エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究

文献情報

文献番号
200000569A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
五島 真理為(特定非営利活動法人 HIVと人権・情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 廣瀬弘忠(東京女子大学)
  • 新庄文明(長崎大学歯学部)
  • 山本 勉(岡山県立大学)
  • 小西加保留(桃山学院大学社会学部)
  • 中瀬克己(岡山市保健所)
  • 前川 勲(市立旭川病院、WITH)
  • 太田裕治(ケアーズ)
  • 宮坂洋子(HIVかごしま情報局)
  • 鬼塚哲郎(京都産業大学、ゲイプロジェクト、MASH OSAKA)
  • 塩入 康(東北HIVコミュニケーションズ)
  • 大橋英子(HIVと人権・情報センター東京支部)
  • 木下ゆり(同名古屋支部)
  • 池上正仁(同大阪支部)
  • 石川英二(同兵庫支部)
  • 白井良和(同和歌山支部)
  • 赤松慧都子(同岡山支部)
  • 今井文一郎(同四国支部)
  • 土居武子(同佐世保支部)
  • 吉田香月(同感染者会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染予防および人権に関する啓発を国民的レベルで進めるため、行政機関によるAIDS-NGOの活用の実情、ならびに全国のAIDS-NGOの活動の実態を調査し、その役割を評価・分析することにより、今後の連携やネットワークの方法論を確立し、NGO活動の資質の向上と活用の促進に資することを目的として実施する
研究方法
①全国のNGO活動に関する実態調査
実施時期: 2000年11月~2001年1月
対象:AIDSに関する活動を行っている民間非営利団体とし、調査票は、AIDS文化フォーラム参加団体、および「ASO情報ネットワーク2000」(A&S研究会議刊行)その他の情報から知りえた95団体に送付した。
方法: (1)郵送による調査票の配布と回収、(2)訪問および聞き取り調査による活動の質的把握、(3)活動状況への参加とボランティア育成研修の実情把握
内容:活動内容、規模、感染者支援および啓発活動の実情、対象者の特性、行政機関との連携の実情、財政および人材などの背景等            
②都道府県・保健所を対象とするNGO活用に関する調査研究
実施時期: 2000年11月~2001年1月
対象:全国の都道府県および保健所とし、調査票は、「全国保健所長会会員名簿2000/7」搭載の全機関、都道府県・指定都市・政令市・中核市・特別区120ヵ所、保健所(支所含む)698ヵ所に送付した。
方法:(1)郵送による調査票の配布と回収、
(2)特色ある保健所、NGOの現地検討会
内容:AIDS-NGOの活動に対する認識、NGOとの連携ならびに活用状況  
③英国のAIDS-NGO活動の現地調査
ロンドン市内の1行政機関、2医療機関、6団体について、主任および分担研究者9名が現地に訪問し、活動の実情について見学、研修ならびに聞き取り調査を行った。
④HIV感染者等のケアサポートニーズ調査
対象:HIVと人権情報センターおよびケアーズのケアサポートを受けている者、相談者等
方法:悩み・心の支え・告知時の気持ち・必要な援助について無記名で面談・郵送・電話により得た回答結果を分析。
結果と考察
①全国のAIDS-NGO活動に関する実態調査
回収状況とその内訳
1) 回答は57団体から回収し、回答内容から判断すると、51団体は現在も主にAIDSにかかわる活動を行っており、6団体はそれ以外の活動を主に行っていた。
2) 未回収の団体には全て、電話・FAXによる確認をとった結果、20団体が現在も主にAIDSにかかわる活動を行っており、18団体はそれ以外の活動、休止、連絡不能等であった。
3) 以上の結果から、主にAIDSにかかわる活動を行っているAIDS-NGOは71団体と判断され、そのうち回収率は72%であった。
調査結果の概要           
1) 活動会員数の総和は、約1700名であった。
2) 有給職員を雇用している団体は15団体(29%)であった。
3) 力を入れている対象は、「PWA/H」が最も多く、次いで「若者」であった。
4) 行政との連携や協力が行われていると回答した団体は78%であった。
