HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200000564A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小田原 隆(国立感染症研究所)
  • 小島朝人(国立感染症研究所)
  • 佐藤裕徳(国立感染症研究所)
  • 塩田達雄(東京大学、大阪大学)
  • 巽 正志(国立感染症研究所)
  • 仲宗根 正(国立感染症研)
  • 服部俊夫(京都大学、東北大学)
  • 松田善衛(国立感染症研究所)
  • 森 一泰(国立感染症研究所)
  • 杉浦 亙(国立感染症研究所)
  • 足立昭夫(徳島大学)
  • 生田和良(大阪大学)
  • 岡本 尚(名古屋市立大学)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 原田信志(熊本大学)
  • 増田道明(東京大学)
  • 松田道行(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
75,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIVはウイルス感染者体内で著しい多様性を示し、感染初期には比較的病原性の低いNSIタイプのウイルスがドミナントであるが、永い潜伏期の後、病原性の高いSIタイプへ変化することが発症と深く関わっていると考えられている。またエイズの爆発的流行地では母子感染の防止がエイズ対策において極めて重要であるが、特定のウイルス集団が母子感染に関わっていることが示唆されている。グローバルに見た場合には様々なサブタイプのウイルスが流行しており、各ウイルスの病原性も含め世界に流行するウイルスはダイナミックな変化をしているものと考えられる。本研究ではHIVの個体レベル並びに集団レベルでのダイナミズムを特に病原性の側面から明らかにすることを目的とする。一方、エイズ制圧の有効な手段としてのワクチン開発は未だに成功していない。本研究では有効かつ安全なワクチン開発への道を拓くことを可能にすることをも念頭に置きつつ、HIV並びにSIVの病原性の分子的な基盤を明らかにする。
研究方法
HIV-1感染症の病態進行に関わる宿主側の因子の解析については遺伝的多型をRANTESおよびIL-4プロモーターについて、その塩基配列解析からHIV感染の病態との関連を検討した。マカカ属サルを用いた感染系では、envの糖鎖並びにnefの病原性への関与を欠失変異株を用いて解析した。感染性cDNAクローンはlong PCRあるいはファージベクターへのクローニングによった。ウイルス遺伝子の機能解析は感染性クローンへの変異導入によって行なった。一部は分裂酵母並びにその変異体も用いた。またgp41の機能解析には合成ペプチドを用いた。HIVの分子疫学に関しては日本人の親子間感染者からgp120のV3領域及び逆転写酵素の塩基配列から感染者個体内でのウイルスの変異を解析した。
結果と考察
(1)サブタイプCの感染性クローンを樹立し、その全塩基配列を決定した。更にアフリカで流行しているA/Gレコンビナントおよび東南アジアで流行しているサブタイプEの感染性cDNAの作成に成功した。(2)ケモカインRANTESのプロモーター領域の多型性が、長期未発症者(LTNP)ではRANTES発現の増強を介して、AIDS病態の進行を遅らせていることを明らかにした。また、IL-4のプロモ-タ-領域の遺伝的多型(C-589T)もHIV-1の感染個体内進化に影響することが明かになった。一方、LTNP患者からのウイルスについて調べたところ、Nefの機能低下が、LNTPと関連することが明らかになった。(3)nef欠損SIVの弱毒化の機構を知るために感染ザルでの免疫応答を解析したところ、CTL活性と病態とに関連があることが明らかになった。一方、envの糖鎖を欠失させると病原性が著しく低下することが明らかになった。(4)gp41の構造と機能を解析するために、大腸菌における大量発現並びに精製までの方法論を確立した。また、gp41由来の複数の合成ペプチドがX4ウイルスの標的細胞への感染をR5ウイルスよりも高率に阻害することを明らかにするとともに、gp41細胞質内部分を発現した細胞ではこの部位がウイルス複製に対し、トランスドミナントネガティヴに作用することを明らかにした。次にgp41のN側に対する単クローン抗体には中和活性が認められるが、N側およびC側のペプチドを混合したときに出現するエピ
