視聴平衡覚を代償する機器の開発、改良に関する研究:屈折矯正手術および眼内レンズ挿入術とその視覚の質に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000588A
報告書区分
総括
研究課題名
視聴平衡覚を代償する機器の開発、改良に関する研究:屈折矯正手術および眼内レンズ挿入術とその視覚の質に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
野田 徹(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中靖彦(国立病院東京医療センター)
  • 大沼一彦(千葉大学大学院自然科学研究科)
  • 根岸一乃(東京電力病院眼科、慶應義塾大学医学部眼科学教室)
  • 平山典夫((株)HOYAヘルスケア)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、眼内レンズ挿入術および屈折矯正手術は、より高度な視機能の質を実現するという観点から、両者を相補的な広義の屈折矯正手術として考えるようになってきている。本研究では、それらの屈折矯正に関わる手術において、さらに安全で質の高い手術診療環境の確立と、より高度な視機能の実現にむけての問題点を検討、解決し、その実践に必要となる機器の開発、改良を併せて行う。
研究方法
眼内レンズ挿入眼の視機能、光学特性に関しては、従来評価が困難であった詳細な眼光学的検討を行う。従来の視力測定やコントラスト感度測定に加え、波長の異なる単色光毎のコントラスト感度の測定を可能とする装置を開発し、より詳細な眼内レンズ挿入眼の視機能の評価を行う。同様に、各波長における単色光毎の眼内レンズ挿入眼の屈折測定法を開発し、光学特性の評価を併せて行う。さらに、被験眼の光学的な結像状態に対しての客観的な評価を行うために、in vivoにおけるpoint spread functionの解析を可能とする装置の開発とその臨床応用を実現する。
屈折矯正手術に関しては、エキシマレーザー屈折矯正手術に関しての、(1)術後の眼圧測定法、(2)術後の白内障手術を想定した場合の眼内レンズ度数計算法、(3)術後のQuality of Vision(4)安全な手術術式、に関しての未解決な問題点について検討を行う。
さらに、臨床研究、特に手術環境、手術診療の質の問題を含めた手術診療体制に関して、政策医療(感覚器)ネットワーク専門施設を利用した多施設共同研究を計画する。
なかでも平成12年度は以下の項目に重点をおいた。
1.白内障手術の感覚器政策医療ネットワーク専門施設における手術診療体制の臨床評価に必要なデータベース作成
2.波長別コントラストテスターによる単色光下コントラスト感度測定法および測定装置の開発と眼内レンズ挿入眼の視機能評価
3.単色光近点計の開発と臨床応用
4.屈折矯正手術後の眼圧測定補正プログラムに関する研究
5.Qulity of Visionの評価に適した新しいPoint Spread Function(PSF)解析装置の基礎開発
結果と考察
1.白内障手術の感覚器政策医療ネットワーク専門施設における手術診療体制の臨床評価に必要なデータベース作成
本年度は白内障手術患者へのクリティカルパス導入が病院機能及び医療サービスに対する患者および医療従事者の意識に与える影響について、パイロットスタディーを行った。結果はクリティカルパス導入後、検査指示などの客観的病院機能が改善した。また、医療サービスに対する意識調査では、入院時説明と病院機能の印象について導入後に患者の評価が上昇していた。以上より、白内障手術患者に対するクリティカルパス導入は、病院機能の改善、および患者への入院時情報提供手段として有用であるという可能性が示唆された。
2.波長別コントラストテスターによる単色光下コントラスト感度測定法および測定装置の開発と眼内レンズ挿入眼の視機能評価
(1)単波長下におけるコントラスト感度測定機器の開発
市販のマルチビジョンコントラストテスター(MCT8000:VISTECH社)にピーク波長が470nm、550nm、630nm(半値幅20nm)の干渉フィルターを設置し、各波長毎の測定照度をNDフィルターと補助光を用いて18cd/m2に調整した。
(2)IOL挿入眼におけるコントラスト感度の測定(白色光および単波長下)
明所において、青色光(470nm), 緑色光(549nm)、赤色光(630nm)の単色光下コントラスト感度および白色光下コントラスト感度を測定し、正常眼およびPMMA、シリコーン、アクリソフの各種眼内レンズ挿入眼(以下IOL眼と略す)において比較検討した。
(3)計算機シミュレーションによる色収差を考慮した網膜像推定に関する研究
計算機シミュレーションによる色収差を含めた網膜像の推定を目的として、生体眼をベースにしたアッベ数の異なる4種類の眼内レンズ挿入眼光学系をモデルとして、波長20[nm]毎に網膜像面上のスプレッドファンクションを求め,さまざまな背景色の色文字、色パターンに対して、畳み込み演算より網膜像を形成した。結果はアッベ数の小さいレンズと大きいレンズのボケの差はすくなかった。
これらの結果より、計算機シミュレーション上は大きな問題はないものの、、眼内レンズの光学部素材としてアッベ数の小さい素材を選択することは術後の視機能、とくに網膜像のコントラスト感度を低下させる可能性があることが示唆された
