聴覚障害者の社会参加促進に向けた「自己発生音」の評価と対応策の確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000592A
報告書区分
総括
研究課題名
聴覚障害者の社会参加促進に向けた「自己発生音」の評価と対応策の確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 徳太郎(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 田内 光(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
  • 中島八十一(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
  • 佐藤 洋(東北大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢社会の到来とともに聴覚障害者は増加している。我々の調査では、聴覚障害者の就職率は26.7%と低く、転職頻度は1人平均0.4回と多く、聴覚障害者就労の促進に向けた社会適応性の向上は重要である。本研究は、聴覚障害者が日常活動動作に伴って発生する「自己発生音」の測定法を確立して、それを社会適応訓練に取り入れ、音環境における「自己発生音」の適正化と、コミュニケーションの向上を図り、聴覚障害者の社会参加を促進させようとするものである。さらに、聴覚障害者自身の音声の音圧レベルや音質の適正化訓練法を確立し、聴覚障害者の社会参加を促進させるとともに、聴覚障害者が日常生活において感じている「自己発生音」に対する不安を軽減し、聴覚障害者のQOLを高めることを目的とする。
研究方法
聴覚障害者が環境騒音の発生を危惧している日常活動動作と聴覚障害者の訓練を担当する健聴者が特に高い音を発すると考えている活動動作とをアンケ-ト調査し、「自己発生音」を測定する活動動作を抽出した。アンケート対象者は372名であった。
当センター障害者モデルハウス内に測定空間を設定し、測定空間における音の反響などの音響学的分析結果を基に複数の騒音計設置場所を決定した。各活動動作につてそれぞれを5試行し、その中央値を各動作において発生する各被験者の音圧レベルとした。聴覚障害者における「自己発生音」の実態調査対象者は40名であった。
各生活環境における「自己発生音」の許容範囲の評価の基礎実験として、高齢者と若年者に単語了解度試験を行うと共に、音声伝達に及ぼす残響、音の高低、音量感などの影響を調べた。
難聴者の音に対するラウドネス感覚の検討においては、健聴者と難聴者各々10にシンバル、太鼓、ホイッスルを鳴らさせ、3試行のピーク値を騒音計で測定し、その平均を計算した。
なお、被験者に研究について十分に説明したうえで、研究への参加の了承を得て行い、特に事故等の問題はなかった。
結果と考察
聴覚障害者が環境騒音の発生を危惧している日常活動動と聴覚障害者の訓練を担当する健聴者が特に騒音の原因となると考えている活動動作等についてアンケ-ト調査した。聴覚障害者の約1/3が日常音に注意しながら生活しているとの結果がえられた。全体で、大きい音と思っている音として,「バイクのエンジン音」、「掃除機を使用している音」、「車,バイクのクラクション音」、「子供の泣き声」、「机をたたいて人を呼ぶ時の音」などを半数以上が挙げていた。不安に感じる音としては、「車,バイクのクラクション音」、「子供の泣き声」、「自分の会話時の声」、「犬や猫の声」、「人を呼ぶ時の声」などを4割以上が挙げていた。どの位の大きさかを知りたいとしてあげられたものには,「テレビの音」、「人を呼ぶ時の声」、「お湯の沸騰音」、「自分の会話時の声」、「車のエンジン音」、「補聴器のハウリング音」などであった。
また、更生訓練所入所者においては、「机をたたいて人を呼ぶ時の音」、「廊下を走る音」が、難聴外来受診者では、「階段を駆け上がる音」、「椅子をずらす音」、「廊下を走る音」等が高率に挙げられていた。これらの結果をもとに、生活騒音測定場面として「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子をずらす音」、「戸の開閉」、「廊下を走る」、「階段を駆け上がる」の5項目を決定した。「自己発生音」測定法の確立のための測定空間を当センター障害者モデルハウス内に設定することとし、測定空間における音の反響などの音響学的分析を行い、複数の騒音計設置場所を決定した。各活動動作につてそれぞれを5試行し、その中央値を各動作において発生する各被験者の音圧レベルとした。被験者40名について測定時の暗騒音の平均と標準偏差はそれぞれ40.0dBと 1.9dBであり、極めて安定した測定環境であった。
