視覚障害の早期発見及び評価法に関する研究

文献情報

文献番号
200000572A
報告書区分
総括
研究課題名
視覚障害の早期発見及び評価法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 靖彦(国立病院東京医療センタ-)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 敬一郎(国立霞が浦病院)
  • 野田 徹(国立病院東京医療センタ-)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
長寿、少子化に伴い QOL の面からも視覚、聴覚の重要性は益々増大している。
また、日進月歩の発展を続ける情報化社会において一時も欠くことのできない機能である。視覚障害、視覚機能発達障害の予防、治療のためには早期発見が第一であるが、早期発見のための評価法は未だ確立していない。高齢者に特有の眼科的疾患、いわゆる生活習慣病と称される糖尿病や高血圧症など、知らぬ間に視力障害が進行してしまうような疾患などをいかにして発見したらよいのか、など、まだ方法論が確立されていない。元来、視覚機能障害を有する場合、視覚器のみの異常である場合と重複視覚障害とがあるが、後者の場合が多い。このことは単に一般的な自覚的、他覚的検査では評価しきれないことを示している。殊に乳幼児における視覚機能発達を如何に評価し、如何にして未然に予防するかは、これからの長い生涯を考えるときその QOL に最も密接に関わってくる重大な問題である。そこで、重複障害者はもとより、乳幼児にも適合する視覚機能発達の客観的評価法の開発が望まれる所以である。
研究方法
情報は主として視覚、聴覚をとうして得られる。殊に視覚はその約80%を担っているともいわれている。視覚には、視力、視野、色覚、両眼視機能、コントラスト感度、動体視力など、多岐にわたる機能がある。いずれの一つが障害されても視機能は十分には発揮されない。すなわち、網膜でえた空間的、時間的情報は外側膝状体をへて大脳皮質に至り、そこから形態覚、色覚、立体覚、運動覚などの機能分化されたより高次の中枢にて処理される。この何処の箇所に障害があっても視機能は完成しない。このように視覚の発達はまさに中枢神経系の発達と相俟っているので、出生後急激に成長する運動系とともに重要な発達史のポイントとなっていることは言うまでもない。しかしながら、これを評価するには自覚的方法が主体であり、他覚的評価法は困難とされてきた。それでもこれまでに様々な視機能の他覚的検査法の研究がなされてきた。例えば視力測定法のひとつとして視覚誘発電位(VEP)が開発されてきたが、この検査法は再現性に乏しく、また絶対値を示すことは困難であり、比較値を呈示して(例えば左右の比較)記録にとどめ、時間の推移とともに経過観察するにとどまっている。また視覚心理学的手法による Preferentiai Looking 法や、Teller Acuity Card(TAC)、視運動眼振誘発法、など定量性を求めて研究、開発がなされているが未だ確立されたとは言えない。一方、行動視力とも言うべき、行動観察によって視機能を評価する試みもなされている。各発達段階においてそれに応じた行動 態度 反応などを通じて総合的に評価する方法であるが、これもまだ実験段階である。しかし、日常生活の中からある特定の行動をとうして推察される視機能は症例を重ねることによりかなり明かになる部分があると思われる。
さまざまの脳機能解析法が近年開発されつつある。脳波(EEG)、視覚誘発脳波(VEP)
ポジトロン断層撮影法(PET)、機能的核磁気共鳴画像(f MRI)、それに脳磁図(MEG)と次第に微小な脳内におこる電気変化をとらえる事が出来る方法が開発されてきた。これらを応用して視覚の機能を各々分けて調べる事の出来るシステムをつくりあげる必要がある。成人においては自覚症状を訴えてから自発的検診を受けることになるが、それでは遅すぎることが多い。普段からの眼科検診が重要であり、関係科と常に連絡をとって(たとえば糖尿病患者の内科医と眼科医)眼科的検査を受けさせる体制の確立が必要である。
早期発見には早期検診が必要である。小児については現在3歳児眼検診が一般化しているが、この時期では遅すぎる疾患が数多くあって、実際には機能していない部分がある。屈折弱視のスクリーニングに自動屈折測定装置がこれまでに幾つか考案され製品化されているが、改良すべき問題点が多々ある。屈折検査に限らず検査に協力の得られない小児や重複障害をもつ症例においては、簡便でしかも短時間に出来るだけ正確なデータが得られる検査装置でなければならない。
