中途視覚障害者のQuality of Life(QOL)を早期に改善する情報システムの研究

文献情報

文献番号
200000578A
報告書区分
総括
研究課題名
中途視覚障害者のQuality of Life(QOL)を早期に改善する情報システムの研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
樋田 哲夫(杏林大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小田浩一(東京女子大学)
  • 山本晃(杏林大学)
  • 田中恵津子(杏林大学)
  • 西脇友紀(杏林大学病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中途での視覚障害によって低下したQOLを復元させるために、社会には障害を補償するエイドやリハビリテーションの社会資源が用意されている。しかし、必要としている者がそのことを知っているとは限らず、その情報を入手できずにリハビリに至るまでの無為な時間を費やしてしまう場合がある。これは視覚障害のほかに「情報障害」が生じている可能性が高い。こうした情報不足による二次的な障害を避けるため、受障早期の患者に関わる病院眼科がイニシアチブをとって、患者がリハビリの社会資源に接する場面(機会)を設けることは大いに意義があると考えられる。本研究では、眼科臨床において受障直後の中途視覚障害者を対象とした情報提供システムを完成させることを目的とする.
機構としては病院内のLANを利用し,病院外にある視覚障害に関するあらゆる社会資源(リハビリ訓練施設の情報、視覚障害に関する種々のサービス資源、コスト、実際のリハビリ経験談など)、総合的に関連情報を収集し、提示する。そして提示後の効果を患者のQOLの変化という点から評価する。
平成11年度は、QOLの評価方法の具体化、提示情報の収集、病院内で求められる情報内容とその提示方法の検討を開始した。また電子情報管理サーバも完成させハードウェアの面からも実際の提示を開始する次年度に備えた。平成12年度は、平成11年度に得た知見をもとに、(1)収集した情報の調整および電子化、(2)電子媒体以外の方法での提示形式(講習会形式、自宅訪問形式)での情報提供の実践と効果の検討、(3)QOL評価方法の確立と情報提示前のQOLの実態調査、を行った。
研究方法
本研究で行う情報システムの開発にあたり、以下の段階をふむ。
1)情報収集とその組織化
視覚障害に関係した情報をできるだけ広範囲に収集する。素材収集にあたっては、エイド・社会制度・リハビリ訓練施設・障害者団体・民間サービス・リハビリを終えて社会復帰を果たした視覚障害者へのインタビューなど、できるだけ各分野専門職の協力を得ながら有益かつ確実な情報の収集作業を行う。インターネット上の既存の情報も積極的にとりいれる。情報のメディアは限定しないが、すべて電子化し、一つのコンピュータ上で必要な情報が平易に取り出しやすい形で保存・管理する。実際の臨床現場での提示に際しては、ニーズ調査(平成11年度)をもとに、これらデータの中の内容のバランスの調整を図り、提示方法についてもホームページの形式、情報提示システム画面自動再生の形式、個別対応で担当者が説明する形式、講習会形式など各形式における有効性を検討していく(平成12年度)。
2)電子情報を提示するサーバの構築
システムで保有する電子情報を一つのコンピュータで管理し、必要な情報を誰でも検索しやすい形で保存する。このサーバから設置場所の違う端末に情報が送られるネットワーク管理を行う。
3)外来情報システム提示装置の開発
中途視覚障害者本人、その家族、あるいは今後視覚障害を持つ可能性のある人など、不特定多数に対して、広い意味でのリハビリに関する啓蒙を目的とした情報提示システムを外来待合室に設置する。個人が自由に情報を検索できるホームページ形式のシステムや、大画面を使った自動再生モードのシステムの両方を開発する。平成12年度後半から改良しつつ外来提示を開始したが、そこで患者が自由に選択した情報の傾向についても調査を続ける。平成13年度は、これらシステムを利用した患者の生活面の変化を把握する。
4)ニーズにあった情報提供の実施
すでに視機能低下に伴うQOLの低下を自覚している患者に対して、個別に面談し、ニーズを把握した上で必要な情報を選択して伝える(平成12年度より)。QOLの状態を客観的に把握し(後述)、このような介入の前後における対象者の生活面の変化を調査する。
