HIV感染症における医療体制に関する研究

文献情報

文献番号
200000555A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症における医療体制に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
白阪 琢磨(国立大阪病院臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学)
  • 佐藤功(国立仙台病院)
  • 荒川正昭(新潟大学)
  • 河村洋一(石川県立中央病院)
  • 内海眞(国立名古屋病院)
  • 高田昇(広島大学)
  • 山本政弘(国立九州医療センター)
  • 河北博文(河北総合病院)
  • 木村和子(金沢大学)
  • 石原美和(国立国際医療センター・エイズ治療研究開発センター)
  • 兒玉憲一(広島大学)
  • 坂谷光則(国立療養所近畿中央病院)
  • 若井晋(東京大学)
  • 池田正一(神奈川県立こども医療センター)
  • 圓山 誓信(大阪府豊中保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
165,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染者、AIDS患者に、より適切でより良質なHIV医療体制を構築するための基礎を明らかにする事を最終目的とする。我が国のHIV医療には地理的特色、専門職別特色さらに患者特性毎に特色があるので、本研究でもブロック別(北海道、東北、関東甲信越、北陸、東海、近畿、中国四国、九州の各ブロック)、専門職別(看護職、カウンセラー、SWら)、患者の特性別(血友病、若年層、在日外国人ら)にHIV医療体制の問題点を明らかにし、改善方法の開発を目指す。さらに医療体制の基幹となるブロック拠点病院、あるいは拠点病院での「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針(エイズ予防指針)」に基づく予防介入活動の展開等についても研究を行う。HIV医療体制の現状につき患者の視点からの評価も合わせて検討し、可能ならHIV医療体制の整備・確立へ反映させる。海外の国々の中には、HIV感染症への対策が、各国の蔓延状況に応じて、HIV感染症に対する政策の一環として行われてきた国がある。本研究班では、HIV診療体制、患者支援体制が構築されてきた国をマクロ的視点から分析し本研究の参考としたい。研究目標を以下に掲げる。1)ブロック毎の地域HIV医療体制確立のための基礎を解明する。2)拠点病院の自己評価方法の開発等を行う。3)非加熱血液製剤でHIVに感染した血友病患者では血友病、血友病性関節症、慢性C型肝炎、そしてHIV感染症の合併例が多く、施設内あるいは施設間で複数の担当診療科の連携の在り方を研究する。4)例えば結核を対象疾患として、結核発見後のHIV発見動機あるいは発見の遅れの要因を明らかにする。5)「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針」に基づくブロック拠点病院等でのHIV予防介入活動方法を解明する。6)海外のHIV医療体制、患者支援体制を明らかにし、本体制の参考にする。
研究方法
各分担研究の遂行に必要な要素の分析を行う。
1)地域におけるHIV診療体制を構築に関する基礎研究
各地域(北海道、東北、関東甲信越、北陸、東海、近畿、中国四国、九州の各ブロック)の地域の特色や地域特性を考慮し、その地域になじんだHIV診療体制の確立に必要な要素につき地域毎に検討を行う。
2)専門職別HIV医療体制の整備に関する研究
カウンセリング、看護、歯科診療等のHIV診療の問題点を抽出する。
3)地域拠点病院の診療内容の充実等に関する研究
ブロック拠点病院、拠点病院の診療水準の評価につき検討すると共に、一般病院も含めた診療施設でのHIV診療の認識調査を行う。ブロック拠点病院については、通院患者さんの協力を得て、アンケートを実施し、患者の視点で病院評価を試みる。これらの結果を基に、HIV感染者数の多い地域の拠点病院と比較的少ない地域の拠点病院の診療内容の地域差、施設差につき調査・検討する。
4)HIV感染症の診療等に関する情報の適切な提供に関する研究
医療従事者および患者に対して情報源の把握を行い、すぐれた情報提供のメディアにつき検討する。
5)海外HIV医療体制に関する研究
海外へ文書にてアンケート調査および情報収集を行い、さらに主要な国に訪問、聞き取り調査を実施する。先行する海外からHIV医療体制に関する情報を収集する。
6)HIV感染者/AIDS患者の発見動機についての疫学的調査研究
国立病院/国立療養所で結核で発見されたHIV感染者/エイズ患者につき、発見動機等を含めた疫学的調査を行う。
7)血液製剤によるHIV感染者の総合的医療体制に関する研究
