平衡機能障害者における歩行運動3次元解析(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000595A
報告書区分
総括
研究課題名
平衡機能障害者における歩行運動3次元解析(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
上村 隆一郎(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 武井泰彦(浦和市立病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成15(2003)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多様なストレスを抱えた現代社会においては、歩行時にめまい感を訴える患者が急増している。しかし、座位や仰臥位で行う平衡機能検査ではこのような患者の訴えを検出することはできない。また、現行の歩行検査では結果の評価が検者の主観にゆだねられ客観性と正確性に欠けるため、データベース化に適さない。そのため臨床の場において、客観的にめまい患者の歩行解析を行うことができる検査システムの確立が望まれている。
そこで我々は、近年開発された3次元動作解析システムに着目し導入した。本研究は、この新しいシステムを用いて歩行解析を行うことを目的とする。健常者における歩行解析により集められたデータからは、加齢による平衡機能の変化を明らかにすることができると考えている。さらに、様々な平衡機能障害者の歩行パターンを解析することにより、めまい症例の病因解明に寄与する新たな検査システムを確立することを目標とする。また、経時的に平衡機能障害者の歩行解析を行うことは、歩行のリハビリテーションにもつながると考えている。こうしたことにより、最終的には多数の平衡機能障害患者の社会参加に貢献できることを期待するものである。
研究方法
1)本研究には、Qualisys社製3次元動作解析システム Mac Reflexを利用する。
2)被験者に赤外線反射マーカーを頭頂部、側頭部、肩、腰などにつけて、歩行させる。それを2台の赤外線CCDカメラで記録し、パソコン上に3次元座標に変換して記録する。そのデータを基に歩行軌跡、速度、加速度の変化、歩行中の頭部、肩、腰部などの3次元的運動(水平面、冠状面、矢状面での回転運動)を解析する。
3)上記の歩行解析を開眼歩行、遮眼歩行、カロリック刺激後歩行について行う。
4)各年代の健常者で実験を行い、上記パラメータの年代別基準値を作成する。また、これらの結果から歩行時平衡機能に対する加齢の影響を考察する。(以上、1年目から2年目にかけて行う)
5)様々な平衡機能障害患者(半規管機能障害、小脳性運動失調、椎骨脳底動脈循環不全、自律神経失調など)で実験を行い、病因別姿勢及び歩行パターンについて考察する。こうして蓄積されたデータベースをもとにして、3次元動作解析システムを用いた新しい平衡機能検査を確立し、既存の検査では原因の分からなかっためまい症例に対する補助診断となることを目標とする。(2年目から3年目にかけて行う)
6)歩行訓練を行いながら経時的に実験していくことで、こうした姿勢あるいは歩行の障害にリハビリテーション効果が得られるか考察する。(3年目に行う)
7)これらの研究は、当科の前任者であり、3次元動作解析システムの導入に尽力された浦和市立病院耳鼻咽喉科医長 武井泰彦先生との協力で行う。
結果と考察
1年目から2年目にかけては、各年代の健常者における歩行の3次元解析を行い、健常者のデータベースを作成するとともに加齢による平衡機能の変化について検討する実験を行っている。
その結果より、遮眼歩行では開眼歩行に比べて頭部上下動、pitch回転運動、roll回転運動が有意に減少することがわかった。視覚入力が遮断された場合、中枢の空間識が不完全となり歩行制御に支障を来す。安定した歩行を継続するためには、耳石器や下肢深部知覚の感度を高める必要が生じ、その結果頭部の鉛直性を保ち上下動揺を抑えるような歩行様式が選択されたものと考えられた。
また、ほとんどの若年健常者では歩行時頭部-体幹roll運動が逆方向の運動(負の相関)を示したのに対し、多くの高齢健常者では歩行時頭部-体幹roll運動が同方向の運動(正の相関)を示すことがわかった。このことは従来の平衡機能検査や歩行検査では捉えられなかった高齢健常者の潜在的な平衡機能の低下を示しているものと考えられた。
結論
現在までに集められた各年代健常者のデータからは、加齢による歩行時の平衡機能の変化を明らかにすることができると考えている。さらに、様々な平衡機能障害者の歩行パターンを解析することにより、めまい症例の病因解明に寄与する新たな検査システムを確立したいと考えている。また、経時的に平衡機能障害者の歩行解析を行っていくことは、歩行のリハビリテーションにも活用できると思われる。こうしたことにより、最終的には多数の平衡機能障害患者の社会参加に貢献できることを期待するものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-