難聴によるコミュニケーション障害と補聴器による改善効果の評価法に関する研究

文献情報

文献番号
200000581A
報告書区分
総括
研究課題名
難聴によるコミュニケーション障害と補聴器による改善効果の評価法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 牧人(北里大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小寺一興(帝京大学)
  • 細井裕司(奈良県立医科大学)
  • 田内光(国立身体障害者リハビリセンター)
  • 大沼直紀(筑波技術短期大学)
  • 廣田栄子(国際医療福祉大学)
  • 松平登志正(北里大学)
  • 米本 清(岩手県立大学)
  • 岩崎 聡(浜松医科大学)
  • 泰地秀信(国立病院東京医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では高齢者に補聴器をうまく役立たせ、それにより彼らが聴覚的コミュニケーションを改善し、QOLを向上できるようになることを目的とする。とくに、補聴器のフィッティングの評価、補聴器の機械的特性の評価、自覚的装用効果の評価、社会的装用効果の評価等につき統一した評価法の作成をめざす。2年目は自覚的評価法についてはアウトラインを決定する。他覚的評価における基礎的条件を明確にする。語音の提示についてはさらに多方面から問題点を列挙する。聴覚リハビリテーションの基礎を始める。
研究方法
1.高齢者の聴覚障害の実態調査
2.聞こえの質問紙の試行結果の解析と質問項の絞り込み
3.補聴器装用下検査室の条件に関する研究
4.語音聴力検査に関する研究
1)補聴器装用下語音聴力検査の問題点、基準値および使用素材の検討
2)話速変換語音聴力検査法
3)補聴器適合時の自覚的評価表の作成
5.1)補聴器の相互評価、とくにデジタル補聴器の評価
2)音声加工による語音聴取の改善について
6.補聴器の過渡歪みの測定法の開発とイヤーモールド材質による歪みの相違を検討
7.聴覚リハビリテーションに関する研究
1)聴覚リハビリテーションプログラムの検討、ニーズの検討
2)視覚併用による語音聴取改善の可能性の検討
結果と考察
1.全国600名の60歳以上の高齢者にアンケート調査した結果、補聴器の利用は3.1%に過ぎないが、日常生活やテレビの聴取で困っている人は7.7%あり、とくに70歳以上ではその頻度が高かった。補聴器を含め何らかの聴覚補償を講ずる必要があると思われた。
2.聞こえの質問紙を380名に試行し、解析した。50項目の質問項を因子分析すると3つの因子に分けられ、各々hearing disability、handicap、communication strategyに該当した。この質問紙の生成過程で吟味されていたことの一つが証明された。装用前後での得点の変化を見ると、hearing disabilityでは約1点の差が出るのに対し、handicapとcommunication strategyでは全く差がなく、単に補聴器を装用しただけではよりよい聞こえを実現できていないことがわかり、聴覚リハビリテーションの必要性がより明白となった。質問項は50問あり、高齢者が記入するのに時間を要するため、因子分析の結果、因子負荷量の高い質問項を残したり、「経験がない」と答えた割合が多い質問項を削除したりして、総計28問からなる「きこえについての質問紙2001」を作成した。
3.補聴器装用下検査の条件に関する検討:ノイズやFM音を使用すると既存の防音室もISO8253-2の規格をほぼ充たすことがわかった。音場で語音聴力検査をする場合、純音で較正すると誤差が大きいので、自分の施設の音響学的特徴を十分把握して使用する必要があると思われた。
4.語音明瞭度検査による補聴器適合状態の評価
1)67-S語表内の基準音は純音なので、音場での検査では較正として使用できない。そこで、SRTを用いて基準を調べたところ約5dB小さいことがわかった。
2)市販の3種類の語音聴力検査用CDを用いて音場で聴力検査を行ったが、成績にばらつきが多かった。また、語表間でのばらつきも大きかった。したがって補聴器装用評価においては語表をできるだけ統一する必要があると思われた。
3)話速変換語音聴力検査の結果、1.5倍速55dBでリニア型補聴器の結果がノンリニア型補聴器と比較して正答率が低かった。ノンリニア型補聴器が良いと判断した群ではノンリニア型補聴器の方が正答率が高かった。
4)補聴器適合時に自覚的評価としての質問紙「試聴の記録」を作成した。
5.1)デジタル補聴器の評価