血友病に加え、HIV、慢性C型肝炎に罹患した患者やHIV感染症及び血友病診療を実施する上での診療体制の課題を抽出する。
8)地域におけるHIV予防介入活動に関する研究
我が国における個別対象層への有効な予防活動のための調査を行う。
結果と考察
主な結果を以下に記す。
(1)地方ブロック1)~8)においては、進捗状況に違いはあるが、いずれの地方ブロックにおいても分担研究者が各地域の研究協力者(各拠点病院のエイズ担当医師、看護職、薬剤師、カウンセラー、技師など)と十分連係をとり各地域で研究を遂行していくためのネットワークを構築するなど、研究の基盤が整いつつある。
(2)地方での医療体制の構築のためには各拠点病院のエイズ診療レベルの向上と維持がminimum requirementであるとの認識は地方ブロック分担研究者に共通していた。研究の効率を考え、一部の研究では項目を分けて分担した。具体的に主な成果を述べると、白阪琢磨は国立大阪病院(近畿ブロック拠点病院)通院患者を対象に診療体制アンケートを実施し、患者の視点からの医療体制の評価・検討を試みた。近畿ブロックでのHIV医療体制の構築のために、当該ブロック内の拠点病院、一般病院を対象にHIV認識調査、HIV診療実態調査を実施し、成果につき検討の予定である。さらに、岳中らが大阪ミナミの『アメリカ村』に集う10代女性を対象とした予防介入活動のための実態調査を開始した。内海真は『医療現場向け誤刺事故対策ビデオ』を作成(エイズ予防財団で配付を検討中)し、国立名古屋病院を舞台にMSMを対象とした予防啓発活動の在り方につき研究を進めている。山本政弘はエイズ病診連携のモデルを開業医のネットワークとブロック拠点病院との連係を行い、受診MSM患者を中心に一般向け予防啓発活動につき現在研究中である。小池隆夫、あるいは佐藤功はこれまでの研究で地域内に拠点病院が分散し診療連携あるいは物理的連携を取りにくい事を指摘し、小池隆夫はこの改善のためにブロック拠点病院での、特に特殊検査機能(薬剤耐性検査等)整備を行い、道内拠点病院と連携を深めて診療協力連携体制を構築した(効果は検討予定)。高田昇は医療体制構築における情報発信の重要性を検討するために、最新のエイズ(医学、医療)情報を収集、編集し、AIDS UPDATE JAPANとして各拠点病院に定期的配付しレベル向上を試みた(効果は検討予定)。関東甲信越地方は全国の患者、感染者の大半が居住し拠点病院の数も多い。主任研究者は荒川正昭と共に、この地域を新潟のブロック拠点病院だけで効率よく地域のエイズ診療レベル向上をはかれるのかどうかにつき検討中である。
(3)体制の研究グル-プでは木村和子が米、英、伊、独など17か国のエイズ担当課に調査書を送付、訪問調査を実施し、一部の国々から回答を得、情報を解析中である。兒玉憲一はブロック拠点病院カウンセラ-、自治体の派遣カウンセラ-の活動実態把握し連携状況と課題を明かにした。河北博文はすでに開発したエイズ拠点病院訪問調査票を再検討し、自己評価と第三者評価の要素を併せ持ち、ホームページ(http://www.redribbon.gr.jp、公開に向け準備中)を活用した新評価方法の開発を行った。池田 正一はブロック拠点歯科医師のネットワークを構成した。若井晋は在日外国人の国籍別初診時CD4値に差異がある事やオーバーステイ在日外国人で16例の行旅病人法適用例があることがを明らかにした。石原美和は患者の在宅看護の実践における病院、保健所の連携の上での支援内容、調整プロセスの留意点などといった実際の要点に関するビデオを作成し関係機関に配付し評価中である。坂谷光則は厚生労働省の政策医療呼吸器ネットワーク病院に調査(結核/HIV)を実施した。圓山誓信は地域HIV医療体制について患者にインタヴューを開始し、保健所での抗体検査の実態と問題点等に付いても調査を開始した。
結論
本年度は研究の初年度であり研究の骨組みを構成した段階と言えるが、今年度の研究成果によって我が国のHIV医療体制の現状を把握する糸口をある程度掴むことができたと考える。特に、関東・甲信越地方での医療体制の在り方、在日外国人問題(医療費、人権)、療養看護、カウンセリング体制についての研究に加えて、患者の視点からの医療体制の検討もいくつかの研究で行った。また拠点病院評価の研究は評価システムの独自性に加え、拠点病院の自己評価を第三者が評価を行う方法を開発を進めつつある。いずれも我が国のHIV医療体制を研究する上で社会的意義が高いと考える。今後、研究が進展すれば、各地域でのHIV医療体制確立の基礎を明らかにでき、将来は患者の視点を加味したHIV医療体制の確立のための提言や、海外と我が国の医療体制との比較検討からは新たな医療体制への提言につなげ、さらに、我が国独自のHIV医療体制システムを評価し、海外へ公表していきたいと考える。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-