5)QOL評価基準の決定
QOLの評価材料の開発を行う(平成11年度)。既存のQOL評価表の比較検討した結果と、実際に視覚障害によって困難になると考えられる日常課題の調査結果をもとにして、質問項目を選定する。それぞれの課題の困難度を点数化することでQOLの状態を量的に評価できるものとする。また、それぞれの日常課題ごとに問題解決につながる情報を(1)で蓄積したデータベースから選び、システムとの関連性ももたせる。
結果と考察
1)ニーズの高い情報とその提示方法について
患者との個別面談時に聴取したニーズ分析では、視覚障害に伴う二大困難といわれている、読み書きと移動に関する問題が圧倒的に高いニーズであることがわかった。さらに、平成12年度は患者に自由に回答してもらう方法ではなく、本研究で開発したQOL評価表(後述)を用いて個々の課題に対する評価をした結果、聴取されたニーズはバリエーションが増え、自由回答形式の面談では把握しきれない可能性のある潜在的なニーズがあることがわかった。余暇活動に対するニーズや、身辺管理に関するニーズがそれであり、対応するリハビリ・サービスなどの情報収集を新たに開始した。ニーズの高いトピックを検索しやすい形で提示し、個別面談でも外来提示システムにおいても利用しやすいものを目指した。
情報提示の効果に関しては、平成11年度までに行った調査では、 院内での情報提供を介して対象患者の生活上の困難のうちほぼ半数が解決できたこと、情報の提示方法は言葉やパンフレットによる説明だけよりも、実際の用具・サービス・訓練を院内で体験させながらの提示の方が情報の利用度があがる、ひいては困難が解消されやすい効果があることがわかった。その結果をもとに平成12年度は、実践を伴う情報提供の方法を検討し、講習会形式、自宅訪問形式での情報提供を試み、その効果を調べた。その結果、これらの形式はリハビリ訓練への導入期にある人や、高齢者など生活範囲が比較的狭い人々には特に有効であったため、提供方法の一手段として位置づけた。
2)電子情報を提示するサーバの構築
この開発は11年度に小田が担当し、完了した。サーバのOSはMacOS X server で動作させた。セキュリティや、稼働中のアイセンターの別のサーバとの関係で Linux よりも MacOS X server の方が良いという判断をしたためである。MacOS X server は院内のファイルサービスと、Web サービスのみを起動し、他のサービスは停止して院内の情報サービスのみを行うことにした。
3)QOL評価基準の決定
既存のQOL評価表の中でNIH-VFQは、特定の疾患の罹患者を対象にしたQOL評価表としてではなく、視覚障害者全般を対象に開発された数少ない評価表であった。ここではそのNIH-VFQで用いられていた評価項目を参考に、1)精神・心理面の評価より具体的な行動面での評価項目の比重を高くする、2)日本の文化やライフスタイルにそった質問内容に変更する、3)課題遂行の可否判断だけでなく、実状に満足しているかいないかという評価基準で情報提供の本質的なニーズがあるかを反映する評価得点にする、点を考慮して51項目で構成された独自の評価表を開発した(平成11年度)。
この評価表の現在までの試用結果をまとめると、開発の目的であったQOLの客観的な把握という点においては、ニーズとその他の要因との相関を調査した研究(平成12年臨床眼科学会発表)や講習会形式の情報提供の効果を調査した研究(平成13年視覚障害リハビリテーション研究発表大会にて発表予定)で、得点の統計的分析が可能であり有用性を確認した。また、評価表の各項目と、それに関連した情報を対応付け、まとめたページを提示システムに作成した。
結論
中途視覚障害者のQOLを早期に改善するための情報提示システムについては、平成11年度、12年度で関連情報の収集をほぼ終えた。情報はすべて電子化して保存・管理するが、提示は、複数の形式(ホームページ形式で外来患者またはその家族が自由に閲覧する形式、個人面談を中心に担当者が情報を選択して提示する形式、講習会でリハビリの実践を交えた提示の形式など)をとる。それぞれの提示形式と、適した対象や情報内容の対応づけは平成12年度に引き続き今後も進める必要がある。このような対象となる視覚障害者のQOLを変数とした量的・質的な分析研究には、本研究の一環として平成11年度に開発したQOL評価表が有効であることがわかった。

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