HIV感染症の治療に関する研究(治療ガイドラインを含む)

文献情報

文献番号
200000547A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の治療に関する研究(治療ガイドラインを含む)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岡 慎一(国立国際医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 満屋裕明(熊本大学第2内科)
  • 松岡雅雄(京大ウイルス研感染免疫)
  • 滝口雅文(熊本大学エイズ学研究センター)
  • 桑原健(国立大阪病院薬剤科)
  • 下山孝(兵庫医大第4内科)
  • 中村哲也(東大医科研感染免疫内科)
  • 安岡彰(国立国際医療センター)
  • 松下修三(熊本大学エイズ学研究センター)
  • 西村浩一(京都大学呼吸器内科)
  • 太田康男(東京大学感染症内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
115,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染症に対する治療は進歩したとはいえ、完成されたといえる段階ではない。本研究の目的は、現在の治療法をさらに改善し、よりよい治療法を確立していくことにある。この目的の達成のため、本研究は4部門(in vitro, ex vivo, in vivo, evaluation)よりなる。in vitroでは新薬の開発、ex vivoでは血中濃度測定、CTL判定法の開発、in vivoでは種々の新しい治療の試みがなされ、evalutionでは治療効果の評価系を確立し、治療により患者のQoLが改善されたことを確認する。そして最終的には本研究で確認されたそれらの成果を、従来からの治療ガイドラインに付記し実際の臨床現場において具体的に必要な情報を盛り込んだ包括的なものとしていく。
研究方法
in vitro:CCR5 antagonistを開発するために、Chemokineを用いたbinding assayおよびCa assayを用い、CCR5と結合能のある化学物のスクリーニングを行い、抗HIV活性を検討した。その結果、MYSM compoundを発見した(満屋)。NRTIは、従来は3'位に置換が必要であると考えられていた。この概念を変え、4'位にエチニル基を導入したNRTIを合成し、抗HIV効果などについて検討した(松岡)。ex vivo:HLA-A24, B-35, A-11拘束性のCTLエピトープを有する11種類のテトラマーを作成した。これと、患者PBMCを反応させHIV-1特異的CD8細胞をフローサイトメーターを用いて定量的に解析した。さらに細かくCTLを調べるために、CD28CD45RAについても解析を加えた(滝口)。NFV, RTV/SQV, EFVについてHPLCを用い血中濃度を測定し、米国でのデータと比較した。また、全国どの施設からでも薬剤血中濃度が測定できるようHomePageをもちいたオーダリングシステムを開発した(桑原)。in vivo:G1カラムを用いapheresis療法を試行した。apheresisは、1分30mlの速度で1回1時間、週1回、8回行った。治療前後でのCD4, VLや各種サイトカインの産性能について検討した(下山)。IL-2国際臨床試験に日本の3施設が参加をしたが、日本における臨床治験との違いについて検討した(中村)。国立国際医療センターでの既存薬を用いた治療として、PI-HAARTの副作用としてのlipodystrophyとそれを回避するためのNNRTI-HAARTへのswitch療法の成績がまとめられた(安岡)。salvage療法をいかにうまく行うかについての解析を行った。salvage療法の成否を判定するマーカーとして、ウイルスプールの指標と考えられるprovirus量を測定した(松下)。evaluation:QoL調査のためMQoL-HIV(米国)を許可を得て翻訳し、ACC及び全国ブロック拠点病院に通院する約400名の横断的調査を行った(西村)。ガイドラインは、昨年度までの岩本班のものを基本とし、米国で今年度改訂された部分について書き加えていく(太田)。
結果と考察
in vitro:MYSM compoundはR5ウイルスに対し抗HIV効果を示し、X4ウイルスに対しては抑制効果を示さなかった。この物質は、現在臨床応用されている各種薬剤に耐性を示すR5ウイルスに対しても野生株と同等の抗HIV効果を示した。さらに、CXCR4 antagonistであるAMD-3100と併用することによりR5ウイルスとX4ウイルスの混在した状態あるいはdual tropicなウイルスに対して相加もしくは相乗効果を示した(満屋)。4'位にエチニル基を導入した核酸アナログは、臨床分離株や薬剤耐性ウイルスすべてに抗ウイルス効果を示した。これら物質は、耐酸性であり、経
