妊産婦のSTD及びHIV陽性率と妊婦STD及びHIVの出生児に与える影響に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000548A
報告書区分
総括
研究課題名
妊産婦のSTD及びHIV陽性率と妊婦STD及びHIVの出生児に与える影響に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 憲一(新潟大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩下光利(杏林大学医学部)
  • 小林巌(名古屋第二赤十字病院)
  • 杉本充弘(日本赤十字社医療 センター)
  • 鈴木暸(国立大阪病院)
  • 鳥居裕一(聖隷浜松病院)
  • 松本雅彦(大阪市立総合医療センター)
  • 花房秀次(荻窪病院)
  • 戸谷良造(国立名古屋病院)
  • 高桑好一(新潟大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
83,424,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦におけるHIVの感染者およびAIDS患者数は平成11年の時点で4000人を超え、潜在的患者数は30000人に達するとされており、今後も増加傾向にある。一方、いわゆる性感染症(STD)とHIV感染は悪循環を作り感染伝播することが知られている。当然のことながらSTDは性成熟期にある女性に多く認められ、妊婦においてもこれらの感染症の多発が推察されるが、大規模な調査はなされていない。そこで、第1に大都市地域の妊婦におけるHIVも含めたSTD感染の状況を明確にすることを目的とした。第2にHIV感染妊娠の実態およびHIV感染母体から出生する児への垂直感染を防ぐための有効な手段を明らかにすることを目的に、臨床的研究を行った。第3に、HIV感染男性とHIV非感染女性夫婦において、女性がより安全に妊娠しうるような方法を開発することを目的とした基礎的、臨床的研究を行った。従来、世界的にはHIV感染者は2次感染を避けるためにコンドームを使用し子供を作るべきではないと考えられてきた。このような状況の中で、我が国の血友病HIV感染者を中心とした患者夫婦の中で結婚し子供を持ちたいと願う夫婦の数が年々増加している。このような要望に応えるための研究を行った。
研究方法
第1の研究として、多施設共同による妊婦の各種STD(クラミジア、淋菌、パピローマウイルス(HPV))、HIVの感染率、および出生児の異常の有無に関する研究を行った。研究参加施設は杏林大学医学部付属病院、伊勢原協同病院、済生会川口総合病院、日本赤十字社医療センター、聖隷浜松病院、名古屋第二赤十字病院、大阪市立総合医療センター、国立大阪病院、国立小倉病院の9施設である。平成12年10月から平成13年2月の間に、産科外来を受診した3062名の妊婦を対象としインフォームドコンセントを得た後、検討を行った。これらの施設において(1)子宮頚管クラミジアDNA検査(2)子宮頚管淋菌DNA検査(3)子宮頚管HPV検査(4)血清中HIV抗体検査を行った。これらの各種検査について施設別陽性率、地区別陽性率、年齢別陽性率などについて解析を行った。また、昨年度の本研究において、子宮頚管クラミジアが陽性であることが確認された妊婦から出生した新生児につき、分娩時の状況、新生児期間における異常の有無について検討した。第2に、妊婦に対するHIV抗体検査の実施状況、HIV感染妊婦の実態およびその出生児の管理状況についてアンケートによる全国調査を行った。第3に、HIV感染男性・HIV非感染女性夫婦において、女性がより安全に妊娠しうるような方法を開発することの基礎的研究として、HIVウイルス検出限界を2コピー/mlとするための超高感度PCR法の開発を試みた。また、臨床的研究として、HIV感染男性とHIV非感染女性夫婦で挙児希望の強い夫婦に対し、十分な説明を行い同意を得た後に妊娠補助技術の応用を行った。具体的には、夫精液からHIVを除去する操作を行い、この精子浮遊液を用いて、体外受精-胚移植を行った。
結果と考察
第1の大都市部の妊婦におけるHIV抗体、クラミジDNA、淋菌DNA、HPVDNAの陽性率については以下のような結果を得た。血中HIV抗体については3048例について検索を行い陽性者は認められなかった。子宮頚管クラミジア、淋菌は3062例中それぞれ58例(1.9%)、15例(0.5%)に陽性であった。また、HPVは1183例について検査を行
い、12.5%に陽性であった。年齢階層別陽性率では、~19才、20~24才の年齢層においてクラミジア、HPVが有意に高率に認められ、若年妊婦においてこれらの感染症が蔓延していることが判明した。HPVについては子宮頚癌の発症に関し危険群とされる6、18、31、35、51、52、58型などが高率に認められた。昨年度の本研究において、子宮頚管クラミジアが陽性であることが確認された妊婦から出生した新生児につき、分娩時の状況、新生児期における異常の有無について検討した。その結果、クラミジア陽性妊婦から出生した新生児に関し、コントロールと比較し異常は観察されなかった。妊婦におけるHIV感染率はいまだ高率ではないが、とくに若年妊婦におけるクラミジア、HPV感染の蔓延を考慮する時、HIV感染の蔓延も危惧される状況であり、今後の対策が必要である。
第2の妊婦に対するHIV抗体検査の実施状況、HIV感染妊婦の実態およびその出生児の管理状況についての全国調査では以下の結果を得た。HIV感染妊婦のアンケート調査では、産婦人科・小児科2次調査により、昨年度調査結果に加え、HIV感染妊娠は53例増加し計217例となり、HIV感染妊婦からの出生児は29例増加し122例となった。HIV感染妊婦に対する抗HIV剤の投与率は56.3%に上昇し、妊娠36週前後での予定帝王切開分娩が定着した感があり、母子感染率は2.1%と低率に抑えられていた。また小児科2次調査の結果から、妊婦と児への抗HIV剤の投与と予定帝王切開の組み合わせにより、51症例の全例で母子感染を回避できたことがわかった。今後はHIV抗体検査、抗HIV剤、帝切などに関わるコスト的な問題の解析を進め、解決する必要があるとともに、HIV感染症が輸入感染症という枠を超え、日本国民特に若年層の男女へ広く侵蝕する傾向が示唆されることから、HIV抗体検査の普及と、HIV感染妊婦やその出生児に対する対策をさらに改善し、確立する必要があると考えられた。
第3のHIV感染男性、HIV非感染女性夫婦がより安全に妊娠しうるようにするための基礎的、臨床的検討については以下のような結果を得た。従来、PCR法によるHIVウイルスの検出感度は50コピー/mlであったが、2コピー/mlを検出できる超高感度PCR法を開発した。この技術を応用し、HIV陽性男性精液をpercoll法、Swim up法により調整した精子浮遊液からHIVウイルスがほぼ完全に除去されることを確認した。この技術によりHIVウイルスを除去した精子浮遊液を用い、HIV感染男性、HIV非感染女性夫婦で、妊娠を強く希望する夫婦に対し、臨床実施(体外受精-胚移植)を行った。事前に、実施施設倫理委員会に付託し、許可を得た。実施に先立ち、担当医師による説明、カウンセラーによる患者の意思確認(夫婦別々に)を行い、インフォームドコンセントを得た。HIVウイルスが高感度PCR法で検出感度以下であることは、調整された精子浮遊液および受精卵の培養液双方について確認し、胚移植を行った。本年度、1例についてこの臨床応用を行い、妊娠が成立し順調に経過している。
結論
一般妊婦におけるHIVおよびSTD感染に関する前方視的検討、HIV感染妊婦の実態および垂直感染予防に関する調査、HIV感染男性、非感染女性夫婦に対するより安全な妊娠機会の提供に関する研究など、妊娠とHIVに関する多角的な研究を実施し、有意義な結果を得ている。今後さらなる研究の展開が重要であるものと判断している。

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