日和見感染症の治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000550A
報告書区分
総括
研究課題名
日和見感染症の治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
木村 哲(東京大学医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 小池和彦(東京大学医学部附属病院)
  • 河野茂(長崎大学医学部)
  • 斎藤厚(琉球大学医学部)
  • 竹内勤(慶應義塾大学医学部)
  • 中村哲也(東京大学医科学研究所)
  • 増田剛太(都立駒込病院)
  • 森亨(結核研究所)
  • 安岡彰(国立国際医療センター)
  • 余郷嘉明(東京大学医科学研究所)
  • 吉崎和幸(大阪大学健康体育部)
  • 米山彰子(東京大学医学部附属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目標はHIV感染症における各種日和見合併症の発症予防と早期診断の方法・技術の確立と新しい治療法の研究・開発、および非加熱血液製剤などでHIVと共に感染したHCVによる慢性肝炎、肝硬変の治療法・進行阻止法の研究・開発にある。
研究方法
以下の1)から6)までのテーマを平行してそれぞれ3ヶ年計画で実施する。1)日和見合併症の実態及び動向の調査と解析(主として木村哲、森亨、安岡彰が担当):全国の拠点病院を対象に当該年毎に診断したエイズの指標疾患の患者数、診断時のCD4数、予防投薬の有無、診断根拠などを調査し、その頻度・推移を解析し、その対策についての提言をまとめる。結核については、特に注意が必要であるため、上記の全国調査とは別に、結核を中心に診療している機関を対象に患者背景などより詳細な調査を行う。2)日和見合併症予知マーカーの開発と効率的予防法並びに早期診断法の構築(主として木村哲、中村哲也、増田剛太、安岡彰、余郷嘉明、吉崎和幸が担当):血中CMVのreal-time PCRによる定量により、CMV感染症の予知及び早期診断に有益であるか否かを検討する。これにより経済効率の良いCMV感染症の発症予防投薬を可能とする。同様のことをEBウイルス、HHV8についても検討し、リンパ腫及びカポジ肉腫の発症予知を可能とする。3)日和見感染症の診断法、治療法の改良と開発(主として竹内勤、米山彰子が担当):トキソプラズマ、赤痢アメーバの迅速診断システムを開発する。かつ新規化学療法薬の開発を検討する。非定型抗酸菌症、特にMAC症には治療薬が限られているので有効な治療法について検討する。4)薬剤耐性の迅速診断法の開発と耐性菌感染症の克服(主として河野茂、斎藤厚、中村哲也が担当):遺伝子工学的手法により、簡便かつ迅速に耐性変異を検出できる系を開発する。真菌の耐性化の機序についても検討する。また耐性菌による感染症に対抗するため、NKT細胞の賦活などによる新しい治療法の開発を試みる。5)慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌の治療法の開発(主として木村哲、小池和彦、中村哲也、安岡彰が担当):HIV感染症における肝炎のインターフェロン±リバビリン療法について検討する。更に肝硬変症、肝細胞癌合併例の生体部分肝移植について検討する。6)合併症診療に関する普及・啓発:原虫感染症の診断技術を向上させるため、拠点病院検査部の医師・検査技師を対象に診断技術、講習会を実施する(毎年)。HIV陽性抗酸菌症の治療に関するガイドラインや、HIV陽性C型慢性肝炎治療法のガイドラインを作成する(3年目に刊行)。
結果と考察
1)日和見合併症の実態調査を全国365のエイズ診療拠点病院を対象に行い、総計262件の報告が得られた。この件数は1998年の206件より多い。抗HIV療法を受けているかいないかに分けて解析したところ、HAARTを含め、何らかの抗HIV療法を受けている群ではいずれの合併症においても1995年以来順調に減少しているのに反し、治療を受けていない人での発症が相対的に著増しており、実数としても増加していることがうかがえた。無自覚の感染者をできるだけ治療の場に引き寄せるためにも更なる啓発と、検査体制の見直しが不可欠である(提言)。2)血液中のサイトメガロウイルス(CMV)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV/HHV8)、およびEBウイルス(EBV)をreal-time PCR法を用いて血中濃度を定量する方法を開発
