文献情報
文献番号
200000577A
報告書区分
総括
研究課題名
盲聾者を主対象にした任意の触読パターンが作成可能な三次元レーザ・プリンタに関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
数藤 康雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 小田浩一(東京女子大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
盲聾者と呼ばれる重複障害者は一般に視覚や聴覚からの情報入力が困難で、触覚が唯一の入力経路になる。このため点字に代表される触読法は彼らにとって極めて重要なコミュニケーション手段となっているが、点字の最大の欠点は、いかに訓練を行なっても後天的な盲聾者などの中には点字の読み書きを修得できない人も多い、ということである。したがって本研究の目的は、点字を読めない盲聾者でも、独力で紙から情報を触読できる装置を開発することである。そしてそのために、①容易に触読可能な浮き出し文字を作成できるインクリボンや専用紙の開発、②それらのインクリボンや専用紙を利用した小型の個人用三次元レーザ・プリンタの開発、③触読に最適な浮き出し文字パターンとそれを印字するためのソフトウェアの開発、などを実施する。
研究方法
研究1年目となる一昨年度は、まず半導体レーザ光を照射することによって普通紙に浮き出し文字を印刷できる熱発泡性インクリボンを開発するとともに、そのようなインクリボンを用いて普通紙に任意の浮き出し文字を印刷する光ファイバ方式の印刷機構(半導体レーザは移動台に置かずに集光レンズのみを移動台に載せ、半導体レーザと集光レンズとは光ファイバで接続する機構)の試作を行なった。そして研究2年目の昨年度は、開発したインクリボンの欠点(例えば浮き出し文字の印刷に時間がかかる問題など)を改善し、光ファイバ方式を用いた三次元レーザ・プリンタの一次試作を行なった。また触読に最適な浮き出し文字フォント・パターンを検討し、評価したフォントの中では飾りのない細ゴシック系のカタカナが一番触読しやすいことがわかった。
一次試作品の評価では印刷速度が遅く、筐体が大きいなどの問題点が明らかになったため、研究最終年度となる今年度は、印刷速度を早くするとともに、より安価な製品が実現できるよう、新たにダイレクト発泡紙の開発とその専用紙を利用できる三次元レーザ・プリンタの試作を行なう。なお浮き出し文字の検討では晴眼者を被検者にしているが、十分な説明と了解を得た上で実施する予定であり(そのうえ被検者は触読動作しか行なわないため)、倫理面の問題はまったくないと考えている。
一次試作品の評価では印刷速度が遅く、筐体が大きいなどの問題点が明らかになったため、研究最終年度となる今年度は、印刷速度を早くするとともに、より安価な製品が実現できるよう、新たにダイレクト発泡紙の開発とその専用紙を利用できる三次元レーザ・プリンタの試作を行なう。なお浮き出し文字の検討では晴眼者を被検者にしているが、十分な説明と了解を得た上で実施する予定であり(そのうえ被検者は触読動作しか行なわないため)、倫理面の問題はまったくないと考えている。
結果と考察
昨年度試作した三次元プリンタ(一次試作品)では熱発泡性インクリボンを採用した。熱発泡性インクリボンは、普通紙に印刷できる、五層程度の重ね書きが可能で立体印刷ができる、などの利点はあるものの、カセット・テープを利用する関係上カセットの自動挿入・排出機構が必要であったり、普通紙に印刷したパターンが確実に接着してテープとの完全な剥離が実現するためには高速な印刷が難しい、などの欠点が明らかになった。このためレーザ光を照射すれば印刷紙が直接発泡するダイレクト発泡紙を開発し、プリンタの高速化と低価格化を目指すことにした。
ダイレクト発泡紙は三層構造で、レーザ光が発泡紙に当たると、最下層の光熱変換層で熱を発生させ、中間層である熱膨張インク層が約10倍膨張する。最上層は保護フィルムとなっている。この発泡紙の発泡状態は、カセット・テープで印刷した発泡より高さは100μmほど高い約300μmであったが、発泡の傾斜はやや穏やかになっている。