3.単色光近点計の開発と臨床応用
(1)単波長下における近点測定機器の開発
市販の近点計(トーメー社)にピーク波長が470nm、550nm、630nm(半値幅20nm)の干渉フィルターを設置し、各波長毎の測定照度をNDフィルターと補助光を用いて18cd/m2に調整した。
(2)IOL挿入眼における偽調節力の測定(白色光および単波長下)
改造近点計を用いて波長別の近点を測定し、色収差の違いがIOL眼の偽調節力に影響を与えるかどうか検討した。色収差による偽調節幅はジオプトリー(D)換算でほとんどが0.1D以下(波長470-630nm間)で、色収差の大きいアクリソフ眼と他の眼内レンズ挿入眼を比較しても有意差を認めず、色収差が大きいと逆に偽調節幅が増えるというような利点は認められなかった
4.屈折矯正手術後の眼圧測定補正プログラムに関する研究
(1)眼圧実測値と従来の眼圧計による眼圧測定値との比較
白色家兎眼において、改造コッドマン脳脊髄液圧測定装置を眼圧をモニターしながら、ゴールドマン眼圧計、トノペン、空気眼圧計を用いて眼圧を測定し、両者を比較した。測定機器によりモニターした実際の眼内圧と眼圧計測値にはずれがあり、その程度は測定装置により異なっていた。
(2)LASIK手術眼における角膜厚、角膜曲率半径と眼圧の関係の検討
白色家兎眼にLASIKを施行し、同一眼における術後眼圧の実測値と角膜厚および角膜曲率半径との関係を検討したところ、眼圧実測値が上昇するほど、角膜厚は増加し、、曲率半径は大きくなる傾向がみられた。
(3)多様な角膜形状に対応した眼圧測定システムの開発
非接触的に眼圧測定、角膜厚測定、角膜曲率半径測定を行い、各測定データをデジタルファイリングシステム(IMAGEnet)サーバーへ自動入力し、検査室での測定値が統合されてシートに送られ、眼圧補正式にしたがって補正眼圧が示されるシステムを開発した。以上より、今回の実験により現在の眼圧測定装置には機器間の誤差があること、またLASIK術後眼の眼圧測定値には眼圧上昇による角膜浮腫や形状の変化が影響すると考えられ、今後これらの点について検討を要する。
5.Qulity of Visionの評価に適した新しいPoint Spread Function(PSF)解析装置の基礎開発
眼球光学系の光学特性を測定するための新しいPoint Spread Function(PSF)解析装置の開発を行った。本装置では、被検眼眼底に点像を投影し、正反射成分のみを分離した眼底からの反射光を、CCDカメラにより撮像することにより、不特定の被検者に対して、精度良くdouble-pass-PSF を測定できる。この装置を用いて、20歳代60歳代について double-pass-PSF を測定し、single-pass-MTF を算出した。その結果、カットオフ周波数は変わらず、中間周波数領域が60歳代で大きく落ち込んでいることを確認した。
結論
白内障手術患者へのクリティカルパス導入に関するパイロットスタディーの結果から、白内障手術患者に対するクリティカルパスの有用性と改善点があきらかになった。この結果をもとに、その問題点を改善しさらに研究対象を拡大することにより、感覚器政策医療ネットワーク専門施設における手術診療体制の臨床評価法の確立、および体制の改善が期待できる。
単色光下コントラスト感度測定装置の開発、単波長下における近点測定機器の開発およびと眼内レンズ挿入眼の視機能評価 の結果から、眼内レンズの光学部素材としてアッベ数の小さい素材を選択することは術後の視機能、とくに網膜像のコントラスト感度を低下させる可能性があり、しかも偽調節幅は増加させないことが示唆された。白内障術後の屈折矯正法の第一選択となっている眼内レンズは、現在も 主として素材の生体適合性、および手術操作性を重視して開発されている。計算機シミュレーションによる網膜推定像からは現在使用されているアッベ数の小さいレンズでもアッベ数の大きなレンズと比較して大きな差がないという結果が得られたものの、今回の結果は、素材の光学的特性の重要性を明らかにしており、今後の眼内レンズ開発の際に有用なデータである。
屈折矯正手術後の眼圧測定補正プログラムに関する検討からは、屈折矯正手術後の眼圧測定に影響する要因の解明や眼圧測定機器の改良により術後眼の正確な眼圧評価を可能にするための基礎データが集められた。今回の基礎実験データから、現在の眼圧測定装置には機器間の誤差があること、またLASIK術後眼の眼圧測定値には眼圧上昇による角膜浮腫や形状の変化が影響すると考えられ、今後屈折矯正手術後の正確な眼圧測定法の開発の際に留意すべき点と考えられた。また、屈折矯正手術術後早期の眼圧測定は接触式よりもノンコンタクト眼圧計が有利であるため、デジタルファイリングシステムを利用した眼圧測定および補正プログラムが完成すれば、臨床的な有用性は高いと考える。
眼球光学系の光学特性を測定するための新しいPoint Spread Function(PSF)解析装置は、今後、屈折矯正手術術後眼を含めた様々な眼疾患罹患眼のQulity of Visionを評価するための有用な手段となり得ると考えられた。

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