した。CMVについては全血中CMV-DNA量のブレイクポイント値を3,000コピー/mLとした場合、CMV感染症診断の感度は94%、特異度87%で、CMV感染症の診断に極めて有益であることが判明した。また、この定量値は治療経過、臨床症状とも良く相関した。更に、HIV感染者をプロスペクティブに追跡し、10,000コピー/mLをブレイクポイントとするとCMV感染症の発症予知の感度は100%、特異度は88%であった。以上から、今回開発したreal-time PCR定量法はCMV感染症の早期診断や治療効果の判定、発症の予知に極めて有効であることが示された。3)抗アメーバ薬をスクリーニングし、植物由来のailanthoneが有効であることを見出した。テストした16種の ailanthoneの内、2種が特に有効であった。新生仔ハムスターを用いた肝膿瘍モデルにおいても有効性が示された。また海綿の一種であるJaspis由来のJasplakinolideは虫体内アクチンの凝集を促進し、嚢子形成を抑えることを見出した。SCIDマウスにクリプトスポリジウムをカテーテルで胃内に投与した感染モデルではアジスロマイシンおよびクラリスロマイシを前投与しておくと、有効であることが示された。4)エイズ患者では抗真菌薬を繰り返し使用するためカンジタ(C. albicans)の耐性化が問題となっている。アゾール系抗真菌薬の標的酵素14α-demethylase(14DM)のアミノ酸変異について耐性臨床分離株について検討し、Y132HとI471Tに変異があることを見出し、これが耐性の原因であることを証明した。日本で初めて分離されたアゾール耐性クリプトコッカス(C. neoformans)株について同様の検討を行いG484S変異のあることを見出した。薬剤耐性を克服する方法の一つとして免疫担当細胞の活性を活用する方法が考えられる。マウス肺クリプトコッカス症モデルにおいてクリプトコッカスの排除にNKT細胞が重要な働きを担っていることを立証した。人工糖鎖α-GalCerでNKT細胞を活性化するとクリプトコッカスの排除も促進されたことから、臨床応用も考えられる。5)抗HIV療法の進歩と共にC型慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌対策の重要性がクローズアップされているが、肝硬変まで至った場合には肝移植以外に有効な治療法が見当たらない。研究班では東大医学部付属病院人工臓器移植外科の協力を得、生体部分肝移植の準備を進めた。残念ながら2例は手術を目前にして死亡したが、第3例目は既に東大医学部肝移植適応委員会の承認が得られ、3月末の移植手術に向け、東大医学部付属病院感染症内科に転院し準備が進められている。肝移植が成功すれば肝硬変のみならず血友病の治療にもなる。C型慢性肝炎については、HIV感染者ではserotype 1が多く、かつHCV-RNA量も多いためインターフェロン療法が効きにくい。そこで最近注目されているインターフェロン+リバビリン療法を試みた。これまで8例に試み、内3例でHCV-RNAの持続的低下が認めれるなどの効果が認めれている。6)原虫感染症診断技術を向上させるため、エイズ診療拠点病院審査部の医師・検査技師を対象に講義と実習による講習会を行った(2月17日~18日、参加者102名)。大変好評であった。
結論
1)日本ではHAART導入後も日和見合併症の発症は減少していない。これはHIV感染症に罹患していることを知らぬまま発症に至った症例が増えているためと思われる。2)血中のCMV-DNAをreal-time PCRで定量することにより、CMV感染症の診断が可能となり、発症も高い確率で予知可能となった。3)赤痢アメーバ症の新規治療薬の候補品を見い出した。4)カンジダ及びクリプトコッカスのアゾール耐性機序として、新たな遺伝子変異を明らかにした。5)動物モデルにおいて、NKT細胞の活性化が真菌症の治療に有効であることを見い出した。6)血友病に合併したHIV陽性、C型重症肝硬変患者に対し、生体部分移植を行うこととなった。インターフェロン+リバビリンの臨床試験を開始した。現在その効果を追跡中である。PEGインターフェロンの臨床試験を計画中である。

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