血友病の治療とその合併症の克服に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000552A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病の治療とその合併症の克服に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松田 道生(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 坂田洋一(自治医科大学)
  • 小澤敬也(自治医科大学)
  • 吉岡章(奈良県立医科大学)
  • 長谷川護(株式会社ディナベック研究所)
  • 新井盛夫(東京医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
100,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病の治療は凝固因子製剤の補充療法が行われている。しかしながら、これはあくまで出血したときのcare療法であり患者は何時でも致命的な出血の危険にさらされている。また、血漿由来製剤の場合は未知のウイルスにより、そして、リコンビナント製剤の場合も微量の夾雑物により、思いもかけない副作用にみまわれる危険がある。更に補充療法により例えば重症血友病Aの場合は30%近くの例に因子に対する同種抗体(インヒビタ)が発生する。本研究班では、以下の3項目を目標として研究を展開する。:1)血友病Aを中心に、我が国における血友病に対する遺伝子治療法の基礎的研究の充実と技術開発、並びに臨床研究への展開を目指す。2)米国で遺伝子治療が試みられている血友病Bに関しては米国からの技術導入を計り、速やかに臨床応用を指向する。3)血友病インヒビタに対し、産生レベルの解析とともに、その産生抑制の方法を検討する。
研究方法
#血友病A 1)transgene:第VIII因子のfull cDNA(9kb)をDutchのDr.Mourikより供与された。alternative splicingによると思われるが何カ所かにmutationが挿入されていたため、これを除去し、complete full cDNAを得た。その内、翻訳領域(約7.1kb)から、これまでの第 VIII因子に関する基礎的解析の報告を元に、種々のFVIII改変体を作製した。具体的には、von Willebrand因子との結合部位を残し、B domainを全て除いてしまったもの、トロンビンに限定分解される配列のみを除いたもの、その他、プロセッシングを受ける部位を含み種々の程度にB domainを残した改変cDNAを作製した。これらを組み込んだ真核細胞発現プラスミドベクターをCHO-K1細胞に導入し、FVIII改変体の細胞からの分泌、及び生物活性を検討した。
2)プロモータ活性:プロモータ領域を、レポータープラスミドであるpGL3-Basic Vector (Promega)に組み込み、Lipofectoaminを用いて培養細胞(血管内皮細胞、肝細胞など)にtransfectionした。24時間後に最大発現するルシフェラーゼの酵素活性をSV40promoterを基準にして比較した。
3)ベクターの検討:SIVベクター green fluorescent protein (GFP)遺伝子をマーカー遺伝子として組み込んだウイルスベクター SIVGを用いて、in vitroで肝癌細胞、正常ヒト肝細胞、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞、牛大動脈血管内皮細胞の培養細胞とインキュベーションし、発現をGFP蛍光発色により検討した。次いでin vivoにおいてマウス肝臓への遺伝子導入の可能性を腸管膜静脈より SIVGを投与して検討した。AAVベクター:FVIIIの重鎖と軽鎖をコードするcDNAを別々に2つのベクタに分けて搭載し、その発現を観察した。第三世代レンチウイルスベクター:B-domainlessイヌFVIIIを挿入した組み換えレンチウイルスベクターを用いて肝癌細胞、及びマウスの腹腔内投与による肝臓への導入を検討した。
4)第VIII因子ノックアウトマウス: FVIII欠損ホモザイゴートのメス2匹、オスの血友病Aマウス2匹を米国Dr.Kazazianのご厚意により、供与された。これを計画メーティングした。
5)イヌクリオの蓄積:正常イヌの血漿から定法に習いクリオ分画を精製した。
#血友病B: Avigen社の技術導入を前提に、自治医科大学血液グループと班員を中心としたプロトコール作成準備委員会を作り、計4回自治医科大学研修センターにて委員会を開催した。また、共同研究者2名がHigh博士のもとへ1ヶ月留学し、AAV-2ベクターによる骨格筋をtargetとした臨床治験に参加した。
