耳鳴症の有病率に関する研究

文献情報

文献番号
200000579A
報告書区分
総括
研究課題名
耳鳴症の有病率に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小田 恂(東邦大学)
研究分担者(所属機関)
  • 杉田 稔(東邦大学)
  • 村井和夫(岩手医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
耳鳴は難聴、耳閉塞感とならんで耳疾患の重要な臨床症状である。科学技術の進歩にともなう病態生理学や臨床生理機能検査医学の進歩にともなって難聴に関する機能検査は大きく前進した。とくに、オージオメータの出現によって、純音聴力検査は臨床機能検査のなかでも重要な検査となっている。純音聴力検査は気導聴力検査と骨導聴力検査の二つの方法で行なうことになっているが、その結果難聴の程度の診断をはじめ、難聴の性状の診断など難聴の量と質の診断が可能となった。すなわち、外耳や中耳疾患に起因する伝音難聴と内耳や後迷路障害による感音難聴の診断を可能にした。その後、幾多の聴覚検査法が現われたが、基本的には純音聴力検査の結果をさらに詳細に検討するための検査といっても過言ではない。このような諸検査をもってしても耳鳴の概要を把握するための検査は報告されていない。その理由は、耳鳴のような僅かなエネルギーを直接記録する方法が無かったことによる。現在行なわれている耳鳴検査は、耳鳴測定装置やオージオメータを利用して、耳鳴のピッチと大きさを心理音響学的手法によって測定する方法である。このような、臨床検査上の諸々の問題から、耳鳴症は他の聴覚障害がつぎつぎに解明され、治療医学の体系に組み込まれてゆくのに反してとり残された存在となって、今日に至っている。多くの疾病に対する臨床医学の対応は治療法の開発とともに疫学的研究も広範囲に行なわれているが、耳鳴に関してはかって英国において広範囲に展開された調査結果が残っているだけで、その他は散発的な研究にすぎない。今回、一地域における耳鳴症の疫学調査を行なうことを命題として本研究を開始したが一般人口における耳鳴保有率、一組織内の耳鳴保有者の年次推移、小学生における耳鳴保有率、耳鼻咽喉科外来受診の患者における耳鳴保有率を調査して、耳鳴の疫学的研究の最初の段階は終了したものと考える。
研究方法
小学生における耳鳴保有率は東京都内のある小学校の全員を対象にアンケート法で調査した。調査内容は、調査票記入時点での耳鳴の有無、難聴の有無である。耳鳴や難聴がある場合には、どちらの耳か、両耳かについても記録紙に記入させた。同様に耳鼻咽喉科初診患者に対する耳鳴の保有率も、記入時に耳鳴があるか否か、難聴があるか否か、ある場合にはどちらの耳かなどについても調査をおこなった。人間ドック受診例における耳鳴有病率についても同様にアンケート方式で調査を行なった。耳鳴症例については、聴力検査が行なわれた。企業内従業員を対象とした耳鳴保有率の検討は、平成11年度に初回の調査を行い、平成12年度には同一症例について1年間の耳鳴保有者の年次推移について検討した。このように、研究方法は主としてアンケート形式を用いた調査をもとに行い、症例の耳疾患の詳細な分析は大学病院受診例にのみ限定して施行された。
結果と考察
小学生における耳鳴の検討では、全校生徒498人の規模の学校を選んで調査を行なった。男女比は、男児242名(48.6%)、女児(51.4%)であった。耳鳴を保有している児は全学年で8名(1.6%)であった。学年別にみると、4年生の0名、2,3,5年生の1名、6年生の2名、1年生の3名であった。耳鳴保有例8名中5名は現在耳疾患のため通院中(疾患の詳細は不明)であり、この5名を除いた残りの3名も耳疾患の有無、その他の詳細は不明であった。平成11年度に1大学の耳鼻咽喉科外来を受診した新患患者は6,224名であった。年齢と患者数は、1-9歳 1,628名、10-19歳 987名、20-29歳 734名、30-39歳 816名、40-49歳 549名、50-59歳 623名、60-69歳 421名、70-79歳 269名、80歳以上 197名であっ
