東アジア及び太平洋沿岸地域におけるHIV感染症の疫学に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000560A
報告書区分
総括
研究課題名
東アジア及び太平洋沿岸地域におけるHIV感染症の疫学に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
武部 豊(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 有吉紅也(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV流行が急速に進行しているアジアをフィールドとして 次の柱からなる研究を推進する。(A)「アジアにおけるHIV/AIDS流行の分子疫学研究」:分子疫学的手法によって、アジアにおけるHIV流行形成のメカニズムとその拡大のダイナミクスの解明を目指す。合わせて、アジア諸地域におけるHIV浸淫の実態の把握し、我が国を含むアジア地域におけるHIV流行の将来動向を探る。(B)「HIV感染症の免疫学/分子生物学研究に応用可能なコホ-ト研究」(1) ランパン県病院エイズ専門外来(デイ・ケア・センター)受診患者のレトロスペクティブ調査と(2) 同センター受診者とその配偶者を対象とした免疫学的・遺伝学的因子とエイズ進行との関連を探るためのプロスペクティブコホート研究を開始する。また(3)免疫学的解析のための基盤技術として、 野外株HIV Gagタンパク質のCTLエピトープ抗原提示効率を評価する新しい実験系の確立を目指す。
研究方法
(A)「アジアにおけるHIV/AIDS流行の分子疫学研究」:アジア各国(タイ,ミャンマー、カンボジア、ベトナム、中国)保健省AIDS予防対策プログラムの協力のもとに感染者血液検体を組織的に収集する。HIV-1ゲノムの様々な領域の塩基配列を決定し、系統樹解析によってサブタイプおよび他の地域に分布するウイルスとの系統関係を決定する。サブタイプ帰属に不一致のある検体については、完全長の塩基配列の解析により、組換え点を検索し、ウイルス構造の詳細を明らかにする。これらの知見に基づき、この地域における流行形成のメカニズムを考察する。
(B)「HIV感染症の免疫学/分子生物学研究に応用可能なコホ-ト研究」
(1)ランパン県病院におけるレトロスペクティブ研究
本病院デイ・ケア・センターを1999年10月31日までに受診したHIV感染者を対象に、登録カード、病院カルテから初診時の感染者の人口統計学的データおよび臨床データを調査票に収集し、Kaplan-Meierプロットにより、生存率を解析。
(2)プロスペクティブコホート研究:2000年8月より患者のリクルートを開始。夫婦間のHIV伝播について研究する機会を得るために、その配偶者も対象にした。インフォームドコンセントを得た後、インタビューによる質問票記入、臨床的診察を行い、検体(血漿,バッフィーコート)を収集保存。また将来細胞性免疫に関する因子を経過観察する目的でCD4値の比較的高い感染者を選抜し、血漿・リンパ細胞を分離・凍結保存。
(3)野外株HIVGagタンパクのCTLエピトープ抗原提示効率評価系の確立:HXB2をもとに、VSV-G pseudotype用HIVベクターを構築。野外株Gag発現HIVベクターをCTL標的細胞として用い、標準のワクシニアの系やペプチドパルスの系とCTLエピトープ抗原提示効率を比較検討。
(倫理面への配慮)研究はすべてunlinked anonymous の手法によって行われる。アジア各国エイズ研究機関との共同研究に関しては各国政府所轄機関の指示する倫理規程に従って遂行されている。なお、タイ国におけるコホート研究の目的・概要については1999年11月にタイ国立衛生研究所より申請。1999年12月にタイ政府保健省医学研究倫理委員会にて協議され、2000年1月に承認された。
結果と考察
(A)「アジアにおけるHIV/AIDS流行の分子疫学研究」(武部班員)タイに次ぐ東南アジア第2の流行地であるミャンマーの北中部地域における流行の解析を行い、次の結果を得た。・ ミャンマー北中部には、これまでに検出されていたサブタイプB'(タイB型)とE (CRF01_AE)の他に、サブタイプCが20-30%の割合でこの地域に存在すること。またこの地域に分布するサブタイプCの多くが、隣接する雲南省に分布するウイルスと塩基配列上最も近縁性が高いことを明らかにした。・ この地域に、20%の高い頻度でサブタイプB'、 C、 Eの間の様々なタイプ組み換えウイルスが存在することを明らかにした。ミャンマー北中部の高リスク集団における感染率は、東南アジア地域においても最も高い水準にあり、このことが、co-circulateしている複数のサブタイプ間の高頻度の組み換えに関与していることが示唆された。 ・ミャンマー中部から分離された組換ウイルス株のほぼ完全長の塩基配列を決定し、他の地域に見られない新しいタイプの組換ウイルス(B'/C および E/B')が存在することを見い出した。
(B)「HIV感染症の免疫学/分子生物学研究に応用可能なコホ-ト研究」 ・レトロスペクティブ研究 - 1995年10月2日より1999年10月31日までに、同センターを受診した感染者の総数1,115名の全体像が把握できた。生存に関しては85%以上の高い追跡率を得ることができ、生存解析が充分可能なことが実証された。 ・プロスペクティブ・コホート研究 - 2000年7月6日から開始し、2001年1月10日の時点で、計339名の感染者がリクルートされ、血漿・バッフィーコートまた選択された感染者についてはリンパ細胞が凍結保存され、今後の遺伝、免疫学的因子研究の準備が進行した。discordant coupleの数は、現時点で21名である。また・HIVをベクターとして、既存の方法に比べて優れた性質をもつCTLの標的細胞作製系の確立に成功した。
結論
HIV流行が急速に進行しているアジアをフィールドとして、次の2つの柱からなる研究を推進し、本年度、次に述べる研究成果を得た。
(A)「アジアにおけるHIV/AIDS流行の分子疫学研究」(武部班員)
ミャンマー北中部地域にHIV-1サブタイプB'、 E、Cがco-circulateしており、この地域の世界的にも例を見ない高い感染率を背景として、これらサブタイプ間の複雑な組み換えウイルスが発生していることを明らかにした。
(B)「HIV感染症の免疫学/分子生物学研究に応用可能なコホ-ト研究」(有吉班員)
北タイのランパンでのコホート研究が開始され、免疫不全の進行速度に関与する宿主の免疫学的・遺伝学的要因に関する研究の準備が順調に整備されつつある。また,本研究の免疫学的研究の技術的基盤として、野外株HIV Gagタンパク質のCTLエピトープ抗原提示効率を評価するHIVベクターを用いた新しい実験系が確立した。

公開日・更新日

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