聴覚障害者における「自己発生音」の実態調査では、「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子をずらす」、「戸の開閉」、「廊下を走る」、「階段を駆け上がる」の5項目についての平均は、それぞれ71.5、69.8、66.3、58.7、59.1dBであった。また、最大値は、それぞれの項目で89、81、91、70.5、74dBであった。70dB以上を記録した者は、「机をたたいて人を呼ぶ」,「椅子をずらす」、「戸の開閉」の3項目において約半数であった。
単語了解度試験による若年者,高齢者の聴覚特性について、20歳代の若年者,60歳代以降の高齢者の音声コミュニケーションに際し、調査単語の親密度を統制する必要性を指摘した。騒音や反射音がどの程度阻害するのかを把握するとともに、「聞き取りやすさ」の評価法をおこない、音空間の受聴点、スピーカーソース、拡声条件などが影響するとの結果が得られた。自己発生音」の音圧連続モニターシステムの開発に関して、モニター作製に当たっての問題点の検討を開始した。シンバル、太鼓、ホイッスルなどの楽器を鳴らさせることによる難聴者の音に対するラウドネス感覚の検討を行い、 健聴者より難聴者のほが小さく鳴らす傾向が見られた。次に研究結果の考察を行うと、調査対象によって傾向が異なっていた。その結果をもとに、「自己発生音」測定場面として「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子をずらす」、「廊下をる」「階段を駆け上がる」の4項目を抽出し、生活指導員の推薦する「戸の開閉」を加えて、計5項目を生活騒音測定場面とした。当センター障害者モデルハウス内に測定空間を設定し、測定空間における音の反響などの音響学的分析結果を基に複数の騒音計設置場所を決定した。各活動動作につてそれぞれを5試行し、その中央値を各動作において発生する各被験者の音圧レベルとした。この側零系において、測定時の暗騒音の平均と標準偏差はそれぞれ40.0dBと 1.9dBであり、極めて安定した測定条件を設定できたと考えられる。聴覚障害者における「自己発生音」の実態調査対象者は40名であり、さらに対象者を増やす必要があるが、70dB以上を記録した者は、「机をたたいて人を呼ぶ」,「椅子をずらす」、「戸の開閉」の3項目において約半数であった。このことより、「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子をずらす」、「戸の開閉」等の動作について生活指導を要する聴覚障害者が少なくないことが示された。
上記の測定手技及び単語了解度試験や音環境評価手法の検討などの手技は、口話を行っている聴覚障害者が音環境に応じて発声音圧レベルを視覚的に適正化する方法の確立に有効であると考える。
また、ラウドネス感覚の検討において 健聴者より難聴者の方が小さく鳴らす傾向が見られた。聴覚障害者の約1/3が日常音に注意しながら生活しているとのアンケート調査の結果も考慮すると、その原因としては、「自己発生音」に対する不安傾向により、少し小さめの音でたたくためかと推定される。
結論
本研究における「自己発生音」測定項目を決定するとともに、極めて安定した測定環境を設定した。聴覚障害者における「自己発生音」の実態調査では、「机をたたいて人を呼ぶ」、「椅子をずらす」、「戸の開閉」の3項目において特に高い音圧が観測された。さらに、単語了解度試験や音環境評価手法の検討など、生活環境における「自己発生音」の許容範囲の評価に対する基礎的検討を行った。
これらの研究結果は、当初の計画通りに進められ、次年度以降の研究の基盤となるとともに、音環境における「自己発生音」の適正化と、コミュニケーションの向上による聴覚障害者の社会参加を促進させることに貢献しうるものと考える。

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