トープを認識する抗体には中和活性が認められないことを明らかにした。また、これらのペプチドはX4ウイルスをより効率的に抑制することを明らかにした。一方、gp41の細胞内ドメインの構造と機能との関連を解析するため数種の変異体を作成、解析した。その結果、Arg単独の変異では表現系の変化は認められないが、N側のa-helix内でのstopあるいはフレームシフトによって、エンベロープ蛋白の発現が顕著に低下することを明らかにした。(5)Subtype E型ウイルスCM235由来可溶性oligomeric gp140を抗原としてモノクローナル抗体の作成を試み、9種類のクローンを回収した。(6)日本におけるHIVの動的傾向を知るために、垂直感染集団に重点を絞って解析した結果、母親由来並びに児由来HIV-1集団には、様々なサブタイプが混在するが、母親個体内のHIV-1はquasispeciesが強いのに対して、児体内のHIV-1は、ほぼ単一クローン傾向であることが明らかになった。一方、タイにおいては母子ともに、サブタイプEのみの均一な集団であることを明らかにした。(7)V3領域の解析からCCR5をコレセプターとするウイルスは感染者体内での選択圧に比較的低感受性であり、感染初期から後期にかけて持続的に存在するのに対し、CXCR4をコレセプターとするウイルスは選択圧に感受性で、感染後期に優位となることが明らかになった。また、多剤併用療法を受けていた患者体内のウイルス逆転写酵素の解析から、新たな33塩基の挿入変異を見いだした。(8)vprによる宿主細胞のG2/M期アレストの機構解析を分裂酵母で行ない、Vprにより過リン酸化と量の増加を促されたWee1がRad24依存的に安定化し、その結果アレストが生じる可能性を示した。(9)変異体を用いた解析から、Nefによるウイルスの感染性とMHCクラスI遺伝子down regulationが乖離できることを示した。Vifへの変異の導入により、標的細胞依存性の感染価を示すものが得られた。(10)Tatが基本転写因子TFIIHの構成蛋白であるCDK7の酵素活性の活性化を促すことから、CDK7の基質CDK2の変異体に核移行シグナルを付加したNLS-mC2pを合成したところ、NLS-mC2pはTatによる転写のトランスアクティベーションを抑制することが明らかになった。一方、フルオロキノリン誘導体K-37のHIV増殖抑制活性の機構を解析し、K-37がTatをはじめとするRNA依存性トランスアクティベーターを阻害することにより、ウイルス増殖抑制活性を呈することを明らかにした。(11)HIV cDNAの合成に関わる宿主のトポイソメラーゼのアミノ末端に結合するC23について検討したところ、HIVgag蛋白の発現量の上昇を認めたが、これはC23によりゲノムRNAの安定性が増したことによることを明らかにした。(12)樹状細胞に発現しているDC-SIGNがHIVの感染を阻止するかを知るために可溶性DC-SIGNの発現を試み、小規模での精製を可能にした。(13)HIVの指向性はV3領域が決定するが、X4ウイルスのマクロファージでの低増殖性はco-receptorでは説明できない。V3領域のアミノ酸配列を保持させたまま、塩基配列のみを変更したウイルスを作成したところ、マクロファージでのみ低増殖性を示す株が存在した。この部位の塩基配列が極めて重要であることが明らかになった。(14)HIV感染者で上昇するCD38陽性T細胞とウイルスの指向性について解析したところ、CD38陽性T細胞がT細胞指向性ウイルスに、陰性細胞がマクロファージ指向性ウイルスに感受性が高いことが明らかになった。陽性細胞分画から産生されるIL-4がこの感受性に関わっていることが明らかになった。
結論
HIV病原性を分子レベルで理解することを目的として研究を行い、複数のサブタイプに対する感染性クローンの樹立、宿主遺伝子の多様性とエイズ病態との関連、ウイルスの調節遺伝子の機能、ウイルス増殖に関わる宿主因子などを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-