日本におけるHIV診療支援ネットワークの確立に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000561A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるHIV診療支援ネットワークの確立に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 昌範(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 木内貴弘(東京大学)
  • 山本隆一(大阪医科大学)
  • 山下芳範(福井医科大学)
  • 高橋紘士(立教大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV治療・研究開発センター(ACC)の有するHIV感染症の診療に関する最新かつ最高の知識、経験を全国各地の拠点病院等の従事者に提供するために、情報の共有化が重要である。その連携機能を支えるために、HIV診療支援ネットワークシステム(略称:A-net)を構築し、臨床情報の収集・集計・分析を行い、最新の情報提供や治療研究を行うことを目指している。具体的にはA-netの情報基盤の上に、ネットワーク化した患者データベースを構築し、診療情報をどこの病院からでも閲覧、参照を可能にする事で、HIV感染症患者はどの病院にかかっても、自分の病歴を参照でき、継続性のある適切な診療が受けられることになる。今後、大学病院等、厚生省直轄病院以外へもネットワークを拡大していく必要がある。そこで、患者のプライバシーを保護しながら、拡張する為に、必要とされるセキュリティ技術を検討する。具体的には、Virtual Private Network(VPN:仮想専用線網)の実用化のための検討が必要である。本研究班では、まず国立病院以外のすべての拠点病院まで、仮想専用線網で繋げるような技術的検討を行う。一方、臨床研究に用いるためには、集積されたデータを学術的研究や疫学調査のために用いる二次利用に関するルール作りも必要である。そこで、二次利用における無名性確保の方法と有効性について検討を行う。これによって無名性が電子認証や暗号化などセキュリティ関連の技術を利用した研究成果を実運用することで、プライバシーを保護した病院間連携を実現でき、臨床研究にも応用できる。また、A-netの利用者から見た問題点の検討も行う予定である。
研究方法
研究は、患者のプライバシー保護のための研究と利用者の立場からの利便性や運用面での検討ならびにHIV診療指針の改定に大別される。まず、患者のプライバシー保護のためのセキュリティに関する検討では、平成10年度より、国立病院間で試行運用が始まっているが、これは国立病院等情報ネットワーク(HOSPnet)という専用線を用いたクローズドなネットワークを利用している。トを介した安全な情報基盤の技術を確立し、ブロック拠点病院や主要な拠点病院間での単一のネットワーク接続機種間での運用を目指す。現在導入を行っているHIV診療支援ネットワークの設置要件で接続サーバーが設置されているという条件を設定し、この中で利用されるクライアントについて、情報ネットワークや情報システムとの連携の可能性について検討を行う。さらに、各病院内における利用環境の想定としては、病院で利用される医療情報ネットワークや医療情報システムを調査し、運用されているシステムの方式により分類し、これらのネットワーク・システムのモデルとして分類する。これらについて、実現方法の検討を行い、セキュリティの安全性、利用方法、管理運用方法について検討を行った。また、外来診療という観点からは、病院で利用している医療情報システムとの関連も考慮することが必要であり、このシステムのクライアントとHIV診療支援ネットワークのクライアントとの相互連携についても、実現方法の検討を行い、セキュリティの安全性、利用方法、管理運用方法について検討を行った。データの二次利用におけるセキュリティ研究に関しては、患者情報の収集や参照を行うためのネットワークとは別に、集積されたデータを臨床研究等に活用する際に、患者のプライバシー保護を行うためのセキュリティ要件を検討した。具体的には、これによって無名性が保証された状態で学術的、疫学的研究が可能となる。一般的な二次利用で公表されるデータ