両眼視機能を調べる装置は大型弱視鏡を始めとしてハブロスコープ、偏光を応用したチトマスフライテスト、など幾つか臨床上利用されているが、いずれも一長一短があり、熟練を要するものが多い。もっと自然環境に近い状態で検査がおこなえる装置の開発が望まれる。コンピュ-ターを用いたバーチャルリアリティーを応用して両眼視機能を検査する装置が考えられる。
視野検査も他覚的検査しか行われていない。自動視野計といえども検者のみならず被検者もかなりの訓練を要する。ましてや小児や痴呆老人には検査不能である。これもたとえば、微妙な瞳孔反応を捕らえてコンピュ-ターにて解析する方法や、視運動を惹起させることによってその運動を捕らえて視野検査を行える可能性がある。
眼圧検査:閉検したままそのうえから装置をあてることによって眼圧を知ることが可能となる。緑内障患者などは自己管理を可能にする事が期待される。
結果と考察
平成11年度は①MTIフォトスクリーナーによる屈折異常の検出 ②3歳児健診によるスクリーニング後の事後処置 ③糖尿病性白内障および網膜病に関与する酵素の遺伝子転写機構の研究を主に行った。
MTI フォトスクニーナーは、準暗室で子供の前方1,4メートルに検者がこのスクニーナーを保持し、ピントあわせのための、エーミングライトを子供の額にあわせると同時にフラッシュさせ、垂直水平2方向の瞳孔からの反射光をインスタントフィルムに2段に納められるようにセットされている。半月状の反射光の幅によって屈折度が判定できる。
48名中4名に屈折異常が疑われ、眼科において精査の結果近視2名遠視2名(乱視を含む)が検出された。屈折度の判定は、半月状陰影の境界をどうとるかによってばらつきがでるが、これは、判定を繰り返すことによって解決されるものと思われる。大器の特徴は、比較的距離を一定にとりやすいこと、すなわち、検査しやすい点にある。また必ずしも視能訓練士と限らず、経験した保健婦、看護婦、などでも扱えることである。焦点をあわせ、シャッターをきるだけのものもある。ただ、判定が検査後に行えるため、うまく写真が撮れているかどうかは、その場で確認しておく必要があり、時間をその分必要とする。
屈折検査は、現在自動屈折計(オートレフラクトメーター)が主流となっている。従来光学的理論に基づいたスキアスコピー(線状検影器)の原理は未だ応用されてきており、この原理をハンディな検査器械として作られたのが MTI photoscreener である。瞳孔からの反射光を撮影して屈折度を測定するもので暗室で行わずとも、ある程度の暗さがあれば検査可能であることから室内で照度を落とした程度の明るさで小児の暗さに対する恐怖感を抱かせることなく測定できる。しかし精度は前年度にも報告した RC2000 のごとく正確さは欠けるものの ±2 ディオプトリー以上の屈折異常は検出可能であることからスクリーニングには有効であるとの結論を得た。但し生直後や明室で瞳孔径が、2~3㎜以上であると判読が困難であり、習熟することが必要となる。また、インスタントカメラ方式なのでその場で測定しなおしが可能であることは単純フィルムで一連の検査後に改めて現像の上拡大して検索する一般カメラ方式より有利であるが,コストが高くつく。
眼科3歳児健診は各都道府県レベルで施行されているが、東京都においては家庭での視力検査票(あらかじめ3歳児の家庭に送付)による結果を申告し、異常な低値あるいは左右差をみとめる場合と他に自己申告による問題点につき、第二次医療機関に依頼し、精査を受ける形式をとっている。東京都の場合原則として3.0歳~3歳1ヶ月の間に検査を受けることとしており、地方自治体によっては3歳6ヶ月であったり、3歳後半であったり、一定していない。
しかし3歳児後半になればなるほど異常の検出率は高くなる。(視力検査は行いやすくなるため)がそれに反して異常の検出時期が遅れることから治療には抵抗することになり、矛盾する。眼位異常と視力不良疑いの症例は、スクリーニングにおいて検出されているが、疾患の種類によってはもっと早期に発見しなければ治療に抵抗するものがあるので3歳児よりもさらに早期の健康診査により、眼科的異常を検出できるようにするべきである。
網膜視神経に障害を及ぼす因子の一つとして考えられているアルドース還元酵素は高血糖の状態で糖をソルビトールに変換し、このソルビトールの蓄積が網膜毛細血管の内皮細胞や周細胞に変性壊死を来すとされており、この酵素の遺伝子の転写機構の検討を行った。

結論

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研究報告書(紙媒体)

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