示に関する検討
アレルギー物質を含む食品に関する表示を至適化するために臨床系研究者による答申として、厳しく法令で規定する特定原材料として症例数の多さより卵・牛乳・小麦の3品目を、症状の重篤さよりそば・ピーナッツの2品目合計5品目を法令で定めるべきとした。現時点では残りの19品目(ゼラチンを新たに追加)に関しては省令通知で対応すべきとした。
3)食物アレルギーの発症機序の解明
柴田は即時型重症食物アレルギー症例200例に関して検討し、発症時期は乳児期幼児早期で8割を占め重症例の起因食品として牛乳>卵>小麦>魚介類が多く認められ、大豆・米・肉類では皮膚症状が主で重症例は稀であると報告した。小倉は卵白特異的IgE抗体陰性症例に経口誘発試験を施行し、15.2%に即時型反応を認め負荷12時間以降に陽性反応が認めたのは59.2%であったと報告した。負荷試験前後でのサイトカインパターンを検討したところ陽性例ではTh2優位になることが認められた。池澤は難治性の成人アトピー性皮膚炎患者に対して経口抗真菌薬投与で症状の改善と食物抗原のIgERASTの改善も認められ成人期に発症するアトピー性皮膚年合併の食物アレルギー患者では腸内真菌が重要と考えられた。OAS68例に関して検討を加え、平均年齢25歳で男20名、女48名と女性に多いことと誘発物質で最も多いのがメロン次いでモモ、キウイ、リンゴなどであったことを報告した。近藤は牛乳アレルギー患者の主要抗原であるβ-lactogloblinを特異的に認識するT細胞株を樹立しβ-lactogloblinのmajor epitopeはp101-112と考えられ、HLA class DRB1*0405が抗原提示分子として重要であることを報告した。豊田らは各種食物抗原の解析を行い、牛肉の主要アレルゲンがBSA, GAPDH、鶏肉の主要アレルゲンがFBPA であること、小麦中のマンノグルカンを単離し、トマト果実主要抗原としてPG, Ffase, SOD, Peaseを突き止めた。眞弓はチオレドキシン処理された卵の主要アレルゲンのオボムコイド・オボアルブミンが熱処理や消化酵素処理への抵抗性が減弱し、特異IgE抗体との結合性も低下して低アレルゲン化されることを明らかにした。
4)食物アレルギーの診断方法の確立
海老澤は二重盲検食物負荷試験が可能な食物抗原の作成・全国的な規模での食物負荷試験ネットワークの確立を行った。2施設でのパイロットスタディー(卵:71負荷試験、牛乳:52試験、小麦:25試験、大豆:19試験)のデータをまとめ負荷試験での陽性率が44%(71/167)であったのに対し既存のIgE抗体検出法のIgECAP RASTでは90%, 皮膚テストでも85%と著しい差を認め食物負荷試験の重要性が確認された。
5)我が国に独特な食物抗原の解析
赤澤はイクラアレルギーと鶏卵アレルギーの相関関係は低く両者に対してIgE抗体を有する患者においても交叉抗原性は証明されず、山芋は他のイモ類と交叉反応性があることを報告した。
飯倉は全国のアレルギーの認定専門医1779名日本小児アレルギー学会員2424名および代表的な医療施設2663施設を対象として重篤な食物アレルギーのモニタリングシステムの確立を行った。モニタリング調査協力者1121名の内訳は小児科医が73%、内科医18%、耳鼻科医5%、皮膚科医4%の構成であった。開業医が45%100床以上の勤務医が37%その他18%で昨年の調査に比べて最前線でのモニタリングが可能となった。また低年齢の食物アレルギー児の中には原因不明の肝機能障害例があることを報告した。橋本は邦文のアレルギー関係の学会誌および学会抄録より過去20年間の食物アレルギーに関する調査を行い重篤な症状が多く報告されていたエビ・イカ・小麦・キウイは特定原材料24品目に含まれていることを明らかに、この20年間の食物アレルギーの報告症例の30%を食物依存性運動誘発性アナフィラキシーが占めていることを明らかにした。中村は食物アレルギーの実態調査のための疫学調査が昨年度までの規模の調査でかつ食物アレルギーの場合に主に外来での治療となり入院病歴が残らない為レトロスペクティブな調査よりモニタリング調査が適当ではないかとの結論に至った。