三次元レーザ・プリンタ本体の二次試作の狙いは、一次試作品の評価で明らかになった印刷速度が遅い、商品化した際の製品価格が高くなりすぎる、筐体が大きい、などの欠点を解消することであった。このためまず半導体レーザの出力を2.0Wからより小型の0.7Wに変更して低価格化を計った。また光スポットの偏向駆動をリニアモータからパルスモータに代え、安い部品を使用することにした。ただしダイレクト発泡紙と普通紙のどちらが好ましいかについて詳しい評価を行なうため、二次試作品では両方の用紙に印刷できる機構とした。このためプリンタの筐体は当初の目論見ほど小型化しなかったが、それでも制御装置をカード化するなりして、第二次試作プリンタの寸法は横幅50cm、高さ39cm、奥行き36cmで、一次試作品と比べると容積は約40%減少した。また重量は27kgで、これも一次試作品に比較して50%以上も軽くなっている。ダイレクト発泡紙のみを扱う場合には、カセットテープの自動挿入・排出機構などが不要になるため、容積・重量とも大幅な減少が期待できる。さらに印刷機構も単純となるため、同時にある程度の低価格化が期待できることもわかった。
カセット・テープ式インクリボンはプリンタ右上にある長方形の穴にカセットを挿入し、プリンタ左上の丸ボタンを押すとインクリボンは自動的にプリンタ内にセットされる。そしてカセット式のインクリボンが正しくセットされたかどうかを自動的に判断し、セットされているときのみ、普通紙に印刷し、それ以外の場合はダイレクト発泡紙に印刷することにした。なお安全対策としてレーザ光が外部に漏れない構造としたことなどは、一次試作品と同じである。
任意の浮き出し文字を打ち出すソフトウェアはVisual Basicで作成した。Windows系のOSであれば95/98/Meのいずれでも作動する。カタカナ文字以外にも任意のパターンが出力可能である。また今年度は通常のテキスト編集のみで文章を印字できるソフトも開発したため、使い勝手は大幅に向上した。
プリンタの印字速度については、出力文字パターンの大きさ・寸法によっても変化するが、一次試作品では2cm角の"ア"の丸ドット文字をA4一枚(8文字/1行で10行)に出力するのに約9分かかった。今回の二次試作プリンタでは、同様な文字パターンを打ち出す時間は約6分で、3分短縮された。高性能で価格の高い部品を使用すれば高速化はさらに進むが、性能を上げることとプリンタの低価格化とは相反することになる。そのあたりのトレイドオフを考慮して設計することが実用化に際しては重要な点となろう。
触読しやすいフォントについては、種々のフォントの評価結果から、細ゴシック体や弱視者でも読みやすいと言われているバリアフリーL書体が認識率が高かった。しかし"ツ"と"シ"などは間違いやすいことがわかったため、両方の良いところを取り込んだ新しいフォント(ForFinger)を開発した。その結果、細ゴシックより好成績が得られることがわかった。実際に使用する触読フォントは、印刷時間の関係で、連続したフォントではなく離散丸文字にする必要があるため、最初にプリンタに組み込むフォントは、ForFingerフォントに準じた離散丸文字を用いることにした。またフォントの認識率については個人差も大きいことがわかったので、数種類のフォントを用意し、それぞれの盲聾者が触読しやすいフォント・スタイル、フォント寸法が利用できるようにした。今後の臨床評価を通してより触読しやすいフォントに変更していく予定である。
ダイレクト発泡紙は三層構造で、レーザ光が発泡紙に当たると、最下層の光熱変換層で熱を発生させ、中間層である熱膨張インク層が約10倍膨張する。最上層は保護フィルムとなっている。この発泡紙の発泡状態は、カセット・テープで印刷した発泡より高さは100μmほど高い約300μmであったが、発泡の傾斜はやや穏やかになっている。
三次元レーザ・プリンタ本体の二次試作の狙いは、一次試作品の評価で明らかになった印刷速度が遅い、商品化した際の製品価格が高くなりすぎる、筐体が大きい、などの欠点を解消することであった。このためまず半導体レーザの出力を2.0Wからより小型の0.7Wに変更して低価格化を計った。また光スポットの偏向駆動をリニアモータからパルスモータに代え、安い部品を使用することにした。ただしダイレクト発泡紙と普通紙のどちらが好ましいかについて詳しい評価を行なうため、二次試作品では両方の用紙に印刷できる機構とした。このためプリンタの筐体は当初の目論見ほど小型化しなかったが、それでも制御装置をカード化するなりして、第二次試作プリンタの寸法は横幅50cm、高さ39cm、奥行き36cmで、一次試作品と比べると容積は約40%減少した。また重量は27kgで、これも一次試作品に比較して50%以上も軽くなっている。ダイレクト発泡紙のみを扱う場合には、カセットテープの自動挿入・排出機構などが不要になるため、容積・重量とも大幅な減少が期待できる。さらに印刷機構も単純となるため、同時にある程度の低価格化が期待できることもわかった。
