神経科学的アプローチによる緑内障の病態解明と治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000585A
報告書区分
総括
研究課題名
神経科学的アプローチによる緑内障の病態解明と治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 春樹(新潟大学医学部眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 新家 眞(東京大学医学部眼科学教室)
  • 三嶋 弘(広島大学医学部眼科学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
33,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緑内障は、本邦における2大失明原因の一つで、病態解明及びその有効な治療法の開発は国民医療上の急務と考える。
本研究は下記の4つを柱として進行する。
① 神経保護
② 薬物治療
③ 神経再生
④ 疫学
研究方法
①神経保護
A.網膜神経節細胞死におけるグルタミン酸受容体の関与(阿部)
NMDA型受容体サブユニットノックアウトマウスの網膜神経細胞死の解析
B.網膜神経節細胞死における神経栄養因子群の動態(阿部)
網膜内神経栄養因子の定量的解析
C.網膜神経節細胞障害モデルを用いた新薬開発(新家)
網膜障害モデルを使った水溶性カルシウムブロッカーとカルシウム・ナトリウムチャンネルブロッカーの薬効解析
D.網膜神経節細胞におけるグルタミンの発現および機能(三嶋)
単離網膜神経節細胞培養系を用いたグルタミン酸受容体の電気生理学的解析
E.網膜神経節細胞における一酸化窒素合成酵素(NOS)および一酸化窒素(NO)の動態(三嶋)
単離網膜神経節細胞培養系のNOS発現(免疫染色)およびNO産生の解析(NO蛍光指示薬を使用)
②薬物治療
ラタノプロストの長期使用後の眼圧下降作用ならびに副作用(三嶋)
ラタノプロストを処方した患者を長期にわたり観察し、その眼圧下降作用ならびに副作用を処方パターン別に解析
③神経再生
A.眼球発育に関わる新規遺伝子のクローニング(三嶋)
眼球発達に関与する遺伝子のDNAアレイを用いた解析、新規遺伝子のクローニング
B.イモリ再生肢の遺伝子発現解析(三嶋)
イモリ再生肢における新規細胞外マトリックス分解酵素遺伝子のクローニング
④疫学
緑内障の早期発見を主目的とした眼科住民健診システムの確立(三嶋)
広島県三次市における眼科健診。一次検診として問診、視力、眼圧(非接触型眼圧計)、細隙灯顕微鏡検査、眼底検査(写真撮影)を施行し、眼科専門医が総合的に判定を行った。一次検診で要精査となった受診者に対し二次健診を勧告し、一次検診と二次健診の検査結果の関係について分析することにより、より効率的な健診のあり方について検討する。
結果と考察

A.NMDA型受容体サブユニットノックアウトマウスで網膜細胞死の減少を認めた。
B.網膜内神経栄養因子の定量に成功した。
C.水溶性カルシウムブロッカー、カルシウム・ナトリウムチャンネルブロッカーの2剤に神経保護効果を認めた。
D.単離培養網膜神経節細胞にイオン型グルタミン酸受容体サブタイプが電気生理学的に発現し機能していることを証明した。
E.網膜神経節細胞にNOSがあることが確認された。培養網膜神経節細胞での細胞内NO合成を直接観察した。NOSの阻害剤によりNO合成は抑制された。

ラタノプロストはすべての処方パターンにおいて眼圧を有意に下降させた。重篤な副作用を認めなかった。

A.眼球発育期の新規遺伝子をクローニングした。この遺伝子の眼内での発現は網膜に特異的であった。
B.再生肢において新規細胞外マトリックス分解酵素遺伝子の発現を認めた。特に再生芽の先端にできる傷上皮で強く発現していた。

一次検診における眼底検査と二次健診の緑内障診断との一致率は50%であり、眼圧との一致率は0%であった。今回の眼科健診の緑内障検出における敏感度は84.2%であった。
結論

A.NMDA型受容体が神経細胞死に主要な役割を果たしていることが直接的に示された。選択的サブユニット阻害剤の開発により緑内障における網膜神経節細胞死に対する保護効果が期待される。
B.内在性の神経栄養因子の動態を解明することは、神経栄養因子群を解した神経保護治療に発展可能である。
C.網膜神経障害に対して保護効果を期待できる2剤を見出した。
D.分離培養された網膜神経節細胞にはグルタミン酸神経毒性に関与するグルタミン酸受容体が発現していた。
E.網膜神経節培養系を用いてNOSおよびNOが挙動していることを直接示した。

ラタノプロストは長期においても優れた眼圧下降作用を持っている。

A.眼球発育期に高い発現のある新規遺伝子をクローニングした。この遺伝子は網膜の分化に関与していることが示唆される。
B.イモリ再生肢より新しい細胞外マトリックス分解酵素をクローニングした。

眼科健診において緑内障の検出を眼圧のみで行うことは困難である。

公開日・更新日

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