アンケートの結果、すべての項目でデジタル補聴器がスコアは高かったが、有意差が認められたのは日常生活度のみであった。非雑音下の最高語音明瞭度ではアナログ補聴器の方が平均点では高かったが有意差はなかった。右90度雑音負荷ではデジタル補聴器の方が、S/N比±5dBのすべての状況で高い語音明瞭度が得られたが、有意差は認められなかった。
2)語音の加工による聴取能の変化について
子音部伸長で明瞭度が改善したり悪化する音節を認めた。
子音部伸長に圧縮増幅を組み合わせると明瞭度が改善する音節が増加したが、逆に低下した音節もあった。
6.補聴器の器械的特性に関する問題点
1)理論的検討から、ハードイヤモールドでは音圧が増強されるとともに過渡歪みが生じるが、吸音性のイヤモールドでは過渡歪みは現れにくいことが予想された。
2)パワーレベルでみて、イヤモールドの材質ではソフト、シリコンはハードと過渡特性にあまり差はなかったが、スポンジの場合にはハードより過渡歪みは小さかった。
3)歪度についてハードおよびスポンジのイヤモールドの違いを検討すると、すべての周波数において歪度はスポンジの方が有意に小さかった。
7.1)難聴者にHDHS:IUHW版聴覚障害自己評価検査を施行した。
障害自己評価総得点と関連する要因について検討すると、聴力要因、語音明瞭度要因とも弱い相関を示した。年齢では、高齢者では得点は低く中高年と比して障害感が低かった。
補聴器装用により障害自己評価点は減少し、補聴器装用による障害感の改善を認めた。しかし、障害補償意図に関しては,補聴器装用による改善は明かではなかった。コミュニケーション障害補償に関しては,補聴器装用に加えてリハビリテーションを実施する事が必要であるといえる。
リハビリテーションプログラムは①補聴支援に関する講義、②会話方法の個別指導、③障害に関する懇談会で構成する。リハビリテーションプログラムへの参加へのニーズは高かった。2週に1回、計6回程度が適当である。
2)視覚併用検査結果:明瞭度不良群では補聴器を装用するだけでなく、視覚を併用する方が明瞭度が改善した。
結論
1.聞こえのアンケート調査から、高齢者では聴覚補償の支援を受けていない者が10%以上存在すると推定された。
2.「きこえについての質問紙」を試行した。統計学的解析等により質問項の絞り込みを行い、総計28問の新しい「きこえについての質問紙2001」を作成した。
3.測定された防音室は1/3オクターブ帯域雑音およびFM音を音源とした場合には、ISOに示された許容範囲内にほぼ収まるものと思われ、音場検査に使用できると考えられた。しかし、現在標準とされている語音聴力検査用の音源に収録されている較正音が純音であるなど、補聴器装用下音場検査の環境は各自の施設の特徴を認識して施行する必要があることがわかった。
4.1)67-S式語音聴力検査語表の音場における正常片耳の語音了解域値(SRT)を測定したところ、イヤホン聴取に比べ約5dB低かった。音場検査に使用する場合注意が必要であるといえる。
2)57-S、TY、KRの3種のCDを用いて難聴者および正常者にスピーカー法による単音節語音明瞭度検査を施行した。3種のCDに特に優劣はなかったが、ばらつきが大きかった。
3)話速変換語音聴力検査は従来行われてきた語音聴力検査と比較してより主観的評価を反映している検査であることが示された。
4)補聴器試聴時の評価を質問紙法で行うための質問紙を作成した。
5.アナログ補聴器とデジタル補聴器を比較した。補聴器の評価・比較検討では、評価方法や測定条件によって微妙に結果が変わる可能性があり、補聴器の評価方法の検討とまたその統一が今後望まれる。補聴器の評価は多角的に行う必要があり、特に客観的評価法である語音明瞭度検査は非雑音下のみならず、雑音下での検査が重要と思われた。
2)子音部の40msecの伸長は感音性難聴患者の「ダ」「ザ」の明瞭度を改善する。子音部伸長に圧縮増幅を組み合わせると「ダ」「ザ」に加えて「ホ」「ジ」の明瞭度が改善した。音声加工は明瞭度改善に有効であるが、適合する難聴患者を選択して用いることが重要である。
6.過渡歪みはイヤモールドを吸音性にすると減少した。実際、スポンジの方が有意に歪度が小さかった。
7.1)難聴のハンデイキャップ自己評価(HDHS:IUHW版)は、難聴高齢者固有のhandicapの状況を分析し、補聴効果を評価して、総合的なリハビリテーション計画の作成に有用であった。
2)中等度難聴の補聴器装用例においても視覚活用による語音識別の改善が確認された。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-