網膜色素変性の遺伝子解析と保護因子の遺伝子導入による治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000584A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜色素変性の遺伝子解析と保護因子の遺伝子導入による治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 信(東北大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
網膜色素変性は進行性の夜盲、視野狭窄、視力低下を主症状とする疾患で、有病率は、人口10万人に対して、12.5人から36.8人と推定されている。また失明原因の上位に位置する疾患で、先天盲の第1位を占めている。本疾患に対し有効な治療法を講ずることは失明対策上重要である。近年の分子遺伝学の進歩により従来全く原因が不明であった本疾患の遺伝子レベルでの異常が徐々にではあるが明らかとなってきている。当教室では世界で初めてペリフェリン/RDS遺伝子コドン244の2つの変異、コドン184およびコドン200の変異が明らかしたほか、同遺伝子コドン172の変異、ロドプシン遺伝子コドン347の変異および第19染色体長碗に連鎖する本疾患家系が検出され、本疾患の遺伝的異質性の理解、遺伝子レベルでの病因の解明に貢献してきた。我々は網膜色素変性症、加齢黄斑変性症患者の極低視力を客観的に評価するための機器を新たに開発(特許申請中)しており、このように原因遺伝子の究明、移植技術の開発、効果判定機器の開発を終え、今後は原因遺伝子に対して正常な遺伝子を導入する、あるいは網膜変性を保護する遺伝子を導入した細胞を移植するなどの遺伝子導入技術を用いた治療が必要と考えられる。以上のことから、本研究では網膜色素変性の原因遺伝子の解明と遺伝子導入による変性阻止を目的とする。
研究方法
初年度は1)ラット虹彩色素上皮細胞(IPE)に対して、視細胞変性に抑制効果を持つことが確認されているBDNF、CNTF、axokine cDNAをウイルスベクターを用いて導入し、培養下での導入遺伝子の発現をRT-PCRで調べる。遺伝子導入はアデノウイルスベクターを用いて行った。2)導入遺伝子による恒常的な遺伝子発現によってその他の遺伝子発現がどのように変化するかを調べるため、プラスミドベクターを用いて遺伝子導入を行い、その細胞からmRNAを抽出し、DNAマイクロアレイ法により調べた。3)遺伝子導入を行った細胞をラット網膜下に移植し、ウイルスベクター自身の副作用を調べた。以上の3点に加えて網膜色素変性の遺伝子解析を行った。
結果と考察
培養ラットIPEにアデノウイルスをベクターとして用いて、遺伝子導入を行ったところ、導入遺伝子の発現は導入後、3日をピークに約2週間認められた。その発現量はmRNAレベルでコントロール細胞の約10倍、また、培養上清中のタンパクについて見ると、その量は2週間の培養で1000倍にも上昇した。これらの細胞からmRNAを抽出し、マイクロアレイシステムを用いて他のサイトカイン遺伝子の発現変化を調べた。その結果、遺伝子導入によって遺伝子の発現パターンが変化することが明らかとなった。どのような遺伝子が変化するかは現在、詳細に解析中であるが、導入する遺伝子によってもそのパターンは様々であった。遺伝子導入IPEを網膜下に移植し、アデノウイルスの多臓器への伝播について調べた。培養下で細胞に感染させ、網膜下に移植した場合、その発現は網膜に限局していたものの、ウイルス液を網膜下に注入した場合、脳、肝臓、肺、精巣と全身にウイルスが伝播することが確認された。このことから、培養下で感染させ、それを移植するという方法は、直接、ウイルス液を注入し、遺伝子を導入する方法に比べて副作用面で安全性が高いと考えらた。
網膜色素変性の原因遺伝子の探索を行い、新たに、網膜特異的に発現しているFSCN2遺伝子に変異が認められることを見つけた。網膜色素変性の原因遺伝子として、FSCN2遺伝子の変異は世界ではじめてである。
結論
今回の研究により、目的遺伝子をアデノウイルスをベクターとして導入する場合、直接、網膜下にウイルス液を注入した場合には全身伝播の危険性があることが明らかとなった。また、培養下で細胞にウイルスを感染させ、その細胞を移植した場合、全身伝播の危険性が少ないことが実験的に示された。しかし、アデノウイルスをベクターとして用いた場合には、その発現は2週間程度であり、治療効果を考えた場合、長期間安定的に発現させることが重要であり、ベクターに関して検討する必要があることが明らかとなった。
新たに網膜色素変性の原因遺伝子として見つかったFSCN2遺伝子について、FSCN2遺伝子が視細胞の変性にどのように関与しているか、また、このような変異に対して神経栄養因子の遺伝子導入による治療が有効か検討する必要がある。

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