温度感受性リポソームを用いた加齢黄斑変性症への光化学療法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000586A
報告書区分
総括
研究課題名
温度感受性リポソームを用いた加齢黄斑変性症への光化学療法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西脇 弘一(京都大学医学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
加齢黄斑変性症は、欧米では65歳以上の高齢者における失明第一位の疾患であり、年々増加する極めて失明率の高い疾患である。現在有効とされている治療法はレーザーによる光凝固療法であるが、蛍光眼底撮影法で境界鮮明に描出される網膜色素上皮上の脈絡膜新生血管に対しては有効であるが、境界の不明な網膜色素上皮下の新生血管には無治療と同じ効果しかないことが示されている。最近、癌の腫瘍血管閉塞の臨床治療に用いられて注目されている、光感受性物質とレーザー照射による光化学療法が、眼科領域でも脈絡膜新生血管に応用され、米国にて臨床治験がおこなわれている。利点として光凝固治療に比べて組織破壊が少ないことがあげられ、網膜中心窩に新生血管のある患者の治療に試験的に使われているが、今までの発表結果では治療後6週以内に50%以上に再発が認められ、平均3、4回の治療を受けなくてはならない。これは薬物を静脈から全身に投与することで、小さな血管である脈絡膜新生血管に集積する薬物量が十分でないことが原因とおもわれる。この光化学療法を成功させるためには、限局的に高濃度に効率良く脈絡膜新生血管だけに薬物をデリバリーするシステムを開発することが必要である。報告者らがこれまでに開発してきた温度感受性リポソームを用いた薬物送達システムは、41度で相転移を起こし内包した薬物を放出するリポソームを静注し、眼底カメラに組み込んだ低出力レーザーで標的とする網脈絡膜を局所的に暖めることで、高濃度の薬物を局所的に薬物送達をできる画期的なシステムであり、リポソーム中に蛍光色素を内包し網脈絡膜循環を評価してきた。そこで、光感受性物質を温度感受性リポソームに内包し、今までのシステムに光化学療法の装置を組み込むことで、脈絡膜新生血管に選択的に薬物を送達し光化学療法の効果を増強し、かつ周囲の組織の障害を軽減することができる。本研究により、光凝固などの治療の適応にならず経過観察せざるを得なかった多くの加齢黄斑変性症の患者を救うことができると考えている。
研究方法
現有するICG用眼底カメラにアルゴンレーザーを組み込んで、まずアルゴンレーザー眼底カメラを作成する。ラット、ウサギおよびカニクイザルに上記で作成した眼底カメラを用いて蛍光眼底撮影を行い、レーザーの網膜での安全性を確かめる。その後照準温熱用のレーザー、リポソームから放出された光感受性物質を励起させラジカルを産生させるための治療用ダイオードレーザーの2つのレーザーを、光ファイバーで眼底カメラに導入する。3種類の用途のレーザーの発振のタイミングをあわせるために、レーザー発振装置と眼底カメラの間にリレーおよびコンピューターを挿入し、レーザー発射の時期、時間、出力をコンピューター制御できるシステムを作成する。また、眼底カメラにCCDカメラおよび画像エンハンサーを接続して、得られた画像をデジタル化してDVDにて録画し、デジタル画像をコンピューターで解析できるシステムを作る。41度で相転移するリン脂質であるDPPCを主材料にして、第3世代光感受性色素であるフタロサイアニンなどを内包した温度感受性リポソームを作成する。作成したリポソームの粒径が400nmを越えないように、エクストルーダーでリポソームの粒径を揃えた後、ゲルろ過法を用いて内包されなかった蛍光色素を除去する。作成したリポソームが予想した41度で相転移を起こし、且つ体温(37度)で内包された薬物の漏出がないかどうかを生体中でヒト血清を用いてインキュベーションし、その後漏出した蛍光色素と内包されたままの蛍光色素の比を蛍光測定器で測定し、リポソーム