カセット・テープ式インクリボンはプリンタ右上にある長方形の穴にカセットを挿入し、プリンタ左上の丸ボタンを押すとインクリボンは自動的にプリンタ内にセットされる。そしてカセット式のインクリボンが正しくセットされたかどうかを自動的に判断し、セットされているときのみ、普通紙に印刷し、それ以外の場合はダイレクト発泡紙に印刷することにした。なお安全対策としてレーザ光が外部に漏れない構造としたことなどは、一次試作品と同じである。
任意の浮き出し文字を打ち出すソフトウェアはVisual Basicで作成した。Windows系のOSであれば95/98/Meのいずれでも作動する。カタカナ文字以外にも任意のパターンが出力可能である。また今年度は通常のテキスト編集のみで文章を印字できるソフトも開発したため、使い勝手は大幅に向上した。
プリンタの印字速度については、出力文字パターンの大きさ・寸法によっても変化するが、一次試作品では2cm角の"ア"の丸ドット文字をA4一枚(8文字/1行で10行)に出力するのに約9分かかった。今回の二次試作プリンタでは、同様な文字パターンを打ち出す時間は約6分で、3分短縮された。高性能で価格の高い部品を使用すれば高速化はさらに進むが、性能を上げることとプリンタの低価格化とは相反することになる。そのあたりのトレイドオフを考慮して設計することが実用化に際しては重要な点となろう。
触読しやすいフォントについては、種々のフォントの評価結果から、細ゴシック体や弱視者でも読みやすいと言われているバリアフリーL書体が認識率が高かった。しかし"ツ"と"シ"などは間違いやすいことがわかったため、両方の良いところを取り込んだ新しいフォント(ForFinger)を開発した。その結果、細ゴシックより好成績が得られることがわかった。実際に使用する触読フォントは、印刷時間の関係で、連続したフォントではなく離散丸文字にする必要があるため、最初にプリンタに組み込むフォントは、ForFingerフォントに準じた離散丸文字を用いることにした。またフォントの認識率については個人差も大きいことがわかったので、数種類のフォントを用意し、それぞれの盲聾者が触読しやすいフォント・スタイル、フォント寸法が利用できるようにした。今後の臨床評価を通してより触読しやすいフォントに変更していく予定である。
結論
点字の読めない盲聾者などの視覚障害者のために容易に触読可能な浮き出し文字を紙に出力できる個人用三次元レーザ・プリンタの開発を目的として研究を行なった。その結果、浮き出し文字パターンを印字できるカセット方式のインクリボンとともにダイレクト発泡紙も開発した。また光ファイバ方式を採用したプリンタの二次試作を行ない、カセットテープ方式とダイレクト発泡方式のいずれもが作動できるようにした。両者の方式には一長一短があるが、低価格化と印刷速度の高速化、筐体の小型化の点では、ダイレクト発泡方式の方が有利であった。
また各種フォントの評価実験から、触読しやすいフォントとしてForFingerフォントを開発し、印刷にはそのフォントに準じた離散丸文字を採用することにした。そして印刷する文章はテキスト・エディタで簡単に作成できるようにした。今後の臨床評価を通してソフト・ハードの改良を行ない、近い将来、実際の盲聾者が使用できる製品を実現させたい。
また各種フォントの評価実験から、触読しやすいフォントとしてForFingerフォントを開発し、印刷にはそのフォントに準じた離散丸文字を採用することにした。そして印刷する文章はテキスト・エディタで簡単に作成できるようにした。今後の臨床評価を通してソフト・ハードの改良を行ない、近い将来、実際の盲聾者が使用できる製品を実現させたい。
公開日・更新日
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