口吸収時に安定であった。(松岡)。ex vivo:テトラマーによる解析により定量的にCTLの解析が可能となった。現在までに作成したテトラマーで日本人の80%をカバーできる。この解析で、慢性期のHIV患者ではCD28-CD45RA-のCD8細胞の増加が見られた。HAART療法にて血中VLが検出限界以下になるとこの分画のHIV特異的CD8細胞は低下することより、HIV-1特異的CD28-CD45RA-CD8細胞はHIV抗原を認識して増加している活性型のeffector T細胞と考えられた(滝口)。薬剤血中濃度測定にてRTV/SQV, NFVを検討した。この結果、日本人においては、SQV, NFV共にトラフ値は白人に比べ有意に高い値であった。治療有効例と無効例の比較では血中濃度に差はなかった。EFVの血中濃度は、ふらつき等の副作用のある患者群において高かった(桑原)。in vivo:apheresis療法を行った6例において、当初期待されたCD4増加、VL低下、Th1/TH2バランスの改善などは得られなかった。このため、この臨床試験は、今年度で中止することとした(下山)。国際共同臨床試験に参加することに起因する問題として、1)契約締結の難しさ、2)Clinical Research Coordinatorの設置の必要性、3)英文和訳の作業、4)治験施設のquality control、5)世界各国で開かれるsteering meetingへの参加等があげられた。(中村)。PI-HAARTは強力な抗HIV効果から治療効果は十分であったが、lipodystrophyという新しい問題点を生み出した。Lipodystriphyの出現頻度やその内容は、白人での結果とほぼ同等であった。代謝異常としてはTG, TC, C-peptid, 尿酸の増加が見られた。このため、NNTRI-HAARTへのswitchを行う患者が少なくないが、抗HIV効果は維持された。TGの改善を見たが、その他の因子については今後の経過を見る必要があった(安岡)。salvage療法を必要とした患者を解析すると、HAARTのpotencyと増殖してきたウイルスの薬剤耐性、服薬率と副作用の4つが大きく関与していた。先の2つは、HAARTによってもウイルスの増殖がon goingであることを意味している。provirus量を検討したところ、治療成功例やLTNPではprovirus量も非常に低いことがわかった。このことから、provirus量にも治療成功のためのset pointのある可能性が示唆された(松下)。evaluation:MQoL-HIVの日本語版を作成し、全国の378名の患者で検討した。スコア分布はほぼ正規分布を示し、この質問票の妥当性が示された。クローンバッハa係数においても、性的機能の項目以外は評価に値する結果が得られた。また、MQoLの低下に最も関連していたのは鬱の指標であった。一般的なQoL尺度であるNHQを用いCOPDとの比較を行うと、HIV患者では社会的孤立が非常に大きくQoLの低下に関連していることがわかった(西村)。抗HIV治療ガイドラインは、治療開始薬剤については、変更点はないが、開始時期については、2001年2月改訂の米国ガイドラインで大きく変わっていたため、今回改訂のポイントとなる。(太田)。
結論
in vitro:今回報告した薬剤は、1つはCCR5 antagonistであり、CXCR4 antagonistと併用することにより完璧なウイルス抑制を見た。もう1つは4'位に置換を持つNRTIで従来薬と交差耐性は無かった。ex vivo:テトラマーによるCTL解析は、定量的に解析できる点、日本人の80%以上をカバーできる点が特記される。薬剤血中濃度測定にてNFVやRTV/SQVの日本人での血中濃度が得られ、共に欧米人よりもトラフ値が高かった。in vivo:apheresis療法の臨床応用を6例に試みたが、有効性を示す結果は得られなかった。国際臨床試験参加の問題点を整理し、今後の参考資料とした。既存薬を用いた治療として、国際医療センターでの治療成績がまとめられた。salvage療法の治療成功のための指標としてprovirus量による判定を考案した。evaluation:MQoL-HIVを用い全国規模で約400名の調査を行った。ガイドラインは、版を重ねていくが、今年度版を6月までには完成させたい。

公開日・更新日

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更新日
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