の温度感受性を調べる。作成したリポソームが体内循環内で安定して存在し、かつ全身に大きな副作用がないか調べるために、ラットに静注しその後静脈血を採取し、薬物濃度の測定および一般血液検査を行う。ラットにおいてレーザーの強凝固を眼底に行い、脈絡膜新生血管のモデルを作成する。上記で作成したカルボキシフルオレセインを内包した温度感受性リポソームおよびレーザー眼底カメラシステムで、ラット新生血管が明確に描出され、コンピューターによる制御が行われるか評価する。新生血管では周囲の正常脈絡膜毛細血管に比べて血流が遅いことを調べるために、リポソームに内包した蛍光色素を新生血管周囲で放出させ、その後の蛍光色素の流れを経時的に撮影し画像解析する。そして蛍光色素が新生血管にのみ存在し、その周囲の正常脈絡膜毛細血管にはみられなくなった時期を調べ光化学療法のタイミングを計測する。ラット新生血管モデルを用いて、光感受性物質およびカルボキシフルオレセインをを内包したリポソームを静注した後、温熱用レーザーによる薬物のリポソームの放出、薬物が新生血管にのみ存在し周囲の正常循環から消えた時期に、ダイオードレーザーによる照射による光化学療法を行い、新生血管のみを閉塞し周囲の組織を障害せずに治療できるかどうか評価する。評価法は蛍光ビデオ眼底造影を治療前と治療後で比べ、組織学的に治療効果を評価する。最終的にはヒトに近いカニクイザルの脈絡膜新生血管モデルを作成し、本法での治療効果および全身への影響を評価する。
結果と考察
本年度は眼底カメラにレーザーを組み込むための、眼底カメラの開発および改良を行った。まずアルゴンレーザーを光ファイバーを用いて眼底カメラに導入した。このアルゴンレーザーは488と514nmの波長を含んでいるため、488nmのみを透過させるフィルターを光路に取り付けた。眼底カメラはICG用であったので、アルゴンレーザー用のハーフミラーを取り付けた。まずラット、ウサギおよびカニクイザルに上記で作成した眼底カメラを用いて、通常のフルオレセインによるビデオ蛍光眼底撮影を行い、連続して撮影できることを確認した。その後画像を画質を劣化させずにコンピューターに取り込ませるための高感度、高画質CCDカメラの選定を行った。コンピューターに取り込んだ後で画像解析、保存を行うことができるシステムを完成させた。このレーザー眼底カメラの長所は、励起光としてレーザーを使用することにより、光量が強くなり、微弱な蛍光でも感知できるため、初期の病変でも早期発見が可能となったことである。心配されたレーザーの網膜への安全性も確認された。ラットおよびカニクイザルにおいてレーザーの強凝固を行い、脈絡膜新生血管のモデルを作成した。ラットではサルに比べて蛍光色素の漏れが少なくoccult型の新生血管を多く認めた。現在のアルゴンレーザーを眼底観察用に用いるとして、今後は眼底を41度に暖めてリポソームに内包した蛍光物質や光感受性物質を放出させるための温熱用レーザー及びリポソームから放出された光感受性物質を励起させラジカルを産生させるための治療用レーザーの2波長のレーザーが必要である。これら全てのレーザーを組み込むために現在改良が続けられている。改良を進行させていく上で、眼底カメラにこだわらず、細隙灯顕微鏡に3種類のレーザを組み込む方法も同時に進めている。細隙灯顕微鏡は臨床でもレーザーを人眼に照射するときに使うため、レーザーを組み込みやすいという利点がある。また眼底カメラよりも光路上の制約がなく、途中での光量の損失が少ない特徴がある。眼底カメラよりも細隙灯顕微鏡の方が発展性のあるものとして検討中である。どちらのシステムにせよ、眼底観察用、温熱照準用、治療用の3種類の用途にわけたレーザーのタイミングをあわせるために、レーザー発振装置と眼底カメラの間にリレーおよびコンピューターを挿入し、レーザー発射の時期、時間、出力をコンピューター制御できるシステムも作成中である。次にリポソームに関しては、DPPCを主材料にして、蛍光色素であるカルボキシフルオレセインを内包し
た温度感受性リポソームをfreeze&thaw法で作成することができた。作成したリポソームの粒径が400nmを越えないように粒径を揃えた後、ゲルろ過法を用いて内包されなかった蛍光色素を除去する必要がある。フルオレセインではfreeze&thaw法で作成することが最も簡便で効率の高い方法であるのに対して、光感受性物質(フタロサイアニン)では従来からのevaporation法で行った方が良い結果が得られた。また内包させる物質の純度が、温度感受性リポソームの相転移温度に関係し、純度が高いほど相転移曲線が本来のリン脂質のものに近いことが分かった。PEGを使用すると生体内での循環時間が延長することも解った。今後眼底観察システムが全て完成した暁には、作成したリポソームの温度感受性、安定性、生体への安全性、新生血管への集積の程度や時期を調べていく必要がある。
結論
黄斑部変性症に対する治療の一つとして温度感受性リポソームを用いた研究を現在進行中である。レーザーを1つ組み込んだ眼底カメラを完成し、さらに2つのレーザーを組み込む改良をしている。眼底カメラとともに細隙灯顕微鏡にも3つのレーザーを組み込む試みをしたところ、細隙灯顕微鏡の方がレーザー光量の損失が少なく、優れている印象がある。リポソームは様々な作成方法を試行した結果、現段階での作成法で作られたもので新生血管治療に使用可能と考えている。

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