5) 財源のうち、行政との連携によってえられる収入の占める割合は「0%」あるいは「1~20%未満」の回答が過半数であった。
②都道府県・保健所のNGO活用に関する調査
回収状況
1) 都道府県・指定都市(主管部局)などAIDS担当主管部局総数59ヵ所(政令・中核市、特別区は除く)のうち回収数は51ヵ所(回収率86。4%)であった。
2) 保健所総数594ヵ所(支所は除く)のうち回収数は398件(回収率67。0%)であった。
調査結果の概要
1) AIDS-NGOを「社会資源として活用できる」と回答した機関は83%であった。
2) 実際の施策において「AIDS-NGOを活用している」との回答は33%であった。
3) 地域で活動しているAIDS-NGOの情報をもっている機関は50%であった。
4) AIDS-NGOの一覧(全国)を希望する機関は86%であった。
5)「特に力を入れている」対象は「若者」が最も多く(71%)、次いで「教育関係者」(37%)であった。「PWA/H」の回答は5%以下であった。
③英国のAIDS-NGO活動の現地調査
ロンドンのAIDS-NGOの活動は、いずれの団体においても行政からの委託事業として相談・支援から健康管理、職業訓練・雇用支援などを実施し、それが予算の中心を占めている。AIDS-NGOの多くが、最も古くから活動をはじめているテレンス・ヒギンズ協会を中心とする機関に合併し、英国内各地に支部を有する不可欠の社会資源として機能している。
④HIV感染者等のケアサポートニーズ調査
ケア・サポートを受けている感染者、家族を対象とした調査の結果は,感染者 およびその家族等の不安としては、健康の低下・経済的な困難・精神的な不安の3つが 代表的なものであることを明らかにした.また,感染の告知を受けた直後の本人の気持ちとしては「何も考えられなかった」が49%であり最も多かった.HIV感染者や家族等が「心の支えとする人」の種別ごとの「心から話合える仲間・同じ立場の友人」の存在の「有り」という回答の割合については,「カウンセラー・ボランティア」という回答者が最も多かった.
考 察=保健所および自治体の多くがAIDS-NGOを社会資源として認識している(83%)が、実際に活用している機関は少なく(33%)、AIDS-NGOに関する必要な情報は十分に普及していない。一方、AIDS-NGOの多くは行政との連携や協力を行っているが、それにより得られる財源は極めて少ない。
「特に力を入れている対象」は、行政では「若者」が最も多く、「感染者・患者」は極めて少なく、AIDS-NGOが力を入れている対象は「感染者・患者」が最も多かった。
以上のように、行政とNGOの間には活動の対象、AIDS-NGO活用に関する認識や情報にギャップがあるということが明らかになった。 今後は、さらに詳細な分析を進めたい。
ケア・サポートを受けている感染者、家族を対象とした調査の分析結果は,カウンセラーならびうにボランティアを「心の支え」とするニーズを反映しており,医療、経済的な支援と併せて、心の支えとなるような友人(バディ)やカウンセリングの重要性を明らかにした。ここでも,NGOによる継続的な支援の重要性が示されている.
今後は、これらの調査研究結果について,さらに詳細な分析を進めることが重要であるが,今年度の本調査の結果の概要は,NGOの積極的な活用が,今後のエイズに関する普及啓発において極めて重要であることを示唆しているといえる。
結論
行政とNGOの連携の現状について、以下の点が明らかとなった。
1) 保健所および自治体の多くがAIDS/NGOを社会資源として認識しているが、実際に活用している機関は少なく、AIDS/NGOに関する必要な情報は十分に普及していない。
2) AIDS/NGOの多くが行政との連携や協力を行っているがそれによる財源は極めて少ない。
3) 「特に力を入れている対象」は、行政では「若者」が最も多く「PWA/H」は極めて少ない。一方、AIDS/NGOが力を入れている対象は「PWA/H」が最も多かった。
4) 英国のAIDS-NGOは、行政の委託事業が活動の中心を占めており、今後のわが国の事業の方向に大きな示唆を与えている。
5) ケア・サポートを受けている感染者、家族を対象とした調査の分析結果は,心の支えとなるような友人(バディ)やカウンセリングが重要であり,その面でもケアサポート経験の豊富なNGOの役割が大きい。

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