2)アレルギー物質を含む食品に関する表示に関する検討
アレルギー物質を含む食品に関する表示を至適化するために臨床系研究者による答申として、厳しく法令で規定する特定原材料として症例数の多さより卵・牛乳・小麦の3品目を、症状の重篤さよりそば・ピーナッツの2品目合計5品目を法令で定めるべきとした。現時点では残りの19品目(ゼラチンを新たに追加)に関しては省令通知で対応すべきとした。
3)食物アレルギーの発症機序の解明
柴田は即時型重症食物アレルギー症例200例に関して検討し、発症時期は乳児期幼児早期で8割を占め重症例の起因食品として牛乳>卵>小麦>魚介類が多く認められ、大豆・米・肉類では皮膚症状が主で重症例は稀であると報告した。小倉は卵白特異的IgE抗体陰性症例に経口誘発試験を施行し、15.2%に即時型反応を認め負荷12時間以降に陽性反応が認めたのは59.2%であったと報告した。負荷試験前後でのサイトカインパターンを検討したところ陽性例ではTh2優位になることが認められた。池澤は難治性の成人アトピー性皮膚炎患者に対して経口抗真菌薬投与で症状の改善と食物抗原のIgERASTの改善も認められ成人期に発症するアトピー性皮膚年合併の食物アレルギー患者では腸内真菌が重要と考えられた。OAS68例に関して検討を加え、平均年齢25歳で男20名、女48名と女性に多いことと誘発物質で最も多いのがメロン次いでモモ、キウイ、リンゴなどであったことを報告した。近藤は牛乳アレルギー患者の主要抗原であるβ-lactogloblinを特異的に認識するT細胞株を樹立しβ-lactogloblinのmajor epitopeはp101-112と考えられ、HLA class DRB1*0405が抗原提示分子として重要であることを報告した。豊田らは各種食物抗原の解析を行い、牛肉の主要アレルゲンがBSA, GAPDH、鶏肉の主要アレルゲンがFBPA であること、小麦中のマンノグルカンを単離し、トマト果実主要抗原としてPG, Ffase, SOD, Peaseを突き止めた。眞弓はチオレドキシン処理された卵の主要アレルゲンのオボムコイド・オボアルブミンが熱処理や消化酵素処理への抵抗性が減弱し、特異IgE抗体との結合性も低下して低アレルゲン化されることを明らかにした。
4)食物アレルギーの診断方法の確立
海老澤は二重盲検食物負荷試験が可能な食物抗原の作成・全国的な規模での食物負荷試験ネットワークの確立を行った。2施設でのパイロットスタディー(卵:71負荷試験、牛乳:52試験、小麦:25試験、大豆:19試験)のデータをまとめ負荷試験での陽性率が44%(71/167)であったのに対し既存のIgE抗体検出法のIgECAP RASTでは90%, 皮膚テストでも85%と著しい差を認め食物負荷試験の重要性が確認された。
5)我が国に独特な食物抗原の解析
赤澤はイクラアレルギーと鶏卵アレルギーの相関関係は低く両者に対してIgE抗体を有する患者においても交叉抗原性は証明されず、山芋は他のイモ類と交叉反応性があることを報告した。
結論
基礎から臨床まで幅広い研究組織としてスタートしたが、初年度からアレルギー物質を含む食品に関する表示の適正化という重大な任務を臨床系のサブグループで検討を重ね成果を上げることができた。各分担研究も順調に進んでおり、基礎面からも臨床面からも食物アレルギーの患者にとり有益な情報となる研究成果が上がってきている。我が国での食物アレルギーの実態の継続的な把握のために全国的なモニタリングシステムを確立したこと、食物アレルギーの発症機序の解明のために小児・成人と病型分類し、免疫学的背景、食物抗原と多角的に発症機序を解明する研究が始まったこと、食物負荷試験の抗原提供を通した負荷試験の全国ネットワークの構築を行ったことが特筆される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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