た。これらの初診患者のうち、調査時に耳鳴を自覚している人は509人(8.17%)であった。年代別にみると、耳鳴の保有率が一番高かったのは50歳台で19.3%で、その他60歳台17.4%、70歳台16.4%、ついで40歳台14.7%、30歳台11.5%という順であった。これらの症例は耳疾患を訴えて来院した患者ばかりではなく、鼻疾患や口腔咽頭疾患、喉頭疾患や頭頚部腫瘍患者が含まれており、耳疾患ばかりの難聴外来患者の耳鳴保有率に比べるとかなり低い値となっている。難聴外来の症例の多くは感音難聴の患者で、難聴の程度は軽度のものから高度な感音難聴まで様々である。そのほか耳鳴を主訴に来院した患者や慢性中耳炎術後の症例も含まれている。平成11年1月から平成12年12月末までに難聴外来を受診した症例は350例で、その内249例(71.1%)の症例が耳鳴を伴っていた。難聴のある症例は312例、難聴のない症例は38例であった。この難聴のない38例は前例耳鳴のために来院した症例でいわゆる無難聴性耳鳴例であった。難聴のある312例の内訳は伝音難聴46例、感音難聴266例で伝音難聴では46例中18例(39.1%)に耳鳴がみられ、感音難聴では266例中203例(76.3%)に耳鳴が合併していた。人間ドック症例における耳鳴保有率の研究では、鼓膜が正常で気導聴力と骨導聴力に差異のみられなかった1389例が対象となった。男性例956例、女性例433例で、男性の平均年齢は48.9歳、女性の平均年齢は51.4歳であった。耳鳴についてのアンケート調査は、1)耳鳴なし、2)ときどき耳鳴あり、3)常に耳鳴あり、の3群に分けて検討した。一側耳に時々、または常時耳鳴がある例は、男性10.1%、女性18.2%であった。一般健康人のなかにどの程度の割合で耳鳴保有者がいるかについて、東京都内の一部上場企業の男女従業員の健康診断時に質問票を用いてアンケート調査を行なった。さらに平成12年度に同一職場において同様のアンケート方式の調査を行なって、年次推移について検討した。対象は平成11年度は1601名であったが、平成12年度では1793名であった。この内、平成11、12年度のアンケート内容が完備している867例を解析対象とした。平成11年度に耳鳴を時々感じると答えた101人のうち、平成12年度にも同様に感じると答えた人は50名で他の48人は耳鳴をほとんど感じないのカテゴリー転化していた。いつも感じるというカテゴリーの変化はみられなかった。
結論
今回の2か年の研究では、当初の目的である一般の人口構成における各年齢層の耳鳴有病率を明確にすることはできなかったが、比較的まとまった年齢層である小学校学童や人間ドック患者を対象とした研究で、上記目標に近いデータを集積することができた。すなわち、小学校の学童における耳鳴の有病率は1.6%であった。耳鳴を訴えた児童に関する詳細は不明であるが、耳鳴有病児童の大半に耳疾の合併がみられたことは重要である。前述のように、難聴外来におけるデータでは伝音難聴の場合、約40%に耳鳴の合併がみられるので、小学生の耳疾患の多くが伝音難聴であることを考えると、治療によって耳鳴有病率が減少するのではないかと考えられる。平均年齢が50歳近くの人間ドック患者では、耳鳴が時々ありと常時ありを合わせるとおよそ10%弱の患者にに耳鳴がみられている。年齢的には小学生と人間ドック患者の中間に位置する市中の会社員における耳鳴は時々感じる・しばしば感じる・いつも感じるの3つのカテゴリーを合わせると14.7%になった。年齢的な耳鳴の有病率の上昇が推定される。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-