エイズ発症阻止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000554A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ発症阻止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 愛吉(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 塩田達雄(大阪大学)
  • 照沼 裕(山梨医科大学)
  • 横田恭子(国立感染症研究所)
  • 松下修三(熊本大学)
  • 田中勇悦(琉球大学)
  • 小柳津直樹(東京大学)
  • 志田壽利(北海道大学)
  • 山本直樹(東京医科歯科大学)
  • 小柳義夫(東北大学)
  • 石坂幸人(国立国際医療センター)
  • 渡邉慎哉(東京大学)
  • 渡邉俊樹(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
85,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
以下の4本の柱を中心にエイズ発症阻止の研究を行う。(1)HIV感染症の病態、治療効果及び副作用の発現等に関わるゲノム多型性の研究。(2)HIV感染症における免疫応答とリンパ球破壊に関する研究。(3)HIVの増殖に関わる新しい宿主因子の発見と新しい治療標的開発のための基礎研究。(4)ウイルスゲノム発現機構の解析
研究方法
ゲノム多型性の研究では、倫理面への配慮を十二分に行った上で、患者本人からインフォームド・コンセントを得る。インフォームドコンセントを得られた患者の染色体DNAをPCR法などにより増幅し、多型性の研究を行う。HIV感染者の免疫応答とリンパ球破壊に関する研究においては、患者末梢血単核球などを用いて、培養、フローサイトメトリーなどにより機能解析を行う。自己のHIVに対する中和抗体を持つ患者から、中和抗体を精製し、エスケープ変異体との関連を研究する。新しい宿主因子の発見と治療標的開発の研究では、定量的PCR法により、HIV増殖中間体の定量系を確立する。CXCR4の阻害薬として可能性のある物質の CXCR4結合能、培養によるHIV抑制能、動物を用いた経口吸収試験などを行う。また、Vprを誘導的に発現する細胞を樹立し、Vprの阻害効果の可能性を持つ物質をスクリーニングする。HIVトランスジェニックマウスを用いて、ウイルス遺伝子発現とLTR部分のメチル化の関係について解析を行う。DNAマイクロアレイに関して独自の技術的な開発を行い、ウイルス感染に際して変動する遺伝子発現の研究を行うための基礎的技術の開発を行う。
(倫理面への配慮)
東京大学医科学研究所で診療を受ける患者に関するゲノム研究については、「宿主及び寄生体の両面から見たHIV感染症の研究」として東京大学医科学研究所倫理審査委員会の承認を得た。長期未発症者(LTNP)に関するゲノム研究に関しては、主たる研究の場となる山梨医科大学倫理審査委員会の承認を受け、患者の主治医によってインフォームド・コンセントがえられる手はずである。塩田達雄のグループが行うゲノム研究については既に医科学研究所の承認を得ているが、研究者が大阪大学微生物学研究所に栄転したため、大阪大学の倫理審査委員会での手続き中である。
結果と考察
4本の柱にしたがって記載する。(1)ゲノム多型性の研究では、プロテアーゼ阻害薬の代謝において最も重要な役割を果たすCIP3A4遺伝子にSNPそのものが存在するかどうか、検索するために時間がとられた(岩本)。しかし、CCR5遺伝子、IL-4遺伝子のSNPに関して知見が得られた(塩田)。HIVのコレセプターであるCCR5の発現が減少し、病態進行が遅延する可能性のある遺伝子多型が2つ見つかった。第1は、フレームシフトにより細胞質内領域の51アミノ酸を欠くCCR5 893(-)多型で、CCR5の発現に関してドミナントネガティブに働く。CCR5 893(-)を片方の染色体に持つ者のCD4陽性細胞では、CCR5の発現が少なくR5ウイルスの増殖が低下する。第2は、フランスとの共同研究でHIV感染者428名(SEROCO Cohort)を解析した。その結果、IL4のプロモーター領域-589位のCからTへの多型(IL4-589T)を持つHIV感染者ではエイズ発症が遅延する、ことがわかった。IL4-589T多型は、IL4プロモーター活性が高く、CCR5の発現がダウンレギュレーションされている可能性がある。フランス人では、IL4-589Tの頻度が日本人より少ない。(塩田)(2)免疫応答とリンパ球破壊の研究では、3症例についてHAART開始時とリバウンド増殖したウイルスの関係を系統樹解析すると、いずれもリバウンドウイルスはHAART開始時のウイルス準種から選択されてきたものであった。症例1について詳しく解析した結果、env遺伝子C3の変化がリバウンドウイルスの中和抵抗性に関与していた(松下)。(3)HIVの増殖および新しい宿主因子と治療標的の研究では、HIVの感染前期過程のアッセイ系を確立し、以下のことを見出した。①HIV侵入後の逆転写反応ではstrong-stop DNA合成はS期において活発である。②2LTR DNAの形成(核内移行)は細胞周期に依存しない。③Full-length DNA合成とインテグレーションには感染後6時間を要する。④活性化されていない末梢血単核球では、HIVの逆転写反応が遅滞しているが、インテグレーション効率はさほど阻害されていない(小柳)。経口投与可能な抗CXCR4阻害薬として期待できるKRH-1120とその誘導体は、T細胞株と正常末梢リンパ球を用いたX4タイプHIV感染に対し、強い阻害効果を示した(山本)。活性化PBMCにHIVを感染させる系で、OX40ligand(OX40L、別名gp34)を発現する細胞を添加するとβケモカインの産生が増加し、M-tropic HIVの増殖が協力に抑制された(田中)。ランダムペプチドライブラリーからVprに結合するペプチド(VAP-1;Vpr associating peptide)を同定した。リコンビナントVprとビオチン化VAP-1との結合能を検出する系を構築し、さらに、このシステムを用いて、80種の海洋生物抽出物から、VprとVAP-1の結合を阻害する検体を2種同定した(石坂)。(4)ウイルスゲノム発現の研究では、ウイルス感染に伴う細胞の転写応答を解析するためのマイクロアレイ法の開発するためオリゴDNAを市販のスライドガラス上に効率良く固相化する方法を開発した。均質なマイクロアレイを一度に84枚作製できるマイクロアレイ作製装置およびプログラムソフトウエアを開発した(渡邉慎哉)。HIVトランスジェニック・マウス(HIV-Tg)の脾臓細胞を用いた実験により、①LPS刺激による HIVの発現誘導は細胞周期依存的であること、②その際LTR上の部位特異的CpG脱メチル化が伴うこと、③2ケ所の特異的脱メチル化部位がCREB/ATFファミリーの結合配列に相同性を有していること、④これらの配列にはCpGのメチル化の有無に関わらず結合する共通のタンパク質が存在し、それは
既知のCREB/ATFファミリー転写因子とは異なること、⑤この部位には非メチル化配列特異的に複数の核内因子が結合しうること、を明らかにした(渡邉俊樹)。
結論
3年計画の1年目として順調に滑り出せたのではないかと考えている。ゲノム研究での倫理面の配慮などに時間がかかったが、必要なステップであり、今後症例を増やすためには協力を得られる施設および患者を増やす必要がある。

公開日・更新日

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