#インヒビタの検討:FVIIIの抗体産生B細胞を検出するための測定系確立のために、本年度は、リコンビナントFVIII製剤より、FVIIIモノクローナル抗体カラムクロマトグラフィーにより、アルブミンを除去し精製・濃縮した。さらに、FVIIIにトロンビンを反応させ、活性FVIIIを作製した。そこにEDTAを添加して金属イオンをキレートし、3種のフラグメント(A1,A2,A3-C1-C2)をMono QおよびMono Sカラムを用いて精製・濃縮した。また、FVIIIKOマウスに出産直後から時間を変えてFVIIIを投与し、出血コントロールの手段を検討するとともに、10wks経過後FVIIIを繰り返し投与し、インヒビタを確実に産生させる条件を検討した。
結果と考察
#血友病A 1)ベクターに組み込む FVIII遺伝子の検討:ウイルスベクターを用いて遺伝子を導入する場合には、搭載できるコンストラクトのサイズに制約がある。これまで米国で血友病Bの遺伝子治療臨床応用に用いられてきたadeno-associateed virus (AAV)ベクターは5kb以下であり、我々が利用を考えているsimian immunodeficiency virus(SIV)ベクターの場合は7kbである。そこで、FVIIIとして生理的活性を十分に発現しうる必要最小限の遺伝子の構築に関して検討した。結果、トロンビンにより限定分解される配列と、フーリンによりプロセッシングを受ける配列の一部を残したB domainl deleted FVIII(BDDSQ)が、細胞からの分泌、安定性、活性の3点で、現時点で最良であった。それでも5kbあるため、更なる短縮を検討中である。2)プロモータの検討:肝臓、骨格筋、血管内皮、脂肪細胞、皮膚細胞、CD34陽性細胞などの標的細胞への投与法に適したプロモータの検討を行った。本年度は特異性については十分な検討が出来なかったが、全ての標的細胞で発現効率に関してはPGK-1に十分な活性が確認できた。3) ベクターの検討、SIVベクター:まず、in vitroにおけるSIVベクターを利用したヒト細胞への遺伝子導入を検討した結果、肝癌細胞、正常ヒト肝細胞、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞にコンフルエントの状態でSIVGの濃度依存性にGFPの発現が観察された。次いでin vivoにおける検討では、マウス肝部分切除の有無に関わらず、肝実質細胞とともに類洞細胞にGFPの発現が観察された。第三世代レンチウイルスベクター:B-domainlessイヌFVIIIを挿入した組み換えレンチウイルスベクターを用いて肝癌細胞、及びマウスの腹腔内投与による肝臓への導入を検討した結果、いずれも発現が確認された。4)ノックアウト(KO)マウスのコロニー作製:出産後、メスが出血死するなど、トラブルも見られたが、順調に計画メーティングが進行した。in vivoの実験に向けて遺伝子治療、インヒビタの研究に必要な数のKOマウスが準備できつつある。5)生体部分肝移植:血友病Aイヌモデルを用いた部分肝移植による遺伝子治療を検討するために、本年度は手術の際の止血剤としてのイヌクリオ分画を必要量の約80%蓄積した。
#血友病B: Avigen社の技術導入を前提に、プロトコール作成準備委員会を作り,プロトコールの素案を作成した。また、共同研究者2名が渡米し、骨格筋をtargetとした臨床治験に参加し、多くの研究者と親交を得るとともに、新しい知識の獲得をはたした。
#インヒビタの検討:第VIII因子の抗体産生B細胞を検出するための測定系確立のために、本年度は、製剤より、A1,A2,A3-C1-C2のフラグメントを精製した。また、免疫寛容導入の可能性をKOマウスに生下時に第VIII因子製剤を投与して、検討中である。
結論
初年度ということもあり、研究成果の多くは基礎的準備段階にとどまっている。しかし、血友病Aに関しては、 transgene、プロモータの検討、そして我が国オリジナルのSIVベクターをはじめ、ベクターの構築作製が着実で、KOマウス、血友病犬などのin vivoの実験に向けての準備が進んでおり、今後の発展が期待できる。血友病Bの遺伝子治療は米国が先行したものの、発現効率が実用レベルに達していない。発現臓器の選択や、AAVベクターの血清型の再検討に至るまでの基礎的検討も必要となり、この研究グループの貢献できる点も多い。血友病Aの遺伝子治療に至っては、世界的にも緒についたばかりで、基礎的、技術的問題が数多く残されており、臨床研究に移行するまでには十分な基礎的検討が必要で、本研究グループの貢献できる部分は大きいものと思われる。インヒビタに関しても、いずれも新しい試みであり、今後の展開が期待できる。特に免疫寛容誘導の試みは、達成できれば、インヒビタにたいする画期的治療の一つとなる可能性が高い。

公開日・更新日

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