項目を主に文献的に調査し、その無名性を検討した。さらに、無名性の定義を定め、大阪医科大学の病院情報システムに蓄えられている診療情報項目を用い、無名性の定量化を試みた。その上で、1、2の問題点を整理し、情報処理的な方法での対応について検討を行った。また、患者側から見たエイズ治療のおけるプライバシー保護の問題は、そのなかで、患者のプライバシーが保護されているという感情を前提として、臨床データを活用できる環境はどのような条件が必要かを患者がもつ自分はプライバシーが保護されつつ必要の受診をしているという意識がなりたつための条件を明らかにする必要がある。一方、利用者の立場からの利便性や運用面での検討について、検討は利用者ではなく、専門家集団による技術的および運用面での研究を行うが、実際に利用する医療従事者達からみた問題点や改善点を検討する必要がある。
結果と考察
我が国で初めて導入された診療情報共有システムであるA-netの導入により、全国のエイズ拠点病院でHIV診療情報の共有化を行えるようなシステム構築を目指すものである。昨年度より、国立ブロック拠点病院においてA-netの稼動が始まり、本年より全国の国立エイズ拠点病院にも利用が広がったことから、国立国際医療センターとブロック拠点病院間だけでは無く、国立ブロック拠点病院とエイズ拠点病院の連携強化も図ることを目指した。利用環境の想定として、病院で利用される医療情報ネットワークや医療情報システムを方式により分類を行った。HIV診療支援ネットワーク接続専用サーバーのみで外部に接続されているモデル、HIV診療支援ネットワーク接続専用サーバーと情報ネットワークの間にファイアウォールを含むゲートウエイ等の装置を有するものモデル、HIV診療支援ネットワーク接続専用サーバーと情報ネットワークの間に、多重の防護機構を有するモデルの3分類である。情報システムとの連携において、情報利用面については、病院内でのクライアント利用に関して、1元的な利用として同一環境での運用が考えられる。接続専用サーバーとの通信とHIV診療支援ネットワークで想定されるセキュリティで要求される管理レベルの端末管理が実施することが必要となる。一方、データの二次利用におけるセキュリティ研究の結果、個人を特定できる要素として、患者ID、患者郵便番号、住所、人種、誕生日、年齢、性別、来院日、診断名、治療内容、医師ID、診療施設の所在地、診療経費などが見られた。大阪医大の病院情報システムに登録されている患者データを用いて調査を行ったが、例えば郵便番号と年齢が決まれば2~8名の患者に限定され、誕生日まで決まった場合、ほとんどの場合個人が特定可能であった。したがって本研究では無名性そのものを定義するのではなく、無名性の尺度を定義することとした。尺度はSSAの用いた最小限定人数を用いることが適当と考えた。したがって扱うデータのよって無名性への配慮を調整する必要があるが、それには定量的な尺度が必要である。本研究では最小特定人数と無名性の尺度として用いることとした。無名性が定量化できれば、調査の際の個人への了解の程度などに広く応用可能と考えられ、今後はこの面での検討が必要である。さらに、患者側から見たエイズ治療におけるプライバシー保護の問題に関して、この点を身体障害者手帳所持者の意識調査データを利用して、他障害と免疫不全による内部障害者の意識特性を比較しながら、プライバシーに関わる意識構造の一端を明らかにする。一方、平成12年12月末現在、全国立エイズ拠点病院で医療従事者登録を達成し、患者登録数も405例であった。
結論
一昨年度より始まったA-netの稼動が、本年より全国の国立エイズ拠点病院に利用が広がったことから、国立国際医療センターとブロック拠点病院間だけでは無く、国立ブロック拠点病院とエイズ拠点病院の連携強化も図ることを目指した。さらに、診療データの研究への二次利用に関する検討では初めての研究であり、遺伝子情報データベースの研究応用などへの応用も期待される。さらに、インフォームドコンセントのあり方や診療情報の研究
利用のルールの確立なども応用可能である。二次利用される診療データでプライバシーを保護するためには無名性を定量化することが重要である。本研究では無名性の指標として最小特定人数を用い、最小特定人数が利用可能なことを示した。今後の診療データベースの臨床疫学への応用のためには、患者側からの信頼を得ることが必須であり、本研究における無名性の科学的な検証や患者側の要因の検討により、プライバシー保護と公益性の高い臨床研究の両立が可能になると思われる。

公開日・更新日

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